366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

線香花火

2012年05月28日 | 366日ショートショート

5月28日『花火の日』のショートショート



いいよね~日本の夏。

風呂上がりの身体、綿麻のサッパリした着心地の浴衣に包んでさ。
大胆にくし切りにしたスイカなんか、ガブガブ食っちゃってさ。
縁側にこう、胡座かいて、汁が外に垂れるように用心して、プップッって種飛ばして。
時おり、南部鉄の風鈴が清流の底みたいな音で鳴っちゃったり。
沓脱ぎ石の上には下駄と並んで、蚊やり豚が置いてあってさ。
迷い込んできたカナブンぶん投げたら、闇の向こうでカチッて微かな音がしたり。
オケラの鳴く声が耳ん中に耳鳴りみたいに引っついて。
いいよね~夏の風情。
こんな夜には、コレ。線香花火。
わらしべみたいに細~い棒の先に黒色火薬が塗ってあるやつ。
ケバイ色のコヨリみたいなヤツより、やっぱこっち。
先っちょをロウソクの炎の先にちちょいとくべて待って。
じきにちっちゃい赤い玉ができて、そこから細い光の筋がチンチン放たれて。
玉が大きくなって光の筋から光の筋ができて、松葉を集めたみたいな繊細な火花が踊って。
シオカラトンボが飛び立つくらいの音しかしないんだよ、こんとき。
だんだん玉が赤い雫になって、プルプル零れ落ちそうになって。こんときの危うさがまたたまんない。
微妙な角度なんか調整して、手が震えないように、息さえ止めて。
ここを乗り切って、玉が小さくなって最後まで燃え尽きたときの充実感ったら。
人生、まっとうしましたって感じ?玉を落としたときの、やっちまった感。あれあってこそのこの達成感だよなぁ。
うん、これ人生だよね。より美しくより長く生命を輝かせたいっていう、なんか根源的な。
ああ、われ線香花火に人生を見たり。生きとし生ける者よ、汝らの人生、これ線香花火なり。
よし、もう一本、行ってみよう。
・・・って、オヤ?お隣も庭に出てきて、花火の準備?よきかな、よきかな。
塀向こうで見えぬが、なんかにぎやか・・・どうやら中学生連中らしい。
ジュバッ・・・ショワショワショワショワ~!!
げっ、すっげえ眩しい光の噴水が塀の上まで噴き上がったぁ~!
「すげぇな、ドラゴン!」
「次、ロケットやろうぜ」
キュイ~ン・・・・・・パーン!!
う~む、ああいう花火を作る外国とああいう花火に興じる若僧は、生きとし生ける者から除外だぁ。