意思による楽観のための読書日記

日本アイヌ地名散歩 大友幸男 ****

著者の思い入れがつよーい本。前提となるのは、日本列島における縄文人と弥生人の分布と順序の仮説。日本列島にはまず1万年以上前から約1万年もの間、縄文人が北から南は沖縄まで住み着いて、ある程度共通した言語を使っていたので、地名もその時代から数千年を経ても残っているものがある。その後弥生人が稲作や銅器、鉄器製造技術とともに大陸から日本海側から移住、九州から本州全土にかけて縄文人を追いやるように拡大していった。その為、本州には現在の日本語を使った地名が広がっているが、北海道や東北北部、沖縄列島には縄文人が使っていた言葉と共通する古いアイヌ語による解釈ができる地名が多く残る。「別」や「内」が付く地名だけではなく、本州や九州にもアイヌ語で解釈可能な地名がある、というもの。この仮説には、従来からの歴史文献やDNA分析からも納得できるので、「なんでもかんでもアイヌ語関係付け」と思える主張でも、「こういう解釈も可能」と思いながら読める。

岬はアイヌ語で鼻を意味する「イト」「エト」または顎を意味する「ノッ」、糸崎や江戸、伊豆、井戸、野付、能登、能戸、野登などがこの候補となる。「サンナイ、サンペツ」は「前に開けた沢」なので、地形から見て三内丸山遺跡や山内、山辺内、三平、山根などは可能性大。稚内は飲水の川を意味する「ワクカナイ」、幌別は大きな川の「ポロペツ」、笑内(おかしない)は沢尻に猟小屋がある沢の「オカシウンナイ」、尾去別は川尻に草地ある川の「オサルウンペツ」、茂別は静かな川の「モペツ」。別や内だけではなく、辺、戸、部も川や沢があればこうしたアイヌ語由来である地名候補になるという。浜の地名は「オタ、ウタ」なので小田、大田、歌が付く地名なら候補となる。伊勢も古名は伊蘇であり磯を意味する同じ音の「イソ」から、須磨、志摩も岩礁を意味する「スマ」からという。

山は野の高みを意味する「ヌプリ」、日本語の登るの元は「ノポル」であり同根。「シリ」は大地、「モシリ」は小さな大地で島を、「キリ」は高い立った山を、「キム」は低い山を、「モイ」は森、「タイ」は林を、「ヌプ」は野、「ピラ」は崖を意味する。候補となる地名は「X登、X尻、X切、X野、X平」などでたくさん考えられる。

東京近辺では、小田原は浜の「オタ」から、木更津は耳の形の海の「キサルト」から、世田谷の野毛や横浜の野毛山公園は顎状に突き出た頭の「ノッケイ」から、幕張は奥の原の「マクンパル」、浦和は縄文時代は海辺だったため砂浜の渉り場である「ウラワ」、渋谷は泉の岸で「シンプイヤ」、あくまで候補であるということで解釈可能だということ。

近畿では伊賀は越える道で「イカル」、丹波はこちら側の岸の「タンパ」、有馬は元は播磨の有馬郡であちら側の浜で「アリルルムイ」、「クス、クシ」は越えたところや山の向こうを意味し、三重県の久豆、楠、樟、櫛田川など、越の国と言われた北陸も山の向こうである。

万葉集に出てくる地名では、足柄は夜明けの早い所もしくは初めての土地で古朝鮮語の「アシガラ」、相模は峠の女神で「ジャガム」、「イカポロ」は越える大きいで伊香保、峰が横に繋がった山で「ツクマネシリ」から筑波嶺。

日本古語では「タ・ナ・ラ」はそれぞれが入れ替わること多いという説があり、「ヒラ、ヒタ、ヒナ」は注意が必要。船は古語ではフィナ、古い人名でよくある比羅夫はフィラフと考えられ船夫、つまり船頭、すまり水軍を率いる武将となる。倭人伝にでてくる卑奴母離(ヒナモリ)は船守で水軍の頭となり、うまく話が合う。日田、比良、日名などの地名はこうした意味をもう一度考えて見る必要があるという指摘。

沖縄の地名で川を「ナイ」、崖を「ピラ」、海を「トー」、人を「チュウ」、山や森を「モイ、ムイ」、広がるを「パル」と呼ぶのはアイヌ語と共通。那覇は水の岸の「ナパ」、糸満は岬のある場所で「イトオマイ」、日本人をヤマトンチュウと呼ぶのは「ヤマトウンチュウ」ヤマトにいる人となる。その他、東北の方言にはアイヌ語の痕跡が見られ、古朝鮮語との共通点も多いという。

本書以外でも日本列島には多くの新羅、百済文化の影響があり、地名や神社、習慣にも多くの痕跡が見られるという記述は多い。著者の信念は強いようで我田引水的解釈も多いかもしれないが、そこにこうした縄文人の痕跡であるアイヌ語地名の解釈を加えることは、古文献や歴史分析の一つの見方だと感じる。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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