意思による楽観のための読書日記

月のしずく 浅田次郎 ***

いい話ばかりなのだが、浅田さん、話を作りすぎてはいませんか、と言いたい。本の表題になった「月のしずく」、長年千葉の工場で荷役労働を続けている中年労働者が偶然路上で男に振られた銀座の女を拾う。千葉の労働者である男にとっては、銀座の女はほど遠い存在、その女が自宅までついてきてしまった。女は急場を助けてくれた男に感謝するが、男はこの女に惚れてしまう。女はこんな田舎の労働者に関心がないが、男は真剣である。女は男の不器用さに怒鳴り散らしてしまうが、男の一途な気持ちに気がつく。どうなるんだろうな、と思うところでお話は終わる。

聖夜の肖像では、パリに留学していた若い頃好きになった絵描きの思い出を忘れられない女性がいる。今では不動産事業でそこそこの成功を収める男の妻となって何不自由なく暮らしている。男はこの女が自分に最高のパートナーであると信じているが、若い頃の恋人を忘れられていないことも知っている。クリスマスの夜、夫婦で出かけた表参道で、昔の恋人の絵描きに出会う二人。偶然に驚くが、夫は妻に似顔絵を描いてもらうよう勧める。絵描きは20年前の女の似顔絵を描く、女は今の幸せを噛みしめる、という聖夜の肖像。

ヤクザの息子の成長物語、「銀色の雨」、中国孤児の男の物語、「流瑠想」、不倫相手と別れた30女と、やり手デザイナーに振られた実直な営業マンの偶然の出会いを描いた「花や今宵」、戦前の出来事と思われる「フクちゃんのジャックナイフ」、母親に捨てられた悲しみをふれない女の物語「ピエタ」。どれをとっても人と人とのつながりのバリエーションだ。

手の込んだ設定なのだが、どこか嘘くさい、そんな設定は不自然だ、話がうますぎる、そんないい人はいない、などなど。鉄道屋(ぽっぽや)の話は本当に良くできた話、その小型版だ。
月のしずく (文春文庫)

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