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意思による楽観のための読書日記

刀の日本史 加来耕三 ***

日本刀ブームだという。上野で開催している国宝展では何振りかの日本等が展示されているらしいが、何が人気なのか。日本刀の各部の名称を見てみると、刀の先っぽの膨らみがフクラ、その部分を鋒(きっさき)、刃先があり刀の地金がある部分を鎬(しのぎ)といい、背側を峰もしくは棟と呼ぶ。峰の地が鎬地、鐔(つば、鍔)との境目にある金属が切羽(きりは、せっぱ)、手で持つ部分が柄(つか)でそれを巻いているので柄巻。鎬を削って、地金が現れて、切羽詰まって、鍔迫り合いする、多くの日常用語になっている日本刀である。

古代の戦闘に使われた武器は、最初に弓矢、そして近接戦闘では石斧、石矛。最初は青銅、その後鉄で作られた矛が進化して、乙巳の変で蘇我入鹿が殺されたのは直刀で、平安時代に湾刀(太刀)が登場したという。太刀は腰に佩く(吊るす)もので刃は下を向く。刀(大刀)は刃が上を向いて腰に帯びる物を指すようになる。短めの大刀は差副(指副)、鍔が付いていると鍔刀であり小刀と呼ばれた。この大小は江戸時代に一般化、大刀は攻め、小刀は守りを象徴するとされる。

しかし実際の戦闘で使われるのは、もっぱら弓矢であり、室町時代中盤からは槍が加わる。神社仏閣が自らの荘園防衛に僧兵を養い武器としたのが薙刀で、その戰場での進化系が槍である。平安時代の武士とは、職能の一つと考えられていた。職能には、管弦、文士、和歌、画工、舞人、異能、陰陽、医方、妙法、明経などがあり、博打師、細工師、相撲人、飛騨の工、大工、仏師、商人、武者と続く。「新猿楽記」によれば、武者の持つ職能、技には、「合戦、夜討ち、馳せ射、待ち射、照射、歩射、騎射、笠懸、流鏑馬、八的、手挟みなどの上手なり」とある。武者が必要としたのが金物で、金物を作り出すのが鍛冶、鋳物師。彼らが作り出すものには、小刀、大刀、鉾、剣、髪挿し、鏃などがあり、鐙(あぶみ)、轡(くつわ)、鍵、鋸、鉋、手斧、鎌、鋤、鍬、釘、鎹(かすがい)、錐、鑷(けぬき)、鋏などがあった。

刀鍛冶の名人とされる流派は備前一文字派と長船派が二大流派とされるが、一文字派の祖とされたのは京粟田口の藤次郎久国。備前には青江派などもある。刃文(刃の文様)の形も流派により様々。直刃、丁字乱れ、鋸、大湾れ(のたれ)、大乱れ、矢筈、湾れ乱れ、小乱れ、互の目乱れなどがある。

名刀にはそれぞれの作者や経緯が分かっているものがある。足利尊氏が楠木正成らに追われて九州に逃げた際、豊後の守護大友貞宗が献上したという刀が「骨喰(ほねばみ)藤四郎」で粟田口吉光作で、足利家の家宝とされたが、義輝が殺害の折り松永久秀が強奪、大友家の当主が3000両で買い戻し、秀吉の手に入り秀頼へ。そしてその後徳川家を経て明治に豊国神社に奉納された。

備前長船の二代目兼光作と伝わる「竹俣兼光」は上杉謙信の手に入り、秀吉に献上されたが、大坂の陣で失われた。粟田口藤四郎吉光の手になる「五虎退」は刃長25cmと短いが、謙信上洛の際正親町天皇から下賜され、以降代々上杉家の家宝として現代にまで伝わる。

その他、信長が今川義元の首を取った際に手に入れた「宗三左文字」は筑前の刀工正宗の弟子の左文字作。その後秀吉、家康と伝わり京都の建勲神社に奉納された。信長が黒田官兵衛に与えたのが「へし切長谷部」で現在国宝となっている。山内一豊の「一国兼光」は重文、「小夜左文字」も重文。森蘭丸が信長から与えられた「不動行光」は本能寺の変で焼けたが、その後打ち直されて小笠原家に伝わる。織田信雄の「岡田切」は現在は東京国立博物館にある。

このように、戦国時代には戦闘で使われたのはもっぱら弓矢、そして鉄砲、槍であり、日本刀は美術品として生き延びた。関ヶ原の戦いは戦闘員が20万人で、そのうち5万人は鉄砲を持っていたという。刀鍛冶たちは、鉄砲作りへと変身し、名人たちが名刀づくりの伝統を伝えてきたと言える。つまり日本刀の画期は戦国時代に鉄砲が伝来したときであり、慶長年間以前の日本刀を古刀、それ以降の日本刀を新刀と分類できるという。奈良時代から平安中期までは直刀であり、反り付きの彎刀、それ以降の太刀これらが古刀であり、古墳から出土したような刀は日本刀とは分類しない。古刀には太刀、小太刀、大太刀、脇差し、短刀、薙刀、槍がある。秀吉の刀狩り、太平の世が続いた江戸時代、そして明治維新の廃刀令と、日本刀はその価値を武器から美術品へと変遷させてきた歴史があった。本書内容は以上。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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