セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

月の静寂(しじま) En.8 予定外の錯綜

2009-02-06 22:31:06 | 凍結



「なぁ、お前、ブリジットと結構古いんだってな。」
「ええ、そうですね。
 夜の国時代から、知っていますから。」
「?ブリジットは、あの出来事のあとだって言ってたぞ?」
「いえ、影から見知っていたと言うのと、赤バラ王と、エルと話を聞いていたモノですから。」
「ふーん。
 なぁ、そのエルってぇのは?」
「知り合いですよ。
 ダムピールですが、コミュニティには、協力以外では、参加していません。
 さて、味見、しますか?」
「うん!!」
結構昔の、蓮火さんとの会話。
あの頃は、素直で、扱いやすくて、かわいかったのですけど。




月の静寂(しじま) En. 8 予定外の錯綜







しばらく、あの後、私達―エレノア、ブリジット、御前は、フリーズしていた。
まぁ、確かに、解らないでも無いと言うか。
某TV番組で、大食い選手権なんかで、結構無茶食いをするのを見かけるが。
見かけるが、あれはあくまで、成人しているのだろうし。
外見的には、10歳位のレティが、ああまで大きなビッグパフェを胃に収めるのを見ては、仕方ないだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・ストラウス、食費、大丈夫だったのかな。
そんな、らしくないことも考えてしまう。
彼が、バイトをしていたり、する構図は笑えると思うのだけれど。
「私達って、犬歯が、発達してるでしょ?
 八重歯っていうにも、異常な位に。
 千年前のあの事件以降、ヴァンパイアとその血族を極度に恐れるようになった人間が、吸血をイメージしたのよ。
 少なくとも、夜の血族は、血を吸わないわ。」
仕切り直すように、御前の直前の疑問を氷解させる。
少なくとも、ウソではないよ。
ウソではね。
・・・あの後に、ブリジット達が、広めた噂でもあるし。
それに、その能力が無いわけじゃない。
「ただ、吸血を恐れられても、間違いとも言えん。
 確かに、我らの牙には吸血能力があるにはちがいなのだから。」
「・・・・?
 吸血能力があるのに吸わない。
 おかしいではないか?」
「伝承、夜の国の書庫の記憶に寄れば、一万年ほど前のヴァンパイアは、必要としたらしいわ。
 用途は不明、栄養源か、それすらも判然としないけど、あったのは確か。
 だけど、種として、時間を減るうちに、能力として残ってしまったモノ。
 ・・・人間で言う、尾てい骨のようなものかな。」
「・・・・・・・・・・不信は、解る。
 だが、事実は事実。動かせない事だ。」
ううん、ブリジット、それでもね。
それでも、「事実が、作られた事実でも、動く時」もあるの。
封印も、五十を切った今、全ての封印が解けてしまえば、ブリジットにとっての「事実」は、確実に動いてしまうだろう。
姫さまも黙っているような性格じゃないだろうし。
私が、そうつらつらと、考える暇があったのは、ブリジットが、完全な御前の理解を待つように、しばらく黙っていたからだ。
口に、私がツナマヨ軍艦巻きをほおり込むのを合図のように、また、彼女は口を開く。
「人間とダムピールは、相容れぬ仲ではない。
 決して、食い合う関係でもないのだ。」
「少なくとも、ダムピールには、人間の血が流れているし。
 多少、薄い濃いはあるけど、争うことはない。」
「されとて、吸血能力を抜きにしても、ぬしらの能力は脅威。
 今一度、確認するが、ダムピールが人間に成る方法があるとは、誠か?」
「ある。」
ブリジットは、間髪入れずに、そういう。
でも、それは、かなりタイトのものなのだ。
なにしろ、実際に施行されたのが、五千年前と言う化石な術法なのだから。
それに・・・・・いや、今は思い出したくもない。
確かに、有効ではある。
あるが、それが、数千年後の柱になっているとは、思っても居ないだろう。
「それが、全ダムピールの悲願でもある。
 その望むがあるからこそ、我々は闘っていられるのだ。」
切に切に、願うように、祈るように、叶えようとするように、ブリジットは言う。
確かに、千年前から、ダムピールコミュニティの悲願と言うか、目標と言うか、それが、その術法だ。
ユダヤの人にとってのカナーン(約束された地)のような、そんな終着点なのだ。
気持ちは、解るけれど。
「共存が、困難なのは、元より承知。
 だが、人と我々が、同じとなれば、恐怖もあるまい。
 それとも、人となったとしても、狭量なことを言うか?」
言うだろう。
それだけ、ダムピールを、タヌキジジイは、恐れるだろうし。
殲滅を命じれるだけの権力も有している。
一応、今は、シリアスをやっていると言うのもおかしいが、緊迫しかけている空気が流れている。
しかし、レティが、あれだけ食べて、海鮮ラーメンも頼んでいるのをみて、再び、空気が凍る。
ブラックホールと呼びたくなるね。
ふたたび、気を取り直した御前が、こういう。
「しかし、お互い知らぬことがおおい。
 仮に、これまでの話を真実としても、我々側に分の悪い話の気配がするが?」
「双方に、いい話になるかは、そっち次第。」
「お前が、何を企むかにもよる。
 話せ、お前の腹を。
 内容次第では、また命を縮めてやる。」
私が、投げやりに言うと、ブリジットは、そう簡単に言う。
その時の微笑みを形容するなら、たいそう美しい女が、男にしか出来ない笑みとでも、すれば、何割かは理解して頂けると思う。
はっきり言って、なんていうか、彪が笑ってもアコまで怖くないと考えてしまうほどに、
それを年の功で、受け流すように、御前はこう返す。
「そう殺気だたんでくれ。
 やはり、双方に良い話のはずだ。」






「その形で、客商売かよ。
 たいがい、怖がって逃げるだろ?」
ラーメンを食べた後、私・リトと蓮火さんは、そんな会話をしていました。
確かに、怖いですが、言うのは、失礼ですよ。
あと、煙草は吸わないなら、くわえないのとプラプラさせるのは行儀割わるいです。
「それなりに、来て入るようですよ。」
「マジかよ。
 どれくらいだ?」
「一日、10人くれば、大繁盛ですね。」
「・・・・・確かに、繁盛なのか?」
「なんにせよ、道楽だ。
 物好きが、それだけでも居るのはありがたい。」
つらつら、会話するが、それでも、蓮火の顔は何処か冴えません。
やはり、まだ、何処かで迷っているでしょうね。
それが、意識しているかしていないかは知らないですが。
風伯さんとしても気になったのでしょう。
こう聞いてきました。
「冴えん顔だな。
 余程の事があったようだな。」
「・・・堅物で、リアリストのお前にはわかんねえよ。」
話もしないで、解らないとは、ずいぶんな口かと思います。
しかし、蓮火さんの痛みは蓮火さんのモノです。
しばらく、言葉は途絶えた。
暖簾の外から、こんな声が聞こえてきます。
「ああ、ここだ、ここだ。」
「・・・・・・また勝手な事を。」
そう言えば、一昨日発売の「ウィクリーナビ」に、載ってましたっけ。
記事を見て、やって来たと言うような会話です。
ですが、少々、私としても珍しく、自分の耳が人の老人並みになったのかと思いました。
・・・・・・正確に言えば、とっても、聞き覚えがある声です。
より、個人を特定させるなら、エル以外に、私が忠誠を誓った数少ない一人と言うと。
まさかね。
などと、考えているうちに、私の隣の蓮火さんの隣に、その声の人物が、座る。
その人物は、私の耳が正しかった事を示すかのように、銀髪の青年・・・ストラウス様だった。
「なっ・・・赤バラァ!!」
ストラウス様に気付いた蓮火さんが、刀を抜いて、赤バラ王の首筋に、押し当てる。
風伯さんも、匕首をこの短時間に構えていた。
それでも、赤バラ王が、微動だにしないのは、流石だろう。
少々、僭越かもしれないが。
「跳ねるな、蓮火。
 ブリジットの許しもなしに、刃を構えていいのか?」
「!!・・・・・・・くっ。」
「・・・ヴァンパイア王、まさか知っていて、ここに?」
蓮火さんの刀とストラウス様の間に、庇うようにか、花雪さんは立ち入ります。
少々、うかつ、とでも言うべきでしょうか、蓮火さんが、戦鬪狂で、斬る事が、ヤるよりいいと言う人でしたら、キレていますでしょうに。
聞くところによると、女性の身体・・・特に20歳前の女性の身体が、一番切り心地がいいとか、聞くけれど、どうなのだでしょう?
それにしても、赤バラ王は、何を考えているのでしょう?
花雪さんの言葉を信じるならば、ここに来る事は、知らされていなかったようですが。
「風伯。通好みの屋台として、紹介されていたぞ。
 その割に、流行っていないようだが。」
そういえば、「ウィクリーナビ」って、毎月一店づつ、ラーメン屋紹介していましたね。
確か、今月は、風伯さんの店でしたか。
それにしても、「味は良し。ただし!!店主に注意。」って、どういうあおり文句なのでしょうか?
メニューも、シンプルに、「みそ・しお・醤油」だけで、トッピング用に、卵50円とメンマ80円で、チャーシューメンは、150円増し。
尚かつ、飲み物は、ビールと日本酒、という老舗風味な硬派なラーメン屋台。
卵は煮卵で、それとメンマを肴に、日本酒というのも、中々な味。
・・・・・・・って、現実逃避をしている暇はない。
「しかし、蓮火もいたのか、手間が省けた。
 ・・・どうだ、蓮火、この際、一対一(サシ)で、決着をつけないか?」
突然の事に、蓮火さんは愚か、私を含めた他の面々も動けません。
というか、赤バラ王、今、貴方が死ぬのも、蓮火さんが死ぬのも、どちらも具合が悪いでしょう?
いえ、ストラウス様が、負けるとは、露程にも思いませんが。
ですが、このまま、蓮火さんが、死ぬのも、マズいでしょう。
・・・・・・ま、楽しそうですし、本格的にマズくなったら、止めればいいですね。
それまでは、この対決見守りましょうか。




場所は、移り変わって、ヘリポートのある高層ビルの屋上です。
対角線上になるように、真四角のヘリポートのそれぞれ隅に立つ、赤バラ王と蓮火さん。
花雪さんは、その真ん中に、ややその背中の後方に、風伯さん。
私は、階段のほうに立ち、ただ、見守っています。
先ほど、風伯さんが、ブリジットさんに、「念話」で、連絡をしていたようなんです。。
止めないのは、許可が下りたからだろうし、それに、蓮火さんを風伯さんと私が居ても、そう簡単に止めれないですし。
数ヶ月、ベッドの上が関の山かもしれません。
おまけに、魔力が二割戻ってさえすれば、九割九分は、赤バラ王は負けないでしょう。
そうでなくて、千年も、赤バラ王は生き残れないのですよ。
審判と言うか、始まりの合図を出す為か、花雪さんが、こう口上を述べる。
「この辺りは、夜になるとほぼ無人のビジネス街です。
 それに、ビルの一つや二つ、崩壊させても、おじいさまの力で収めて下さいます故。
 存分にお戦いください。」
「おい、ブラックスワン。
 俺が赤バラを殺してもいいんだな。」
「・・・出来るモノでしたら。」
「ふん・・・・・」
花雪さんは、蓮火にそう言って、応じます。
しかし、ほとんどそれは、挑発だろうという冷ややかさでした。
蓮火は、それをあまり意に介さず、抜き放った刀をコンクリートに突き出します。
「まだ、赤バラは、魔力が戻り切っていねぇ。
 俺の一太刀が入れば、それが致命傷に成るぞ。」
手を真横に、広げ、霊力をほぼ数瞬で練り上げます。
蓮火さんの額に、印が浮かび上がります。
そして、相棒である二本の刀を声高に呼びつけました。
「我が手に宿れ!!!
 孤龍!金妖!」
凄まじいほどの霊力魔力の奔流。
正直に言いましょう。
蓮火さんが、本気に殺しにくれば、4分、それ以上防戦する事すら難しくなるでしょう。
少なくとも、剣の腕に置いては、一切勝てるとは思っていません。
それを、それを見てすら、赤バラ王は、こう言います。
「・・・・・・その刃、私に届くかな?」
考えるよりも、自分のよりどころで、全力でぶつかります。
蓮火さんらしいと言えば、らしいでしょうが。
勝てない闘いはするもんではないと、教えましたが、無駄だったようですね。
「・・・剣よ、我が霊力に従えーーーーーー!!」
黒い刃と白い刃の中国様式の剣が、蓮火さんの霊力に従い、赤バラ王に矢のように飛んでいきます。
それは、赤バラ王に直接当たらず、足場を崩しました
また、その後を刀片手に、蓮火は追いすがり、王の後ろをとります。
そして、斬りつける蓮火さん。
並のダムピールなら、必殺のタイミングでした。
「まだまだァ-―――――――、赤バラ!!」
片手を振動の刃に変えた、赤バラ王は、それを受け止めます。
蓮火さん、負けましたね。
余裕のあるなら、勝機の薄い闘いでも勝てるでしょう。
ですが、余裕無くして、勝機の薄い闘いは、勝てません。
どうやら、六百年前、教えた事は、無駄になっているようですね。
師弟関係を終えてから、400年ほど経っていますが、全然変わりません。
・・・・・・・・でも、赤バラ王の闘いを見学できるのは、少ないですから、見物ですが。







最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。