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意思による楽観のための読書日記

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 村上春樹 ***

今年最初に読んだ本は村上春樹。隠喩が散りばめられたような、読者の思念をかき乱しておいて「あとはお好きに」というような、それでも読んだものの心に暫らくはしっかりと張り付いて離れないようなストーリーである。

主人公は多崎つくる、名古屋での高校時代に知り合った5人組は3人の男子、2人の女子のグループ、お互い同士が必要不可欠であり、そのグループが当該5人であることが必須であるとみんなが感じあっていた。多崎つくる以外の4名には苗字に色の名前が入っていて、男子がアオとアカ、女子がシロとクロ、つくるは自分には色がない、個性も持たないただの入れ物でしかないのではないかと考え、自信を持てないでいた。つくるはシロが好きだったが、素直に自分の気持を行動につなげると5人グループがだめになりそうでそんな思いは封印していた。つくるは他のメンバーもそうだったのではないかと思っていた。

高校卒業でつくるは東京の工科大学に進学、残る4人は名古屋に残り別々の大学に進学した。東京に一人で進学したつくるは、休みが取れると名古屋に帰り5人で合って話をしたり食事をして楽しく過ごしたが、ある時、名古屋に帰り4人にそれぞれ連絡をとろうとするが返事がもらえない。そしてアオから電話があり、「4人はお前とはもう会えない、理由はお前が一番知っているはずだ」と告げられる。理由に心当たりがないつくるは「なぜなんだ」と聞くが「分かるはずだ」と電話を切られてしまう。

他のメンバーにも理由を問いただしたいが、つくるにはその勇気が出ない。死んでしまいたいほどの衝撃を受けたつくるは半年ほどの間、まさに死んだような生活を送り、体重を激減させ体型や容貌が変わってしまう。息子の様子が激変したのを知った母や姉は理由を問いただすが、少年が青年に移行したのだと納得する。東京の大学では新たな友人がなかなかできないつくるだったが、体を鍛え直すために通っていたジムのスイミングを通して、2年年下の灰田と知り合い意気投合する。そして灰田の父の昔話を聞くことになる。そこに出てくるのはジャズピアニストの緑川。緑川はなんでも出来てしまいそうに思えるというある「実現可能感」とも言える感覚と引き換えに生命の危機にあるという話を灰田の父にした。緑川がその後、本当に死んでしまったのかどうかは分からないが、灰田の父はその後故郷に帰り大学教授として定年までを過ごすことになる。仲良くなったと思っていた灰田は突然、何も告げずにつくるの眼の前から姿を消す。

大学を卒業したつくるは鉄道の駅を作るという職業につく。そして36歳になったとき、沙羅という2歳年上の女性と知り合う。それまでにも何人かの女性とお付き合いを経験していたつくるだったが、沙羅のように心を惹かれた相手は初めてで、なんとか手に入れたいと思うようになる。沙羅に高校時代の5人組の話をしたとき、沙羅はその話に興味を示すとともに、なぜ4人がつくると絶縁したのかを知らない限り、つくるの気持ちの中にあるわだかまりが邪魔をして、これ以上の二人の関係に邪魔をすると言い出す。そして4人の現在の住所と職業を調査してつくるに提示、4人に合ってきたほうが良いと提案する。つくるはそれに従うことにする。

アオは名古屋でレクサスのトップディーラーになっていて、アカは同じく名古屋で企業向け研修サービスの会社を立ち上げて、どちらも成功している。アオはシロがつくるにレイプされた、と言い出して、4人がつくるとはもう合わないとでもしない限り死んでしまうほど取り乱したという話をつくるに伝える。そんなことはしていない、と弁解するつくるにアオは「そんなことはあるはず無いと皆も思っていたけれども、そうするしかシロの混乱を収めるすべがなかった」という。つくるはアカにも会いに行ったが、ビジネスで成功しているらしい彼の現状になにかついていけないものを感じる。そしてシロはその後浜松で殺されたことを聞いたつくるは、もうひとりのクロに会いに行く。クロは結婚してフィンランドにいるという。

休みをとってヘルシンキから1時間半のところにあるサマーハウスに滞在していたクロはフィンランド人の夫、二人の子供と幸せそうに暮らしていた。クロはシロが精神的におかしくなってしまったこと、それは親友のクロがつくるのことが好きだったことを察したことにも原因があるのかもしれないと言うが、つくるはそんなことは知らなかった。つくるが本当はシロが好きだったこともクロは感づいていたが、それでもクロはつくるが好きだったと告白する。つくるはクロに、ずっと心の中にしまっていた思いと心配事などを吐き出す。自分は色がない存在だ、個性もない空っぽな容器でしかないと言う。するとクロはそんな容器に私は自分を入れてほしかったと告白、自分にとって多崎つくるはカラフルな存在だったと言ってくれる。現在つきあっている彼女の沙羅のことを説明すると、クロは彼女を大切にしなさい、あなたが彼女が止まれる駅を作ってあげられる、と励まてもくれた。

東京に帰ったつくるは沙羅に3人に会ってきたこと、シロは死んでしまったことなどを電話で伝えるが、沙羅に強く惹かれていること、他に好きな人でもいるのではないかなどということまでも伝える。そして3日後に会って沙羅からの話を聞くことを電話で約束する。東京の新宿駅は350万人もの人が行き交う巨大駅、JRや私鉄、地下鉄も入り組んでいて複雑だ。つくるは毎日こうした駅を通過しながら数時間も通勤で費やす日本人は幸せなのかと自問自答する。つくるは50人ほどの観客を前にしてピアノを弾く夢を見る。複雑なピアノ曲を初見で弾けるのだが、譜面めくりをしてくれる女性の手にはなぜか指が6本ある。緑川の言っていた「実現可能感」を手に入れてしまったのだろうか。それなら・・・目がさめて、つくるは自宅でシロが弾いていたリストのピアノ曲「巡礼の旅」を何度も聞く。物語はここまで。

赤、青、白、黒という色彩に一つの無色が加わって完全な5人グループができるという話。灰色の友達が一人できて、緑川というピアニストの話を聞かされる。どうしても色を混ぜて考えたくなるというもの。白と黒で灰色、赤と青で緑。駅をつくるのは出発と到着、乗り換えもできる。巡礼の旅は4人の友人に会いに行く旅。つくるは作る、沙羅は皿。ピアノを滑らかに弾く5本の指、親指があって残りの4本が上手く使える、譜めくりするのは6本指の女性。読みてはドンドン想像する。

本当ならアオから決別宣告された時に聞いておくべきだった話を17年も経ってからしか、それも恋人にお膳立てまでしてもらって聞いて回るなんていうのはどうなのか。人は知るべき事実から目をそらしたままでは、まともには生きてはいけない。不動産業をしていた父から大学時代にも、就職してからも住まいを提供され、経済的にはなんの不自由もない暮らし、自分では色彩がなくて個性がないと思っているが、友人のクロからは強く思われていたほどの存在であったつくる。このイノセンス感、鈍感力、優柔不断といってもいいつくる。それでいて、2歳年上の沙羅に甘えるように、切羽詰まって、3日後に会って話をしようと言われた沙羅に「好きだよ、君が必要なんだ」と伝えるために夜中の4時に電話をしてしまう未熟さとわがままさもある。街で見かけた沙羅と手を繋いでいた男に嫉妬するつくる。お金があってしっかりとした仕事を持ちいい男子でもあるのに、世の中の心の弱い男の殆どを背負って生きているような存在のつくる。ここでも3日後の沙羅からの答えを聞く勇気をもてないまま、新たな巡礼の旅にでも出かけるつもりなのだろうか。つくるにはもう新しく向かうべき場所などはなさそうである。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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