セピア色の想い出。

日々の生活と、其処から生まれる物語の布飾り。

袖触れ合うも、他生の縁  1(他サイトコラボ)

2016-08-27 12:45:51 | 刀剣乱舞二次創作 (多重クロス)

 
  『ときにせつなくなりぬれど』の後日談の更に後日談。
  縹嬢の後日談の更に三日ほど後の話。




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 知る人がいることも。

 知らないで居る人も。
 
 どちらも、渦中で戦う者には、救いである。


 それを守るのが、どんなに辛いことでも。


 それを失うのが、どんなに辛いことでも。






 袖触れ合うも、他生の縁 
         1 子どもを折る気はない。敵対すれば別だけど。
 






 「……兄さん、のド阿呆。」

 清廉な空気が満ちた審神者・葵の本丸。
 その主の執務室にそんな世界を呪うようなそんな声をした少女が突然現れた。

 雪のように白い髪に金属みのある銀を混ぜたような髪を編み込み、黒曜石か何かで出来たピンで留めるタイプのバレッタで止めた、紅玉石のような瞳の歳若い無表情さが目立つ少女だ。
 黒地に淡い水色の矢絣模様の着物に濃い青のコルセット、黒のロングスカ-トと言う似合ってはいるが、本人には不本意そうな服装をした審神者としては年若い少女である。
 少なくとも、外見は。
 顔色が極端に白いことを覗けば、現世に居ても違和感のない少女だ。
 実際、似たような髪瞳の少女は葵も知り合いに居る。

 彼女が連れているのは、三口の刀剣男士。
 青色で袈裟をきちんと着ているが、その顔と気配は、左文字の次男・宗三左文字。
 天使の環のある髪に浅葱の瞳の葵が知っているよりも、幼いが恐らく、堀川国広。
 見覚えはないが、強いて言えば黒髪の鶴丸国永に新撰組の格好をさせた脇差より短刀よりぐらいの少年。
 それぞれ、見目は違うが、気配は刀剣男士のそれ。

 三口は元より、少女から発せられる抑えているのだろうがはっきりとした神気に、葵は目を見開く。
 その程度で済んでいるのは、以前、縹達兄弟から送られた石のおかげだろうか。
 現在も、懐にある時計を握りながら、少しでも離れる為に後ずざる。
 そもそもが書類仕事をする為の部屋だ、そこまで離れれないのだけれど。

 刀を抜いては居ないが、主を守る為に抜こうとする男士を少女は物理的に抑えながら、どう答えたらいいものか悩んでいるようだ。
 同時に、異能を三つマルチ展開して、情報収集をした少女。
 千里眼と順風耳に、過去視のスキルではなく、生来彼女に備わった能力だ。
 目的地にはつけたようだけれど、兄も正式に手続き踏んでくれればいいのに。と言葉に出さず、らしくもなく乾いた笑顔が出てきそうだ。
 
 そうこうしているうちに、ゲートも使わずに増えた気配に、しかも、主の側に増えた気配の為か、先にか短刀が集まってくる気配がした。
 勿論、室内戦を想定してか、脇差らしき気配も二口いるようだ。
 その中の一つ、小夜左文字が声をかける。

 「主!」

 「おやまぁ、…………。」

 「とりあえず、あおちゃん、無事そうなさっちゃんの声聞けて嬉しいの分かるけど。
  落ち着こう、まず話し合い試みよう、頼むから。」

 怪我をしている風でもなく、そして、『主』を慕っている違う本丸の無事な小夜左文字の声を聞いたからか、そわそわしているようだ、少女の青い左文字は。
 何と言うか、一般的なイメージの哀しい高飛車・宗三左文字とは行って帰ってくるほどに違うらしい。
 分かっているのか、平坦な声ながら、一応と言う形であれ、男士となだめる少女は、慣れてはいるようで。
 後、立ち上がって突進しそうな青い宗三を物理的に止めているようだ。

「小夜、何があった!?」

 そうして少し遅れて、山姥切国広も到着したようだ。
 周辺にどうしたらよいか戸惑う短刀の気配を複数あるのを彼も確認する。
 突然、出現した自分達よりも抑えられていても格上の神気ではあるが、それ自身には敵意はない。
 ある程度の神気を解放はしているが、名前を名乗る程度の威力であって、敵対する意思はその神気からも感じられない。

 なにしろ、主の葵に極力、影響が出ないように廊下側に指向性を持たせて、男士のみにそれを示しているのだ。
 
 森の中の泉のほとりに佇むような穏やかな神気だった。

 その直後に、少々遅れて鶴丸国永も来たようだ。
 年嵩ゆえか、性分ゆえか、彼は遠慮無しに、襖に手を掛けた。
 幾ら、穏やかであっても、異物は異物だ。

「主、入るぞ!」

「おい!」

 敵意はないとは言え、緊急事態ではある、なので、制止の声はかけはするけど止めない山姥切国広。
 
 中の様子を確認すると、小夜が部屋に飛び込んで葵の前に滑り込んだ。
 周囲に潜む短刀と小夜は、抜刀状態で動けるように少女に眼を向けるのであった。
 鶴丸国永と山姥切国広は抜刀こそしないもののすぐに抜けるように柄に手を掛けている。

 代表して、葵の初期刀が声を掛ける。

「あんたたちは、何者だ。どこから侵入した」

 殺気に近い警戒を向けられては、あの外見ぐらいの少女では怖いだろうに、その少女は少しも揺らがない。
 怯えも何も無く、眉すら動かないその顔は、黙っている男士よりもよほど、人形めいていた。
 それぐらいまでに、白く整いすぎた顔である。

「侵入じゃないわ、転移。
 術で強制的に、移動させられた。」

 鈴の音を転がすような可愛らしい声ではあるが、タイプライターのほうがよほど感情的だというような声でさらりと答える。
 スパンと切り捨てるようだが、事実だけを言っているようだ。
 反応を気にせずに、彼女は続ける。

「一応、審神者で名前は、樹姫。
 バレてるだろうから、通名・ジュリ=ローゼンマリア。日本だと、上条樹里でとおしてるわ。
 カミサマの転生体ってのは、男士には、分かるだろうから明言しとく。
 真名は流出してるから、問題ないし。」

 あっさり、名乗るが、それに対して、少女・樹姫の刀剣男士がそれぞれ反応を示すが、大意を示すならば、「主、アホでしょう!!」に終始する。
 予想が出来ていたのか、彼女はマイペースに話を続ける。

 実際、刀剣男士には、その霊力の質などから、人間ではないのが分かっていたが、何故それを彼女が感知しているのか分からない。
 審神者だとしても、別の審神者の刀剣男士の状況は読めないはずなのに。  

「この間の監査、その報告書。
 審神者管理局最高顧問をしている“長兄”のところにも行った。
 その関係で、“次兄”もそれを読んだ。一応、“次兄”が彼女の感情も報告書から読んだのだと思う。
 妹のあの子が、誤解というか、仕事中のみで判断されてるのあんなに美味しそうな審神者に誤解されてるの我慢できないの!!って飛ばされた。
 一応、聞く気が無いならないで、二時間は居させて欲しい、流石にあの子が懐いてる子をポタージュにしたくないし。
 以上、こっちの事情。敵対する気はない、するなら容赦はしない。」

「どこから、ツッコミすればいいんだろうな。」

「美味しそう?」

「“兄”二人も、神様。正確には、受肉した神様ね。
 世界の誤植だけど、消えたくないし、消えて欲しくないから、政府を蹴り飛ばして、協力と言う形でしてる。
 あくまでも、《御伽噺の幽霊》は、政府の協力者であって味方じゃない。
 私も、同類、転生体だけども、この間の監査の子と同類で友人かな、人間としては。」

 会ったことがないとは言え、それなりにランクの高い神様に通用するレベルで葵の霊力は美味しいらしい。
 霊力の良し悪しは、人の感覚に直すなら、味覚に一番近いのだから。
 それは、ともかく、後半の言葉に彼の男士の警戒レベルが上がる。
 政府と敵対までしていないが、そんなに仲が良いわけじゃないらしい。
 そして、葵を含めた面々には、監査の子やあの子としか、樹姫が言わない人が誰か検討はついた。

「何故、名前で呼ばない?
 その露草色に銀を溶かした髪の奴だろう?」

「呼ぶと縁が出来る。
 其の程度でも、再会してしまう、今は会いたくない、会えるはずも無い。
 嫌でも、もうしばらくしたら会うんだろうが、少しでも遅い方がいい。」

「……あん子はかまへんと思うやけどね。
過保護にはなるやろうやけど、そら性格やろうし。
 はんなり、達者なようでなにより、樹姫、相変わらずやね。」

「こてこてのそれ分かりにくいと思う。」

「……貴方は?」

 少なくとも、警戒は完全には解かないが、それでもそう強く警戒しなくても良いと思いかけた時だった。

 葵しか知る由はなかったが、樹姫達と同じく、いきなり、その壮年の男性は現れた。
 より正確に言うならば、空間を割り、現れる先から閉じて、彼は渡ってきたようだった。
 自分の意思で渡ってきた為か、髪一筋も揺れない。

 銀色にかすかに露草を混ぜた髪を三つ編みにした、空色の瞳をロイド眼鏡越しに笑ませる仕立てのいい羽織を来た二十代後半~三十代頭ほどの男性である。
 葵と比べても、五歳六歳は年上だろう。
 後、特殊と言えば、術式補助の両腕に嵌められた篭手と腰の魂入りの『大和守安定』の本体だろう。
 本来の偽装なしの髪色ではあるが、どこか歪んでいるよう。

 それだけならば、男士を直接振るう戦闘系の審神者……人間と判断しても良かっただろうが。
 刀剣男士には本霊からの知識からの嫌悪と、葵には本能に根差した部分の恐怖故に、それを否定する。
 そして、その髪色に先日の監査の女性を連想させるには、十分だ。 

 葵は、搾り出すように、誰何する。
 恐ろしくないはずが無いが、それでも。

 樹姫の指摘と葵の誰何に応えるように、微笑み答えた。

「私は、蓮雀氷雨(れんじゃく・ひさめ)。
 幕末期の京で薬屋をしとった死人どす。ご察しの通り、縹銀と名乗ってる子の過去世どすな。
 特殊な術でこちらに顕現してます。お姫さんに、縹さんに情報はいってへんので悪しからず。」


 先程よりも分かりやすい京言葉で、はんなりと答えてはいるが、山姥切国広を始めとした葵の男士達の殺気すら滲む視線を受け止めている。
 そして、一応、秘匿事項ながら一つ、追加で話す事柄を話すことにする。
 
「後、聞きたいことがあるんは分かるから、ちょい待って
 小夜左文字くん、貴方の主の耳塞いでくれません?
 一般的な審神者にはショックなことを話さないと私を切り捨てますやろ、貴方方は。」

「いや、俺も聞く。」

 小夜左文字が、耳を塞ぐ前に、葵はそう言い切った。
 その反応に眼を見開いて、それから、「いいなぁ」とでも呟きたいように、笑う氷雨。

「ええ子、どすな。ほんま、お姫はんが頑張るんも無理ないわ。
 ああまで、容赦ないお姫はん久しぶりやったから。
 正式な告知はもっと、遅れるんやろうけど、葵さんの担当替わりますわ。
 今、ホワイト派とブラック派で凄絶な綱引き中、と言うか兄さんらが頑張ってホワイト派になるんやろな。」

「……前の奴は?」

「お姫さん、自分の逆鱗ぶち抜いたのただ生かしておくと思いますん?
 自分もこないだ、加州くん達や稲荷刀の子らの件で、大かか様にお願いしてしまったぐらいですもん。
 怒って、祟り場にぶち込む辺り、ほんに怒ってんやろ、お姫さん。」

 それだけで、なんとなく、“刀剣男士”には分かってしまった。
 もう、一ヶ月以上前になるだろうか、本丸のゲートが丸一日半ほど使えなかったことがあった。

 不定期にあるゲートの点検かと思っていたが、その前後に、それぞれの本霊から齎されていた『言葉』はこれか、と思い至った。
 齎された言葉はそれぞれ違う。
 それは、幾つかの答え合わせで出ているものだ。
 しかし、刀工も生まれた時代も違う稲荷刀……小狐丸と鳴狐、その二人が貰った言葉は、ほぼ同じ。
 『伏見の姫神 いみじく怒り散らす』『故に、薬屋に四十余の神殺しを赦す』『大かか様 いみじく怒る』
 この程度だ。 『何故』が抜けているが、一部の審神者が、ブラックと言う以上に本霊やそれ以上の神々を怒らせたらしい。
 同時に、審神者には教えない方がいい、と言い添えられた事柄だ。

 故に、神殺し。
 許可があろうと、七世まで祟られる筈だが、其処までの穢れはない。
 黄泉津比良坂を潜って還って来たからなのだろうか。

 自分の冷たい殺気で、場が冷えてしまったのをわたわたと慌てたようにして、氷雨は仕切り直す。
 その際に、座り、刀のままの『大和守安定』を外し、名人であっても一息以上かかる位置まで離した。
 ぶるりと打ち刀の彼が震えるが、心配するな、とでも言うように、氷雨が一撫でするとしぶしぶと言った感じで震えが止まる。

「さて、男士の子達にはバレとりますやろけど、今の私は堕ち掛けて戻ってきた状態で、微妙になんていうんどすかね、男士で言うトコの中傷で固定されとるような状況なわけどす。
 また、数ヶ月前のことどすが、伏見稲荷の主蔡神から許可貰って、神殺ししましたさかい、男士の子らの警戒と葵はんの怯え?恐怖?は、正当なもんどす。
 おかげで、私、お姫はんの中にしばらく、ちゅうか、月単位で戻れへんから、色々と面倒なことになってます。」

「……あぁ、あの召喚術士系統の馬鹿達か。
 大概の同類は、強力な審神者になってるのに、やらかした馬鹿か。」

「馬鹿、言わんといてくださいよ、一応、不本意ながら私の曾孫弟子みたいなもんなんですから。
 犬神ならぬ、刀神をやってしまったとは言えね。
 まぁ、お姫さんが怒りはったんは仕方ないと思うけども、それ無かったら、此処の監査も別の人やったん。
 正しく、禍福糾える縄如し、のことなんよ。」

「知識は知識。
 それを実践してしまった、カミサマで実践したのを馬鹿と言わずして、なんて呼ぶの?
 私も知識はあるけれどね、あれを行える馬鹿を審神者と呼びたくないし馬鹿でしょ。
 担当さんから、報告書コピッて貰って読んだけど、吐いて寝込んだ。
 アレをやったのを人間と呼ぶなら、私はバケモノで良い。」

「可能性を追求するのが、人どっせ?樹姫はんも、同じくや。
 まぁ、姫神様と大かか様が、ノリノリを十回足しても、足りないレベルでノリノリだったから、大丈夫だと思いますんよ。
 と言うか、カミサマを蠱毒に使うって思いませんって。」

「ブラック本丸とかあるから、想像はつくと思うけどね。
 あれも、天然物だけど、それでしょ、恨み辛みを濃縮ボンバーするって意味合いでは。
 わざわざ、それを自分の契約式を器にしてやったから馬鹿だって言ってるの。
 そのあんちゃんも、ブラック産でしょ、で、貴方が契約したってことは『浄化場』行きほどじゃないけど、刀解や刀剣破壊するのはマズイってことでしょ?
 ほんとう……救えない愚劣さよね、人間の極一部だけれど、旦那や恋人のところへ逝きたくなるわ。」

「主様、ストップ、落ち着きましょう。
 久しぶりに、知己に会えて、会話が弾むのは分かりますが。
 殺気と言うか怒気はマズイと思いますよ。」

 葵本丸面子が、口を挟めない流れるような会話。
 半分は、聞かせる為もあるのだろう、問いになりそうなところを流している辺り、打ち合わせでもしていたのだろうか、とメタな突っ込みはしたい。
 そして、審神者には分からずとも、男士にはなんとなく、何をしたのかがわかるように話している辺り確信犯なのだろうが。
 もう、魂も残っているか怪しいが、僅かの安寧も赦さないとでも言うような措置であるのは仕方が無い。

 主のマイペースさには、慣れているのか、樹姫本丸に初期に来た矜持なのか、青い宗三左文字が止めに入る。
 樹姫は、しおしおと殺気を納める。
 正確には、撒き散らしてはいたが、その殺気は自分自身に向けられた殺気だった。
 自身に執着が無いどころか、殺意まで持つ樹姫。

「……審神者、葵殿。
 さて、私は、何歳に見える?」

 どう話を再開しようか、言いあぐねていたところに、樹姫の質問。
 あえて言えば、一種の期待のような感情が込められた想定していなかった質問。

 そして、目の前の少女を改めてみる。 外国人と言うことを抜いても、日本語堪能と言うことを抜いても、十代後半。
 あの監査に来ていた紅葉よりも、若いぐらいではないか、と思う。
 少なくとも、外見は。
 いつかの演錬で見かけて、猫柳と言う別の審神者と同じような色合いであったし、普通の人間だと思っているのだ。

「上に見ても、16、17歳ぐらい、ですか?」

 かすかに嬉しそうに微笑み、樹姫はあっさりと爆弾を落とす。

「……一応、女の子だし、はっきりとした年齢は言いたくないけれど。
 残ってる類だと、女アキテーヌ公とのガチ戦闘に参加したり、セルジュークの勃興の頃に協力もしたわね、半分自棄で。」

「…………最低で、1200歳前後ですか?」

 葵は、本を読む人だったようで、彼女の言葉だけである程度の年代を特定した。
 樹姫の言葉から、二十三世紀の現代から約1200年前の頃には、イケイケだったことを察する。
 下手しなくとも、それ+αであることは察せられるが、それは口にしなかった。
 そして、短い言葉から、歴史は勝者の歴史と納得したようだ。

 事実、樹姫が知る範囲でも、千二百年前は吸血鬼の夜の国があった。
 それは、千二百年前の【腐食の月光】の暴走により、亡国となり、そして、歴史の狭間に吸血鬼は消えたのだ。
 だから、残る歴史は、彼らが自らを消した歴史なのである。

 また、葵は山姥切国広達にも目配せをして、『女の子』発言にはツッコまない。
 だって、人間でも、女の子は八十歳でも女の子なのだから。
 だって、『女の子』を忘れない女性は、いつまでも、『女の子』だもの。

「ん、神様転生体兼吸血鬼。
 血は、嗜好品だし、好みとしては刀剣男士か女の子が好きだけど、其処まで必要ないわ。
 最初のポタージュもそれ、昔、違う審神者のいる本丸送られて、すぐに無理に帰って、相手の本丸ポタージュになったから。」

「……追加補足、推測ね。
 ブラックだったから良かったわけじゃないやないですけど、そこの本丸。
 本丸をガラス球に見立てたら、その中に、本丸の建物、刀剣男士、審神者なんかの箱庭細工。
 ボトルシップを想像してくれたらええですわ。
 さて、問題、結界の穴であるゲートをそれよりも大きな存在が抜けようとしたらどないなりますん。
 ヒントは、ミキサーしたケーキとせんべいとオレンジジュースの組成。」

「なるほどな、それなら、しばらく居てもらわなくては困る。」

 思い切り、ぼやかした解説ながら分かったのか、山姥切国広は納得したようだ。
 氷雨としても、完璧に分かってもらおうと言うよりは、主が危ないと分かってもらえばいい、程度ではあったのだけれど。
 
 ことを単純に言えば、樹姫は、一応は人だ。
 通常の物理的手段で死ねる可能性のある以上は、千年の時を生きていても、それでも、人なのだ。
 多少特殊であっても、物理的手段で死ねるであれば、人である。
 しかし、それが単純に元・人間の吸血鬼であれば、付喪神とどっこいかそれより少し上の神様に分類される程度。
 それが、真祖、もしくは、千年を生きた深祖というものだ。
 西洋では、一括りに怪物、と呼ばれるけれど、それでも、人の範疇である。
 だけれど、『人』であっても、その身の中の影響を亡くすことはできないのだ。

 加えて、山姥切国広を含めた葵の男士は、気付いていた。
 この間の監査・縹銀よりも、数段とはっきりした形で、方向性は違えど、危険性を察していたのである。
 紅葉よりも更に巧妙に隠していても、怖いものは怖い。
 縹が単純な破壊力、ミサイルだとしたら、樹姫は搦め手の破壊力、病気のようなそんな怖さだ。

 そして、「縹さんの知り合いだし」で流していたが、葵はそこで慌てると言うか、内心ハリケーンな状態だ。
 傘を差しては歩けないレベルの台風状態。
 それでも、さして顔に出ないのは、いいのか悪いのか。  

「吸血鬼って、昼間に活動しても平気なものなんですか?」

「落ち着こうか、審神者・葵殿。
 多少、怪我が治りにくいだけ、大丈夫よ。
 むしろ、みっちゃんやかっちゃんどころか、やっちゃんが心配するレベルで顔色悪いだけ。
 顔色は通常で、これなだけだから。」

 襖を閉めたほうがいい?と言う意味でだろうけども、樹姫にとってはさして問題の無いことだ。

 そこまでは、詳しくなかったのだろうし、彼女も葵にそれを言わなかったが、珍しい……と言っても、人間の血液型で言うAB型Rhプラスぐらいのレア度ではあるが、《デイ・ウォーカー》と呼ばれる種類の吸血鬼である。
 多少珍しいが、血族/眷属であればだいたいそうなるし、居ないわけではない種類の吸血鬼だ。
 昔、契約していたダンピールの子とその姉も同じだったわけだし。

「ついで、うちの子。
 外見違うけど、国広派の脇差のほっちゃんと左文字兄弟次男のあおちゃん。
 後、担当さんからプレ実装のこうちゃん。」

「堀川国広です。」

「康友国永です。
 兄が、そちらでも何かやらかしてたらすみません。」

 短刀の中でも比較的幼い部類の秋田藤四郎や五虎退ぐらいのサイズのそれでも、変わらない笑顔をした堀川国広。
 
 そして、黒髪ではあるし、黒い着流しに浅葱色の羽織姿な服装をしているが、中学生成り立てぐらいの鶴丸がそんなコスプレをしているような康友国永。
 頭を下げる様は、何と言うか、兄弟だと思う。

「……あおちゃん、無事にと言うか、普通に仕えれてるさっちゃん見て嬉しいのは、分かる。
 だけど、挨拶だけでもして。」

「ああ、すみません。
 僕は“一応”、宗三左文字です。」

 通常のピンク左文字とは別の方向で、この左文字も傾国である。
 あれだ、あはんうふんに積極的な色気フルスロットル傾国と清楚清純系な清純派隠れ傾国ぐらいの差だ。
 そして、概して、隠れ傾国の方が腹黒というか、歪んでいるのだが。

「ねぇ、貴方はなんで、僕らのことを名前で呼ばないの?
 親しいからってわけでも無いようだけど。」

 葵の小夜左文字が、自分達も含めて、号や銘で呼んでないのを指摘する。
 どちらかと言うと自分や兄達のような喋り方で、敢えて多弁になっているとしても、あだ名で呼ぶのは不自然な気がした。
 ……紹介するにしても、徹底的に名前で呼ばなかったのだ。

「……名前は力。
 後、RPG風に言うと私、ファイタ―にエハンサーとかエンチャンターよりの術式構成。
 きつい制御をしないと名前と言うか、号?ラベル?を呼ぶとほぼ無条件に操れる、それの意思を無視して。
 一応、恋人と子ども以外で、家族と呼べる子達だし、同じのを無駄に操りたくない。」

 ちなみに、エハンサーは日本語で言うなら、気功士とでも言うのだろうか、呼吸法で自身のバフ、ステータスアップをメイン行う職。
 エンチャンターは、味方のバフと相手のデバフ、ステータスダウンを行う職。
 つまりは、自身を強化しつつ、ぶん殴るタイプの戦士タイプだと言っているのだ。
 本人の嗜好であって、本来は、後衛からバフデバフや魔術による遠距離戦闘に秀でた生まれではあるのだけれども。

「年月は呪い。長く生き過ぎた弊害かな。
 200年前はそうじゃなかったどすやろ、それ。」

「ここ160年ほどだな、世界が分かれた弊害だろう。
 そもそも、その時点で、息子も恋人も、あの子達も軒並み死んでたからな。
 審神者をやり始めて気づいたぐらいだ。」

「主さん、話反れてます、後、マズいです。」

 来て日が浅い康友ですら知るマズい事柄に思わず、止める。
 今は、遠い日のことではあるが、とある物語に至る登場人物が、その決意を持つまでもなく死んだ。
 そのせいで、その物語が始まらずに、この刀剣世界となったのだ。
 だからこそ、顧問の一人がああまでも色々と為せたのだ。
 一般人どころか、この世界で知るのはどれだけだろうか、と言う事柄ではあるが。

「あの子は、其処まで話してないか、そう言えば。
 ……どうするかね、実演は許可されないだろうし。
 そうだね、しょうがないか、我・樹姫が彼の本丸に在る山姥切国広、小夜左文字、鶴丸国永、包囲する短刀達に、我の神性に誓う。
 試しに我が、傀儡を行って、葵殿の刀剣男士及び、主・葵殿に害為したのなら、この身を八つ裂けばいい。」

 自己完結して、自身を担保にして、樹姫は誓いをする。
 一種の契約ではあるが、神様同士であっても有効だ。
 むしろ、破れば、神性を失うと言うある意味で、自滅技だ。
 その衝撃に紛れて、この時は当人以外気付いてなかったようだが、害そうと思えば害せるように抜け穴を作ってある辺り、三日月宗近の本霊以上に長生きなだけある。

 本名ではない審神者名ではあるが、誓約としては十分だろう。

 ちなみに、樹姫の男士は阿鼻叫喚。
 氷雨は、あんまりなそれに、頭を抱えていた。
 縹の姉貴分は姉貴分であるようだ。

「?どうした?」

「いきなり、他の本丸の男士達と誓約すると思っていないからだと思うよ。」

「……八つ裂きでも、死ねないからね、吸血鬼というのは。
 それで、実演してみても、良いか、審神者・葵殿。」

 神性を失っても、生き残る算段があったと言うが、彼女の男士の反応からしてこう言う暴挙は初めてなのだろう。
 と言うか、八つ裂きにされたことあるのだろうか、死ねないと言う以上は。
 樹姫の青い左文字が袈裟と同じく、宗三左文字と同じ顔を青くしているのは、葵本丸の面々には、新鮮というかありえないものだろうけども。

 葵も驚いてないわけではなく、完全に敬語がすっ飛んでいた。
 ちなみにではあるが、いちいち、樹姫が『審神者・葵殿』と呼んでいるのも、半分は制限の為である。
 何の誰それと定義することによる傀儡逃れとも言う。
 本名を呼べば、それだけで操れるのだけれど。
 知ってはいるけど、呼ばないのだけれど。

「ええ、どうぞ。」

「では、山姥切国広と鶴丸国永は、私の弟刀、ほっちゃんとこうちゃんを抱き上げて全力ハグ。
 小夜左文字は、あおちゃんの膝の上に座る。」

 言葉を言い切ると同時に、指名された三人が、動き出す。
 顔を見ると不本意と言うか、体が自分の意思で動いていないようで。

 約一分後には、山姥切国広に抱き上げられて、にこにこの堀川と鶴丸国永に抱き上げられて、自分からも抱きついて嬉しそうな康友国永。
 そして、困惑しながら青い宗三に抱き締められながら、されるがままの小夜左文字がいた。

「兄弟のこの状態は大丈夫なのか?何か他に問題は起きていないか?」

「大丈夫、特つけば、本来のサイズになる。
ちゃんと、“意識”も、ほっちゃんはほっちゃん。
担当さんのほっちゃんも太鼓判。」

 大丈夫です!!とでも言うように、堀川もニコニコしている。
 本来の外見だと、抱き上げるのは難しいだろうけれども。
 ちなみに、樹姫の本丸の山姥切の場合、抱き上げることは少なく、山伏が兄弟をまとめて担いでいるのが良く目撃される。
 堀川がこれなのと山伏が来るのがやや遅かったせいか、むしろ、江雪と一緒に居るぐらいであった。
 かつ、昔の関係で、周りに男士のいない時限定ではあるが、樹姫を「姉様」と呼ぶ程度には、小田原時代よりの子だ。

 ついでに、同じように最初赤ん坊の刀が別にいて、それも特が付いたらその子も通常の刀剣男士になったと付け加えた。
 堀自身は、半分ふざけて和泉守兼定と歌仙兼定をパパママ呼びしてる、とも。
 本人達の意識は親戚だけど、端から見れば、とても夫婦です、とも。

 そして、抱きついている康友にどう接したらいいものか、困っている鶴丸国永に樹姫は助け舟にと一言付け加える。

「後、この間の監査の時の子と違うからね。
 この子の方がアグレッシブ?と言うか、お兄ちゃん大好きだけど、私にイタズラしてたら、お星様よろしく打ち上げる子だから。」

「……俺の歯止めだと聞いたが。」

「そう言う意図ね、無茶するわよね、あの子。
 平行世界で、主……と言うか、とある子どもの魂までの守刀として存在してたその子を連れてきたんだもの。
 もしも、分霊まで堕ちるようなことが繰り返されれば、連鎖的にその子は愚か、土方の二口と沖田の二口も堕ちるわね、本霊ごと。」

「それ、初耳どっせ?」

「うん、あの子自身、一度も口にしていない。
 だけれど、私やあの子が本来存在するルートからわざわざ、引っ張ってきたと言うことは、分かれた時にこのルートの康友国永は折れているし、その作られた理由から逸話も残っていない。
 だから、反則のような形で、連れてくる、アホか本当に。
 分かってないはず無いだろうに、優先順位が分からない。」

「……ええと、康友国永が堕ちることが、何故、新選組まで影響が波及するんですか?」

「まだ、実装が決まったわけではないけれど。
 ……できれば、あの子には話さないで欲しい。」

 そう前置きすると、康友国永の知りえたことや調べたことを組み立てて、話す。
 勿論間違っているところもあるかもしれないが、とも、前置きして。



 
 そもそも、康友国永は五条国永の友人が九州の防人監督にえい……左遷された友人へ、守太刀として作られた太刀でね。
 故に、壮麗さやなんかより、丈夫さを優先された子なんだ。
 鶴丸国永の様に細身ではないが、それでも、綺麗な子だと思うぞ?
 オリジナルだった頃のその子を見たことがあるけれどね。
 私が知っているのは、五条国永の友人の死後、2000年代までとある一族に伝わっていてね。
 大正のとある時に、折れてね、脇差に設え直された。
 だから、今の康友が脇差なんだ。
 現在の主が、2000年代の子で、親が当時の同業だから知りあいでもある。
 その子が、幕末にタイムスリップさせられて、そこで新選組の面々と交友を深めたわけだ。
 持ち主が沖田総司の小姓をしていたんだけれど。
 この外見は、私やあの子のルートの斎藤一の格好なのよね。
 と言うよりも、存在と『大正時代に設え直された』のは割りと知られていて、『幕末』の時は、太刀なんだ。
 個人所蔵ってんで、そこの爺様、新選組に思うところあって、「国宝指定してやるから、天皇に捧げてチョウダイ」って言うお役人を片腕で放り投げたとか、そう言う一族だもの。
 歴史に残してはいないけど、好敵手でもあった新選組の一振りを渡したくなかったみたい。
 だから、その辺りで、色々と錯綜があって、こういう黒い着流しに浅葱色の羽織になったんだろうけども。
 正しく、逸話の付喪神というわけだね。
 今の主とその直前の主まで、その一族に秘蔵されてたわけだからね。
 現物があっても、お話しか世間は知らないわけだから。
 多分、刀工も知られていないレベルなんじゃないかな、分からないけど。
 ……見ての通り、黒髪なだけの鶴丸なだけだから、ね。
 うちのかくちゃんの場合、覚えていたから、思い切り、ブラコンだけどね、なまじっか私が頑丈だったからノンストップ驚き爺なせいで、良くお星様になってる。
 後、兄組と「俺の弟の可愛さは世界一チイイイイ!!」と日々、語り合ってるね。
 ……うん、仕事はしてるから、いいんだ。
 

 それで、何故、康友国永が堕ちると連鎖的に、土方組と沖田組が堕ちるかと言うと。
 康友の今の主、守刀として守っている子が、土方歳三と康友を伝えていた一族の子の子孫と沖田総司の子どもなの。
 仕込んである術式だけを見ても、複雑な術式で、守刀化してるなぁって思うぐらいだから、魂的にも半分ぐらい繋がってるんじゃないかしら。
 赤ん坊を知ってるからこそ、分かる程度だけれどね。
 あの子が、こっちに来た時代から持ってきたようだから、まだ生まれたばかりね。
 一歳になってたか怪しいぐらいだもの、それだと。
 で、康友国永が堕ち続ければ、その赤ん坊にも影響がある、多分、死ぬんじゃないかしら。
 子どもが成人してても、其処の辺りは変わらないけど、七歳まではカミサマのものだから。
 そして、土方組と沖田組両方から、加護着いてるからそこからの連鎖ね。
 ……というか、『大和守安定』は無銘刀だけど、神社にある『同じ名前』の大太刀がいたりするから、刀剣男士してはともかく、深層意識下の繋がりとすると堕ちさせるとマズい子なのよ。
 私が生まれた世界の沖田総司の場合、布団じゃなくて、戦場で大和守安定と散ってるからその分強いしね、『縁』が。
 それにねぇ、この子、多分、自分の為よりも他人の為に堕ちて、契約主を始末する役を目指してしまいそう。
 良くも悪くも、平安刀でかくちゃんの弟だわ。
 正確に言うなら、本来なら、もう追加実装されているはずなんだが、あの子が渋ってね。
 そりゃ、その赤ん坊の母親が、子どもがいなかったら人間として死亡しているぐらいに、執着が無い子だから、仕方ない。


「なら、どうして、近い世界とは言えこっちに連れてきたんだ?」

「あの子には、かくちゃんも家族だもの。
 ほとんど、刀派としては面識の無いせっちゃんは別枠っぽいけど、いまちゃんとゆうちゃん、こぎちゃんも血の繋がった今の家族並みに大切よ。
 執着してるって言ってもいいぐらい。あの子をこちらに繋ぎとめてるって意味ではね。
 殊更に名乗りはしないけど、あの子は、と言うより、あの子の前のあの子は、まだ、『三条宗貞』の名前を捨てて無いもの。」

 鶴丸国永の言葉に、樹姫は無表情な顔にかすかに年下を慈しむ微笑を乗せて答える。
 樹姫としても、そう多く語り合ったわけではない。
 そもそも、『三条宗貞』/『白愁樹菖』は、その多過ぎる情報量から起きている時間が飛び抜けて短い。
 あの子の切り札である過去世の召喚。
 そうでなくても、あのループの中では敵味方に分かれていた事も少なくない。

 長すぎるループの中で出会って、分かれた刀剣達を大切にはしているが、一番初めの三条組とそれに連なる鶴丸国永のことを殊更、よく聞かされた。
 
「宗貞?
 縹さんの呼び名の?」

「ことちゃん辺りから聞いたの?」

 むしろ、それ以外ないだろうと、葵の呟きを拾う。
 ほとんどの審神者は、知らないだろう、と樹姫は思う。
 今剣だけは、他の三条組と比べても、樹菖との縁が深い。
 樹菖は、源義経と何度か、一緒に最期を迎えている、そう、義経が死んだ後に今剣でだ。

 だから、なんだろう、と樹姫は思考を巡らせた。
 今剣は他の三条組と比べても、『三条宗貞』/『白愁樹菖』の縁が強い。
 主従の契約が無ければ、多分、ほとんどの今剣があの子に付くかもしれない、なんてありえないことを考えてしまうぐらいに。
 何故なら、他の本霊も含めて、審神者の前で「宗貞」の名前で呼ばないで欲しいと言っているらしいのに、あの子だけが呼ぶのだから。
 何故なら、政府がその名前から、三条宗近の近縁だとしれば、危ないのに、それでも呼ぶのだから。

 政府は、都合のいい刀剣男士(コマ)が欲しいのだから。
 白過ぎても不安だけれど、黒過ぎると叩き潰したくなる。

「何故、今剣だと?」

「あの子しか呼ばないもの、審神者にその名前。
 私は例外、と言うか、【同じ幽霊】だからだけども。それに関しては、ノーコメント。
 宗貞については、答えも同然だけど『祝い』と『呪い』は表裏一体と三日月宗近に聞きなさい、としか。
 だから、あの子も宗貞も、三条組とそれ以上に、三日月宗近に執着するんだもの。
 側に欲しいわけじゃないけど、幸せにはなって欲しい、ってね。」

「まぁ、仕方ないどすやろ、三日月は他の刀剣に比べても、人間が好きなんよ。
 何せ、仮免とれて付喪神になったん生まれて一年も経ってへん時で、初っ端から、人間祟ってるんそやし。
 愛情と恨みは、一枚のコインなんよ。樹菖が殺されて、その殺した相手を祟ってるんやもん。」

「……《歌乙女》って、人の気遣いをホームランするのが、倣い性なのか。
 あの監査報告書読んで、殊更に思うけど。」

「……いつか、三日月に聞いて見ます。」

「うん、まぁ、悲劇を語れるのは語っていいのは当人だけよ。
 ……それで、本題に入る前に、一つ聞いていいかしら?」

 それまで、何の温度も無い無感情な声音に、氷が混じる。
 同時に、空気も張り詰めた。

 彼女が霊力を制御していなければ、物理的に温度下がるほどのプレッシャー。
 もつれる舌の尻を叩いて、葵はどうぞとだけやっと答える。

「貴方がどうしても得たくて、それでも通常のお金やコネなんかでもどうしようの無い願いがあるとして。
 ……もしも、それを叶えれる手段を知ってしまったら、貴方はどうする?」

 気のせいかもしれないが、張り詰めた氷のような雰囲気であるのに。
 葵には、どうしようもなく泣きたいのを堪えているように見えた。


亀甲貞宗のネタバレ見たんだが、

2016-08-24 22:54:53 | 携帯からの投稿
挑むのは、週末以降かなぁと思うのですが(資源的に)、亀甲貞宗のネタバレ見たんだが。
多分、聖ちゃんは一日目でお星様にして躾直す結果に、樹姫は適当にスルーして、紅葉ちゃんガン泣きかなぁと思った。
ちなみに、縹嬢はむしろ絡んで、亀甲さんが困惑するかなぁと。

と言うか、紅葉ちゃん、初期刀加州清光におんぶおばけ確定になりそうかなぁと。
そして、意味深を封印したお母さんのセコムにっかり青江が全力ガードかな。
そして、紅葉ちゃんに激ラブな三日月がおこかなぁと。
だけど、亀甲お兄さんって悲しいぐらいに、刀だなぁって。
だからこそ、縹嬢は「終わるのを怖い」と思って欲しいと構うし。
だからこそ、聖ちゃんと樹姫は、歪んだ鏡を見ているようだと、思うし。 だからこそ、その無垢さが紅葉ちゃんには怖いのかな。
割と直球エロが怖いのもあるんだろうけど。
でも、歓迎会で、呑んで潰れる際に大概誰かにくっつく際の裏ルールからして、多分、亀甲お兄さんに抱き付いて、そのまま、おやすみなさいパターンになりそうなんですが。
その頃には、物吉くんなり後藤くんなり鯰尾くんなりが居るだろうから 、その中から、護衛がついておやすみなさいになりますね。
もう少し、調べたり、二次が出たら、短編で書こうかな。


亀甲お兄さん、割と好きなキャラです。

子どもネタメモ2

2016-08-18 17:29:13 | 携帯からの投稿
色々徒然。


薬の子は、基本的におおざっぱです。
八年ぐらい前の一年ほど、縹嬢と暮らしてましたが、その間にやらかしました。
一緒に暮らしてたのは、色っぽい関係じゃなく、雪の子も一緒で、母親の話を聞きたかったから、と言う理由なのですが。
討伐課の若いのの赤ん坊をある程度、数ヶ月預かった時などは、赤ん坊の柔らかさに落とすなんてことをやらかしたのが、薬の子です。(裏設定として、その若いのが稲荷と言う設定がある。赤んと自分以外の奥さん親戚が歴史修正により消えたみたいな関係で入院した為、持ち回りで面倒見てる感じ?。)
気のいいあんちゃん、中身的には男前だが厚籐四郎系。
ちなみに、血縁的には双子の妹がいる。
外見は、十歳ぐらい離れてる。
妹の名前は、朔夜。
ほぼ女薬研+3歳ぐらいかつ、そこそこ胸ありな感じな大和撫子?
眼の色以外は、薬研コピー。
薬研を「父ちゃん」、樹菖を「母ちゃん」と呼ぶ。
審神者になった場合、チュート鍛刀で来なくても、短刀だし、薬研は来るだろうが、開口一番が「父ちゃん?」だとした、薬研はマヌケ面をさらすかも知れない。
多分、初期刀はイメージ的に歌仙か蜂須賀かなぁ。
叱ってくれるおかんなイメージで。
うん、薬の子とは違う意味の問題児。
雪の子は、一応、子ども連中の中では、おかん的な意味でまとめ役。
月の子と合わせて、おとんおかんです。
ぼんやり考えた感じの年表だと、ゲーム内時間で。
月の子が千歳ぐらい。
雪の子が七〜八百歳。
虎の子が六〜七百歳。
薬の子、薬の娘が、六百歳前後。
酒槍の子も同じぐらいだけど、数百年眠っていたので実質二百歳行ってないかな。
骨の子が、一番若いのは確定。
明歴の大火の直前ぐらい。
鶴の子は、生まれたのは信長死亡以降は確定なんですが、あれやこれやで一応、虎の子と同年代かなぁとぼんやり。
厳密には違うけど、虎の子ママのイメージキャラの兼ね合い。
後、いっちゃんや蓮姫関係無い子どもで、大和守安定関係と天下五剣関係でもう一人づつと蕎麦屋の子が欲しいかなぁ、後、本科の子とか。
天下五剣は拙宅の鬼丸国綱が良いかな、拙宅の彼は人間嫌いですが、唯一愛した人間とか?
本科の子は蓮姫の山姥切に特攻かましたい。
と言うか、虎の子、薬の子&娘、酒槍は戦国時代生まれ決定です。
虎の子のお母さんは、上杉謙信の“つるぎ”をイメージしてますし、薬の子&娘は本能寺の変辺りにあはんしてます。
酒槍は、長政様が死んだ以降島原の乱以前に母親が居なくなってるのは確定なんでその関係で生年も確定。


後、この面子で母親関係の話がおにちくなのは、月の子と雪の子だろうなぁと。
鶴の子と虎の子、骨の子は、一応、らぶえっちだったし、薬の子&娘は同意の上だし?
酒槍の子は微妙だが、現代ちっくだし、おにちくではない。
酒槍夫婦は良くも悪くも、小夜左文字並みにスーパードライなだけ、お互いに。
一応、知り合い以上の情はあるけど娘関係以外は、仲間程度。
いや、月の子も一応同意の上かつ愛し愛されだったんだが、経緯が酷い。
息子には甘いがな、三日月。
月の子の祖父ちゃんが、白愁樹菖です。
色々あって、天皇家に貸しがあった関係で、子どもを一人作って、それと三日月宗近と引き合わせて、娶せたとか言う経緯。
執着の矛先を変えたかっただけです。
回数で言うなら、ループ三桁直前の頃合いです。 戸惑いの一桁。
狂乱の二桁。
混乱の百回〜二百回。
カゲロウデイズのような短期間ループの二百回〜三百回。
傍観天鼠な三百回〜八百回ってとこでしょうか?
大体のいっちゃん関係の子どもは、三百回以降の子どもです。
いまんとこ月の子と雪の子のみが、周回二桁の子どもです。
だからじゃないですが、月の子と雪の子が出来た経緯が若干酷い。
雪の子は、ちょいと書いたが、江雪さんと無理矢理致して産褥で死ぬなんてオチ。
だから、母親は知らない。
一応、十年以上母親と過ごしたのは、薬の子&娘、虎の子、燭の子、酒槍の子、骨の子。
一番長く過ごしたのは、酒槍か、骨の子かなぁと。
薬の子&娘は、四十年ぐらいだし、虎の子と燭の子は母親が完全に人間なんで三十年ぐらいかね、あの時代。
燭の子の場合は、母親の祖母が自分の神性封印していた関係という。
片倉家に養子にいった伊達政宗の孫が母親です。 虎夫婦は、おねショタ。 酒槍夫婦は、日本号ロリコンです。
一応、骨夫婦の場合、途中、旦那の記憶吹き飛んでますが、それなりに幸せでした。




んで、これ3日ぐらいかけて書いてんですが、途中で鍛刀チャレンジで蕎麦屋とおでんを狙ってたんですが、両方来たのは良いんですが、おでんが二十×回札無し獅子王近持で来たのは良いんですが、蕎麦屋が三百××回で来たのも良いんですが。
おでんさん来たの「天下五剣の子どももう一人書くなら、鬼丸国綱かなぁ」って書いてた辺りなんですよね。
……でんちゃん、子ども欲しいの?
うっかり考えて、ロリだと犯罪くさいので、大学生で考えたんだが、割と書いてみたい子になったかなぁと。
第二次世界大戦後に、交流絶った以外は親子仲は良かったし、後、大戦後は色々あって会いに行けなかったパタンかなぁと。
髪質はお父さん似なわりかし明るい娘かなぁ。
鬼丸国綱の子 を保留にしてこっち書くかな、かなり後だけども。

ある日の会話(刀剣乱舞/縹銀と鶴丸国永)

2016-08-08 07:59:13 | 携帯からの投稿
前回の会話からしばらく。
一応、縹の本丸にて。

鶴丸国永がまだ、縹を信用してなかった頃。

討伐に出て本丸の自室に帰って来た縹と出迎えた形になる鶴丸。

一緒に出たセツ、ナキ、セン、一期、薬研、長谷部は、手入れ部屋などで、居ない。


「おや、不動はどうした?」
「左文字達と厨にいるぜ?」
「で、どうしたわけ、雛鶴?」
「…………宗貞、怪我してるだろう?」
「それが?
 今回は月と雪の難民系の犯罪本丸だったからね。
 珍しく割と高練度な極短刀や脇差も二口づついたし。
 対討伐課を考えるなら、悪くない選択だ。」
「鳴狐や堀川、長谷部が騒いでいないということは、知らないわけだろう、違うか。」
「そうね、雛鶴にはわかるのかしら、流石、ジジイね。」
「後、霊薬なら、品切れだろう?」
「あー、使い過ぎたわね。
 割と時間かかるのに。」
「手当てしてやろうか?」
「いらん、身は出てないし逃げ傷はないから、エクスでも呼び出せば問題ない。」
「……きみは頑なに、俺を名前で呼ばないんだな。」
「熨斗つけて返すわ。
 私を「宗貞」としか呼ばないのに、名前を呼べないでしょう?」
「それも、きみの名前だろう?」
「私のでもあるけど、いっちゃんの名前よ?」
「…………死なれても困るからな、宗貞には。」
「まだ、還れるわよ、貴方は、本霊に還れるわ。
 祟り場行きなら初めから声を掛けない。」
「その祟り場にすら行けん“俺達”はどうなる?」
「最終的な判断は、兄様達が同類が下すんだろうけど、私が折る。
 私の次に連れてくさ、したら、私の子になるのかしら。」
「…………」
「信用出来ないなんて言えるなら、貴方は大丈夫よ?」
「……後、ひとつ聞きたい。」
「別に分からなければ幾らでも聞いて。」
「……吾子はどうしてるか、分かるか?」
「…………鶴丸国永(あなた)の口から、聞けたのなら、言うべきかしらね。
 子が居ることと、黒銀の髪の少女以外覚えてないだろうに。」
「……吾子は吾子だ。」
「悪いとは言ってない。
 不動坊や以外の欲が出てきたのは、良い兆候かなって。
 生きてる、審神者やってるわ、死神としては向こうにいたら危ないもの。」
「…………」
「まぁ、近いうちに演練組むわ」
「一つ聞いて良いか?」
「ん?」
「同じ顔並ぶんだよな?」
「…………そーね。」








一応、薬研息子と江雪娘と面識がある前提の話。
娘ちゃんのとこには、鶴丸が居るはずなんで、下手したら5つの鶴丸顔が並ぶと言う事態。

うん、一気にシリアルになった。

子どもネタメモ。

2016-07-29 12:55:20 | 携帯からの投稿
一応、確定してる男士の元、付喪神の子メモ。

『雪の子』
江雪左文字×白愁樹菖の子。
見た目はクール系美女。
薬の子とバンド組んでる。
父親の呼び方『父上』
母親の呼び方『母上』


『薬の子』
薬研藤四郎×白愁樹菖の子。
見た目は、ニキ+15歳ぐらいな青年。
雪の子とバンド組んでる。
父親の呼び方『親父』
母親の呼び方『お袋』


『鶴の子』
鶴丸国永×???。
見た目は、鶴丸そっくり系男前系レディ。
胸はない。瞳だけ暗い紅。
審神者。両親との思い出はない。
父親の呼び方『お父さん』
母親の呼び方『お母さん』


『酒槍の子』
日本号×???。
見た目は、2歳ぐらいな女の子。
中身も相応かやや上。
父親の呼び方『ととさま』
母親の呼び方『かかさま』
太郎太刀の呼び方『かあしゃん』
同田貫正国の呼び方『まま』



『燭の子』
燭台切光忠×伊達家縁の巫女の子。
見た目、光忠コピーの眼帯ナシな青年。
審神者管理局縁の病院勤務。
父親の呼び方『父さん』
母親の呼び方『母さん』


『月の子』
三日月宗近×鎌倉時代の皇室縁の姫の子。
見た目だけは、父親似の青年。
父親の呼び方『親父』
母親の呼び方『お袋』


『虎の子』
五虎退×上杉家縁の女性の子。
見た目、五虎退+6歳ぐらいの女の子。
父親の呼び方『父様』
母親の呼び方『母様』

『骨の子』
骨喰藤四郎×白愁樹菖の子。
母親の遺伝子が表情豊かにしか出ない中身鯰尾系な外見骨喰な18歳ぐらいの少年な外見。
縹は知らない。
八人中一番若い。
父親の呼び方『父さん』
母親の呼び方『母さん』






一応、鶴丸ジュニアと日本号ジュニアは、回収出来るはず。
日本号ジュニアの方は想定外の解放だけども。
つくづく、ちっさい女の子とデカい男のコンビすきだなぁって。

ある日の会話(刀剣乱舞/三日月宗近と樹姫)

2016-07-27 03:32:14 | 携帯からの投稿
樹姫の執務室。


来たばかりの三日月宗近との会話。


「そなたは、宗貞の近類か?」
「宗貞が、白愁樹菖なら、そう。」
「あれが辿った道は?」
「かろうじて、ね。
 えっちゃんとやっちゃん他数名と子ども作ったのも。」
「そうか」
「みかちゃんは、白愁樹菖とどうなりたかったの?」
「さてな、分からぬよ。
 付喪神の俺とて、千年は永い。」
「…………あてようか?
 全部、欲しかった?
 死なせたくなかった?」
「そなたが思うならそうだろう?」
「……悪いね、私も私の大切な人を自身の関係の無い位置で失った。
 本人では無いが、再会はしたがね。」
「…………」
「あの子の気性からして、本霊ですら三日月宗近は避けるだろうけど。
 誰かを変えるのを何よりも厭うから。」
「それでも、俺は会えるのなら、吾子と同じぐらい会いたい。」
「あこ?
 子どもいたの?」
「いたぞ。
 二つ前の大戦で行方知れずだが。」
「第二次世界大戦か、確かに一気に減ったね。
 母数が少ないのに、どこにも行けないのに減ったからな、“狭間の子”は。」
「そうだな」
「ちなみに、じゃないが、えっちゃんとやっちゃんの娘息子が今付き合ってるらしくて、教えるべきだと思う?」
「江雪と薬研のか?
 宗貞の子だな?」
「うん、白愁樹菖にほとんど似てないがね。
 やっちゃんのが髪と身長、えっちゃんのが目元と瞳の色が少しだけ似てるぐらい。」
「ほう、あの風体に手を出したか、宗貞は。」
「姉としてフォローするなら、色々煮詰まった二桁ぐらいの周回の時だからね。」
「……周回、とな?」
「貴方の本霊からの祝いよ。」
「そうか。」








ちなみに、三日月宗近と白愁樹菖は、ループの間は、お互いを認識する形では再会していない。

七日間だけの相棒   前編

2016-07-14 13:26:59 | 刀剣乱舞二次創作 (多重クロス)


「貴方方に、見せるな、とは聞いてますが、教えるな、とは言われてないのですよ。
 討伐課の課長、後はこの時代の月森久遠に話を聞きなさい。」

「そうね、幾らかの情報を貰ったけれど、十三年前のことは、今の私は教えてくれないもの。」






 七日間だけの相棒  前編








 蠱毒事件から、明けて一夜。
 縹のマンションでは、縹の父親と弟妹、友人、そして、縹の刀剣男士十口がいた。

 緑生す黒髪の五十路には到底見えない、縹達の父・蓮。
 真っ白い髪に赤みの強い瞳の縹弟のラビ。
 黒い髪に人形のような血の気の薄い縹妹のナツメ。
 赤紫色の髪の眼帯男なオネエ・月森久遠。

 そして、縹の最初の四口、鳴狐、江雪左文字、今剣、堀川国広。
 今回の件でこっちに来た六口、岩融、石切丸、獅子王、加州清光、愛染国俊、薬研藤四郎。

 朝ご飯の後、コーヒーを傾けながら、裏稼業の一雄《ギルトマスター》として、縹の父親・蓮(と名乗った)は、こう言った。
 とても、にこやかで裏の意味など感じさせないそんな微笑ででだ。
 伊達に人生の半分を丁々発止に裏稼業に足を浸かっていないようだ。

「さて、人間的な意味での年長者から言わせて貰いましょう。
 縹銀の最初の刀剣男士について調べなさい。」

 言葉はないものの、殺気が乗せられた視線が、彼に向けられた。
 それを心地よいように受け流す蓮。
 
 流れ弾を受けた筈の弟妹の内、ナツメは隣の久遠にしがみつき。
 ラビは、父親と同じ意見なのだろう、にこにこと笑うのみ。

「それはどういういみでですか、れんぱぱさん?」

 今剣の問いに、にこりとして蓮は答える。

 蓮がしようと導こうとしてるのは、大きなおせっかい。
 だけれど、最初の四口は「鳴狐が最初の刀」だと聞いて居たのに、討伐課の課長達の反応から違うと思い始めている。

「私は、我が子が可愛いだけですよ。
 この時代に、私は永くは居られません。
 だからこそ、あの子を守るシステムを安定させたいのです。
 『一番始めが鳴狐』、それが揺らいでいるでしょう?」

「一応、俺達は四人とも知っている。
 程度の差はあれど、な、何があったか、何を奪われたか。
 ルールの問題で俺達は話せないけれども、あんたらは知ることはできる。」

「縹ちゃんは、優しいの、色々奪われてるのに、世界を嫌いにならないのよ。
 私とイトちゃんは、共に在れ無いわ。
 貴方達に理があるように、私達にも理があるの、その上での抜け道の勧誘よ」

「え、選ぶのはあくまで、お兄さん達です。
 ……でも、不協和音があって、それでも、その、姉さまを守れると思うなら、その、いいんですけど。」

 人の子三人と刀剣男士ではない付喪神の言葉。
 否定したいけれど、それでも、縹の刀剣男士としての矜持に訴えかける内容だった。

 理由や生まれは違えど、今は、ひな鳥がはじめて見た動くものを慕う以上に慕っているのだ。

「話だけでも、聞こう。
 主を守るのに疑念があって守りきれなかったら、俺、自分が許せないし。」

「そうだね、俺もそれは嫌だ。」

「しかし、刀剣男士は人間の同行無しに現世での行動は許可されていないのですが。」

 一種の戦略兵器。
 不安定な“心”を持って制御しようとしたそれ。
 そんな物を刀剣男士の単独行動は許されない。

 そう言う枷を政府は、彼らに架してるのだ。 

「なら、俺とナツメを利用すればいい。
 優秀な審神者候補を護衛するとかってな、必要なら、ミンティア呼べばいいし。」

『お呼びですか、ファザァ?』

「早いねー、と言うか、お仕事は?」

『ぶっちしてきました、ファザァ。』

「今のMr.スターゲ-ト泣くと思うよ?」

『Mr.スターゲ-トは、局長ですので問題ございません、ファザァ』

「できりゃ、ブラウン辺りで出てきてね、一応、人間として行動するんだし?」

『承知しました、ファザァ、最期より118年と118日ぶりです。
 オーダーを、どうぞ、ファザァ。」

 隣のリビングにおいてあるパソコンのスピーカーより、声が聞こえる。
 なんでもないように、ラビは会話をしていく。

 気になることを指摘するよりも先に、パソコンが起動して、そこから光とエフェクトを伴った0と1を組み合わせて、出てきたのは十代半ばから後半の少女。
 緑みのある茶色のふわふわな髪と緑の袖の無いネックホルダーワンピース姿である。
 男性陣が多いのを見て、白いボレロを作り出して、羽織る程度には、羞恥心はあるようだ。

「というわけで、うちの子の人工精霊・ミンティア。」

「《図書館》司書・ミンティア=グリーンノ-トと申します。
 呼びにくければ、常葉(ときわ)とでもおよび下さい、どうぞ、よしなに。」

 この後、縹が注文していたらしい。
 新しい6口分の私服をあれだこれだと、選んでいるようで。
 とりあえず、遠目には髪色がそういないわけではない面子であることもあり、十人のイケメンが仕上がった。
 ついでに、髪をサイドポニーにして、女装したラビ、もとい、牡丹ちゃんがハイネックのセーターにマキシ丈デニムスカートにライダーズっぽいボアつきジャケットとのど仏と骨格を隠すような服装である。
 『女が多いほうが、まだ、色々とやれる。』とのことらしいが、声も含めて違和感が仕事をしていないようだ。
ちなみに、がっちょり化粧して、違和感が仕事をしていない(大事なことなので orz)

 実際、綺麗なお姉様系ではあるし、ミンティアにしても、ナツメにしても妹系というかおとなしめの子である。
 そして、鳴狐と愛染国俊、今剣、堀川国広以外の面子は、それよりも少々年長のお兄様系であった。
 バランスから言えば、妹二人よりもお姉様系が居たほうが大丈夫なのだろう。
 ナンパ逆ナン的な意味合いで。
 ナツメが諦めたように、「顔隠してとは言え、某秋葉原アイドルな服着て歌って踊った動画が三日でミリオン行ったぐらいに女装似合うんですよね。」と呟いていたが。
 
 実際、部屋に入って出るところを見てないなら、同一人物と断じるのは難しいのだ。
 声も含めて、良く似た二卵性双子と思われるぐらいだろうか。


 蓮と久遠の二人は、縹を看る為もあり残るようだ。
 出掛けの十三人に蓮は父親の、と言うよりは、祖父のような顔でこう見送る。

「貴方方に、見せるな、とは聞いてますが、教えるな、とは言われてないのですよ。
 討伐課の課長、後はこの時代の月森久遠に話を聞きなさい。
 管理局本部正面の道を挟んだところに、この時代の《デザートストーム》はあるようですから。」

「そうね、幾らかの情報を貰ったけれど、十三年前のことは、今の私は教えてくれないもの。
 聞くならば、十三年前のこととをね。
 ……失うと言うのは、数多く経験しても慣れないものよ、私達も縹ちゃんもね。」





   +++++   +++++   ++++++    ++++++



「と言うわけで、討伐課・課長 結縄道孝(ゆいなわ・みちたか)殿。
 話せ、一切合財、縹銀が失った彼女の一番初めの刀剣男士のことを。
 と言うか、久しぶり、緋牡丹です、ってか。」

「正体、ラビだったか。
 何故、そこまでやるんだ。
 と言うか、女装、似合うのな。」

 ライダーズの内側に入れていただろう強化セラミック製だろうナイフを突きつけ、片足を机に足をかけて、脅すが。
 それに、驚くわけでもなく、隣にいた長谷部を抑えるぐらいには、余裕があるようだ。
 むしろ、盛大に草を生やす始末だ。

 規定路線だったのか、ナイフを納め、足を下げながら、詰まらなさそうに綺麗な顔を無表情にしてこう返した。

「借りは返す。
 石切丸と岩融、今剣、江雪左文字の部隊に応援来て貰ってなきゃ、心折れてた俺は死んでただろうからな。
 縹姉さんと違って、根を降ろしてない俺はな。《幽霊》だっても死ねないわけじゃないし。
 だから、だ。話せない俺が出来るのは話させることだけだからな。
 俺は聞きたくないがな、リーチェの死んだ経緯を他人から聞くようなもんだから。」

「課長さん、仮眠室かどっかにこれ放り込んでもいいですか?」

「ちょ、ナツメ、それ酷い。」

「いいぜ、後、なつめちゃんは、審神者の方な。
 多分、それ込みで、そっちの緑の嬢ちゃんを局長は向かわせたんだろうし。」

「分かりました、穢れ対策は、どうなってますか?」

「神刀組は、とりあえず、太郎と次郎は用意できた。
 初期刀と初鍛刀を顕現したら、引き渡す。」

「私と来てもらえばいいよぅ?
 君の本丸の準備は出来たからねぇ。」

 話に自然に混ざったのは、黒い紫色の髪を二重に折り返した髪にアイオライトブルーの全てを見透かす蛇のような瞳の青年。
 黒いスラックスにチェスターコート、薄い紫色のニット。
 その青年を見上げて、なつめは言う。

「この時代の、兄様ですか。」

「うん、そう。
 君まで審神者になるとはねぇ、まぁ、私も色々あるけどもねぇ。」

「……蛇野郎、妹泣かせたら、折るぞ。
 具体的には、足の間にぶら下がってるそれ。」

「……彼は?」

「ああ、≪御伽噺の幽霊≫の次兄、ね。
 縹姉さんの上。」

 もう、生まれ変わりをしているのは、十指に余っても二十指は居ない。
 あの世界の神様区分《御伽噺の幽霊》は。
 だから、血縁でもなくても、兄と呼ぶ。
 本来の兄姉には、一つの罰でもあるようだけれど。
 
「主の敵なら、折っといた方がいい?」

「とりあえず、行こうか、ええと、審神者ネーム、どうする?」

「紅葉、で。」

「ふふ、伝説の鬼姫か。
 わかったよぅ、紅葉ちゃん、行こうか。
 課長、二代目のこんのすけもよろしく。」

「……まぁ、情報屋としてみても、性格はよろしくないけど、身内は傷つけないよ。
 自分の予言どおりに、≪御伽噺の幽霊≫が終わって、哀しむぐらいだからね。
 じゃ、二時間したら、迎えに来るから、課長、よろしく。」

 暗に、情報屋としては超優秀だと言うことと。
 ラビも、知っている情報として、ほとんどの刀剣男士は身内に入るぐらいには、優しい人物であると言うことを補足する。

 そして、用意されているだろう紅葉の初代こんのすけが、すぐに“過去形”になることを予想して、先に用意を願う辺り、敵には容赦ないのだろう。
 《御伽噺の幽霊》は協力者であっても、政府の味方ではない。

「仮眠室4は、誰も使ってねぇから。
 後、会議室確保して来い、長谷部。」

「主命と在らば。」
 

 それから、十五分後。
 空いていた会議室に、縹の刀剣十振りと二代目課長だけがいた。
 それ以外は、長谷部すらいない。
 副課長は、課長不在の間の穴を埋めるらしい。

「一応、最後に確認するが、後悔しないんだな。」

 口々に、それでも聞きたいと、言う。

「ミスタァ討伐課課長、それは、初代様の刀剣男士への侮辱と取りますが、如何しますか?
 初代様は、大変情に深く、手元の刀剣男士を大変、大切に思っております。
 その上で、刀剣男士方も初代様を大変、慕っております。
 顔を合わせて二時間も経っていない私ですら理解できますのに、分からないわけではないでしょう、ミスタァ討伐課課長様。」

 にこにこと常葉もそう、返す。
 親が緋牡丹であっても最期の命令が、Mr.スターゲ-トへの所属だったのだ。
 一応、以上に常葉は、縹を慕っているのだろう。
 付き合いのない課長は迂闊だったと、後々漏らす。

「分かった。」



 +++   +++  ++++  +++++

 二代目課長が語る縹白銀との話。





 あれは、十五年前か?
 今に比べりゃ微々たるもんだがそこそこの審神者が揃った時だったか。
 俺が、二期だか三期で十九年前に審神者になってるからな。
 初めは軍人とか、そう言うとこから、審神者を選んでたってわけだな。
 そん時にはもう、所謂、ブラック本丸ってのが在ったわけだ。

 んでだ、先代の爺さんとか、先代の副課長とかが、討伐課作ったわけだ。
 それが十七年前で、な。
 とある本丸二つが、ブラック本丸通報されて、俺と隼世がそれぞれ、部下と相棒連れて殴りこみに行ったわけだ。
 おう、それが縹銀とその弟三歳の幼児との出会いだな。
 つかな、ブラックで所謂、虐待系社畜系は練度高いから、割りと急いだんだ。
 討伐課というか、審神者管理局に協力している縹の“兄”から情報貰ったしな。

 別にな、縹の今の強さを見れば、当時とそう変わりないからな。
 だけども、三歳児の方も、自力でブラック本丸を処理してた。
 そこのまとめ役の三日月宗近を手懐けてたしな。
 詳しくは知らんが、その縹の“兄”曰く、「天照大御神をして従わない付喪神がいる?」らしい。
 知りたくもねぇな、三歳児がそれ並ってのがな。
 縹の“兄”ってのが、さっきの超ロングのお兄さんな。
 うん、怖かろう、今だって九割祟り神の天下五剣を押さえてるってか慰撫してっからな。
 マジ、縹の兄ちゃんは“兄”だと思うよ。
 三歳児の方は、ちゃんと元いた時代に返したらしいけども。


 でだ。
 それから、一年しないうちに一回、討伐課解散させられてな。
 いや、あん時の縹は怖かった。
 討伐課を再建した位ならまだしも、当時のブラック派ほぼ壊滅させたからな。
 いや、官僚方面は分かるよ、色々汚職してたし。
 色々リークしたらしいし、なんでも、《スターゲート》が生きてたらしいから、その辺は感嘆だったらしい。
 審神者方面、今も、討伐課でやってる見本演練をもっとエグくしたのを繰り返して。
 「刀剣男士を虐げてみろ、私や討伐課が相手になる」ってのを示したわけだ。
 少なくとも、単独でフルカンスト&連結のガチパを圧倒できるのアイツぐらいなもんだ。
 俺も一昔前なら、勝ちは拾いにいけたが、今は理だしな。
 若手の神酒か護国なら、あと数年で近いとこまではいけるんじゃねぇかと思うがな。
 おう、基本的にうちは、一口は刀剣男士と契約してるし、普通の審神者と兼業なのもいる。
 だけどな、アイツは、三年前に鳴狐を連れてくる以外は、後一口としか契約してなかった。



 しいて言えば、ソイツが初期刀だ。
 七日間だけのな。
 それが、石切丸で、今回の件で“三条宗貞”として縁が合って呼びやすいってのを抜いても顕現させたのは、俺も驚いた。
 縹が酔った時に話してくれたのと報告書をつき合わせるにこういうことだったって程度に聞いてくれな。
 
 よく合っちゃまずいんだが、暴力系だろうと夜伽系だろうと、折られやすいのは、短刀脇差が多いんだよな。
 生存ステの問題もあるんだろうが、折るだけなら、審神者としちゃ他でも変わらんが、虐げやすいんだわ。
 ……あくまでも、一般論というか、ブラック審神者の平均意見な。
 んでだ、その犯罪本丸でも、それは同じで。
 だけど、石切丸がこう言う“約束”を持ち出して、折られる直前だったわけだ。
 曰く、“自分が折られる代わりに、短刀脇差には手出しをしない、折らないでくれ”ってな。
 おう、そいつも術者系審神者だったんだが、イマイチ分かってなかったっぽくてな。
 神様との約束、ホイホイ破れると思ってたのかね。
 ちなみに、そいつ、石切丸を折る直前で縹がフライングニーキックをかまして意識飛ばして御用となりました。ってな。
 それから、まぁ、折られるぐらいだったから、その石切丸も重傷でな。
 他の面々も同様で、一気に力技で手入れしたりしたくわけだ。
 霊力だけで三十振り少々、むちゃくちゃだな。
 おう、堀川、お前が心配しなくとも、当時の俺と長谷部が帰還した縹を叱り飛ばしたからな。
 ……その石切丸は、雪狂いになる前の、その本丸の初期に来た奴らしくてな、必然、高練度なわけで。
 当時の管理課の課長がゴネてな、刀解なんてもったいないって。
 そもそも、うちが当刃の意志に任せて選ばせてるのも気に入らないような御仁だったから。
 ……………ブラック誘引してたの後々バレたってんで、どうなったか察してくれな?
 神嫁にするほうじゃなくて、神域で弄ぶ方の意味で、神隠しされたとか言うが、詳しくはしらん。
 で、「助けてくれた背の高い女性ならいいけど、それ以外なら、討伐課でも嫌」って言われて。
 助けたからにゃ仕方ないと縹も、受けたわけだ。




 後のことを考えれば、一概には言えんが、縹はその時点で数年経ってたが、初めてあの時、この時代を生きてたんだろうな。
 雛形を造ったといっても、政府配布の本丸を信用できなくて、自分だけでどうにかしてた。
 だから、現世のこと教えたり、なんてかな。
 兄弟とも恋人とも、勿論、部下とも違う距離感で、しいて言えば、相棒かね。
 仲良かった、映画なんかも見てさ、ちょうどその時、続編を映画館でやっててな。
 「明日の仕事終わったら、ナイトショー行こうか、近くの映画館で上映してるしさ。」
 まぁ、わかるよな、最初に七日間だけって言ったし、おう、その石切丸は折れた。
 ただ、戦闘で折れたのなら、ま、俺もこうやって語らないし、縹もそこまで引きずらんな。
 忘れはしないだろうが、戦場で散るのは当たり前と割り切ろうとするから其処までは引きずらない。

 “縹”を“庇った”上で、石切丸は“笑って”折れた、らしい。

 多分、と推測混じるけどな、同じ死に方をしてんじゃねぇのかね、昔の縹の身内が。
 縹を庇って、死に掛けても笑いかけて死んだ奴。
 其処までは知らんな、少なくとも、十五年前からその石切丸が死んだ十三年前まではそう言うやつはいない。
 だから、縹は刀剣男士と契約しなかった。


 

 それから、一層、ブラック討伐に精を出す。
 書類仕事もバリバリこなす。
 当然倒れてな、過労じゃなくて、栄養失調と睡眠不足で。
 週に四回づつは昼飯と夕飯に誘ったり、時々長谷部も縹を仮眠室に突っ込んだりしてフォローはしたんだが。
 そろそろ、限界かって時に、鳴狐を拾って。
 とりあえず、カロリーフレンドと栄養剤以外のご飯を自分から取るようになってな。
 冗談抜きにあの頃の縹は、カロリーフレンドと栄養剤とゼリー食料しかとらなかったから。
 ほどなくして、江雪左文字も連れてきて、今剣と堀川国広も顕現したけども。
 結局今回の一件があるまで、本丸を持たなかったわけだ。
 今回にしても、自分が仲介した篠山一族じゃなけりゃ、本丸無しで手持ちだけでどうにかしようとしていただろうな。
 何れ、元の時代に生まれた時代に帰る気でいるから、あんまり増やさないようにってな。




 +++++     +++++   +++++++++



「俺は、顧問殿と縹の“兄”からある程度事情を聞いてるが、その上で言うなら。
 向こうに惚れた相手がいるから、戻る気らしいが、そんなの関係ないぐらいにこっちを向かせちまえ。
 ……勿論、帰られたら、討伐課の戦力ガタ落ちとかあるぞ、あるが、あいつ見てるといつか死にそうでな。」

「初代様もですが、どうして、《御伽噺の亡霊》様方は、現世に未練が少ないのでしょうか。」

「未練が少なくもなるだろうね。
 あの子は、《御伽噺》と運命に奪われすぎたから。
 そうでなくても、僕らは人の器に入っても、執着が持ちにくい。」

 話を区切った課長に男士達が言葉を継げないでいると、常葉がそう呟く。

 そして、苦々しげに自然に混ざるのは、一人の青年。
 木肌色の茶髪に新緑の緑の瞳をした生成り生地に縁にインディアン風の縁取りが入ったチュニックとデニム姿ながら、大樹のような穏やかでどっしりとした雰囲気を身に纏っている。
 どこにでも居そうとは言わないが、超然としてはいない青年だ。
 正直この場にいるよりも、新宿駅前で露天を開いていた方が似合いそうな青年ではある。

「どちらさんで?」

「うん、《世界樹の翁》。
 《御伽噺の幽霊》の長兄、と言うか、現存組の最年長なお兄さんです。
 んで、審神者管理局最高顧問、ルキウス=世樹(せいじゅ)ですってね。
 妹の弟だった頃の名前をそのまま、使ってるんだけど、あの子気付いてくれなくてねぇ、お兄ちゃん悲しい。」

「ええと、間違っていたら申し訳ないのだけれど。
 日本神話で言うどの位置にあたるのかな?」

「強いて言えば、八坂か、日女(ひるめ)かな?
 樹姫が術者系だから日女に当てはめると、弟が月弓になるから、八坂かな。
 脳筋よりの構成(ビルト)だし?」

「《翁》が、脳筋ならそこらの術者は木っ端のミジンコね。
 一応、《歌乙女》や《境乙女》、私ほどじゃないけど、魔法戦士系統の魔法よりのビルトでしょう。
 と言うか、ハイレベルソーサーラーがスカウトとファイターも高レベルで持ってるの詐欺でしょう?
 軽戦士の俊敏さで切り込んでくる移動砲台さん?
 《占い師》はあれで、ほぼ完全に戦士ビルトだし。」

 石切丸の質問に、悩みながら、答える《翁》。
 きょるんとか、そういう効果音を付けたいレベルの外見年齢にすら似合わないが、違和感が仕事しないしぐさであっさりと爆弾を落とす。

 某剣の世界風に言うならば、闘神に近いスキル構成なのである、《翁》。
 ファイター15、ソーサーラー13、スカウト12、などなど。
 セージ系統もそこそこのレベルで取っているというある程度の制限をしている状態でこれなのである。
 アホだろう。
 
 加えて、表情筋が死んでいる銀髪赤眼の女子高生が、不機嫌そうに会話に加わっている。
 白く合わせにフリルたっぷりのブラウスにコルセットめいたハイウェストのサーキュラソーフレアスカートに黒いボレロジャケットと、フリルとレースが控えめなゴスな格好をした少女。
 胸と帽子に赤薔薇を挿しているのが、彩色らしい彩色だ。

 連れているのは、青い左文字。
 色はともかく、顔や形は宗三左文字だ。
 きっちり着込んでいるし、雰囲気も未亡人()と言うほどではない。

「……《歌乙女》が、男士を自分から増やしたって青藍さんから聞いて、飛んできた。
 そしたら、《翁》が聞き捨てならないこと言ってたから挨拶の前に悪い。
 《歌乙女》……討伐課課長代理?の古い知り合いだ、直接会う気はないが、歴代の担当から情報は貰ってな。
 …………っと、良かった、《翁》も気になって来たんでしょ?」

「ええ、まぁそうだよ?相変わらず、名前を呼ばないんだね。」

「今はね、あと一ヶ月ぐらいは黙ってるけども。」

「とにかく、妹がやっと、本丸を持つのみならず、刀剣男士増やすって、兄として兄として感無量ですよ、ええ。
 バレると行けないから、《占い師》に任せてたけど、十云年経って、一部隊以上の子を持つなんて、ああ。」

「まぁ、その辺りは担当から聞いて驚いた。
 あの子は、誰かを変える事を極端に嫌がるからな、兄弟を見捨てるよりはマシとは言え。
 ……それに帰る気だろうからな、《片眼王》の欠片の為にも。」

 妙にしみじみとした雰囲気で、年寄りめいたと言うよりは、兄姉めいた感じの会話を交わす。
 課長は、多少レベルではあるが、この二人との面識はあるが何と言うか、血の繋がりはないのに、それでも、家族なんだなぁと思わせる会話。

「高位の神である貴方方が何故、ここにいらっしゃるのですか?」

「「世界は【誤植】を許さないから」」

 石切丸の搾り出す問いに、即座に答え声を揃える。
 しかし、二人の声音は正反対。

 《世界樹の翁》は、疲れたような呆れたようなそんな「仕方ないね」とでも、言うような苦笑を添えたような声音で。
 《泉ノ乙女》は、凍りつくような冷たさと鋼の隔絶した硬さを備えた無表情と言うには冷た過ぎる声音で。
 
「流石にね、自殺する気はないから、色々とやってこっちにいるわけ。
 樹姫も似たようなもんだし?」

「そう言うことだ。」

「ねぇ、主の知り合いなんだよね。
 多分、元いた時代からの、なんで、主に連絡しないの?」

 縹の加州清光が、何故連絡しないのかと、尋ねられた。
 それに対して、「あくまでも、私のワガママよ」と前置きした上で、無表情に答える樹姫。

「……あの子の今の状況考えると、重石は増やしたくない。
 何せ、あの子が知ってる、こっちに来る前に最後に見た私は、骨と皮だけだったから。
 恋人死んで、過度の拒食してた時だったから、連絡したが最後、体重10k増やすまで逃がしてくれない方に掛けてもいい。
 あれから、元気になってこの通り、なんだけども。」

「じゃなくても、一ヶ月以内に連絡にとることになるからね。」

「……《占い師》のド鬼畜シスコン。」

「貴方も妹だよ、弟には。」

 樹姫は、次兄である《占い師》に、珍しくジト眼を出してまで文句を言うが、長兄の《翁》はあくまでも優しい声音だ。
 歳の近い弟妹のじゃれあいをほほえましく見てる兄と言った風情。

 《翁》と《占い師》が双子で、そのすぐ下の生き残っている《御伽噺の幽霊》が、樹姫なのだ。
 そして、兄と言うものは、妹に甘くなるもの。

 
「とりあえず、今回は黙っていて欲しい。
 代わりに、一つ、歌を吟じて、あの子の情報を渡そう。」

「……あの歌?」
 
「手伝えよ、兄さん。
 一応、あおちゃんにも一通り仕込んだから。
 常葉は、無理なのは知ってる。」

「でも、足りなくない?
 本来、十人で歌う曲を三人で?
 ハモリ入れて、十三組十人の曲を」

「最低限、男性女性、でわければ、できなくもない?」

「後、俺も混ざれって?
 霊力気力結構、ガン減りしてるのに。
 ……あと、課長さん、イトさん来てたから連れてきた。」

「あらあら、大変ですねぇ。」

「とりあえず、Alt.2とTen.2、Bar.2、Bar.3は、埋まるよね。
 《翁》と《占い師》は兼業でいけるだろうし、コーラス部分は、俺が入るとして。」

「ストップ、落ち着け、ラビ。
 で、どうする?先に言うなら、久遠も歌は知ってるけれど、それでもこれは語らないわね。
 久遠の前の主のことでもあるから、だから、話さないだろうから。」

「ついでだ、悪ノ召使の御伽噺替え歌もついでに、つけようか。」

 まだ、眠そうなラビと連れられた青い髪の付喪神も混ざって、言葉とは裏腹にノリノリである。
 
 《御伽噺の幽霊》達、と言うよりも、あの世界では歌は、基本技能。
 魔術も、歌を介して行われるものだから。
 基本的に、歌が歌えないあの世界の魔法使いはいない。
 そして、専業の戦士もいないのが、あの世界だ。

「なら、俺・鳴狐は、樹姫のことを主に黙秘する代わりに、歌を乞う。」

「鳴狐、立派ですよ!!私、お供も同じく誓いましょう!!」

「……江雪左文字、樹姫のことを主に黙秘する代わりに、歌を乞いましょう。」

 そして、この場で古い二人とお供が、誓ったことにより、他の男士も次々に乞うて来る。
 契約、そうは言っても破ろうと覚えば、縹の男士達に何の被害もなく破れるものではあるんだけれど。

「さて、それなら、動画あったほうがいいよね。
 インストはないけど、画像と歌詞付きだから分かりやすいし。
 悪の召使のはインスト入ってるけど。」

 ということで、ラビは会議室のスライドを下ろし、映写機に自分のノ-トパソコンを繋げる。
 その間に、役割分担を決めたよう。
 Sop.《境乙女》とTen.2《妖鳳王》をラビが。
 M-sop.《歌乙女》とTen.1《語り部》/《道化師》をイトが。
 Alt.1《戦乙女》とAlt.2《泉ノ乙女》を樹姫が 
 Bar.1《片眼王》を青色の左文字。
 Bar.2《占い師》とBar.3《世界樹の翁》をルキウスが。
 それぞれ担当することになったようだ。

 まず、イトが口を開き、次にラビが。
 そうして、物語は紡がれる。
 青い双子月の世界が、どうやって終わったのかの物語を(うた)を。


 
 至高の王とそれを慕った至玉の魔女姫。
 そして、王に忠義を誓う比翼の武。
 四柱を見守る本心見せぬ道化師。
 だけど、あっさりと比翼の片翼の死により、均衡は崩れる。
 道化師の囁きにより、残された比翼の片翼を正室にと、至高の王は望んだ。
 片翼は拒む、魔女姫が嘆き悲しむ。
 妖鳳王が、片翼の武の噂を聞いてやってきた。
 彼は、片翼の武に戦乙女に惚れたけれど、それを表にしなかった。
 時には歌を、時には花を。
 まずは、彼女に笑って欲しかった。
 それから、戦乙女と妖鳳王は、駆け落ちすることにしたようだ。
 怒り狂う至高の王 留める魔女姫。
 呪を掛け合い お互いを或いは、《幽霊》を縛りあう二人。
 そして、相打つ至高の王と魔女姫。
 ある意味で、魔女姫を慕う道化師の思惑通り。
 彼は、この物語を伝える語り部になった。

 幾百回と繰り返される愛憎劇。
 青い双子月のその世界が終わる時が来た。
 似て非なる魔導の技術。
 それを要した二つの大国。
 かつての王と魔女姫の画策。
 王の策が、世界を終焉へと導いた。
 占い師は、世界の要でもある世界樹を守ることにした。
 せめて、妹の恋がこのままで終わることの無いように。
 せめて、家族が生き残るように。
 
 そして、幾歳流れて 現代(いま)に《幽霊》が揃ってしまった。
 御伽噺は終わったけれど、御伽噺は死んではない。
 貴方の隣にも、《幽霊》がいるかもよ?

 こんな歌。
 十数分と言う長さもさることながら、ある程度は隠してはいるが。

 ある程度の霊力魔力があれば、この歌の真意が分かるだろう。
 一種の呪にして、《御伽噺の幽霊》を存続させる為の“信仰”の“寄り代”だと言うことを。
 そして、そこまで知ることの出来る霊力の持ち主はほとんど居ないけれど。
 極一部の歌を作った彼女の願いも込められているのを知ることになる。

 ――「ただ、普通の人生を、振り回されっぱなしの人生ばかりだったから。」

 ――「家族と友人と笑い合えて、次に繋げて、布団で終われるような人生を。」

 切な願いにして、祈り。
 そう、製作者は《歌乙女》でもある縹。
 彼女が、電子の海に流した歌は、基本的に《御伽噺》に関係したものが多い。
 数少ない例外が、自身の小説がドラマ化されそのドラマの主題歌に書き下ろしたものや友人とのコラボぐらいというぐらいにそれ以外が寡作なのである。
 
「というもんでね。
 質問は受けない、ただ、あの子は優しすぎるんだよね。
 人を切り捨てる判断は出来るけど、その切り捨てたのを悲しむようなところもあるから。」

「その辺りを割り切れないからこその姉さんなんだろうけどね。
 いつか、あっさりと帰ってこない気がしてさ、寿命わかってても、心臓に悪い。」

 ラビの台詞を聞いて、課長が眼を僅かに見開いた。
 弟も分かっていて、こうも頻繁に来ているのかもしれない。
 
 それに驚いたような感じで飛び出してきたのは、今剣。 

「じゅみょうがわかってるのですが、それは、ひとのみのりょうぶんではありませんよ。
 ……はんぶんは、ぼくたちとおなじでも、じぶんのじゅみょうをしっていてなぜ、むねさだはわらえるのでしょう。」

 普通は笑えない。
 死ぬ時期が分かっていれば、それを回避しようとするのが、人。
 それでも、行き過ぎれば、歴史修正軍になるのだろう。

 そう言う意味では、縹は諦めている。
 もしも、想い人が帰ってきて結ばれたとしても、その子が成人する頃に自分が逝く事も。
 そうならなくても、後二十数年か、更に長い永劫生きるか。
 
 そう言う意味では、彼女はまだ交流はないが、大倶利伽羅とはとても近いのかもしれない。
 自分のしたいように生きて、死ぬのだろう。


「その答え、久遠さんから聞いて。
 俺が話せない領分に入ってるわ。」

「あぁ、まぁ、そうですね。
 ラビさん達が、話すには近いですし。」

「……なぁ、オレの記憶違いならいいけど。
 一昨日の作戦会議前の時、その久遠さん、昔のマンションの方だけど、久遠さんが話してたけどよ。
 生き返らせたってより、転生させたの居なかったっけ、その関係?」

「せーかい、俺はそれ以上言えないけどね。
 寿命の対価が、寿命なら、対等だと思うけども。」

「カミサマであっても、死者蘇生は難しいからねぇ。
 それだけ、ママンはあの子のこと悔やんでいたからの暴挙なんだろうね。」

「せっかく、《御伽噺》を終わらせたのにね。」

 愛染の答えに、正否だけを答える。
 それでも、その答えに硬直する面々。
 
 一応は、聞いていたが、裏づけが嫌な意味で取れてしまったようだ。
 
 誤解ないように補足するが。
 説明する気が無いだけである。
 悲劇は、当人が説明するものではあるが、それを語る証人に指名されているのは、この時代の久遠であるのだ。

「まぁ、いいや。
 私、帰る、錬度上げしなきゃだしね。
 ……それじゃ、縁が合えばまたね、あの子に着いて行くことを選んだ子らよ。」

 用は済んだとばかりに、樹姫は退室する。
 それ以上は質問を受けん、とでも言うように、背を向ける。
 縁は合うだろうけど、それが少しでも遅いことを願うように。
 かすかに、でも、はっきりと《泉ノ乙女》としての神気を顕わにしてまでそれ以上の問いを差し止めた。

 それを見送り、青い左文字は、兄である江雪と向かい合い、内心を隠すように口元を袖で覆いこう忠告めいた言葉を一つ。

「兄上に言うのは、酷でしょうが、失いたくないのなら主を捕まえておきなさい。
 可能性があるのは、兄上かそこの御神刀か天狗の刀でしょうね、縁の深さは一つの強さだから。
 主様もですが、執着が薄く、低位とは言え僕らのような神様と関わって《人》としての部分が弱くなっているようですから。
 ……これ以上は、何も言いませんよ、兄上、息災を祈ります。」

 




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++



 まぁ、ちょっと、ぶった切りだけど。
 後編との兼ね合いだ。
 と言うか、縹嬢、いや、ディス嬢の過去話を書くことになるとは、十年以上前に彼女視点で語ったことを月森久遠視点で書くことなるとは、いやはや面白い。
 後編は、あくまでも、久遠の視点から見た彼女の生まれてから、刀剣世界での十六年も含めたことであって、縹嬢が語る話ではないと言うことがミソですかね。


 ラビにしろ、樹姫にしろ、イトにしろ、事実としては常葉も知っては居ますけども。
 それだけですから。
 
 後編は、人間と寄り添いすぎたというとアレですが。
 価値観は、刀剣男士の刀よりの子に近いんですが、人間にも近いんですよね。
 月森久遠は、前の主が、名前で在り方を縛っている生もあり。

 しかし、縹嬢さ、幸せになってくれよ。
 幸せになってもいいんだぜ?


 とりあえず、次の物語にて。



ときに切なくなりぬれど 後日談 (他サイトコラボの後日談)

2016-07-09 16:30:17 | 刀剣乱舞二次創作 (多重クロス)
   


   

 数多くいる審神者の一人、葵という青年の本丸への監査が終わって一週間が過ぎた頃のとある会話。

 討伐課課長と課長代理だけがたまたま、課の机にいた。
 他は休みなり討伐中だったり、書類を届けに行っていたり、ともの見事にいない。
 課長の長谷部も、課長代理の堀川国広と一期一振も、書類を届けにと管理局を案内に行っており、この場にいないのだ。

 いつになく、機嫌よさそうな露草色に銀を溶かした髪の長身の美女。
 四十路の大台を超えた課長は、自分の部下であり、この間の監査以来、眼が笑っていない笑顔で何かをしていた彼女が久々に心からの晴れやかな笑顔に恐れ慄いていた。
 普段とて、討伐課のゴリ、むくつきの野郎共にはそれなりに見せているものの普段の仕事中が仕事中だ。
 あの江雪左文字の真剣必殺並みの凍りつきそうな怖さが通常運転な彼女としては、春の陽気のように晴れやかな笑顔は、逆に怖い。
 一応、仕事が一段落した後はダウナーに落ち込むのが、デフォルトだ。
 堕ちかけていたとは言え、家族と同じく身内に入れている刀剣男士に手をかけるのだ、彼女はそう言う意味では、討伐課に向いていない。
 だから、課長は怖い、恐れている。

 主に嵐の前の静けさという意味合いで。
 或いは、嵐の後の静けさの意味合いだ。

 管理課の課長・鬼守正義(きかみ・まさよし)から、先ほど、討伐課課長の結縄道孝は釘と言うか嫌味をずっぷりと刺されたのだ。
 清廉潔白では、やっていけないのが、管理職ではあるのだけれど。
 ブラックとホワイトをまとめるのに必要だと思う。
 今回に関しては、本来出張るはずの無い討伐課でも実行係の彼女が出た為の嫌味なのだろうが。

「縹、機嫌よさそうだが、こないだの監査から何してたんだ?」

「ああ、現役の官房長官を失脚させて、娘をブラック本丸の浄化場に連れて行っただけですよ。」

「へぇ……、ちょっと待て、現役の官房長官ってえと高橋元直氏だよな。
 辞職してたが、あれお前がなんかしたわけだ、くわばらくわばら。
 その娘は、審神者だったが、ナニしてそうなったわけだ?」

「うん、この間の葵くんへのブラック通報。
 それさ、そのお嬢様のワガママでねぇ、ついでに、監査してきちゃったら、ドピンク過ぎて吐き気しちゃった☆」

 あくまでも、縹の言葉は朗らかだ。
 内容を気にしなければ、いつもはない星マークが着いていようとも、十二分に朗らかに笑っている。

 しかし、道孝には分かっている。
 これは怒りが、怒髪天を付くと言うレベルではなく、天元突破している状態だと。
 下手に邪魔しないほうがいい。
 その後に、討伐課に被害来ても、こいつを無理矢理止めたら、多分そっちのほうが被害でかい。
 だから、そう結論付けた道孝はチベットスナキツネ並の乾いた笑顔で彼女の話を聞く。

「紅葉の三日月宗近を借りていったら、私のことも知らないって碌に演錬も行ってないみたいだったし。
 三日月宗近の暴走を止める方が大変だったわ。
 あの子は、天下五剣だけあって、好き嫌いが激しいもの、来ないのは自分のせいなのにね。」

「あぁ、まぁ、審神者の能力に脳みそ溶かすのも、いるしな。
 それでお花畑だったわけだ。」

「うん、そこの江雪左文字と一期一振の状況見て、もっとヤレになったけどね。」

「ああ、喰われてた?」

「ええ、美味しく頂かれてた。
 弟達を刃質にね、うふふふ、死ねばいいのに。」

 課長・結縄道孝が話を向ければ、管理課のほうからの監査要請がないのに、別の監査も行っていたらしい。
 一応、討伐課の三番目ではあるから監査も出来ないわけではない。
 しかし、基本的に討伐課の独断専行ができないように、管理課の審神者サポートコールセンター係(通称:さにサポ)からの要請が無い限りできない。
 基本的に言うのは、監査業務か見本演錬で犯罪本丸発覚すれば現行犯で叩き伏せることができるが、今回は、その二つに当てはまらない。

 そして、縹が肯定した喰われていたとは、ピンク色の意味でだろう。
 深く追求する気はないが、弟刀を人質にしたと言うのが、縹の逆鱗に触れるどころかぶち抜いたらしい。

 身内に甘く、そして、それを利用されることを何よりも厭うのが彼女なのだから。
 彼女の人生は平坦ではないし、死後も安寧は少ないだろうから、それだから守りたいのが、身内なのだから。

「また、“覗いた”のか?」

「うん、基本術式ブラックボックスだから、政府もなんとも仕様が無いみたいだしね。
 一応、防ごうと思えばできるけど、籠の鳥になるもの。強過ぎる守りは、自身も焼く炎の壁。
 それが分かったから、突撃しちゃった☆」

 つまりは、完全に内外との出入りを禁じるほどに、閉じれば、基本術式のブラックボックス部分の顕現を持つ《Mr.スターゲート》初期組でも覗き見は出来ない。
 ただ、そうすれば、日配分の資材はおろか、サニゾンすら利用できなくなる。
 
 だからこそ、政府は知っていて黙っているのだ。 
 とりあげたのは、政府(かれら)。
 その遺産ではあるのだ、縹達の持つ権限は。
 失われた技術を保存していたのだから、使う対価なのだろう、権限の行使は。 
 明かす気もないし、明かされることはないことだ。

「で、その時点で昨日時点で、お父様こと官房長官殿、政治家としても一般人としても社会的には死亡してたし?
 それでも、三日月宗近を欲しがったし?他の刀剣も眼が死んでたし?
 だから、ブラック本丸の浄化場に連れてって、一ヶ月は開かないように鍵を幾重にも重ねてきちゃった?」

「八つ裂きか?」

「もっと?」

「みじん切りか?」

「いいんじゃないの。
 ブラックとピンクの違いはあっても、犯罪者だもの。
 浄化場の三日月宗近も喜んで受けてくれたし。私は身内に甘いだけ。」

「甘いんじゃなくて、優しいんだと思うんだがな。」

「あら、同族にこの場合人間に、優しくないなら優しいとは言わないわ。
 私はいっちゃんが知り合った子達が、分霊であっても幸せになって欲しいだけよ。
 今の世じゃ、刀として振るわれる、戦うなんて無理じゃない、刀は刀、殺す道具よ。」

「んと、優しいと思うがな。」

 浄化場というのは、政府筋でも知る人ぞ知る場所。
 本霊に還すに返せない元・刀剣男士の一種の墓場である。


 例えば、兄弟を庇い、犯され嬲り殺された薬研藤四郎。

 例えば、澱んだ霊力で顕現され、刀剣どころか男としても貶められた三日月宗近。

 例えば、和泉守兼定を刃質に犯され嬲られ、守りたかった和泉守も同じようにされていた堀川国広。

 例えば、堀川国広を刃質に犯され嬲られ、まもりかった堀川も同じようにされていた和泉守兼定。

 例えば、鯰尾藤四郎と骨喰藤四郎は、相棒ともいえる兄弟と殺しあわされた。 



 それ以外にも、その浄化場にいるのは、名前に似合わぬ人を恨み抜いている分霊のみ。
 それぞれの分霊ごとにまとまっているようではあるが、それでもまともにその場にいることの出来る人間のほうが少ない。
 恨み辛みが物理的な重さを持って空気となっている場所だ。
 
 本霊にも返せない。
 かと言って、縹がそれを消すことを是とすることは出来ない。
 そして、政府と取引した『犯罪審神者を使ってもいい?』と。
 
 要は幼子を生贄にするより、ローコストで浄化促進できますよ?
 貴重な禊屋より、バレるような犯罪審神者を使い潰した方がいいんじゃないです?
 自分達を「殺した」奴らと「同じ」を殺せば多少は気が晴れますし、浄化もできるでしょう?
 そのまま、還して本霊を穢したり、見限られて「戦力(こま)」を減らす真似をする必要ないでしょう?

 そう甘い声で、政府を説得して。
 いや、あれは普段は隠しているし、政府にも報告してないが、『カミサマ』として認めさせたと言うべきか。
 はっきりというならば、消し飛ばす方がよほど、コストがかからない。
 それに、本霊にも、「別に見限ってもいいのよ、それだけのことを人は貴方達にそうしたもの」と勧めているぐらいだ。
 
「で、その葵って坊やの担当はどうしたよ?」

「聞きたいですか?」

「一応な、鬼守の奴から、行方不明らしいって聞いたが。」

「お嬢審神者と同じとこ。
 『現世の時間で三日経ったら、生きてたら出してあげる。そしたら、整形代と高飛び代を出してあげるわ。』ってね。」

「それ、生かして返すか、現世に帰って来ても逃がす気ないだろう?」

「うん、正解。」

 穏やかで、それでも、背筋が凍るような感覚を道孝は覚えつつ、会話を続けながら。
 サニゾンでとある注文をする。
 ご丁寧に、別名義でだ。
 とりあえず、ちゃんとご飯を食べさせて、かつ、彼女の刀剣男士にもいつも以上に甘やかしてくれと言う内容のメールをする。
 すぐに、合点承知と帰ってくる辺り、彼らも気にしていたのだろう。
 
「ちなみに、なんでそこまで?」

「爪を二枚貰ったら、色々話してくれたの。
 うふふ、下手しなくても、レア製造機か、悪ければお嬢審神者かそのお仲間に全部揃ったら乗っ取りかかまされたかしら。」

「真っ黒くろすけか。
 報告書を見る限り、成人できたのも奇跡のような霊力の質と量だもんな。
 下手すりゃ、現世で神隠しかヨクナイモノに攫われてるような生まれる時代を間違えたようなレベルか。
 お前さんが、其処まで惚れるなんてのは。」

「……惚れる、恋愛的な意味が無いとは言わないけど。
 私が死なせてしまったあの子や私自身のように、『普通』を奪うってのは何よりもして欲しくないしされたくないことよ。
 葵さんは、守が強かったから短くても、普通のそれこそ、妻を持って子どもが出来てその成長を喜べる、そんな普通もあったわ。
 私や《御伽噺の幽霊》と政府の意図で、こう言う形の戦争に巻き込んでしまったもの。
 それがしたのがあの担当だとしても、間接的に私の責よ、だから出来る限りはするの、伊達に討伐課No.3だから。」

 縹は、取り繕っていた仮面めいた朗らかな笑顔も、うっそりと眼が最大限に死に始めている。
 しかし、道孝はちょっとぷっつんした。
 討伐課課長としてよりは、十数年肩を並べた戦友として。
 
 余談ではあるが、割れやすいとは言え、正拳づきで瓦を三十枚近く、調子が良ければ四十枚ほど割れる空手と剣道の有段者である、討伐課課長・結縄道孝と言う男は。
 そんな彼は、手加減はしたが、拳骨を縹の頭に落とす。

「みぎゃ。」

「あのなぁ、お前はよくやってるぞ。
 それにな、消えたくないってのが何処かが自分勝手だ。
 死にたくねぇのは、俺も同じだ、冗談でもそう言うこと言うなよ。」

「だってだって。」

 懇々切々と道孝は、縹が「自分の責」と言うことについて丁寧に潰していく。
 戦力的に元いた時代に戻したくないのも、嘘ではない。
 年齢と言うか、一緒にいた時間を考えればほぼ同年代の縹のどこか、浮世離れと言うか、知っている範囲でもしてきた経験と年齢に不釣合いな、幼さと言うか、自分を捨て鉢にすると言うか。
 そう言うところを見て、道孝は危ういと思うのだ。
 

 いつか、あっさりと戻ってこないような気がして。



 それから十五分。
 やっと、堀川と一期、課長の長谷部が帰ってきたようだ。

 それで、お説教されている理由を知った堀川と一期が、前後ステレオで抱き締めて、口説く勢いで全肯定してるのを見て、道孝は生温い笑顔で長谷部のお茶を啜っている。
 少なくとも、主の契約者の審神者の意図に逆らうのは難しいが、それでも、刀剣男士(こいつら)にも感情が無いわけではない。
 あれだけ、好かれているなら、最初に『もしも、神隠しするなら、恨んで憎んで自殺してやる』宣言は有効だったのだろう。

「んと、男士もだが、人間を見限らないお前も、大概、人間好きだろう。」

「主?」

「いやぁ、あいつら、仲良いなぁと。」

 道孝が呟いた言葉は、長谷部にも聞こえなかったようだ。
 何時までも、それを見ていたい気もしたが、一応、聞いておかねば、と言うことを質問する。
 一応貰った報告書にも無かったことだ。
 載せないと言うことは、で検討は付くが、それでも、聞いておこうと思う。
 
 落ち込んでも、縹の男士達が慰めるだろうし、と。

「それで、縹、お嬢審神者の刀剣男士は?」

「自壊した。
 ほとんどの子の本来の主は、あいつらに殺されていたし、私が刀解するってたんだけどね。
 『主に添えぬのなら、自壊するが主へのせめてもの忠義。』って、ほぼ全員。
 お嬢審神者自身の子達も、同じだね。
 『主を諌め切れなかった咎は、この身を折ることで雪(そそ)がせて戴く』って。
 まぁ、浄化場に付いていけば、堕ちるしかないだろうし、それが彼らの選択だ。」

「そうか。悪い。」

 凄絶な最期を選んだお嬢審神者の刀剣男士達。
 主と呼んだ呼ばされた相手がクソでも、それでも彼らは最期は誇りを択(えら)び逝ったのだ。

「ちぃわー、シロネコフワの宅配便です。
 結縄道孝さん?お届けものです。」

 そんな空気を綺麗に壊してきたのは、道孝が先ほど頼んだものを持ってきた宅配便のお兄さん。
 桐の箱に入った和牛1kg、それを五つ。
 そのうち、三つを縹に渡した。

「この間の懸賞の引き換え期限近かったからな、それ持って、今日は帰れ。
 (それで、男士達に甘やかされろ、これ以上此処にいて、目撃されると煩いし。)」

 後半を上手く飲み込んで、道孝は縹を帰宅させることにした。
 一応の終業まであと一時間ほどだ、他の課員に見られると騒ぎになるというのも間違いない。

 縹も、道孝の気遣いが分かったのか、縹もおとなしく帰る。





 完全に、余談だが。
 十数口の縹の男士達は、総出で縹を甘やかしたと、後日、道孝は堀川から聞いたと言う。
 ちなみに、あげた肉はすき焼きとして供され、その他、ピリ辛キュウリや油揚げのしらすピザなど、縹の堀川と江雪が本気を出した。
 どれも、縹が好む物ばかり。
 そして、艶歌を歌うほどに、べろべろになるまで酔わされた縹が、眼を覚ました時には刀剣男士達には教えていない書庫の奥のベッドで全員と寝ていた。
 両脇に、五虎退と薬研、それを挟むように、堀川と江雪など、全員がいた。
 ちなみに、ダブルキングかつ長さも長い上に補強済みなので、十数人が一気に乗っても問題はないが。
 縹が、覚醒した意識を再び、飛ばしたのは悪くないと思う。
 

  

 




 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


 と言うわけで、ゆ/べ/子様のところで、葵くんサイドあっぷされましたので、勢いで、後日談アップです。
 単独で、タイトルつけるなら「泣いてしまえばいいのに」辺りですか?
 縹嬢もう少し、寄りかかった上げて、刀剣男士はそれくらいで潰れないから。


 「負った傷を~」で、契約更新したけど穢れ洗浄中だった一期一振と厚藤四郎、五虎退も正式に縹の本丸に合流後のお話です。
 色々と、今書いてるメイン話時間軸の数週間後のお話です。
 少なくとも、「死神、審神者してます」入った後。

 チラシ裏ですが、結縄道孝氏と鬼守正義氏は、同期生で、所謂、脳筋の結縄と知性派の鬼守氏ですね。
 刀剣男士で言うなら、日本号と長谷部みたいな?


 とりあえず、次の物語で。


樹姫呼び方/呼ばれ方メモ

2016-07-04 21:10:18 | 携帯からの投稿
個人的に分かりにくいのでメモする。
刀帳名→呼び方/呼ばれ方。
某攻略本の順番。
持ってないのは抜かす。




太鼓鐘貞宗→たいちゃん/主
信濃籐四郎→しののん/大将
不動行光→ゆっきー/姉ちゃん
博多籐四郎→はっちゃん /主さん
後藤籐四郎→ごっちゃん/大将
今剣→ことちゃん/あるじさま
平野籐四郎→ひらのん/主さま
厚籐四郎→あっちゃん/お嬢
前田籐四郎→ぜんちゃん/姉様(ねえさま)
秋田籐四郎→あきちゃん/姉様(あねさま)
乱籐四郎→らんちゃん/いつきさん
五虎退→こうちゃん/いつき姉様
薬研籐四郎→やっちゃん/大将・姉御(稀)
愛染国俊→かなちゃん/主さん・いつき姉ちゃん
小夜左文字→さっちゃん/主


物吉貞宗→もっちゃん/主様
にっかり青江→りあちゃん/主
鯰尾籐四郎→ずおちゃん/姫ちゃん
骨喰籐四郎→バミー/主
堀川国広→ほっちゃん/いつきさん


和泉守兼定→いずちゃん/アンタ、いつき
大倶利伽羅→くーちゃん/あんた、主(樹姫本人含む誰も聞いてない時限定)
同田貫正国→たぬ/アンタ、大将
鳴狐(本体)→めいちゃん/主、いつき
鳴狐(お供)→やぁやぁ/主様
宗三左文字→そうちゃん/あなた、主
青い左文字→あおちゃん/主様
加州清光→きよちゃん/主、いつき
大和守安定→あんちゃん/あなた
歌仙兼定→かっちゃん/君、いつきくん
陸奥守吉行→むっちゃん/おまさん
山姥切国広→ひろちゃん/主
蜂須賀虎徹→ハニー/主
ヘし切り長谷部→へっしー/主、いつき様

数珠丸垣次→れんちゃん/主、いつきさん
髭切→兄者/主
膝丸→薄緑/主
三日月宗近→みかちゃん/主殿
小狐丸→こぎちゃん/ぬしさま、いつきさま
一期一振→てんちゃん/主殿
燭台切光忠→みっちゃん/主
江雪左文字→えっちゃん/主殿、いつき殿
山伏国広→さんちゃん/主殿
獅子王→しおちゃん/主
鶴丸国永→かくちゃん/主、いつき

石切丸→せっちゃん/主
蛍丸→けいちゃん/主
太郎太刀→たろちゃん/主
次郎太刀→じろちゃん/主、いつきちゃん

日本号→にぃちゃん/あんた
蜻蛉切→とんちゃん/主殿
御手杵→ぎねちゃん/あんた、主

岩融→ゆうちゃん/主、いつき殿





一応、樹姫/主の呼び方が名前なのは、初期刀や初鍛刀ほどじゃないけど付き合いの長い面子か、それと親しいか、ですね。
主呼びは、トラウマまで行かないけど、樹姫には好きじゃない呼び方なのです。


後、多分、この本丸だと、名前呼び→行動強制 →ニックネーム受け入れがデフォな気がします。


途中の青い左文字は、一応、亜種左文字です。
いや、出来心出来心。

死神、引継ぎをします。  5 「“アナタ”は私が、“ソコ”へ逝くのを望まないでしょう?」

2016-06-29 18:27:46 | 刀剣乱舞二次創作 (多重クロス)







「なら、手合わせするか、真剣で殺し合いの。」


 
   +++    +++   +++

 
 そして、明けて三日目。

 明ける前に、縹達の父親は徹夜明けの若干ロウなハイテンションで出かけて行ったようだ。
 どうであっても、蠱毒事件のことは話すつもりのないようで、何も話さずに、聖とも別れた。
 検討は付いていても、「要請のないことには極力干渉しない」と言う不文律故に、聞けずにイラついていた。

 だからだろう、ご飯は契約更新未更新関係なく全員で一緒に、朝食を食べていた聖が、前後の流れを無視して、先ほどの言葉。

「なら、手合わせするか、真剣で殺し合いの。」

「わたくしが、向かっていることを分かってて仰ったでしょう?
 蓮姫様、相も変わらず、情報屋らしいご性格のようで何よりでございます。」

 それに何かを言う前に、和風建築には似合わない少女が一人。
 中庭から、靴を脱いで入ってきた。
 鋼のような暗い背中の中ほどで揃えられた銀髪と碧い瞳の聖と同じか少し下ぐらいの外見の少女。
 十歳は超えていても十五歳は遠いそんな年頃だ。
 オランダかベルギー辺りの深い青に白い線のエプロンドレスに、丸い手編みレースを留めにした三角巾のようなヘッドドレスをしている人形のような少女である。
 ヘッドドレスに紅い大輪の薔薇を模した髪飾りを挿しているのが特徴的だ。
 霊力と気配が、縹と同じか極近いため、刀剣男士には眷属のようなものと理解した。

「初めまして、刀剣男士の方々。
 《歌乙女》が《写し身》で焔緋(ほむらび)とでもお呼びに下さいませ。
 一応、本名では御座いますが、よしなにお願いいたいます。
 メイン技能は、回復魔術と攻撃魔術になりますので、手直しと違い、霊力による侵食は考慮なさらなくてもご心配ありません。
 些少ながら、近接戦闘も可能ですが、戦闘関係に技能を振りすぎたせいもあり日常生活は問題ありますが。」

 日本人風でもなくかといって白人風でもない。
 しいて言えば、髪や瞳を黒にしてしまえば日本人風なぐらいの血による造形を受けていない少女。

「で、今日も、錬度上げをするんじゃなかったのか?」

「縹から、連絡、来た。
 今日と明日は、ゲート使うなって、鍛刀も、不可。
 私や縹みたいに、ルートから外れてるから、その影響も、あるしね。」

「……影響『も』?」

「…………あー、なんかあったから、ってのがある。
 少なくとも、刀剣男士には教えるなって、言う理由。
 それから、察して欲しい、私は言う気はないし言えないね、皆の本霊から差し止められた。」

「……人の子とは、随分に強欲なものだな。」

「……なるほどなぁ、そう言う驚きは必要ないな。」

「と言うか、直接じゃないけど、宇迦之御魂神出てくる辺りねぇ。」

「母御様が!?」


 平安刀達はなんとなく、分かったようだ。
 そして、伏見稲荷の主蔡神が出てくるに至ってある程度は他の面々も分かったようだ。

 基本的に、上の神様達とも話は通っているのは、刀剣男士達も知ってはいる。
 また、加護を持った審神者もいるが、それでも干渉は禁止されているのだ。
 それでも、直接じゃないとは付くものの干渉があったと言う時点でありえないと言ってもいい。

 それが、家族眷属を大事にする狐の総領たる姫神であったとしても、だ。

「話を戻して、私と契約更新するか、決めてないのもいるだろうし。
 一つの目安代わりに、手合わせしようか、真剣で殺し合いレベルで。」

「誰と?」

「私と。」

 刀剣男士の面々は、契約更新未更新関係なく、硬直する。
 まぁ、一応、見た目は可憐で華奢な少女だ、聖は。

 普通に成人男子と殴り合うのでも問題あるのに、刀剣男士では更に問題があるだろう。

「…………相変わらず、でございますね。
 刀剣男士にひけをとらないとは言え、知らないとただの自殺行為ですよ、蓮姫様。」

「うん?男は、そういうものだろう。
 殴り合って、理解するものだと思うが?」

「十一番隊は、隊長大好き隊長の為の愚連隊でございましたし、蓮姫様はオカンでございましたので問題ないと思いますが。
 やはり、幼子に見えるその外見で言われると、初期刀の山姥切国広様の胃も胃薬が来いになってしまわれますよ。」

「一応、手加減は、する気だけど。」

「なさらない方が、大いに問題ありでしょう、蓮姫様。
 一発K.O.ならぬ、一発重傷も楽勝なのは存じておりますが、見た目は少女が成人男性をフルボッコと言う放送事故な画面でございますよ。
 そもそも、蓮姫様の刀剣は、戦略兵器しか所持しておりませんでしょう。
 ならば、ではないですが、《歌乙女》様から刀剣をお借りいたします。」

「氷鳴や黒霧も問題よね。」

「銘なしで御座いますが、脇差から大太刀までそれぞれ、数本づつ。
 流石は、三条と粟田口をお学びになった樹菖様でございますね。」

 慣れているのか、ぽんぽんと会話が進む。
 が、歳若い和泉守兼定や大和守安定、加州清光には面白くないらしい。
 己が力量と相手の力量を把握するのは、第一事であるのに。

 ちなみにではあるが、カンスト組がいないこの本丸レベルであれば、焔緋レベルであっても単独で制圧可能である。
 勿論、何本かは折る前提ではあるけれど。

 そんな焔緋が、一発K.O.をもらうのが、聖なわけで。
 聖が殺されると言う心配はしていない。






  ++++  ++++   ++++++


「面倒ですので、中傷かもしくは重傷入りましたら、遠慮なく割って入らせていただきます。
 一応、この区切りで戦ってもらえたら助かりますが、負傷が入らない限り止めませんのであしからず。
 また、蓮姫様、脳みそと感情は冷凍保存でよろしくお願い致します。」

「そっちの方が、問題だと、思う。
 戦闘感だけで、戦う方が、怖いわ、折ること。」

 そして、外。
 周りに何もない本丸裏の原っぱ。
 30メートル四方程度に区切られている場所。
 そこで、沖田組と和泉守兼定が聖とたたか、もとい、手合わせすることになったようだ。
 堀川国広は、一応決めているそうだが、兼さんが気になるそうで保留の形となる。
 勿論、それ以外の面子は見学モードであるのだけれど。
 一応、前田と平野が、赤ん坊には見せたくないと言うことで本丸の部屋で面倒を見ている。

 ちなみに、聖は死覇装-黒い小袖に袴―に、翡翠のような透き通った緑の篭手と刀帯と言う臨戦態勢。
 選んだのは少々長く重い拵えの黒太刀。
 ちなみに、鍔も試し切り用の装飾無しの重いもの。
 二キロ近い、普通ならば成人男性でも振り回すのは骨だろう。

 始めに大和守安定が、出ることにしたようで。

「おお、殺してやるよ!子猫ちゃん!」

「強い言葉を使うと、弱く見えるわよ、坊や。」
 開始を告げてすぐ、大和守安定は抜刀し距離を詰める。
 それに対して、抜刀し完全に受ける体勢の聖。

 鋼同士がぶつかる音がした。
 ありえない筈の無い拮抗。

 自身の体重の軽さを、太刀自体の重さで相殺しているのだろう。
 しかし、刀剣男士としての身体性能などを駆使した必殺までは行かずとも手応えがあるはずの一撃。
 それを止められて、安定とて目を見開く。 

「ふむ、真っ直ぐだね。
 あの沖田くんのように、真っ直ぐだ。」

「……っ。」

 その言葉に何かを感じたのだろうか、大和守安定は一足飛びに飛びずさる。
 あくまでも、聖の言葉は懐かしげで。
 もう、戻らない、彼女にしてみれば十年も経っていない昔ではあるが、千年の昔のようなそんな言葉だ。

 また会えると、会おうと言っていたのに、彼らは転生してこなかったのだ。

「私の知る沖田くんは、まだ、マシだったのかもしれないね。
 少なくとも、肺を病んでも、“鬼”にはなりはしたけれど、それでも、戦場(いくさば)で果てたもの。」

「それでも、沖田くんはっ!!」

「若かったわね。」

 ゆるりと止まらない流れる水のように舞う聖。
 太刀であっても、重さを感じさせない。

 言葉を交わしながら、二人は凄絶な剣舞を舞う。
 そう誘導している部分は聖にはあるのだろうけど、感じさせない。

 それでも、互いに血は飛沫いている。
 聖のほうが少ないけれど、それでも、痛みなど感じぬように。

「若い子が、逝くのは哀しいわ。
 残されるのも、勿論ね、さて、終わらせましょうか。」

 手加減されているのは、分かっていた。
 分かっていたが、幕引きまでされるほどに戦況を誘導されていたのが、見抜けていなかったのか。
 そう大和守安定は、憤慨した。
 
 だから、だろう、終わらせようと、場外に弾き飛ばして気絶させようとしたのに、手元が狂ったのは。
 彼が刀を握っていた右手首を落としてしまったのは。

 混乱した聖が、そのまま蹴飛ばしたのと、焔緋は彼女がそう手加減していないのと進行方向の木にぶつかるとマズイと判断したのか、座っていた場所から、瞬間移動並みの速度で動く。
 自分を木と大和守安定でサンドイッチするように、彼のクッションになったのだ。

「……手加減が、下手で御座いますね、蓮姫様。」
 
 それから、自身を治してから、安定の手首をくっつけたり、ちょっとてんやわんやになる焔緋。
 流石に此処まで、同じ人間大の相手への手加減が下手だとは思っていなかったらしい。
 そういえば、十一番隊では、隊長副隊長のコンビか、五席以下の総力戦しかやったこと無いと言うのを今更ながら、思い出すが後の祭りだ。

「強いね、ホント。
 担当さんが戦闘を躊躇う相手に入ってただけあるや。」

「ごめんなさい、その、やりすぎた。」

「……大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり。
 よろしくね、主。」

「は、い、よろしく、小鳥遊聖。」


 元々、涙目だったが大和守安定の言葉に、目玉を落とすんじゃないかと言うぐらい見開く。
 それでもなんとか、契約更新をしたのだが、割と力加減抜きにぎゅうぎゅうと聖が安定に抱きつき、安定が意識を飛ばしかけたのは別の話。

 そして、次の和泉守兼定は、何と言うか、兼さんが気の毒になる結果となった。
 詳しくは描写しないが、無手の聖ちゃんに遊ばれる形となり。
 五回吹き飛ばされた時点で、焔緋がドクタ-ストップを掛けたのであった。

 そして、三戦目。
 加州清光との手合わせである。

 一応、手加減の為も含め、刀剣男士で言う獅子王の本体のように軽く軽量な太刀に変えた聖といつも通りの戦闘服の加州。
 先の二戦を見ていた為か、聖を見くびるような真似をする気は無いようで。

「……どうして、俺を助けたの?」

 開始の合図と同時に、互いに駆け出す。
 そして、加州清光は此の三日間留めていた疑問を口にする。

「言ったでしょう、私は貴方と、違うけれど、沖田くんの加州清光を見送ったからよ。
 長く生きていても、知っている顔を二度も見送れるほど、強くは無いわ。」

 軽い金属音を絡ませて、区切られた場所を縦横無人に駆け巡る。
 会話をしながら、であるが、その聖の声音は無機質。
 恐らくではあるが、感情と理性を司る部分をあえて凍らせて、「折ってはいけない」と強く思ったまま戦闘感だけで戦っているのだろう。

 それでもだ、「何度も見送るほど強くない」と断じているとおり、彼女は二回、加州清光を失っている。
 彼女はそれを覚えていないけれど、此処にいる面々はそれを知っているのだ。
 一昨日の晩の嘆きと昨夜の過去話。

 見た目はともかく、態度ほど、彼女は強くは無い。
 自身も『別れ』にナーバスなっているのは、自覚しているようではあるが、それでも。
 それでも、二千年以上生きていて甘えベタなのだろうか。
 鶴丸が今朝、彼女が来ていない時に洩らした一言が、どうにも加州清光に引っかかる。
 --『まぁ、昔のこともあって、新選組面子と仲良かったからな。
    初期刀……山姥切じゃない奴だったが、そいつが止めても一緒に寝たりしてたから懐いてはいたんだろう。』
 そう言う意味の同衾ではないのは、聞いたが。
 今の自分になる前の自分、と言うか、同じ『加州清光』の根っこの部分が、叫ぶのだ。
 言葉にならない言葉であるが故に、形には出来ないのだけれど。

 この加州清光は、此の本丸の初期刀である。
 必然、錬度も高いが、場所を区切られてはそうも行かず、区切られた場所を抜け出してそれ以外の野原を駆け巡っている。

 そして、終わりの時。
 成人男性ならば、腕を回せるほどの太さの倒木。
 普段ならば、蹴躓かなかっただろうが、長時間の戦闘による一瞬の油断。 
 折れたばかりの倒木だったのか、まだ断面の棘は鋭い。
 躓き背面から倒れこむ加州清光もそれはヤバイと思ったのだが、仕方ないと諦めた。
 それでも、刀剣男士であれば、手直しでどうにか、なるはずだった。
 

 きゅと加州清光の首のマフラーが絞まり、少女のほうに引っ張られる。
 聖は、手にしていた太刀を手放していて丸腰だった。
 差し引いても、加州清光は、まだ自身の本体でもある刀を構えていたのであり。
 それを引き寄せれば、どうなるか、聖にも分かっていただろうに、彼女は迷い無く引っ張り寄せたのだ。

 ざくりと慣れている筈なのにいやな手ごたえがした。
 聖の左肩に、加州清光の本体が刺さり貫通する。

「えっ……」

「怪我無い?」

「無いけど、どう、して。」

「助けるのに、理由は要らないでしょ。」

 そのまま、左肩に根元まで刺さり、体勢としては、意識を飛ばした聖を抱えることになる加州清光。
 
 ちなみに、背景では、焔緋の腰に巻いていたものや懐に入れていたヘッドドレス留めと同じモチーフの平紐で、山姥切と後藤、一期、薬研、鶴丸が雁字搦めに芋虫になっていた。
 怪我をした聖に対して、理性を飛ばしたようで焔緋が止めたようだ。

「とりあえず、手当ていたしますので、加州清光様。
 本体をお抜きなら無いで下さい、それ栓になってますので、流石に人外でも出血多量は大変よろしくありません。
 ゲートの方も、使用できません、と言うよりも、他の本丸同様本日は使えませんね。
 ……燭台切様、医薬品は御座いますか?後、針と火鉢は?
 一気に治してしまいますと、少々問題がありますので簡易で縫合などしてしまいたいのですが。」

「ええと、あったと思うけどSANIZONで買ったほうが、早いかも。
 とくに、包帯とかそう言う類はあんまりないし。
 くりちゃん、ちょっと足の方持って。」

「では、血で汚してもいい部屋は?
 流石にお風呂場以外を希望いたしますが。」

「なら、手入れ部屋かな。」

 燭台切光忠の言葉を受けて、指示を出していく焔緋。
 追加で、買って欲しいものをお願いして、くるりと捕縛した面々に向き直る。
 後に、安定は語る。
 ―『あれは、怖かった。』
 聖より幼いとも取れる少女が見せた、静かな笑み。

「後、夕方には迎えに来ますので、大和守安定様と薬研藤四郎様以外の蓮姫様の刀剣男士の方々は、そのまま、反省なさってください、加州清光様を折るつもりでしたでしょう?」

「大和守の旦那はともかく、俺だけが免除される理由は?」

「人手をお貸しください。
 私も、一応の心得はありますが、居た方がよろしいでしょう。
 医術の嗜みのある薬研藤四郎様。
 和中と洋と言えど、医術は医術でしょうから。」








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「……眠らないのですか?」

「眠れないのね、昼間あれだけ寝たから。」

 そして、真夜中。
 聖が寝ている筈の離れ。

 細かい傷も含めて、顔と指先と下半身以外を包帯でほぼ覆った聖が、水差しの青紫色の何かを飲みながら、夜の庭を眺めている。
 薬湯の湯冷ましようで、味はよろしくないらしい。
 一応、下には七部丈のパンツに膝丈の薄い布の着物……しいて言えば、作務衣や甚兵衛のような服装をしていた。

「で、様子を見に来ただけでは、ないでしょう、数珠丸垣次殿?」

「……話をしたくて来ました。
 三条派のように拒むことも、新選組の若い子の様に擦り寄ることも出来ませんので。
 自分自身の言葉で、貴方を知りたいと思いました。」


 其処へ来たのが、夜着の作務衣に羽織を着た数珠丸垣次だった。
 一応、寝る気だったのか髪飾りは無く、髪もゆるく編みこんでいる状態だ。

「良いよ、話せることなら。」

「……何故、審神者になろうと思ったのですか?」

「うん、そこは誤解を、解いていこうか。
 私が審神者になっては、まずいと思うんだ。」

「……レイオウとやらの悋気ででしょうか?」

 隣に座った数珠丸に、あっさりと審神者になる気は無いというか自分の立場から難しいと言うことを告げる。
 自身の霊力は、質も量もただの人間に比べれば、血に塗れていようとも、豊富で清廉ではあるのだろう。
 少なくとも、聖が山姥切から聞いた感じでは、『蓮の咲く池の上で春の穏やかな風に吹かれる』ようなそんな緩やかな穏やかな霊力で、質も量も申し分ないそうで。

 許さないのは、血。
 許さないのは、立場。

 だから、聖は拒否をしたい。

「うん、七大貴族。
 今は、四大貴族か、二千年の間に数を減らしたあの場所の最高位貴族。
 霊王は、別の滅却師(クインシー)と言う子達からの奪った象徴。
 本当、昔々の話よ。当時は父がなにやらやらかしていたけれど。
 四大貴族だのなんだって言っても、霊王の安定の為よ、世界の安定の為よ。
 そう言う意味では、私と源ちゃんは、友ではあったけど、仲間には、なりえなかった。
 私が死ねるならば、三大貴族になるだろうね、でも、息子を括るなら、潰そうかしら。」

 淡々と、聖は語る。
 数珠丸垣次に、理解して欲しくて語ったわけではない。
 それほどまでに、霊王を疎んでいる。

 ある意味で、哀れんでもいるのだが、正月の謁見にも、ほとんどすっぽかしている。
 そして、二年前の正月からの謁見は要請すら来ていない。
 だからこそ、詳細は知らずとも、何かがあったのは分かる。
 
 子どものような駄々で、此の場所にあった聖の箱庭を壊したのだろう、と。

「源ちゃん?貴女の婚約者だった。」

「聖弥から?仕方ないわね、其処まで話して。
 うん、もういないわ、婚約者でなくなった後も、友人だったけれど、先の大戦で。」

 聖は、淡く淡く笑う。
 消えてしまいそうな、そんな淡い笑みで、婚約者でもあった古い友人を語る。
 勿論、数珠丸垣次に聞かせるわけではない自戒のような言葉だ。

「息子もいないし、よすがもそうない、だけど、大切だった人達が愛した世界を壊れると分かっていて、あの世界も捨てれない。
 私達と縹達、この世界は、近いけど遠い、私達の世界には影響が来ないの分かっていても、それでも、はじめさんのことが変わるのは、嫌だなぁ。
 縹達のだから、直接改変は無いだろうけど、それでも、この世界のはじめさんもはじめさんだもの。」

「……“貴女”はどうしたいのですか?」

「…………誰かと共白髪になって、果てたい。
 置いて逝かれるのは、もう、嫌、長すぎるもの、この生は。
 共に在れる誰かがいなければ、この尊き生もただの檻だもの。
 はじめさんも、政宗も、側にいないもの。」

 泣きたいのに、泣くべきではないと言うように、聖は泣かない。
 或いは、泣き方を忘れたように、彼女は泣かない。
 恐らくは、怪我をして少し気弱になっていなければ、弱音すら吐かないのだろう。

 一人は嫌だ、と泣く子供のようなのに。
 そう思うと同時に、数珠丸垣次は自然とその小さな身体を抱き上げる。
 
 カチャンと、彼女が持っていた杯が地面に落ち、割れる音がした。

 数珠丸は、後から抱き込むように聖を膝の上に乗せる。
 左腕で逃げないように押さえ込み、彼女の右手を自分の右手で包み込む。

 昼間の戦いっぷりが嘘のように思えるほどに、その身体は軽い。
 十代の小柄な華奢な少女。
 包帯から覗く、その指はすべらかではない。
 細かい傷や鍛錬を重ねたせいか、細い指ではあるけれど、刀を握るもの特有の堅さのある指だ。

 
「…………数珠丸垣次殿?」 

「泣かないのですか?」

「泣く資格なんて無い。」

「泣けないのですか?」

「…………私は、死ねない。
 物語に服(まつろ)えぬ者は、違う理では死ねない。
 私は、鷹旡(たかなし)は、霊王の贄、勝手には死ねない。
 私を愛してくれた人達、は、刀剣男士の子達は、奪われたのに。
 ……私の、せいで、折られたのに殺されたのに、それなのに、私が、私の為に、泣けるはずが無い。」

「弱さは、悪いことではありませんよ。
 それを認める強さが無いわけではないでしょう、小鳥遊殿。」

 ぎゅっと更に、聖を数珠丸垣次は抱き寄せる。
 手を掴んでいた右手で、彼女の頭をあわせて撫でた。

「それに、薬研や鶴丸を見ていれば、分かりますが。
 あの二人は、少なくとも、記憶のあるはずの鶴丸は貴女に対して恨み言を言いましたか?」

「…………ってない、鶴丸は本霊から記憶を、私の前の時の記憶を貰ったらしいけど。
 変わらずに、接してくれたもん、今日の無茶も怒ってくれたけど。
 だからって、私のせいで、死んだことはチャラにならないもの。」

「それに、担当殿は霊王と……と言うよりは、貴女の所属している場所と切り離したいようでした。」

「…………縹は、甘いもの。
 身内には笑って幸せでいて欲しいって、其処まで簡単じゃないのに界渡りをホイホイして。」

「だから、担当殿には貴女も身内でしょう?
 敵には容赦ないあの御仁が、普段はしている封具を忘れるほどに急いできていたのですから。
 それに、貴女を嫌っている樹菖殿ですら、親猫のようだったと三日月殿も言っていました。」

「アイツが?」

「ええ、本人にはまだ聞けていませんが。
 多分ですが、先があるからだと思いますよ。
 彼は死人です、もう先はありません。
 嫌いは嫌いでしょうが、アレにとって貴女も担当殿のように“子ども”なのでしょう。」

「縹馬鹿なのに。」

「ええ、馴れ合う気は無いのでしょうけれどね。
 …………私は、数珠丸恒次と申します。人の価値観すら幾度と変わりゆく長き時の中、仏道とはなにかを見つめてまいりました」
 
「え、う、」

「お嫌ですか?」

「、小鳥遊聖、です。
 よろ、し、く、お、ねがい、します。」

 するりと、数珠丸の契約更新の台詞に、聖の涙腺が決壊したようだ。
 その後、見るなと言って慌てる聖と、じゃこうすれば見えないですよね、という正面に彼女を向けて抱き締める数珠丸とそんな会話が続く。
 端から見ても、数珠丸が甘やかしているようにしか見えないが、審議は投げておこう。








「主の警戒心は、里子にでも出てるのか?」

「あらあらまあまあ、山姥切国広様、胃薬をお召しになりますか?」

翌朝、数珠丸の布団で眠る聖と布団の主を見つけた切国は胃を抑えつつ、天を仰いだ。








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と言うわけで、沖田組と兼さんフルボッコ&数珠丸さんとの会話。
会話は、サブタイトルつけるなら、「聖ちゃんの本音吐露」とも言う。
後、一応、今現存組と消失組もほぼ全部、作中設定ですが、2016年十一月か十二月に、縹嬢の祖父主催で一回、勢ぞろいして、少なくとも、聖ちゃんと紅葉ちゃんと縹嬢は、それぞれ、今の外見で面識と言うかその展覧会に来てます。

かつ、割と独特かつ、量も質も、転生だったり下っ端だけど神様範疇だったりなので、馬鹿みたいに豊富なのです、三人とも。
なので、世界線が違っても、200年ぐらい前の展覧会にいなかった?と言うわけで覚えてますの、現在実装の面々。
で、数珠丸さんも覚えてて、好意がそこそこある感じ?
まだ、この時点だと、親戚の子どもを可愛がるお兄さん程度のポジだけど。
だけど、絵面は犯罪です、はい。


とりあえず、また次回。