新・秘密基地

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小説 あまいろ 第1話 その2

2011-12-06 22:58:07 | その他
あまいろ

Challenge 1 みつけた その2


 長谷川は、テキパキと部員たちに指示してチーム分けや審判を務める選手を振り分ける。
 流石はキャプテンと言いたいところだが、このチーム分けには罠があった。
「あなた無事には済まないわよ」
 亜衣と同じチームになったメンバーの1人が、横でそう囁いた。
「どうして?」
「あなた、キャプテンを本気にさせちゃったのよ。あなたは知らないでしょうけど、キャプテンのチームは全員がレギュラーなのよ。とてもじゃないけど勝ち目が無いわ」
彼女の言うとおりだった。長谷川のチームは全員が先発メンバーとして起用される、いわばレギュラーメンバーであり、亜衣のチームメイトたちはサブのメンバーなのだ。
 さらに長谷川は、控えにも次期レギュラーと目される有望なメンバーを入れており、戦力差は歴然であった。
これが無礼な道場破り同然の亜衣に対するもてなしということなのだ。
「へえ、おもしろいじゃない」
 亜衣は、怯むどころか逆に闘志を漲らせた。相手が強ければ強いほど、自分の力を引き出してくれる。そう考えている亜衣からすれば、それこそ望むところであった。

「サーブ権はあなたにあげるわ」
 長谷川が亜衣にボールを手渡す。最強のメンバーを擁する長谷川の余裕が窺われた。
「それじゃ、ありがたくいただきます」
 亜衣は、そう答えるとバックライト(後衛の右側)にいるチームメイトの前に行き、直接ボールを手渡し、
「きっちり入れていきましょう」
 と、告げて自分のポジションであるフロントレフト(前衛の左側)へと戻った。

「それじゃ、試合を始めます」
 ネット横に設置された審判台から主審に選ばれた部員が、試合開始を告げ、笛を吹く。
そして笛の音が消えたと同時に亜衣チームがサーブを打ち込んだ。
 なんの変哲もないサーブだけに、長谷川チームは楽々レシーブすると、絶好のトスをフロントライト(前衛の右側)にいた長谷川へと合わせる。
 長谷川は人望という面よりも、そのプレイで味方をぐいぐいと引っ張っていくタイプのキャプテンであった。
 つまり、この長谷川のプレイ一つ一つがチームの勢いを左右するのだ。そして、長谷川がキャプテンに任命されたのは、総合的な技術の高さからくるものだったのである。
 そんな長谷川からすれば、このようなスパイクは決めて当然のものだった。
 
 得点を告げる審判の笛が鳴り響く。
 ところがである。その得点は長谷川チームのものではなかった。
なぜならば、ボールは亜衣チームのコートではなく、長谷川の足元へと転がっていたのだから。
コートにいる誰もが……いや、この試合を見守る部員一同が、この思わぬ出来事に目を疑い、呆然となった。
状況を考えれば答えは唯一つ。それはちょうど長谷川と向かい合わせのポジションにいた亜衣がブロックしたということである。
「まさか、この子に?」
 誰が見ても信じ難いことだった。身長180cm近い長谷川が、160cmにも満たない亜衣にブロックされるなど常識的にはあり得ない話なのだから。
「さあ、この調子でどんどん行きましょう!」
 亜衣は得意げな顔も見せず、手を叩いて即席の仲間たちを励ます。
 しかし、亜衣チームのメンバーにはどうにも覇気がない。どうせ先制してもすぐに逆転される。そう言いたげな表情を浮かべている。
(とにかく、いいのを決めれば、みんなも乗ってくるはず)
 道場破りのような扱いをされている自分に対して、このチームメイトたちが協力的でないことはないことは亜衣にもわかっている。だが、勝利へと繋がる希望と欲求とが生まれれば自然と力を貸してくれることもわかっていた。どんな勝負であろうとも勝利するということは嬉しいものなのだから。

 再び、亜衣チームのサーブで試合は再開される。長谷川チームは先ほどと同じようにレシーブからトスと楽に繋ぐと、今度はフロントレフトの北見という選手にスパイクを打たせた。
 しかし、これを亜衣チームのバックセンターがレシーブし、続いてセッターが亜衣にトスを上げる。
「お返しに今度はわたしがブロックしてあげるわ」
 亜衣が飛ぶと同時に長谷川も飛んだ。
 県内で最高のブロック率を誇る彼女の姿は、まさに宙へと浮き上がる山脈のようである。
 だが、亜衣のジャンプはそんな長谷川すらも凌駕するものであった。
「そんな!わたしよりも高く飛ぶなんて!」
 長谷川の姿が宙に浮く山脈であるならば、亜衣はその上を羽ばたく鳥であろうか。
 亜衣の姿はまるで空中で制止しているかのようであった。
 そう、例えるなら一人だけ違う時間の中にいるような……誰の目にもそう映っていた。
 悠々と空を制した亜衣は大きく反るようにして力を溜め込むと、それを全てボールに叩き付けるようにしてスパイクを放った。
 その美しいフォームは敵味方関係なく、誰をも魅了した。審判すらも得点を告げる笛を吹き忘れてしまうほどだった。
 
「どう?結構なんとかなるもんでしょ?」
 亜衣はネットに背を向け、チームメイトを一人ずつ見つめながら軽く微笑んだ。
「うん、なんだかやる気でてきた」
「わたしも!」
 先ほどまでまったく覇気のなかった亜衣チーム。しかし、この連続得点が彼女たちの心を奮い立たせた。

 勢いに乗った亜衣たちは、浮き足立つ長谷川チームを怒涛の攻撃で攻め立て、8対1とリードを広げた。
 そして、ここで審判はテクニカルタイムアウトを両チームに与えた。
 バレーボールはどちらかが先に8点目と16点目を入れると自動的にテクニカルタイムアウトという60秒の時間を与えられる。この時間で選手たちは体を休めたり、作戦を練るなどをしたりするのだ。

 当然、長谷川チームはこの時間で作戦を練ってくるはずである。
 県内トップレベルと謳われるバレー部の意地を賭けた逆襲。
 亜衣はこれからが本当の勝負の始まりだと考えていた。

 またしてもつづく

 なんとか「その3」でこの1話は終りにしたい。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (蟻(あリ))
2011-12-07 00:38:34
亜衣ちゃんかっこいいですね///!!!
キャラが生き生きしてて読んでて楽しいです><!!

3話書くのがんばってください><!!
楽しみに待ってます^^*!!
返信する
Unknown (あひぃ)
2011-12-07 18:33:46
文力すごいなぁ、なんか…
言葉の使い方とか上手いです!
亜衣ちゃんかっこいいですねー!続きまってます。
あと…あひぃが塗らせてもらった線画で、
どっちが亜衣ちゃんなんだろう、とずっと思ってましたw
あの髪が短い方が亜衣ちゃん?
返信する
Unknown (夜美羽)
2011-12-07 21:10:22
はぅ・・・亜衣ちゃんかっこいいです!
もうなんというか・・・
読んでてスカッとするというか((え

続き楽しみにしてます!!!

  
返信する
Unknown (直家(コメ返))
2011-12-08 21:12:06
>蟻さん
可愛くてかっこいい子ってのを出せたらいいなと思っていたので、
そういった感想をいただけるのは非常に嬉しいです。

なんとかすぐに載せられるようがんばります。


>あひぃさん
自分では、語呂が乏しくてなかなか気の利いた表現ができない感じなんですよね。
欲を言うと相手の心理描写も入れたいんですが、小説で視点をコロコロ変えるわけにはいかないので、その辺がもどかしいです。
それを考えると漫画って優れてるんだなあと思います。

そうです、髪の短い方が亜衣ですよ。


>夜美羽さん
最近は男と同等もしくはそれより強い戦う女の子というのが多いですが、
こういうスポーツの中で輝く女の子ってのもいいなと思ったんですよね。
女の子だけの世界でも、かっこいいなって思っていただければ幸いです。
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