日比大作は48歳の作家、愛人の美也子は33歳、もう8年の付き合い、週末とウイークデイにも身の回りの世話をするために麹町のマンションに顔を出す。そこに突然現れたのが19歳の遊子、大作の娘であり、戸籍上は妻であるえい子と同居してきたはずだったが家を出てきたらしい。大作はえい子と結婚する前にもつきあった女性がいた。お節さんといい大作よりも年上で、遊子はお節さんの子だということなのだ。遊子は美也子と大作の間にあったわだかまりをすべて言葉に変換して二人の前に提示する。そんなことをとまどっていた美也子にとってはあえて言葉にすればそうなる、ということで大作に今の不安定な気持ちを示した結果となる。美也子には山で遭難死した兄がいたが、その兄の友人が末永卓、渋谷で田舎やという小料理屋をやっている。卓は美也子を20年来想い続けているが美也子にはその気はない、と思っていたが、大作との関係が不安定になり、卓のことが気になり始める。
一方、えい子が遊子の家出の原因をつくったのは、元の遊子の家庭教師であった滝田との出奔であった。旅先のスペインで滝田に別れを告げたのはえい子、そして旅先で末永慎、卓の弟と出会い恋に落ちる。そして日本を飛び出した遊子とマカオで再開、遊子はえい子が慎に託する形で慎と旅に出てしまう。日本に帰ったえい子は大作と離婚、美也子も踏ん切れた気持ちで大作と別れ末永卓と結ばれる。
さまざまな女性のタイプが出てくる。男との子を成し、男に別の女ができるとすっと身を引く女性、お節さん。たくましく自分を主張するえい子、自分を主張せず男性と過ごしたい美也子、そして19歳の遊子には男性とというよりも大人たちとの距離感や関係さえも築けない。男性の方は大作、卓、慎、美也子の昔の男築島らが登場するが、大作が女性との関係を見据えられない男、しかし憎めない存在であり完全に別れてしまえない関係をつなぎとめる、という存在として描かれる他は影が薄い。
生意気な遊子、ここまで極端ではないにしてもわかいころの自分を見る気がする。
砂の家 (新潮文庫)
