萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

未来点景 soliloquy 秋の午後―another,side story

2016-10-23 23:57:34 | soliloquy 陽はまた昇る
願い来れば、
周太某日@第85話+X日後



未来点景 soliloquy 秋の午後―another,side story

黄金色やわらかに風なびく、頬もう冷たい。
いつのまにか涼しくなった、そんな街路樹の道に黄葉がふる。

それからほら、君の声。

「待ってよ周太、なんか怒ってる?」

低い声きれいに響く、この声も好き。
だからこそ腹立たしくもなる、つい許してしまいそうで。

―だけどたまにはお灸すえないと…英二すぐ調子のるもの、

ほんとうに、どうして君はいつもそうなんだろう?
今日も困らされて足早になる、レザーソールかたことアスファルトゆく。
この道こんなふう前も歩いた、ふたり一緒に出掛けた初めてから何度も。

―最初の日って…そうだあのとき、

ほら記憶かたこと革靴に鳴る。
あのときも急いで歩いた、君に腕を掴まれてこの道ずっと。

「周太、」

またつかまれる腕、ほら君の手。
からむ長い指ニットを透かす、掌おおきく温もり沁みる。

ほら、あのときと同じだ。

「…腕、痛いんだけど、」

あのときみたいに言ってみる、きっと君は憶えていないけど。
そのままに見上げた真中、切長い瞳おだやかに笑った。

「ごめん周太、これならいい?」

大きな掌そっと腕ほどく、温もり離れてしまう。
あのときは離れなかった腕、その長い指が手をくるんだ。

「周太、ちょっと買い物つきあってくれる?」

つながれた手そっと引いてくれる。
くるまれる掌やわらかに温かい、その肌が記憶と違う。

―ザイルで硬くなったんだ、ね、

初めて手を繋いだ日、あれから君は変わった。
その歳月が掌にわかる、積まれた努力が君の手に厚い。

「段差あるよ周太、」

呼ばれて見た足元、レンガ洒落たステップ踏む。
どこか店に着いたらしい?ひかれた手に扉くぐって瞬いた。

「…あ、」

ここって、そうだ。

「いらっしゃいませ、あら?」

ほら、あいさつの笑顔もやっぱりそう。
懐かしいまま隣がきれいに笑った。

「おひさしぶりです、見せてもらいますね?」
「どうぞ、冬物も入っていますよ?」
「ありがとう、」

端正な白皙が笑う、やさしい笑顔が手を引いてくれる。
大きな手つながれたまま階段を上がり、記憶の場所に着いた。

―やっぱりここだ、ね?

マホガニーの床、ダークブラウン革張りソファ。
深い栗色のカーテン天鵞絨やさしい、ブラウン上品な空間にならんだ服。

「周太、これどうかな?」

かたん、大きな手がハンガーとる。
ふわり淡いブルー広がらす、やわらかなニットに切長い瞳が笑う。

「うん、似合うな?次これかな、」

端正な唇ほころばせ次、シャツひるがえって肩ふれる。
コットンやさしい藍色ギンガムチェック、それからブルーグレイまた当てられる。

「このニットもいいな、衿元と袖ぐりの紫が映える、」

切長い瞳が微笑む、濃やかな睫の陰翳きらめく。
とても楽しそう、そんな穏やかな笑顔きらきらハンガーとる。

「こっちも似合うよ周太、ブラックに見えるけど濃い紫だな。ジャケットどれにしようか?」

大きな手またハンガーとる、きれいな色そっと肩ふれる。
いくつも合せられる素材、色彩、そうして切長い瞳が笑う。

「周太?どうして何も言ってくれないんだろ、」

あ、困った顔してる。

「…どうして、って…かってにみるんだもの、」

ああ声つい出てしまった、お灸すえるつもりだったのに。
もう零れてしまった声に白皙の笑顔ぱっと咲いた。

「やっと喋ってくれたね周太、ごめんな?」

ほら笑顔すごく嬉しそう、でも「ごめんな?」は本当だろうか?
いつもの笑顔と台詞に長身の笑顔を見つめた。

「ごめんなって…英二、わかって言ってるの?」
「勝手に見るって、さっきのメールだろ?ごめんな周太、」

謝ってくれる、その言葉ちゃんと正解だ。
けれど本当だろうか?疑わしいままライトグリーンひるがえる。

「このシャツもいいよ周太、チェックの色合わせが洒落てる。このパンツとニットと合わせてさ、」

大きな手がハンガーとる、マホガニーのテーブルに色彩ならぶ。
もう何着めだろう?選ばれていく服たちに口開いた。

「あのね英二、服よりも僕…ぷらいばしー守ってくれる気持ちがほしいよ?」

本当に困る、勝手にメール見るなんて。
もう何度も困らされて、けれど端正きれいな笑顔ほころんだ。

「それくらい俺、ほんと嫉妬深いんだよ周太?もっと周太がかまってくれたら止められると思うけど、」

ああもう、またそんなこと言うんだから?

いつもそうだ、こんなこと言われて困らされてしまう。
ほら首すじ熱昇りだす、もう火照りだした頬さすり訴えた。

「…だからおかまいしています、これでも…ぼくなりせいいっぱい、です」

ああ、もう、またお灸けっきょく据えられない。
こんなこと何度も繰り返して、そして今日も笑ってくれる。

「かわいい周太、大好きだよ?」

ほら君が笑う、記憶の場所で記憶よりも幸せに。


(to be continue)

周太と英二の休日番外編、笑
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