ジョーは晴れて腕の中 １

ジョーは２度目の命拾いをした。

１度目は、旦那ちゃんに拾われた時。
深夜、真っ暗なテニアンのブロードウェイの急坂で、
道路に飛び出そうとしてるところを、たまたま仕事で通りかかった旦那ちゃんが拾ったのだ。
その時のジョーは身体全体が皮膚病で、
栄養失調で申し訳程度に生えていた焼き切れたような茶色い毛には、
蚤の卵がびっしりとついていて、ぼろ雑巾のような赤ちゃんだった。

それから１年。
テニアンで自然児として、野原やビーチを走り回っていたジョーを日本に一緒に連れて帰ることを、ずいぶん悩んだ。
日本では、あんなに自由には走らせてあげることができない。。。。。
それでも、もう家族だったから、不自由な思いをさせるけど、その分愛情でカバーしようと連れてきた。
日本に着いたのが１２月６日。
初めての冬に戸惑いながらも、旦那ちゃんの実家の周辺がまだ自然いっぱいなことが功を奏して、
ジョーは少しずつ日本に慣れていった。
それから、月の半分ずつ交替で旦那ちゃんと私との実家を往復してた１月１５日。
母の誕生日と姪の成人式の写真撮影とが重なったので、
１４日の深夜、旦那ちゃんの運転する車で、ジョーと、私の実家に戻ってきた。
明け方寝て、お昼頃姪の写真を撮って親族で食事会をして、夕方家に帰って来てから
急に具合が悪くなり、私は高熱を出し寝込んだ。
震えが止まらない寒気を過ぎてから、どんどん息が辛くなり全身から汗が吹き出て朦朧としてた。
その夜、夜中に突然ぱっと目が覚め、布団に乗って私をじっと見つめるジョーと目が合った。
普段、家族とはいえ、旦那ちゃんの方針で寝る場所を分けていて、ぜったいに一緒に寝なかったのだが、
なぜか布団で丸くなってたのだ。
薄れ行く意識の中で、あぁ、ダメじゃんかジョー。。。布団をかけてあげなきゃ風邪引くな～。。。
そんなことを考えてすぐに寝入ってしまった。
次の日から、ジョーの様子が突然おかしくなった。
元気がない。食欲がない。
食い意地が恐ろしいほど張っているジョーには考えられず、何かがジョーの中で起こっている事を感じさせた。
そのうち、吐き始めた。と言っても内容物は出ず、げっぷが出そうで出ないような感じ。
そして、歩けなくなった。
私の風邪が移ったのか？
夜になっても回復せず、父が、同級生のペットショップのＴさんに連絡を取ってくれて、
そのおじさんの紹介で、急患で看てもらうことになった。
おじさんは道が分からないだろうということでついてきてくれて、２０時頃病院に着いた。
若いけど経験がありそうなＴ先生が、「何か異物を飲み込んでる可能性があるからレントゲンを撮ってみよう」と迅速に対応してくれた。
そして、数分後私たちを呼んだ先生の顔は、明らかに何か重大なことが起こってることを語っていた。
「これ見て。おかしいでしょ？」
「ほら、正常な犬はこんな感じで写るんだよ」
丁寧に説明してくれる先生の言葉が耳を通るだけで、頭には入ってこない。
ただ、見慣れない私でも、レントゲンに写ってる様子がおかしいことだけは分かった。
ジョーの内臓は、どれがどれだか分からないほど、ごちゃごちゃだった。
その白が多いレントゲンと、すぐ１メートル先の台に乗せられて私たちを不安げに見上げているジョーを見ながら、
夢であってほしいと願った。
「チアノーゼも出てないし、息もそれほど乱れていないところを見ると、先天性の可能性が高いね」
数日前まで、町田の山中を走り回ってた姿が目に浮かぶ。
私はバカみたいに、よく走る元気な犬だったことを強調した。
だって、ほんとうに信じられなかったし、とても状況を受け入れられなかった。
ジョーに会ったことのある人なら分かるはずだ。
どれだけ元気だったか。
先生の診断は「横隔膜ヘルニア」
通常、上半身は心臓と肺があり、横隔膜で他の臓器と分けられている。
でも、ジョーはその横隔膜に穴が開いて、下にあるはずの臓器が上に飛び出してしまっていた。
「今晩は見ててあげなね、寝ちゃって目が醒めたら死んでるかもしれないから」
想像もしなかった、改めて残された時間を実感した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく