よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

59:第18章:「我々は、我々の住む社会を変えられる」というケインズの、静かな、しかし確固たる意志

2021年02月22日 | 一般理論を読む
賃金が下方硬直的であることは、経済体系の安定性のための必須条件である

 雇用の一般理論の次に出てくるのは経済の固有安定性の話である。我々の経済が、貨幣よりも銃が幅を利かせ、一般的等価物が白い粉になり、公共インフラはとうに消滅してしまっている。そういう夜警国家ならぬ夜盗国家のような、マッドマックスの世界のような経済もあるにはあるが、おおむね安定しているのはなぜか。

ケインズは四つの安定化要因を挙げる。

  • ①以前より多くの(少ない)雇用が資本装備にあてがわれて社会の産出量が増加(減少)したとき、これら二つの量を関係づける乗数は一より大きいが、極端に大きくはないという特性を限界消費性向がもつこと。
  • ②資本の期待収益もしくは利子率の変化がほどほどであった場合、投資は変化するけれども、新たな投資は資本の限界効率表の変化の割には大きく変化しないという特性を資本の限界効率表がもつこと。
  • ③雇用が変化すると貨幣賃金も同じ方向に変化しがちだが、雇用の変化の割には観察された結果大きく変化しない、すなわち、雇用がある程度変化しても貨幣賃金が大きく変化するとはない。これは雇用の安定性というよりは物価の安定性の条件である。
  • ④以上の諸条件に四番目の条件を付け加えてもいい。これは体系に安定性を与えるというより、ある方向への変動にやがてその方向を反転させる傾向を与えるものである。すなわち、以前に比ベて高くなった(低くなった)投資率はそれが数年も続くと、やがて資本の限界効率に不利な(有利な)影響を及ぼし始めるという条件である。

 これに関するケインズの説明は本文を当たっていただきたい。古典派と違い③のように賃金が下方硬直的であることは、経済体系の安定性のための必須条件である、と指摘していることは後々重要であり、その後躍起となって否定されてきた命題である。

 ケインズが言いたいのは次のパラグラフである。

こうして、四つの条件をひとまとめにすれば、われわれが現実に経験する事態の際立った特徴すなわち、雇用と物価が〔上下〕いずれの方向にも極端に変動することなく、経済は中間的状態――完全雇用をかなり下回りはするが、それ以下に落ち込むと人間生存さえ危うくなるような最低水準はかなり上回っている、そうした中間状態のまわりを振動するという事態の十分な説明になる。
しかし、このように、「自然の」諸傾向によって定まる中間状態、すなわちことさらの矯正策が採られるのでないかぎりいつまでも変わらない根強い諸傾向によって定まる中間的状態は、だから必然の法則によって打ち立てられたものだ、と結論づけてはならない。上述した諸条件の有無を言わさぬ支配は、現在のあるいはこれまでの世界に関する観察された事実であって、絶対不変の必然的原理ではないのである

絶対不変の必然的原理ではないのである

 第4編の最後にいたって「我々は、我々の住む社会を変えられる」というケインズの、静かな、しかし確固たる意志が感じられる。

 


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