スペイン遊学中の花形理絵は殺人事件を目撃する、というか巻き込まれる。酔った同僚に強引に物陰に引きずり込まれてしまい、その同僚は殺し屋風の男に刺殺されてしまう。日本からスペイン内戦時の日本人義勇兵の話題をルポしに来た龍門二郎が主人公、かれは理絵とは知り合いの通信社記者。そしてフリーグルメライターで取材をしにスペインにやって来ていた、龍門のこちらも友人の冠木千夏子、日本人ギタリストの風間新平、殺人事件の捜査に従事する治安警備隊のクレメンテ少佐と国家警察のバルボンティン刑事、謎の殺し屋マタロン、龍門の関連会社の現地法人所長新宅春樹などが登場人物。スペイン内戦時のエピソードやソ連のスパイの話なども絡めて読者をなんとしても惹きつけたいという作者の気持ちが伝わってくるが、今読んでみるとなにか古めかしい手法 を感じる。これは男女関係の表現が古めかしいためだと思った。昭和40年代の男女関係はこのようなものだったのかもしれないが、今の読者にどう写るのだろうか。しかし読み物としては、執念深い不死身の殺し屋がいて、血縁関係が突然判明して、展開が早くどんでん返しもあってと、サスペンスとハードボイルドとでも表現すべきか 、よき昭和時代の冒険小説。 斜影はるかな国 文春文庫 (文春文庫)