意思による楽観のための読書日記

空海の企て 密教儀礼と国のかたち 山折哲雄 ****

「そのとき歴史は動いた」真言院設立の日までの空海の生き様、という空海論。

最初の書き出しは、ダビンチコードと空海コードを比較、昭和天皇、美智子妃、雅子妃、女系天皇後継問題と、どんどん脱線していく。天皇へのアドバイザーとしての空海は平安の昭和天皇の小泉信三だったなどという説も披露、しばらく脱線は続く。そしていよいよの本論。平安時代の8世紀、護持僧として天皇の健康と安全を司り、国家鎮護を祈る加持祈祷で密教を国家として押し進めさせることに成功した空海。空海は謎の人物である、自伝によれば、788年15歳で上京、母方の叔父阿刀大足(あとのおおたり)について学問をはじめて、生まれた讃岐の国を出、奈良の都の大学に入ったのは当時としては遅くて18歳の時。在学中に一人の沙門に出会う。虚空蔵求聞持(こくうぞうぐもんじ)法を教えられて以来、大学を飛び出す。阿波の大滝嶽、土佐の室戸崎で求聞持法を修めて、さらに吉野金峰山、伊予の石排山などでも修行した。この間の体験によって24歳にして東洋の三大教義である儒教・道教・仏教の比較論「三教指帰(さんごうしいき)」を著した。この中で空海は仏教を一番上位においている。804年4月出家得度し、東大寺戒壇院において具足戒を受け空海と号した。同じ年の7月長く中断されていた遣唐船が派遣され、遣唐大使藤原損野麻呂に従って空海は留学僧として乗船した、これは31歳の時で、かれは第16次遣唐使船に留学僧として乗り組んでいるが、18歳で大学に入り、中退して30歳を過ぎて遣唐使船に乗りこむまでの10年間、どこで何をしていたのか、当初は優等生であった最澄が行く予定であったのが、一介の修行僧空海が行けたのがなぜか、留学後最澄のように通訳もつけず、言葉に苦労することなく2年という短期間の研修、受戒で特別扱いされた、いずれも謎である。

空海の企ては、天皇を頂点にいただいた国の形の中に、密教の儀式と教えを組み込むこと、という。密教の即身成仏の思想を国家との「入我我入」として結びつけ、宮内大内裏の心臓部に密教道場の真言院を設立、天皇と国家の鎮護を祈祷できる体制を作った。これらを「密教コード」と呼ぶ。空海はどのようにして天皇に取り入って宮内祭祀を国家統治の仕組みとして組み入れることに成功したのか。 「ダヴィンチ・コード」にならい「空海コード」を論じる。中国から持ち帰った曼荼羅ー金剛界曼荼羅、胎蔵界曼荼羅を活用したのだと解説。玄、道鏡、空海の共通点をあげて、密教は奈良と平安という時代だからこそ国家の仕組みとして入り込めたのだとの歴史観を展開。密教コードの導入で元々あった道の存在との二元体制を確立、宮廷祭祀に神道と密教という二つの宗教儀式を組み込むことで国のかたちを生み出したと主張している。空海は天皇即位の際の大嘗祭と、毎年11月に行われる新嘗祭に着目、それぞれが執り行われる場所の中点に真言院を建てたというのだ。また、道鏡の時代の反省から神仏混淆が避けられてきたことに対して、そうではないのだ、という主張を通す必要が空海にはあった。もう一つは護持僧、玄、道鏡が天皇の看護僧としてあまりに力を持ってしまっていた、この反省から、護持僧という制度を持ち込む。護持僧は清涼殿に伺候して天皇の心身の問題を夜を徹しても加持祈祷し振り払う役割。護持僧の最初は最澄、次が空海だった。そして摂政・関白という天皇の代理人、アドバイザーの仕組み。これこそ象徴天皇の始まりそのものである。律令制度の中では摂政も関白も応急措置、「令外(りょうげ)の官」。摂政関白の仕組みを牛耳ったのは藤原氏、娘を天皇に嫁がせて皇子を生んだら、自分は摂政・関白となる、逆に皇子が生まれなければそうはならない、これが藤原家が摂政関白からはずれた原因ともなった。平安時代は350年の長きにわたって平和な時代だった、それはこうした密教コードのおかげ、空海の企ての結果だというのだ。

空海は即身成仏によって宗教的人格の完成をなし、832年8月高野山での万灯万華法会、835年正月以来行われることが恒例となった宮中真言院における後七日御修法(ごしちにちみしゆほう)など、空海の働きで始まった国家的儀式は数多くある。921年弘法大師の名をおくられている。空海が生きたのは天皇でいえば、光仁、桓武、平城、嵯峨、淳和、仁明の6代、その仁明天皇の承和元年という最晩年になって宮中に真言院の設立にこぎ着ける。空海の企ては、象徴天皇を頂点にいただく国体、現在にも連綿とつながっている。
空海の企て 密教儀礼と国のかたち (角川選書)
京都の寺社505を歩く<上> (PHP新書)
京都の寺社505を歩く<下> (PHP新書)
親鸞をよむ (岩波新書)
面白いほどよくわかる日本の宗教―神道、仏教、新宗教 暮らしに役立つ基礎知識 (学校で教えない教科書)
悪と往生―親鸞を裏切る『歎異抄』 (中公新書)

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