新・秘密基地

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小説 あまいろ 第3話 その1

2011-12-28 23:40:28 | その他
あまいろ

Challenge 3 どうしてなの? その1

 春の夕闇の中に桜吹雪が舞い、街灯がスポットライトのように一つの影を照らす。
 その影の中にあるのは部活を終え、帰宅途中にある七瀬麻巳だ。

 麻巳は、薄暗くなった帰り道を進みながら、亜衣のことを思い浮かべていた。
(わたしも昔はあんな顔してたことあったな) 
心の中で呟くと同時に、麻巳は幼き日の頃を思い出す。
 かつては、亜衣のように笑い、そして友達にも恵まれていた時のことを。
 麻巳の運命に変化が生じたのは小学二年生の時だった。両親が夫婦生活の擦れ違いを理由に離婚したのだ。
麻巳は母親に引き取られることになり、母親も生活のため仕事へ出ることになったので麻巳は家では一人で過ごすことが多くなった。

 そして運命の歯車はさらに加速し始める。麻巳が三年生に進級した直後のことだった、母親が突如、置手紙だけを残し、失踪してしまったのだ。
 
 不幸にも麻巳には親戚も祖父母もいなかった。肉親である父は離婚から半年後に転勤で北海道の支社へと赴任してしまい、その連絡先も母親しか知らず、その母親にも身内がいなかった為、麻巳は一人になってしまった。
 麻巳は児童養護施設へと引き取られることになり、通うべき小学校も変わったことから友達すらも無くしてしまった。
 
麻巳は母親に捨てられたことや、友人を失ったショックから立ち直れず、新しい学校ではいつも机に座ったまま俯く日々を送った。
クラスメートたちも、児童養護施設で暮らす麻巳とどう接していいのかわからないのか、滅多に声をかけてはくれなかった。

だが、そんな麻巳に救いの手を差し伸べる者が現れた。大橋智之という転入生だった。
大橋は気さくでスポーツ万能、整った容姿と、人気が出る要素を全て持ち合わせていた。
 小学校では特に運動ができる生徒は注目の的になる。男子などは運動が出来るだけで同性には尊敬され、異性には好かれることも少なくない。
 麻巳はそんな大橋から気にかけられて、天にも昇る心地だった。
 
「友達は待っては作れない。自分から作りにいかなくちゃ」
 そんな大橋のアドバイスを受け、麻巳は必死に変わろうともがき始めた。大橋のように運動で自分の存在を示そうと考えたのだ。
 元々、運動神経が良かったこともあり、麻巳はどんなスポーツもこなせるようになった。
 友達も増え、大橋との中はさらに深まり、麻巳の学校生活は一気に薔薇色へと変わって行った。

 だが、好事魔多しとはよく言ったもので、またしても、麻巳に不幸が降りかかった。
 大橋が父親の仕事の都合で引っ越すことになったのだ。
 まだ幼かった二人は、後一歩が踏み出せず、結局思いを伝えることも連絡先を聞くことも無く別れることになった。

 だが、大橋との別れはこれから続く不幸の始まりでしかなかった。
 麻巳が小学五年生の時だった。冬休みを間近に控えた頃であった、クラスで盗難事件が相次ぎ、なぜかその紛失物の一つが麻巳の机の中から出るという事件が起こったのだ。

 もちろん、麻巳は盗みなど働いてはいなかった。だが、クラスメートたちは麻巳と信じて疑わなかった。麻巳が児童養護施設で暮らしているせいで、満足に好きな物も買えないことから犯行に及んだというのだ。
 この事件で麻巳の弁護をする者は誰一人いなかった。普段仲良くしていた友人すらも、麻巳に嫌疑の目を向けてきた。
 宿題でわからないことがあれば、丁寧に説明してあげたり、体育祭などでミスをした時はそれをフォローして責任を感じさせないようにと気を配ってあげたりしていた自分に対する仕打ちがこれかと、麻巳は深い悲しみに囚われた。

 後日、犯人が見つかり、麻巳はクラスメートから謝罪を受けたが、それでも麻巳の心が晴れることはなかった。
 この事件で麻巳の中に、友人というのは形ばかりで人を利用するだけの方便という図式が出来上がってしまったからである。
 亜衣の友達になろうという言葉に、感情的になったのはこうした背景があったためである。

 そういった過去を思い出しているうちに、麻巳は我が家とも言うべき、児童養護施設「緑生園」に辿りついていた。
扉を開け、中に入ると、5、6歳の幼児や小学校低学年らしき少年・少女が玄関口へと駆け出してきて麻巳を迎える。
「お姉ちゃんお帰りなさい」
 施設の子供たちが声を揃えて麻巳に告げる。
 麻巳はそんな子供たちに「ただいま」と答えると、
(そうだ、わたしには友達なんていらない。ここで一緒に暮らす弟と妹たちがいればそれで充分なんだ)
 心の中に巣食う亜衣の影を振り払うように、そう言い聞かせた。

「あらあら。みんな、お姉ちゃんは疲れてるんだからダメよ」
 子供たちの後から続くように施設の職員らしき女性が現れた。
「あ、いいんですよ」
「いいの、いいの。麻巳ちゃんは朝霞学園なんて名門に入って毎日大変なんだから」
「すみません、気を遣って貰っちゃって」
「そんなこと気にしないで。麻巳ちゃんは好きなことに打ち込んでくれればいいんだから」
 そう言って、この女性は子供達を奥へと連れ戻して行った。
(好きなことか……)
 正直なところ、麻巳はバレーボールが特別好きというわけではなかった。ただ、女子のスポーツで一番目立つのがバレーボールだからという理由で選んだに過ぎない。
 バレーボールはテレビでも何かと放送される。高校バレーも春高バレーと称して放送されるので、人目に付きやすい。
 そのバレーボールで自分が活躍し、テレビに取り上げられることで、同じ境遇の子供達に夢や希望、そして勇気を与えられる道標になりたいと思ったのだ。
 
 麻巳はバレーに関してだけはいつもの自分を捨て、鬼となった。
 その結果、麻巳は弱小バレー部を県大会優勝へと導き、二年連続で最優秀選手に選出された。
そして、バレーの名門朝霞学園からは特待生の話が舞い込んできた。
 全国大会常連の朝霞学園に入れば、目的の八割は達成したことになる。麻巳は躊躇無く、特待生の誘いを受けた。
 麻巳にとっては、バレーも朝霞学園も自分が注目されるための道具であり、踏み台でしかなかった。
(わたしは間違っていない。今までこれでうまくいっていたんだから)
 麻巳は念を押すように、再び心に言い聞かせた。

 その夜、麻巳は夢を見た。
 それは、黄金色に染まったススキの野を大橋と一緒に走る夢だった。
 二人は息咳切りながらも笑って無我夢中に走っていた。
 だが、大橋は途中でぐんぐんと加速して麻巳を引き離していく、麻巳は追いすがろうと、賢明に駆けるが追いつかず、ついには足を取られて転倒してしまい、大橋の影すら見えなくなってしまった。
 一人きりにされた麻巳は涙ぐんだ。すると、目の前が光って、その光の中から誰かが麻巳に手を差し伸べてきた。
 そして、麻巳がその手を掴んだ瞬間、夢は終わりを告げ、麻巳は目を覚ました。
「あ……」
 顔に手を当てて麻巳は驚いた。夢と同じように涙が出ていたからだ。

 なぜ、このような夢を見たのだろう?登校する中、麻巳はそればかりを考えていた。
 夢には深層心理が形となって現れることもあるという、本当は自分の中に友達がいなくて寂しいという感情があるのではないか?と、そんなことを考えてしまう。
(違う、そんなことない。わたしはあの裏切りに遭ってから誓ったんだ)
 麻巳は何度も否定と肯定を繰り返した。昨日から続くこの自問自答にさすがの麻巳も些かの疲れを感じていた。

 そんなことを考えながら、校門へとやって来た時だった。麻巳は眼前に映るものを見て、思わず立ち止まった。
 校門の前で亜衣が待ち伏せするかのように立っていたからだ。
「七瀬さんおはよう」
 亜衣は一昨日、自分が言ったことなど気にも留めていないかのように、屈託のない顔で挨拶してきた。

 どういう神経をしているのだろうと麻巳は思った。それと同時に今朝見た夢の原因もこの亜衣にあるのだと確信した。
(この人がわたしを惑わせている、この人のせいで調子が狂ってるんだ)
 麻巳は亜衣をキッと睨むように一瞥して、そのまま校門を抜けた。
 すると、今度は後から亜衣が追いすがってきて、左横へと並んできた。
「一昨日は突然あんなこと言ってごめんなさいね。わたし、まだ七瀬さんのことよく知りもしないのに」
 自己中心的で、突っ走るだけの子と思っていた麻巳からすれば、この亜衣の謝罪は意外だった。
「もう、いいわそんなこと」
 麻巳はそう言いながらも視線を亜衣には向けなかった。亜衣の目を見ていると引き込まれそうになりそうだったからだ。
「だからね、わたし七瀬さんのことをよく知ることから始めようと思ったの」
「え?」
 麻巳は亜衣の言葉に耳を疑った。謝ってそれでもうさようならだと思っていたからだ。それがまだ自分と友達になるのを諦めていないようだから空いた口が塞がらなかった。
「それじゃ、また後でね」
 亜衣は言いたいことだけ言うと、麻巳を追い越して先に校舎へと入っていった。

(なんなのあの人?こんなわけのわからない人見たことない)
 麻巳はただ呆れていた。どういう育ち方をすればこんな図太い人間になれるのだろうと。そして、ますます自分とは相容れることはないタイプであるとも思った。


その2へ続く
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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (小夏)
2011-12-29 16:06:32
麻巳ってそんな悲しい過去があったんですね…(´;ω;`)
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Unknown (夜美羽)
2011-12-29 21:01:20
ちょっと泣けてきました・・・
麻巳良い子なのに・・・
早く二人が仲良くなってほしいです←

   
返信する
Unknown (直家 (コメ返))
2011-12-29 23:19:05
>小夏さん
亜衣が絶句したのはそういう理由があったからです。


>夜美羽さん
こういう重い過去を知って
受け止めてあげられる人ってどのくらいいるんですかね?
異性ではなく、同性で。
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