萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

佳春の雪

2021-01-01 14:30:09 | 文学閑話万葉集
新しき 年の始めの 初春の けふ敷る雪の 伊夜しけ餘事  大伴家持
あたらしき としのはじめの はつはるの けふふるゆきの いやしけよごと

新しい年が始まる初春の今日、ふりつづく雪のように佳い事が続くといい。
新しい雪のように清らかで、ただ美しい佳いものが、余りあるほど残されていくように。


新春の歌ですが『万葉集』の最終巻=巻第二十のいちばん最後に載っています。
ラスト締める絶筆歌でありながら「始」「餘事」に歌集を編纂したあたり、籠められる祈りが謳われています。

原文は「新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰」
結句の「餘」という字は「引き続いて後に残る」「余るほど残る」という意味になります。
この「よごと」は「吉事」と翻刻してしまうことが多いのですが、この文字の意味そのまま現代語訳してあります。


雪が降るたび溶けず残り、積もるほど降り続く。
そんな雪国の厳寒にも初春の希望を祈る歌です、これは作者の心情×状況を映しています。
詠まれた時は作者・大伴家持が因幡国=現在の鳥取県東部に配流されて最初に迎える正月で、西暦759年にあたります。
この左遷はいわゆるトバッチリで、橘氏と藤原氏の抗争に大伴家持が巻きこまれた果の処分でした。
それ以前の家持は権力ある軍部の名門、伴氏の長として文武とも知られていました。

こうした状況下は凹んでいて不思議はない時です。
そんな背景を含んで訳すことも出来ますけど「始」&「餘」の二文字は希望です。
明るい迎春と新年の言祝ぎ歌、より明るいカンジに訳してみました。
迎えた2021年、慶事ふりつもる佳き年になりますように。
【撮影地:山梨県2013.12.31】

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