快読日記

日々の読書記録

「私は「蟻の兵隊」だった 中国に残された日本兵」奥村和一・酒井誠

2011年07月11日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《7/10読了 岩波ジュニア新書537(岩波書店) 2006年刊 【ノンフィクション】 おくむら・わいち(1924~) さかい・まこと(1947~)》

普通の人が召集され、殺人を仕込まれ、「売軍」に利用され、人生を狂わされていく--それはいったいどういうことなのか、元日本兵・奥村和一さんへのインタビュー。
ジュニア向けに語られていて、とてもわかりやすいです。

奥村さんは1944年11月に入隊、中国山西省に派遣され、翌年8月に敗戦を迎えます。
ところが、軍の上層部が中国国民党軍と取り引きし、結果、奥村さんを含む2600人もの日本兵が中国に残り、共産党軍との内戦に参加、うち550人が戦死しています。
奥村さんはその後1948年7月から6年間(!)、共産党の人民解放軍の捕虜となり、帰国。
「中共帰り」と蔑まれ、公安につきまとわれる日々が続き、挙げ句、自分たちが逃亡兵として処理されていることがわかります。
「日本の復興のため」と言われて中国に残ったのに、「現地除隊」の扱いになっていたのです。
ふざけるなという話です。

この「日本軍山西省残留問題」が公になったのは1990年代に入る直前。
奥村さんたちは国に対して「帰国するまでの軍籍を認めよ、中国国民党軍日本人特務団兵士として戦死した人たちに補償をせよ」という裁判を起こします。
何より恐ろしいのは、当時の資料がしれっと改ざんされていること。
顔のない役人たちのこうした行為には、「売軍」した中将以上に腹が立つ。
そして、本来の責任を持つはずの人間が保身に走り、末端の人間を虫けらのように踏みにじっていくこの構図に、既視感を覚える今日このごろです。

/「私は「蟻の兵隊」だった」奥村和一・酒井誠
このブログに投票しよう