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意思による楽観のための読書日記

院政 もうひとつの天皇制 美川圭 ***

「院政」は譲位した上皇による執政のことで、律令制の始まる藤原時代の持統が孫の文武天皇に譲位し太上天皇と称られたときに上皇の濫觴がある。奈良時代までの上皇は持統、元明、元正、聖武、孝謙、平安時代になると平城、嵯峨、淳和、清和、陽成、宇多、朱雀、冷泉、円融、花山、三条、後三条と続くが、この時代には院政とは呼ばれない。その後の白河、鳥羽、後白河の三人が院政で約100年に亘り専権をふるい、鎌倉に入っても後鳥羽が鎌倉幕府側と権力を競い、後鳥羽による承久の乱以降、その権力は武士側の鎌倉殿、北条政権に移る。しかしその後も院政自体は継続し、形としては江戸時代まで残った。

古代の天皇には摂政という形で聖徳太子、中大兄皇子、草壁皇子という最有力な皇位継承者として位置付けられたが、摂政が幼帝の地位を脅かすことになりこの二者の両立は難しかったといえる。天武、持統、文武、元明、元正、聖武という7ー8世紀の皇位継承は中継ぎとして女帝が即位することで文武、聖武という二人の正統天皇の成長を待つ意味合いがあった。この時代の男性上皇は聖武だけであり、その後の100年に清和から花山まで7人もの上皇が輩出したのは摂政としての藤原氏が台頭しその制度が定着する期間とも重なっていた事実とは対照的である。

源氏物語の時代と重なる花山の後の、一条、三条、後一条、後朱雀、後冷泉は三条以外は在位中に亡くなるか死を目前にした譲位で、上皇としての活動はない。三条は道長とはそりが合わず、道長は天皇の眼病を理由にして外孫の敦成親王に譲位させ、三条上皇とは血のつながらない後一条となる。三条は息子の敦明親王への譲位を後一条のあとに期待したが、その時を待たずに死亡。東宮にはまたもや道長の外孫がなり、その後後朱雀となる。道長時代の藤原氏の権力は盤石にも思えたが、その力は子だくさんで多産なる娘を入内させることで実現していたため、道長を継いだ頼道には一人しか娘がおらず、さらに子がいなかったことが時代を動かす。道長には多くの息子もおり頼道にはライバルとなる多くの兄弟もいた。そして藤原氏を外戚としない天皇であった後三条が即位すると藤原氏の地位は一気に弱体化したのである。後三条は摂関家の収入源である荘園整理のための荘園整理令を発し、摂関政治への回帰を阻止しつつ意欲的な親政を行う意思があったが、院となり譲位後5か月で世を去ったため上皇としての事績は少ない。そのため院政の開始はその子、白河からとされることが多いが、後三条には実質的には院政と共通する多くの要素の始まりがあった。

朝廷での最重要事項は官位と位階を決める人事である。皇位継承の決定を頂点として、その他の公卿たちの上下関係が決まる。院政とは上皇がこの天皇の人事権を握り確立した時代を指す。摂関期にはその天皇即位の人事権までを藤原氏に奪われていた。後三条はその人事権を藤原家から取り戻した。しかし白河の次に異母弟の即位を望んだが、白河に阻止される。白河は堀川、鳥羽、崇徳とひ孫までの直系子孫を即位させることに成功。貴族たちの人事である叙位、除目は名目上は天皇が行うが、その人事までも裏から介入するようになり、院政を確立する。その時使われたのが「折り紙」であり、院の折り紙に名前が書かれた貴族が「折り紙付き」となる。

平安後期の白河から後鳥羽院政が天皇以下貴族の人事権を握った専制的院政とすると、鎌倉時代の後嵯峨に始まる院政は制度化された院政といえる。専制的院政の政治制度的側面は弱く、承久の乱での敗北は制度化されない仕組みの弱さを露呈した。制度化された院政で中心となるのは、院や天皇への申し入れ事項を蔵人、さらには側近女房などを通じて伝える院伝奏、所領に関する訴訟に結論を下す院評定制、幕府と朝廷の連絡役である関東申次である。さらに特定の訴訟を専門に受け持つ担当奉行の制度が整備された。

こうした院制度も室町時代、義満が征夷大将軍に就任する時代になると院伝奏に代わり、義満の意思が御教書として伝えられるようになる。関東申次を引き継いだ武家執奏を通じて関与していた朝廷人事や政務を直接義満が指揮する体制が出来上がる。義満の登場が院政の終焉となる。制度の形式だけは江戸時代まで継続したが、実質的な意思決定は武家政権で行われており、形骸化しつつも明治維新まで続いた。本書内容は以上。
 
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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