希望、自身への理解
第64話 富岳act.4―another,side story「陽はまた昇る」
窓を透かして木洩陽ゆれる。
その陽射しはまだ高くて、けれど昨日よりすこし光やわらかい。
もう盆を過ぎた晩夏、そんな季節の変りを窓に微笑んだ周太に穏やかな声が言った。
「検査おつかれさま、で、結論から言うと君は喘息の気があるよ、心当たりは無いかな?」
言われた言葉に医師の顔を見つめてしまう。
知らなかった体質、けれど雅人の指摘通り心当たりが無いわけではない。
それでも途惑う視線を応接テーブル挟んだ微笑は受け留めてくれる、その深い瞳に周太は答えた。
「咳が出やすい方だと思います、運動した後や冷たい空気を吸った時は特に。なので、のど飴を持っている癖があります、」
「そうだろうね、気管支が少し狭くなってるから、」
落着いたトーンで応えながら雅人は書類に視線を落とした。
すこし考えるふう眺め、また上げた視線を周太に向けて微笑んだ。
「小さい頃に高所適性の検査を受けたって教えてくれたけど、その後から薬を飲んでいませんでしたか?」
「薬、…わからないです、」
つぶやくよう答えて、考え込んでしまう。
まだ完全には戻っていない記憶が靄のよう解らない、そのままを周太は答えた。
「すみません、僕、部分的に記憶喪失があるんです。父が亡くなった前後が解らなくなっていて…その頃に検査を受けたようなんです。
検査を受けた事すら忘れていました、でも宮田の話を聴いてやっと思い出せたんです、のど飴を持つようになった理由も忘れていました、」
自分のことが自分で解からない。
記憶の部分が欠落している、その自覚すら無いまま13年を過ごしてきた。
だから13年間は疑問が無かった、けれど今は戻り始めた記憶にもどかしい。
―自分の体のことまで忘れているなんて、どうして…
解らない不安がため息に零れてしまう。
こんなふうに他にも大切なことを忘れているかもしれない?
そんな可能性に怖くなって、それでも微笑んだ周太に雅人医師はさらり笑ってくれた。
「じゃあ今、検査して良かったな?これから治療も対処も出来るんだ、ラッキーだよ、」
これから出来る、そんな言葉に緊張がすこし溶けていく。
どこか寛がせるトーンは温かい、その温もり微笑んだ周太に若い院長は教えてくれた。
「気管支が細いと言っても、まだ普通の検診レベルでは解かり難い程度です。おそらく君は小児喘息を患っていたのだと思います。
その時は殆ど完治したのだろうね、でも警察官の訓練とかで結構無理をしてるでしょう?その疲労が再発を招いている可能性があります、」
―疲労が再発を、
告げられた事実に緊張が冷たく背を墜ちる。
異動したら今以上に心身とも負荷が大きくなっていく、そうしたら喘息は悪化する?
その可能性が怖い、それでも呼吸ひとつで肚に落とした意識に穏やかなトーンが続けて告げた。
「喘息は肺活量には影響しません、君のスコアも通常レベルです。ただし一秒率が低いです、これは気管支が細くなっているためです。
1秒間に吐き出した肺活量を一秒量と言って、これを肺活量で割算したものが一秒率です。気管支が細く狭くなると一秒率も下がります。
この%で気道狭窄の程度を確認します、一秒量を肺活量の70%以上を1秒間に吐き出せたら正常ですが、湯原くんは61%となっています。
あと、ここでは設備が無くて検査出来ませんが最大酸素摂取量と動脈血酸素飽和度に問題があると思います、この2つが高所適性で重要です、」
病状のこと、高所適応に欠けている体の特性。
そうした状況を簡単に告げて医師は今後の注意を贈ってくれた。
「まず煙草は厳禁です、喘息の方が喫煙すると肺気腫という病気になって肺を壊してしまいます。空気の汚い所も避けてほしいです。
風邪などで気管支の炎症を起こさないよう注意して下さい、炎症が慢性化すると完治が難しくなります。今の発作が無い状態を維持しましょう。
もし登山などする必要がある時は呼吸のリズムを一定にするよう注意して下さい、水分補給しながら自分のペースを守って焦らず登ることです。
それから出来るだけ睡眠を摂って疲れを溜めないこと。睡眠不足と疲労と、煙草など汚い空気を避ける。それが出来れば治ります、出来ますか?」
それが今から出来れば治る。
そう言ってくれる通りに自分が今後、出来るだろうか?
―きっと難しいよね、訓練だけでもたくさん埃や硝煙を吸って…異動したらもっと、
これからの状況は甘くない、そして喘息が悪化したならどうなるだろう?
もしも喘息発作が出たとして、それが「現場」だったらどうなるのか?
そんな不安を見つめながらも周太は医師への感謝と正直に答えた。
「はい、出来るだけのことはしたいです、」
「出来るだけ、としか言えないかな?」
訊きながら困ったよう笑って書類を封筒に入れてくれる。
そっとテーブルに置いて両手を軽く組み、父親そっくりの姿勢で医師は告げた。
「喘息は悪化させれば死にます、それは呼吸困難になるからってだけじゃない。喘息発作が起きると末梢血の中で好酸球が増えます。
この好酸球は喘息のコントロールが悪いと増加するという事です、好酸球が3割を超えて増え続けると肺炎や胸膜炎を惹き起します、
アレルギー性の血管炎を起こす場合もあるし、神経や脳に炎症が及ぶケースだってあるんだ。それでも君は養生する生活に変えられない?」
告げられる現実に、今、自分が立つ場所の生活は望ましくない。
それでも今ここで止めてしまったら、きっと自分は後悔する。
―あと少しでお父さんの亡くなった理由がきっと解かる、それなのに今辞めるなんて嫌、
もう14年になる願いを、生き方を、今このまま辞めるなんて出来ない。
ただ覚悟を医師の長い指に見つめながら周太は静かに微笑んだ。
「はい、申し訳ありません、」
厚意に甘えて検査して教えてもらった、それを活かすことが自分には出来ない。
この現実に向かい合った先、可笑しそうに微笑んだ雅人は真直ぐ言った。
「馬鹿野郎、謝るより質問しろよ?」
いま、なんて言ったの?
馬鹿野郎なんて言葉、この温厚な医師が言ったのだろうか?
こんな言葉は初めて言われた、そして言った相手に面喰らってしまう。
この医師には意外な言葉遣いに思えて、けれど目の前の笑顔は衒いなく言った。
「湯原くんの状況に合わせた治療が無いのか質問しろよ、本人の元気で生きたいって気持を聴けないと医者もヤル気でないだろ?
そんな死ぬこと決定みたいな顔するなよ、まだ23歳なんだ、喘息なんかに負けない体力がある。俺と一緒に生きる方法を考えよう?」
ほら、一緒に考えて生きよう?
そんなふうに瞳が告げて笑ってくれる。
その穏やかで明るい眼差しに周太は問いかけた。
「あの…きっと僕は先生の言いつけ通りには殆ど出来ません、それでも治療の方法があるんですか?」
「それを今から考えるんだろ?やる前から諦めるなよ、」
さらり言った瞳が笑って悪戯っ子に見つめてくれる。
そんな容子は父親の吉村医師と全く似ていない、けれど、同じ温もりに頼もしい。
こんな笑顔で言われると信じてしまう、きっと委ねられると納得した途端に熱が頬伝った。
「…あ、」
こぼれた一滴の涙に、安堵が充ちてゆく。
頬伝ってゆく熱の軌跡ごと緊張ほぐれだす、その前で白衣姿は立ちあがり隣に座ってくれた。
そのまま長い腕に抱きよせられて頬に白衣の肩ふれる、そして深く明朗な声が穏やかに微笑んだ。
「ほら、好きなだけ泣いちゃえよ?俺は口が堅いから大丈夫だ、泣いてスッキリしたら考えよう?」
頬ふれる白衣の肩へ一滴の涙が落ち、ゆっくり蒼い染みを描きだす。
薄青い丸い染みを見つめている瞳が温められて、深く胸が吐息する。
そんな背中に大きな掌まわされて、とん、優しく叩いてくれた合図に涙あふれた。
「っ…すみませ、…ん、」
嗚咽に謝りながら涙、深く湧き出すまま零れだす。
こんなふう人前で自分が泣くなんて何ヶ月ぶりだろう?
その月日を数えられない涙に噎ぶ背中を、大きな手は柔らかなビート刻んでくれる。
ゆるやかな拍子は鼓動のよう、どこか懐かしい感触に解かれるまま睫あふれて記憶を映す。
―…周、泣きたかったら泣いて良いよ?たまにはね、そういうのも必要なんだ、
幼い日、涙を堪えた背中を父も抱き寄せ笑ってくれた。
あのときと同じに大きな掌が背中を敲く感触に、広い白衣の背中へ手を回す。
その掌が白衣を握りしめ、聲が心臓からほとばしり泣いた。
「…雅人先生っ、生きたいですっ…」
生きたい、
出来るだけ健康な体で、まだ生きていたい。
辿り始めた父の軌跡を最後まで見たい、知りたい、受け留めたい。
ようやく取戻した樹木医の夢をもっと歩きたい、大学院だって行きたい。
そして願って良いのなら、大切な人と家族になって精一杯に幸せにしてあげたい。
―こんなにやりたいことある、なのに喘息なんかに負けたくない、生きていたい、
生きていたい、この願いも夢も叶えるために。
自分の為に、母の為に、そして大切なあの笑顔の為に生きたい。
この想いごと泣いて縋った白衣の懐は深い森の香くゆらせて、穏やかに笑った。
「うん、生きよう。大丈夫だ、なんとかするよ、」
とん、背中を敲いた掌から明朗な聲は、ゆっくり心ほどいて融けてゆく。
(to be continued)
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第64話 富岳act.4―another,side story「陽はまた昇る」
窓を透かして木洩陽ゆれる。
その陽射しはまだ高くて、けれど昨日よりすこし光やわらかい。
もう盆を過ぎた晩夏、そんな季節の変りを窓に微笑んだ周太に穏やかな声が言った。
「検査おつかれさま、で、結論から言うと君は喘息の気があるよ、心当たりは無いかな?」
言われた言葉に医師の顔を見つめてしまう。
知らなかった体質、けれど雅人の指摘通り心当たりが無いわけではない。
それでも途惑う視線を応接テーブル挟んだ微笑は受け留めてくれる、その深い瞳に周太は答えた。
「咳が出やすい方だと思います、運動した後や冷たい空気を吸った時は特に。なので、のど飴を持っている癖があります、」
「そうだろうね、気管支が少し狭くなってるから、」
落着いたトーンで応えながら雅人は書類に視線を落とした。
すこし考えるふう眺め、また上げた視線を周太に向けて微笑んだ。
「小さい頃に高所適性の検査を受けたって教えてくれたけど、その後から薬を飲んでいませんでしたか?」
「薬、…わからないです、」
つぶやくよう答えて、考え込んでしまう。
まだ完全には戻っていない記憶が靄のよう解らない、そのままを周太は答えた。
「すみません、僕、部分的に記憶喪失があるんです。父が亡くなった前後が解らなくなっていて…その頃に検査を受けたようなんです。
検査を受けた事すら忘れていました、でも宮田の話を聴いてやっと思い出せたんです、のど飴を持つようになった理由も忘れていました、」
自分のことが自分で解からない。
記憶の部分が欠落している、その自覚すら無いまま13年を過ごしてきた。
だから13年間は疑問が無かった、けれど今は戻り始めた記憶にもどかしい。
―自分の体のことまで忘れているなんて、どうして…
解らない不安がため息に零れてしまう。
こんなふうに他にも大切なことを忘れているかもしれない?
そんな可能性に怖くなって、それでも微笑んだ周太に雅人医師はさらり笑ってくれた。
「じゃあ今、検査して良かったな?これから治療も対処も出来るんだ、ラッキーだよ、」
これから出来る、そんな言葉に緊張がすこし溶けていく。
どこか寛がせるトーンは温かい、その温もり微笑んだ周太に若い院長は教えてくれた。
「気管支が細いと言っても、まだ普通の検診レベルでは解かり難い程度です。おそらく君は小児喘息を患っていたのだと思います。
その時は殆ど完治したのだろうね、でも警察官の訓練とかで結構無理をしてるでしょう?その疲労が再発を招いている可能性があります、」
―疲労が再発を、
告げられた事実に緊張が冷たく背を墜ちる。
異動したら今以上に心身とも負荷が大きくなっていく、そうしたら喘息は悪化する?
その可能性が怖い、それでも呼吸ひとつで肚に落とした意識に穏やかなトーンが続けて告げた。
「喘息は肺活量には影響しません、君のスコアも通常レベルです。ただし一秒率が低いです、これは気管支が細くなっているためです。
1秒間に吐き出した肺活量を一秒量と言って、これを肺活量で割算したものが一秒率です。気管支が細く狭くなると一秒率も下がります。
この%で気道狭窄の程度を確認します、一秒量を肺活量の70%以上を1秒間に吐き出せたら正常ですが、湯原くんは61%となっています。
あと、ここでは設備が無くて検査出来ませんが最大酸素摂取量と動脈血酸素飽和度に問題があると思います、この2つが高所適性で重要です、」
病状のこと、高所適応に欠けている体の特性。
そうした状況を簡単に告げて医師は今後の注意を贈ってくれた。
「まず煙草は厳禁です、喘息の方が喫煙すると肺気腫という病気になって肺を壊してしまいます。空気の汚い所も避けてほしいです。
風邪などで気管支の炎症を起こさないよう注意して下さい、炎症が慢性化すると完治が難しくなります。今の発作が無い状態を維持しましょう。
もし登山などする必要がある時は呼吸のリズムを一定にするよう注意して下さい、水分補給しながら自分のペースを守って焦らず登ることです。
それから出来るだけ睡眠を摂って疲れを溜めないこと。睡眠不足と疲労と、煙草など汚い空気を避ける。それが出来れば治ります、出来ますか?」
それが今から出来れば治る。
そう言ってくれる通りに自分が今後、出来るだろうか?
―きっと難しいよね、訓練だけでもたくさん埃や硝煙を吸って…異動したらもっと、
これからの状況は甘くない、そして喘息が悪化したならどうなるだろう?
もしも喘息発作が出たとして、それが「現場」だったらどうなるのか?
そんな不安を見つめながらも周太は医師への感謝と正直に答えた。
「はい、出来るだけのことはしたいです、」
「出来るだけ、としか言えないかな?」
訊きながら困ったよう笑って書類を封筒に入れてくれる。
そっとテーブルに置いて両手を軽く組み、父親そっくりの姿勢で医師は告げた。
「喘息は悪化させれば死にます、それは呼吸困難になるからってだけじゃない。喘息発作が起きると末梢血の中で好酸球が増えます。
この好酸球は喘息のコントロールが悪いと増加するという事です、好酸球が3割を超えて増え続けると肺炎や胸膜炎を惹き起します、
アレルギー性の血管炎を起こす場合もあるし、神経や脳に炎症が及ぶケースだってあるんだ。それでも君は養生する生活に変えられない?」
告げられる現実に、今、自分が立つ場所の生活は望ましくない。
それでも今ここで止めてしまったら、きっと自分は後悔する。
―あと少しでお父さんの亡くなった理由がきっと解かる、それなのに今辞めるなんて嫌、
もう14年になる願いを、生き方を、今このまま辞めるなんて出来ない。
ただ覚悟を医師の長い指に見つめながら周太は静かに微笑んだ。
「はい、申し訳ありません、」
厚意に甘えて検査して教えてもらった、それを活かすことが自分には出来ない。
この現実に向かい合った先、可笑しそうに微笑んだ雅人は真直ぐ言った。
「馬鹿野郎、謝るより質問しろよ?」
いま、なんて言ったの?
馬鹿野郎なんて言葉、この温厚な医師が言ったのだろうか?
こんな言葉は初めて言われた、そして言った相手に面喰らってしまう。
この医師には意外な言葉遣いに思えて、けれど目の前の笑顔は衒いなく言った。
「湯原くんの状況に合わせた治療が無いのか質問しろよ、本人の元気で生きたいって気持を聴けないと医者もヤル気でないだろ?
そんな死ぬこと決定みたいな顔するなよ、まだ23歳なんだ、喘息なんかに負けない体力がある。俺と一緒に生きる方法を考えよう?」
ほら、一緒に考えて生きよう?
そんなふうに瞳が告げて笑ってくれる。
その穏やかで明るい眼差しに周太は問いかけた。
「あの…きっと僕は先生の言いつけ通りには殆ど出来ません、それでも治療の方法があるんですか?」
「それを今から考えるんだろ?やる前から諦めるなよ、」
さらり言った瞳が笑って悪戯っ子に見つめてくれる。
そんな容子は父親の吉村医師と全く似ていない、けれど、同じ温もりに頼もしい。
こんな笑顔で言われると信じてしまう、きっと委ねられると納得した途端に熱が頬伝った。
「…あ、」
こぼれた一滴の涙に、安堵が充ちてゆく。
頬伝ってゆく熱の軌跡ごと緊張ほぐれだす、その前で白衣姿は立ちあがり隣に座ってくれた。
そのまま長い腕に抱きよせられて頬に白衣の肩ふれる、そして深く明朗な声が穏やかに微笑んだ。
「ほら、好きなだけ泣いちゃえよ?俺は口が堅いから大丈夫だ、泣いてスッキリしたら考えよう?」
頬ふれる白衣の肩へ一滴の涙が落ち、ゆっくり蒼い染みを描きだす。
薄青い丸い染みを見つめている瞳が温められて、深く胸が吐息する。
そんな背中に大きな掌まわされて、とん、優しく叩いてくれた合図に涙あふれた。
「っ…すみませ、…ん、」
嗚咽に謝りながら涙、深く湧き出すまま零れだす。
こんなふう人前で自分が泣くなんて何ヶ月ぶりだろう?
その月日を数えられない涙に噎ぶ背中を、大きな手は柔らかなビート刻んでくれる。
ゆるやかな拍子は鼓動のよう、どこか懐かしい感触に解かれるまま睫あふれて記憶を映す。
―…周、泣きたかったら泣いて良いよ?たまにはね、そういうのも必要なんだ、
幼い日、涙を堪えた背中を父も抱き寄せ笑ってくれた。
あのときと同じに大きな掌が背中を敲く感触に、広い白衣の背中へ手を回す。
その掌が白衣を握りしめ、聲が心臓からほとばしり泣いた。
「…雅人先生っ、生きたいですっ…」
生きたい、
出来るだけ健康な体で、まだ生きていたい。
辿り始めた父の軌跡を最後まで見たい、知りたい、受け留めたい。
ようやく取戻した樹木医の夢をもっと歩きたい、大学院だって行きたい。
そして願って良いのなら、大切な人と家族になって精一杯に幸せにしてあげたい。
―こんなにやりたいことある、なのに喘息なんかに負けたくない、生きていたい、
生きていたい、この願いも夢も叶えるために。
自分の為に、母の為に、そして大切なあの笑顔の為に生きたい。
この想いごと泣いて縋った白衣の懐は深い森の香くゆらせて、穏やかに笑った。
「うん、生きよう。大丈夫だ、なんとかするよ、」
とん、背中を敲いた掌から明朗な聲は、ゆっくり心ほどいて融けてゆく。
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