よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
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政府の財政を考える ④     医療と介護が底割れを防いできた

2023年10月02日 | 先進国の経済学
*≪中央政府(いわゆる政府)+地方政府(地方自治体)+社会保障基金≫を連結したものを「一般政府」と呼ぶ。
 実質では実質では増加分の77.9%、名目では55.4%。名実ともにこの間のGDP増加の主因となったのは公的需要だ。ではその公的需要の中身は?

一般政府の消費・投資増加分の中身

 一般政府の財政の仕組みを理解するのは少々面倒だ。ここでは国民経済計算で集計された「一般政府の機能別支出」をもとに議論を進める。いわば一般政府の「決算」であり、予算と違って実際に支出された額となる。最新の集計は2021年度のものだ。総額は246.6兆円である。目もくらむような額ではある。

 

 ここで扱うのは支出項目のうち最終消費支出と総固定資本形成の項目だ。グラフの灰色部分だ。総規模の57%を占める一般政府自身が行う消費と投資である。それ以外は所得移転となる。これについても別途分析を加える。

 一般政府の最終消費支出は、個々の家計の便益のために行う「個別消費支出」と、社会全体のために行う「集合消費支出」とに分かれる。個別か集合かという区別だが、まだよく分からない。それぞれの例を挙げてみよう。

 個別消費支出は現物社会移転とも言われる。代表的な支出は医療や教育・介護である。今、公立は小・中・高と無償だ。一般政府がその費用を払っている。消費するのは個別の家計だが費用を支払う一般政府の消費支出として計上される。

 集合消費支出は現実最終消費とも言われる。社会インフラの整備、防衛費等だ。

 一般政府の総固定資本形成は、各分野での固定資本への投資である。兵器の購入から道路建設、学校・病院の建設まで多岐にわたる。消費ではなく投資となる。

  前置きが長くなった。ここからが前回の続きとなる。前回はGDP四半期統計の2008年、2023年比較だった。一般政府の機能別支出では2021年度が最新であり、GDPが推計なのに対してこれは決算値である。したがって多少数値は合わない。

支出の何が増加したのか?

 2008年度⇒2021年度で一般政府の消費と投資は28.31兆円増加している。その内訳は以下のグラフとなる。


 
  額でみると保健(≒医療)、社会保護(≒介護)、経済業務(≒インフラ整備)で増加分の87%強を占めている。右の増加率は、総額の増加率に対して各項目の増加率を比較してある。総額(計)の増加率を下回るのは割を食った項目である。経済業務と防衛は総額の増加に合わせて増えている。これも財政規律の一種なのだろう。

 注目すべきは娯楽・文化・宗教だ。額は6000億円程度だが伸び率が大きい、日本政府が文化政策に熱心だと印象は持ったことがないので調べてみたら・・・2013年から始まった「クールジャパン」政策であった。利権を作り出してそれを取り込むことに長けた人々がいる証である。一方で教育はほとんど増えていないが、少子化で一人当たりの支出は増えているというのが政府の論理である(らしい)。

 とにかく前回の答えは出た。

「実質では増加分の77.9%、名目では55.4%。名実ともにこの間のGDP増加の主因となったのは公的需要だ。では公的需要の何がどの程度伸びたのか。」

⇒保健(≒医療)、社会保護(≒介護)である。日本人の長寿化による社会保障関連支出の増大である。

 ここまでの議論は世上良く行われている議論と矛盾はしない、ように見える。

 曰く「高齢化社会の進展によって社会負担が増大し、家計消費が圧迫されて日本の衰退が進む」これは老人悪玉論でありそのような言動が受けていたりする。

 次回以降はこのような考え方が“救い難く”間違っていることを議論していく。


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