366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

いやいやようちえん

2012年11月16日 | 366日ショートショート

11月16日『幼稚園記念日』のショートショート



ようちえんいくの、いやや。ようちえんいくの、いやや。
ようちえんいくの、いややん。
ようちえんいくの、いやや。ようちえんいくの、いやや。
もう、ようちえんいくの、いやや。
園長先生におはようのあいさつするのがいやや。
イチゴが好きやのにモモ組やからいやや。
ぼくのイスのマークがへびさんやからいやや。
合奏のときにカスタネットばっかりやからいやや。
もう今日は休ましといてえな。もう今日は堪忍しといてえな。
ぼくはおかあちゃんと一日いっしょにいたいだけなんや。
(長谷川義史『ようちえんのブルース』より)

「隼人ったら、今日もグズるのよ。幼稚園行きたくないって」
遅い夕食を摂っていると、エプロンを外して妻が前に座った。
「そっかあ。君も大変だな」
今夜も愚痴の聞き役か。
「他所事ねぇ。毎朝のようにむずかる子を連れてく身にもなってよ」
わかる。わかるつもりだけどさ、こっちは不本意な残業で疲れ切ってんの。
「ちょっと聞いてんの?ビールばっかり」
あ~もうまったく。
「で、隼人はなんて言ってる?」
「園長先生が嫌いなんて言うの」
「そりゃまた反体制派だなあ」
「本気なはずないでしょ。で、隼人に問いただしたのよ。そしたら変な言い訳ばっかり」
「変?」
「モモ組がいやだ、イスのマークがいやだ、カスタネットがいやだ」
隼人の言い訳の数々に吹いちまった。
大人とっては変でも、こどもにとって変じゃないことなんていっぱいあるもんなあ。
「でもね、ホントのとこは、ママと一緒にいたいだけみたい」
な~るほど、
「うんうん、そんなもんだ」
幼稚園に行くまで泣きべそかいてるのに、園に入ったらケロッとしちゃって。
「そうなのよね。あたしもそうだったわ。
風邪を引いてお休みした日、母さんを一日独占できるのが嬉しくてたまらなかったわ。
お粥をふうふうしながら食べさせてもらった時のあったかさ、忘れられないもの」
みんな、あるんだよな、そういう時期。
ボクはビールの残りをグビリ。
「アハハ、オレだっておんなじだよ。
♪会社行くのいやだ、会社行くのやだ、会社行くのや~だあ♪
社長にこびへつらうのイヤだし。
配属されてる部署が適任だと思えないし。
今担当しているプロジェクトも納得いかないし。
宴会で音頭取りさせられるのもイヤだし。
オレも隼人と一緒だ~」
と、妻が冷やかにポツリ。
「あなたの場合、それが本音じゃないの」
・・・ごもっとも。