「英雄の本分」
寝台で自分の胸にもたれていた娉婷に「眠れぬか?」と北捷が聞く。「どうするの」と言う娉婷。北捷は「案ずるな、陛下に文を書く。民の困窮を知らせれば、何とかなるさ」と答える。娉婷は少し体を起こし、北捷の顔を見ながら「それでも不安だわ」と言う。「民と同じ暮らしをしよう。何かあれば、上に立つものに頼る暮らしのことだ」と言う北捷。娉婷がうなずき、北捷が「眠るのだ」と言う。
「明日から旅支度をしよう」と北捷が言い、娉婷は微笑む。
李太医が張貴妃の脈を診に来る。皆を下がらせた張貴妃の脈を診た李太医は「この脈動では、私は何と言えば」と尋ねる。ふっと笑った張貴妃は「手首などで脈が分かるの?」と言うと、李太医の手を引き自分の胸へ持っていく。震える李太医に「こちらだと分かりやすいわ。赤子は無事に育つかしら」と聞く張貴妃。慌てて後ろへ下がった李太医は、頭を下げながら「困難かと」と答える。張貴妃が「困難?こんな言葉がある。“その気にさえなれば、この世にできぬことはない”とね」と言い、李太医が張貴妃を見る。
湯あみをしていた張貴妃は、李太医と寝台で過ごした時のことを思い出す。部屋の外から「長湯は禁物です。お手伝いします」と言う荷香の声がし「入るな。湯あみの時は、誰も入ってくるな」と怒り、泣きながら体を強く洗いだす張貴妃。
張貴妃は鏡の前に座ると「この顔を見て。とても美しい。なのに、どうして自分を祖末にするの?相手が陛下であれ、卑しい男であれ、同じことよ。愛がなければ容色を手段にした取引にすぎない。そうよね?」とつぶやく。そして「いずれ必ず、この上なく大きな権力を手に入れる。私を踏みにじった男どもに、もっと惨めな死を与えてやる。そうよ、必ずね」と涙を流す張貴妃。
町の城壁の補強が終わり、耀天皇女は大臣たちと見に行く。高さと厚みを加え、堅固な造りの城壁を見て「見事に補強されて、まさに壮観だ」と言う皇女。何侠は皇女と城壁へ登り、白蘭の勇士たちが鍛錬している姿を見せる。
何侠が近くにいない時、皇女は「軍備を見て、どう思う?」と貴丞相に聞く。貴丞相は「新たに増えた兵は勇猛果敢なようですが、晋からの難民が多いように見えました。30万の軍など、見かけ倒しのようですな。真に受けてはなりませぬ」と答える。
上奏に目を通しながら、謝恒は「桑の葉の騒ぎでは、陛下のご裁断待ちです」と司馬弘に話す。何も言わない司馬弘に、次の上奏を見て「今は軍を束ねる者もなく、将軍らにも不和の兆しが…」と言う謝恒。司馬弘は「あの者を恋しく思う」と言う。司馬弘の元へ行き「隠棲した鎮北王ですか?」と謝恒が聞く。うなずいた司馬弘は「謝太尉。隠棲してすでに長いが、朝廷に召し戻し、政務をさせてはどうだろう」と言う。謝恒は「ご名案です。国を安定させるには、鎮北王の力が必要です。私が迎えに」と賛成する。
娉婷は「私が何をしても、変わらず愛してくれる?」と北捷に聞く。笑った北捷が「また聞くのか」と言い「何度、聞かれても答えは同じね?」と言う娉婷。北捷は「そうだ。何が起ころうと愛している」と言う。その時、娉婷の体調が悪くなる。北捷が心配し、酔菊を呼びに行こうとするが、娉婷は「遅いので明日にしましょう。そうでないと眠れなくなりそう」と言って止める。「分かった。では、早く休もう」と言い、北捷は娉婷を抱きかかえて寝台へ連れて行く。
寄り添うように北捷が娉婷のそばで横になり、娉婷はしばらくして目を開ける。
翌日。「昨夜、少し軒下にいただけで、せきがひどい」と酔菊に話す北捷。酔菊は「胸を刺された時、肺も傷ついたんです。冬の冷気の中では治りにくいわ」と言うと、娉婷の所へ行こうとする。それを止め「薬も飲まぬ、注意してくれ」と北捷は言う。酔菊は「飲まない?私から言っておきます」と返し、再び行こうとする。そんな酔菊を止め「いや、弱った体に薬は毒だ」と北捷が言う。「そうね、分かりました」と行こうとする酔菊。また北捷が止め、酔菊はため息をつきながら、あきれた顔で北捷を見る。「何だ?」と北捷が聞き、酔菊は「私は師匠も認める腕前なんです。患者のことで、あれこれ指図しないで。自信をなくしちゃうわ」と言うと、今度こそ娉婷の元へ向かう。
酔菊は「娉婷さん、早くよくなって。さもないと“誰か”まで病になる」と言いながら、部屋の入り口に立っている北捷を見る。2人が微笑みながら見つめ合い「嫌だ、こっちが照れる」と目を隠す酔菊。
酔菊が脈を診始めると、楚漠然が「謝太医が来られました」と北捷に伝えにくる。書斎でお待ちに、と。
酔菊には「薬は慎重に選ぶのだぞ」と話し、娉婷には「横になって休め」と言うと、北捷は書斎へ向かう。
脈を診た酔菊に、くすりと笑う娉婷。酔菊は嬉しそうな顔で娉婷の横に座り「いつ気づいたの」と尋ねる。娉婷が「この間から何となくね」と答えると「なるほどね、だから薬を拒んだのね。薬の調合を変えないと。北捷様に話した?」と言う酔菊。「まだよ。私から告げても?」と娉婷が聞く。酔菊は「もちろんよ。だけど、まだ弱ったままの体なのに、いきなり2人になったのね。それなら今日から私がすべてを管理する。悲しい曲を弾くのは禁止。外で星を見るのもね」と話す。
書斎に来た謝恒は「楚北捷、勅命だ」と言う。北捷がひざまずき“天命を受けて詔を下す。朕は朝廷を退き、隠棲した鎮北王を思い、嘆息するばかり。人は爵位と栄誉を望む生き方をするか、または閑居し、風雅に生きれば心が満ちる。さりながら今の鎮北王は、どちらにもあらず。そこで楚北捷を摂政王とし、司馬の姓を与え、皇帝一族と同列に置く。謹んで奉ぜよ”と読み上げる謝恒。北捷は「陛下は何をお考えで?」と聞く。
謝恒は「昨今は厳しい局面を迎えており、陛下は大変お困りです。軍の統制に桑の騒ぎと、お悩みは尽きませぬ。晋の危機を救えるのは、あなただけです」と詔を差し出す。私からもお願いしますと。謝恒にひざまずかれ、とりあえず受け取った北捷は、急いで立たせる。
北捷は「私に考える時をください」と言う。
「お腹の赤子は鎮北王の後継ぎよ。高貴な身分ね。衣の準備も手を抜けないわ。娉婷さんの嫁入り道具を調えた店だけど、あそこは何もかも上質だと評判よ。それに新しい品が、すぐ手に入るの。毎日、入荷する品は、布地も様式も最新だって。今日は町に出るから、買ってきてあげる。私が選んだ衣なんだし、必ず着てよ」と酔菊は娉婷に話す。娉婷は「ええ、言うことを聞くわ」と言う。
娉婷は酔菊と散歩へ。花を見ている時、謝恒が帰って行く。
「ほら、美しいでしょ?」と言う酔菊に「その花には、もう1つ名があるわ」と言う娉婷。酔菊が「どんな?」と聞くと、娉婷は「“将離(わかれ)”よ」と答える。
北捷、娉婷、漠然、酔菊の4人が一緒に食事をする。何か考えながら食べている北捷に「謝太尉は何のご用で?」と娉婷が聞く。北捷は笑うと「何もない。通りすがりだそうだ」とごまかし「先ほど脈を診た結果はどうだった」と尋ねる。「娉婷さんから話します」と言う酔菊。娉婷は「何ともないわ、風邪をひいただけ」と答え、不思議そうな顔をする酔菊に目配せをする。
「相談したいことが」と北捷が娉婷に言う。娉婷が「何を?」と言うと「異国へ発とう。3日以内に出たい」と話す北捷。「分かった」と娉婷は言う。
北捷が「皆はゆっくり食べよ」と言って部屋を出て行き、漠然も後を追う。
2人きりになり「懐妊のこと、なぜ言わなかったの?」と酔菊が聞く。「謝太医の来訪が“通りすがり”などとは思えない。もし大事な用なら、赤子のことで判断を迷わせたくない。異国へ行くのなら、その道中で話すわ」と言う娉婷。娉婷は「本当に俗世から離れられたらいいのに」とつぶやく。
北捷は文を書き、漠然に「都へ届けさせよ」と渡す。
唯品格へ行った酔菊は、妊婦の使う紅や衣の他に、赤子の衣や履物も見る。
急用だと言って何侠を呼んだ皇女は、手作りの菓子を食べさせる。「この味は、何とも…。何とも、うまい」と言う何侠。何侠が「皇女が苦心したのだから、私が喜ばぬはずがない」と言うと「この半年で駙馬は兵を鍛錬し、軍を増強してくれた。それに比べたら何の苦労もないことだわ」と皇女は話す。
この先はどうするの?と皇女が聞くが、何侠は何も言わない。「晋で桑の騒ぎを起こしたのは何か考えがあってのことではないの?」と言う皇女。
何侠は「今こそ出兵の好機なのだが、貴丞相が反対するので別の策を考えねば」と言う。皇女は「司馬弘は楚北捷を召し戻そうとしているらしい。それが誠であれば、丞相を説得できる自信はないわ。相手が強すぎて勝てるとは思えない」と話す。「ある者が、もし白蘭に服従すれば楚北捷に勝てます」と言う何侠。皇女は「“ある者”とは、白娉婷ね。その者がいなくとも、私たちだけで勝てないかしら」と言う。そして「駙馬の考えは私の考え。私の思いも駙馬には分かるはず。私は無理強いはしない。思うままに動けばよい。朝廷のほうは私がうまく運んでみせる」と言う皇女。何侠はうなずく。
出兵する何侠を城壁の上から見送る皇女。そこに貴丞相が来る。「駙馬を見送りに?」と皇女が聞く。貴丞相は「見送りに来たのではありませぬ。皇女様をいさめに来ました。急な出兵など、何をたくらんでいるのやら。どうぞ国を第一にお考えください。白蘭は決して再び戦をしてはなりませぬ」と話す。「案ずることはない。駙馬は演習に出たのだ、戦ではない。皇女たる私が先々帝の遺志に背くことはない」と言って、皇女はその場を後にする。
戦事上奏文を落とす司馬弘。そんな司馬弘に謝恒が「陛下、一大事です。白蘭の何侠が兵30万を率い、国境に迫っております」と伝える。司馬弘は「鎮北王の返答は?」と聞く。文の入った筒を持ちながら「鎮北王からの文が届いておりますが、この中に陛下への暇文が」と答える謝恒。筒を渡した謝恒は「私はあまりに非力でした。文には“隠棲への願い、立ち難し”とあります。無理強いはできぬかと」と言う。
司馬弘は「かつて晋の戦と言えば、敵を圧倒したものであった。それが今は、圧倒される側になるとは」と話す。謝恒は「やはり鎮北王なしに乗り切れませぬ。もう一度、ご要請ください。自分を育てた晋に危険が迫るとあらば、国と陛下を見捨てるはずはありますまい」と言う。文の入った筒を投げ捨てる司馬弘。そこに張貴妃が来る。
ひざまずいた張貴妃は「鎮北王を呼び戻す役目をお与えください」と言う。かつて私は鎮北王と王妃に反感を持っていました、なれど国難を前にそれは取るに足らぬこと、それに悪いのは私だったのですから、この手柄により罪を償わせてください、腹にいる皇子のためにも、と。司馬弘は「そう申すなら認めよう。鎮北王を召し戻せれば、後宮で皇后の補佐をさせよう」と言う。
娉婷が琴に触れていると北捷が来る。娉婷の隣に座り「琴が惜しいか?」と聞く北捷。娉婷は「もちろん。この古琴は二つとない逸品だし、あなたの贈り物よ」と答える。北捷は「それほど惜しむなら、持ってゆけばよい」と言う。
琴袋に入った琴を持ちながら「行こうか」と北捷が言い、娉婷はうなずく。
ーつづくー
北捷…娉婷が相手だと、嘘が下手すぎる(*´Д`*)
きっと他の人だったら、もっとうまくできたはず。
えぇぇぇぇ!?(✽ ゚д゚ ✽)
張貴妃が北捷を呼び戻すって!?
どどどど、どうやって!?
いや、それより絶対、何か企んでるよね?
今度は何をするつもりなのぉ(∩˃o˂∩)
大事な琴も持っていくことになったけど、異国へは行けないと思う…。
張貴妃はともかく、北捷は晋も司馬弘も民も見捨てられないと思うし。
でも、それは娉婷にとっても北捷にとってもつらいことで…。
どうなるのか、早く続きが見たいヾ(・ω・`;)ノ
娉婷の言っていた“将離(わかれ)”も、すごく気になる。
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良かったです!!
まだ知らされてない‘誰かさん’は、薬を飲まないへいていを案じ、気をもむところが、ぞっこんなほくしょうさまらしく、可愛いです!
白蘭の二人や張貴妃の企み、司馬弘の腹の内などにより、この先、二人に何かが起こりそう…
早く、北しょうさまに、懐妊の事をおしえてあげて!
賢くおもんぱかれる二人だからこそこんなことが起こるのかもです。。。
今回、晋の王宮ではいろいろと起こっていますね。
今回の張貴妃は哀れでした。
「どうして自分を祖末にするの?」という言葉は重く響いていたはずです。
なのに、姐姐や媛みかんさんが書かれているように
ラストでまた何かしようとしていますね。。。