意思による楽観のための読書日記

最澄と空海―日本人の心のふるさと  梅原猛 ***

伝教大師と弘法大師、歴史上で大師と呼ばれる数人のなかのこの二人は同時代人である。

小乗仏教には声聞という釈迦の声を聞いた釈迦の直弟子の仏教と縁覚という縁によって僧になった人たちの仏教とがある。菩薩の大乗仏教ではそれらの二つを小乗仏教と呼び批判した。これでは本来1つであるべき仏教が三つになってしまうので統一しようというのが法華教の思想的立場であり、これを一乗という。これを作り出したのが随の時代の天台智(ちぎ)。その教えは五時八教と一念三千。五時八教とは釈迦の一生を5期に分け、華厳、阿含、方等、般若、法華に属する教典に当てはめた。青年時代の華厳よりも老年時代の法華経が優れているという話である。そして一念三千とは、天台の宇宙論。世界は10の世界からなる、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天の六道に声聞、縁覚、菩薩、仏の悟りの世界が加わる。そのそれぞれにも10の世界がありさらにそれぞれが10のカテゴリーを持つので千の世界があることになる。そして物質、衆生、国土という3つの環境があるので三千世界である。最澄はこうした天台の世界観に基づいてすべての人間に仏性を認め、成仏の可能性はすべての人間にあるとした。そして生きとし生けるものすべても成仏する、という「山川草木悉皆成仏」という処までいたる。

最澄の特徴は多くの後継者を生んだということ、比叡山に学んだ高僧としては浄土宗の開祖で専修念仏を唱えた法然、法然に学び悪人正機を唱えた浄土真宗の祖親鸞、衆生済度の全国遊行で念仏を広めた時宗の開祖一遍、法華経の影響を受け日蓮宗を開いた日蓮、臨済宗を中国からもたらした栄西、只管打座のみちをといた曹洞宗の道元などである。

一方、空海の後継者は見あたらない。即身成仏を説いた空海、成仏を未来に期待しないという考えである。大日如来を中心とし、現実肯定、肉体肯定である。仏性をすべての人間に見る点においては最澄も空海も同じ考え方であり奈良仏教とは対立するが、現世でそのまま仏になれるという点でことなる。しかし、日本の仏教はこの時点からすべての人間が仏になれるという考え方に変わり、三乗ではなく一乗仏教になったといえる。

最澄が唱えた十重戒とは、不殺生、不偸盗、不淫戒、不妄語、不こ酒(酒の売買禁止)、不説四衆過罪(罪を吹聴しない)、不自讃毀他(自慢毀損禁止)、不慳惜加毀(けちけちしない)などであり、従来250もの戒があったことに比べればずいぶん易しくなった。最澄はさらに比叡山を総合大学にしようとして天台、密教、禅、律の4つの仏教を学べる場とした。弟子の円仁、円珍により真言密教も学び、高野山の東密と対抗する台密となり平安密教の二大聖地となった。

空海の説く密教では曼荼羅の世界は4種ある。第一は如来であり悟りを開いた仏である。中心には大日がおり、それを取り囲んで釈迦、薬師、阿弥陀、阿しゅく、毘盧舎那がいて、如来の次には菩薩がいる。菩薩は如来になる前の候補者で観音、文殊、弥勒、普賢などがいる。さらにそれらを取り巻くのが明王で現世的欲望を肯定し力を重視する密教としては必然である。日本で最も崇拝されたのが不動であり大日如来と不動明王は密教では一体とされる。明王の次は天であり、毘沙門、弁財、大黒などである。アイヌの宗教では火之神が重視され日本の原始宗教でも同じ考え方であった。不動明王が日本では崇拝される理由はここにあると筆者は言っている。観音は人間を救済するために33の形に身をかえると言われ、神が熊に仮装するという日本古来の考え方に近い、それで観音も好かれるのだという。

やはり日本人の心の奥底には山川草木悉皆成仏や自然崇拝があり、その上に仏教の戒律や道徳律があるのかと感じる。本地垂迹説そのものである。
最澄と空海―日本人の心のふるさと (小学館文庫)
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