それは、僕が19歳、大学1年生の夏休み前。
大学近くに下宿していた僕は、休日を利用して親元に帰っていた。
和歌山県海南市の自宅から大学までは、
時間のロスを全く考えず、直行した場合でも、2時間半はかかった。
その日は、午前の授業に間に合わすため、僕は朝早くに家を出た。
普段ならば、前日に下宿に戻って、ゆっくりと眠り、そして授業に出る。
しかし、その日ばかりは、前夜に家で寝てしまった。
そのため、 . . . 本文を読む
「タクシーを待つあいだ」…続き…、
僕はタクシーに乗り込んだ。
「海南高校まで、お願いします」と行き先を告げる。
運転手さんは「はい」と言ったきり、何もしゃべらない。
ときおり、ルームミラーで後部座席に座る僕の顔をちらりと見る。
僕も、その視線に気がついてはいたものの、
何故、このような顔で学校へ向っているかの弁明は敢えてしなかった。
タクシーの車中では、二人の間に会話は全く交わされない。
「ピ . . . 本文を読む
「もうひとつの策略」…続き…、
ついさっきまでは、青少年を「着せ替え人形」にして遊び、
続いては、興味津々にて、追及厳しい、尋問を行う。
“おばはん”二人の楽しい時間…。
それは、いたいけな僕に容赦なく降りかかる。
Mのママは、
「あの子(Yさん)は、○○ちゃん(僕)の『姫』!かいな?」
「かえらし(可愛らしい)子!やんけ~~!」
「お前も!まじめな顔して!けっこう、やるんやな~!」
と、勝 . . . 本文を読む
「ヤマト男子○変化」…続き…、
さて、このあと…、
人造による原色の顔面のまま、自転車に高校生が乗ることができるか?
しかも、女生徒と二人乗りし…、
普通の顔面を持ってしてでも、警察に見つかれば、
「道路交通法」違反で摘発される状況なのに。
僕は学校への帰路を考えると、心中、戸惑った。
Yさんの胸中も同じなのだろう、表情が、にわかにくもりだした。
そこに、助け舟が入る。「スナックM」のママで . . . 本文を読む
「ピカリ!~変身!」…続き…、
二人の“おばはん”スタイリストによる、
リハーサルのような試着の時間が終わった。
それは、僕自身にとっても、妙に陶酔の境地だったかもしれない。
黒の営業用ドレスの衣装に、ヘアピース、カツラ、コサージュ、
全てをとりまとめ、学校へ帰る準備は整った。
僕は『宝塚歌劇団』のような化粧を顔面に施しながら、
自分の詰襟の学生服を着なおした。
その姿は、どこの「オカマバー」 . . . 本文を読む
私事、テストで時間をとられ、間があいてしまいました。
では、「恵まれた環境」…続き…を、
「スナックM」のママが自分の衣装をとりに帰った。
店の中には、僕と母と、Yさんが残った。
母が言う…、「さっ!さっさと、(化粧)やろか!」
僕はカッターシャツの襟を折りまげて、鏡の前のイスにすわる。
おそらく?、、化粧の経験は初めてだった。
自分の顔素地の上に、パタパタとファンデーションが塗られる。
そ . . . 本文を読む
「待っていた部外者」…続き…、
僕が店内に姿を現したとたん、
「あれぇ~!えらいこっちゃ!やして~!」、
といつもの調子で、ボケたつっこみをかましてきたウチの母。
いつもならば、僕もそれに呼応し、間髪入れずに、
「そうや、息子がオカマになるんや~!」とでも、
同じくボケをかますのだが、
その母の第一声に、僕は一瞬、
「うっ…!想像どおり…(きた!)」とひるんでしまった。
母も、普段にない掛け合 . . . 本文を読む
「ひとり紆余曲折」…続き…、
『自転車に、二人乗りして、通学路』
こうして、僕とYさんは、僕の家にやってきた。
自宅兼店舗、美容室の入り口扉を、「そろ~り」と開けてみる。
その思いは、
「お客さんは…、誰もいてない?だろうな…?」
「おかんは…、僕一人で戻ってくると思っているはず…、」
「この彼女との、ツーショットを見て、
…どんな…リアクションをするだろう…?」
自分が先に店の中に入 . . . 本文を読む
「これは想定外」…続き…、
男子の誰かを捕まえて、家まで自転車で送らせようと考えた僕だったが、
全く予期せず、女子のYさんが「行ってあげる!」と意思表示。
大勢の前で表明した、ありがたき好意、断る理由は見当たらない。
意外な申し出に、「えっ…!」と一瞬、躊躇はしたものの、
そのあと、「よろしくお願いいたします」と僕は頼んだ。
Yさんとは、2年生になって初めてクラスがいっしょになった。
出身中学 . . . 本文を読む
「想定の範囲は?」…続き…、
一人で家に帰ることを避けた僕…。
その根底にあるものは…、
化粧をして自転車に乗った男子高校生の学生服姿、
仮に、それを一般人が見て、『おかしなヤツ』と思ったとしても、
同じ高校の誰かがそばにいれば…、
高校生達の「アトラクション」なんだと理解するかも?…、
そして、最初に抱いた『怪しい疑念』は打ち消されるかも?…、
それは、少なくとも…、
一人きりでいるよりは、 . . . 本文を読む