意思による楽観のための読書日記

誰が沖縄を殺すのか ロバート・D・エルドリッヂ ***

日本の神戸大学で政治学博士号を取得、大阪大学国際公共政策研究科准教授ののち2009-2015年まで沖縄の米国海兵隊政務外交部次長を勤めた筆者、日米同盟は最重要の同盟だという主張を背景に、今までの沖縄での基地反対運動の問題点を述べる。

指摘のポイントはいくつかあるが、まとめると次の通り。
1. 沖縄の二大新聞である琉球新報と沖縄タイムズは、基地反対の主張が強すぎて、中立的な報道ができていない。そのために沖縄に住む日本人たちは非常に偏った情報の上に判断を強いられることになっている。
2. 日米安保条約は民主的な手続きを経て日本がアメリカと合意した条約であり、日本の安全保障政策の根幹。歴史的経緯と対中国戦略から沖縄に多くの基地があることは事実であるが、だからと言ってアメリカ軍の基地が沖縄からなくなってしまっていいのだろうか。
3. 紆余曲折はあったが、正当に選挙された仲井間知事が一度は受け入れた辺野古移設、それは、その後政府間の交渉を経てアメリカとの約束にもなった。そののちに選挙で選ばれた翁長知事は、民意だからと言って、一度は国家間で合意した移設を反故にすると主張している。事実よりも感情論が先行した反対運動には、日本国としての安全保障ビジョンが見えず、第二次大戦後の最大のパートナーであるアメリカとの将来を見据えた良好な関係に好影響を与えない。

沖縄での議論の中には、複数の次元(関係)が存在する。日米の二国関係、沖縄県と東京にある政府という国内関係、沖縄県内での南北格差、名護市内でもひらけている西部と人口が少ない東部(辺野古のある側)の格差、辺野古の中にもある賛成派と反対派の対立、そして辺野古に暮らす各家庭内での対立、そして最後に個人の中にさえ存在する反対と賛成のせめぎあい。基地反対運動で表に見えているのは「オール沖縄が反対している」ような報道であるが、賛成派もいてサイレントにならざるを得ない雰囲気がある。基地をなくしたら沖縄の経済問題は解決するのか、教育や福祉、その他の問題はどうなのか。

日米同盟の今後の課題について筆者は次のように示す。
1. 国際安全保障の確保、テロ対策、防衛協力などで集団的自衛権行使が重要である。
2. 中国対策として、責任ある大国としての位置づけを認識させることが重要である。
3. イスラム系社会との融和対策における日米協力。
4. 国際的な経済的格差緩和における日米協力。
5. 地球環境との共生。
ここまでが筆者の主張。
筆者の主張で共感できるのは、事実に基づく報道が重要というポイントである。

沖縄基地問題は、基地の是非の前に、日本の安全保障政策をどうするのか、という判断とその上に立った政策実行が必要である。それは戦後の長きにわたり継続してきた日米安保条約を今後どのようにしていくのか、それともそれに代わる新たな安全保障政策に踏み出すのかという大きな判断であるはず。長期的にはその判断を受けて基地問題はどうする、ということになろうが、現時点では日米安保条約は民主主義手続き的には国民の判断として継続中であり、将来の安全保障政策を示さずして沖縄から米軍を追い出す、ということは非現実的である。しかし、国際情勢の変化と日本や米国の国力変化、時間の経過などの要素を踏まえた地位協定や条約本体も含めた日米交渉の継続も重要。つまり沖縄基地問題は日本の安全保障政策の問題である。

日本政府に求めたいのは、戦後国際社会と約束したポツダム宣言とサンフランシスコ講和条約を含めた歴史認識をあらためて明らかにすること、そして今後の日本国としての安全保障政策の方向性を示し、国連を中心に米国やその他の国際社会との折り合いをつけていくこと。憲法改正の議論はこうした手順の中の一つだと考える。国民の意見は二分するだろうし、こうした全体像を国民に示したうえでこれが現在の自民党政権でできるのか、はたまた民進党ならできるのかは不明瞭である。しかし中国の動きは海洋法条約に基づく仲裁裁定などもあり一層加速することも予測される。ゆっくりと時間をかけて議論したいところだが、今後数年、何が起きるかは非常に流動的とみるべきだろう。

参議院選挙は政権与党が勝利した結果とはなったが、最適な投票先が見当たらなかった末の投票だったように思える。現時点でいえば二大政党である自民党、民進党のなかから、基本的人権と民主主義を理解し、歴史認識がしっかりしたもっとバランスの取れたリーダーがでてきて、将来ビジョンを示し議論を進める素地ができないものかと期待するところである。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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