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意思による楽観のための読書日記

元素からみた化学と人類の歴史 アン・ルーニー ****

高校で化学の教科書を受け取り、元素周期表を見たときに、サイエンスの入り口に立った気がしてワクワクした。授業が始まると、イオン化傾向だとかモルだとかアボガドロ数とかで、化学の入り口どころか、家には入れてもらったがいきなり雑巾がけをさせられたような気になった。大学入試で理科系志望だったので理科には化学を選んでしまい、暗記ばかりを強いられた記憶があり、良い思い出がない教科になってしまった。今でも覚えていることといえば「水平リーベ・・競輪S号縁あるか」イオン化傾向の強い順は「貸そうかなまああてにすな酷すぎる借金」、なんと無味乾燥なこと。ということで、心機一転、還暦を超えてワクワクの入り口に立った気分で読み直してみた。

宇宙は元素で出来ている、これが最初の出発点で、人間の体もすべてビッグバンで作り出された元素から成り立つ。酸素(重量比61%)、炭素(23%)、水素(10%)、窒素(3%)、多少のリン(1%)とカルシウム(1%)。その他はコンマ以下、K、S、Na、Cl、Mg。海の成分はH、O、Na、Clでほとんど、微量のMg、Ca、K、S、Br。地殻にはO、Si、Al、Fe、Ca、Na、Mg、K。しかしこうした元素を人類は歴史の中でどのように学んできたのか。

古代ギリシャやバビロニア、中国などで考えられたのは4元素もしくは5元素。土、水、空気、火の4つ、もしくは木火土金水の五行思想。先祖たちは身の回りのものを利用するときに失敗と成功の経験から学んだ。それは銅、鉄、鉛、金、銀の5つだったが、元素としてではなく役に立つ金属材料としての銅に錫とヒ素を交ぜた青銅として最初に利用した。次の金属は鉛、融点が低く扱いやすいので配管に使われた。配管の英語Plumbingはラテン語から来ていて、Pbはこれに因む。鉛は甘みがありワインに混ぜ料理にも使われたので、富裕層ほど痛風や鉛中毒で死ぬ人が多かったが、原因は知られていなかった。ローマの支配者に障害者が多いのはこれが原因と見る歴史学者もいる。

その後、金、銀、鉄が使われる。金の精錬には水銀が使われ、多くの水銀中毒患者を出した。日本では水俣や阿賀野川でも有機水銀中毒の患者がでたが、中世アラビアでは、皮膚病の治療に水銀ローションが使われ、梅毒が広まるとその治療にも有効とされた。梅毒のほうが水銀中毒より悪いと考えられたためである。

アンチモンは眉墨やアイシャドウにも使われ、下剤としても使われた。貴重だったのでその錠剤は家宝として何度も再利用されたという。モーツアルトの死因はアンチモン中毒だった、という説もある。

空気には何が混ざっているのかを研究し始めたのは15世紀。ろうそくの燃焼、動物の呼吸などで空気の容積が変わることが分かると、それは何かと研究は進められ、酸素の存在が確認できた。18世紀に二酸化炭素を発見したシュウェップスはその後200年以上も炭酸水でビジネスを続けた。こうした4大元素論や経験からの脱却は18世紀のラヴォアジェによってもたらされた。ラヴォアジェはそれ以上分解できない化学物質が33種類あるとして、化学のとば口を開いた。

我々が知る元素周期表を最初にまとめたのがメンデレーエフ、19世紀の後半のことである。ソリティア好きだったメンデレーエフは元素をカードに書いて、それを並べて周期表を考えついたという。メンデレーエフが将来発見されるはずとして空欄していたもの以外に、当時知られていなかった希ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn)が抜けていた。Heは水素と同様質量が小さく、容易に宇宙へと拡散するが、放射性元素が崩壊することであらたに供給されるので、地下天然ガス田などで採取できる。

蛍光塗料として使われたラジウム、発見したベクレルはポケットに入れて持ち歩いたため火傷がたえなかった。エジソンの助手のX線透視装置開発担当は放射線障害で両腕を切断しその後死亡した。ラジウムは健康増進にも良いとされ、ミルクやバターにも添加され、腕時計の文字盤にも使われたため、工場では多くの女工が放射線で顔に腫瘍を患った。科学の進歩の途上では数多くの犠牲者がいた事、記憶しておく必要がある。

1940年以降に発見された元素はすべて粒子加速器による核反応で生成された。これにより現在までに118番目Og(オガリソン)までの元素が周期表には書き込まれている。Ogの存在が予想されたのは1922年のこと。学者によっては137番から172番までの新元素を予測する。自然界の存在する元素は94種類、地球誕生時に存在したのが84種類。つまり10種類は地球誕生以降に放射性崩壊で生じた。人工合成された24種類は地球上には存在しないが、宇宙のどこにもないとは言えない。本書は以上。

古代の哲学者から、中世の錬金術師、近代の強欲なビジネスマン、現代の放射線学者などにより積み重ねられてきた失敗と成功の経験、時空を超えた人間の物語だという気がする。しかし現在でも原子力発電所で働く人々の中から多くのがん患者が出ていること、強欲で無知な人たちの歴史を知っているはずの政府や企業はどう考えているのだろうか。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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