てんちゃんのビックリ箱

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ファン・ゴッホ展 in 名古屋 感想

2022-04-13 11:20:22 | 美術館・博物館 等
展覧会名:ゴッホ展―響きあう魂 ヘレーネとフィンセント
会期:2022年2月23日(水・祝)~2022年4月10日(日)
場所:名古屋市美術館
訪問日:4月7日
惹句:〈糸杉〉最後の傑作、16年ぶりの来日
構成:
 ・画家ファン・ゴッホ、オランダ時代
 ・素描家ファン・ゴッホ、オランダ時代
 ・ヘレーネの愛した芸術家たち:写実主義からキュビズムまで
 ・ファン・ゴッホ美術館のファン・ゴッホ
  (以下 ゴッホの居住した土地で区分)
 ・パリ
 ・アルル
 ・サン=レミとオーベル=シュル=オワーズ

0.はじめに
 この美術展はヘレーネ・クレラー=ミュラーというお金持ちの貴婦人がファン・ゴッホにこだわって収集して作ったクレラー=ミュラー美術館の作品群を展示したものである。一部ファン・ゴッホ美術館の作品がある。またミュラー美術館所有でゴッホに影響を与えたと考えられる画家の作品も展示されている。

 オランダで画家としての基盤を築いた頃の作品、パリ等でいろんな画家からの刺激を受け、技術を習得しようとしていた頃の作品、それらを基盤に独自の絵画を量産した死の直前の3年程度の間の作品が並んでおり、ゴッホの遍歴が理解できるいい展覧会であった。
 
 去年の9月に上野、次に福岡、そして名古屋の巡回展であり、8か月も日本に多量の作品を送り込んでいるミュラー美術館とはどんなところかをHPでみたら、ゴッホから現代美術まで展示しているかなり大きな美術館で、これだけを送り出してもゴッホなんかはまだまだ目玉があるという、とんでもない美術館だった。(改修中で休館かもと思っていたら堂々と開館している。) ゴッホの作品を294点持っている。
 定員制になっていたので、ある程度鑑賞条件はいいのかと思っていたら、人がいっぱいでがっかりした。これは黒川紀章設計のこの美術館の間取りの悪さも要因である。上野で見たらもっと好印象を持ったと思う。
 
 下記について感想を記載する。
  1.最後の短期間の技術の基盤
  2.ライティング
  3.サインについて
  4.その他

1.最後の短期間の技術の基盤
 ゴッホの魅力は下記と考える。
  ①的確かつユニークな造形
  ②独特の色彩感覚
  ⓷荒々しいうねるようなタッチ
 
 この内①については、今回の多数の素描の展示から、画家を志した初期段階で、非常に真面目に素描に取り組み、高い技術を取得していたことがわかる。それに浮世絵の外連味を知ったことから確立したのではないかと思った。
 


素描の例 <スヘーフェニゲンの魚干し小屋> (1882)
これは風景画だが、人物像も非常にきちんと描かれている。


  ②の色彩感覚、⓷のタッチについては、パリに来たことでいろんな新しい絵画を見て(印象派以降)技法を習熟しようとする作品を描いたが、以前にも考えたように点描派の影響が大きいことを再確認した。
 色彩に関しては、ゴッホが色弱であり普通の人とは違う色彩感覚を持っていたという考察もあるが、パリへ行く前の彼の絵画の色彩に違和感はない。
 今回彼が点描手法で描いた絵画が2点あるが、タッチの違いはあれ、その後の色調へとつながっていく。点描派では色を単純な色に分解し、それらの色を要素にしてまた組み合わせ塗り重ねることで色彩を再構成する。その再構成の時に自分の表現したい色を見定めたのだろう。 点の代わりに分解した色をうねった長いボリュームのある短いうねった線を重ねることで、色彩を出すとともに指向性や運動を表現する・・・彼のタッチは大発明だと思う。
 


<レストランの内部> (1887) 
ゴッホが点描を使って描いた絵、外光ではないところを描いたのが面白い。なお点描画はライティングでだいぶイメージが異なる。




<種まく人> (1888)
ゴッホがテーマを自分のほうへ持ってきて、点描技術も自分で展開して描いたものと思う。



2.ライティングについて
 展示前半は素描や覚醒前の絵画であるが、そこは普通のライティングだった。
 後半は最後の1枚を除き、暗い中から絵画1枚づつに斜め上方から丸い光でスポットライトをあてるライティングだった。
 そして最後の糸杉は、どうやっているのかわからないが絵画と額のみの四角いエリアをライティングしていた。
 このこだわりは、タッチをアピールしたいこと、大勢の観客がいるという意識をできるだけ抑えることとおもったが、ミュラー美術館では白いすっきりした明るい部屋で展示しているようである。
 今回のは多分タッチによる陰影が強調された状況になっていると思うが、ミュラー美術館のような自然光ぽい状況で配色が楽しめそうなライティングでも鑑賞してみたいと思った。



<上野での後半の作品のライティング>
名古屋は写真が見つからなかったが、同様のライティング。ただし名古屋は展示ピッチが狭く、上野がうらやましい。



<ミュラー美術館の展示状況> 
自然光ぽく、描いた状況に近くてもっと色彩の印象がたかまるはず
https://spice.eplus.jp/articles/292876


3.サインについて
 ゴッホはこれまでサインがないものと思っていた。しかし今回サインのあるものを見て、おやっと思った。そうしたらサインの入っているものを最後のほうで1枚見つけた。
 従来のサインしない理由について、彼は潔癖症で下記のように考えていた。
 ・作品を未完だと捉えていた。
 ・十分自分の意思や自分としての独自の技術が詰まっていない習作で、自分独自のものは  まだこれから書くと思っていた。

 この絵は今回来た絵画の中では最高額とのことである。入院していたところの庭の景色で、タッチはうねっているけれどもかなりおとなしく、なにか諦観を感じる。もしかすると、描けども描けども不完全と思っていたが、人生の終わりを感じて到達点として、サインした絵を残そうとしたのかもしれない。
 これはゴッホの情報が新しく入れば見直します。



<サン=レミの療養院の庭> (1889)


4.その他
 今回の目玉の星月夜の作品、見るのは2回目。以前と同様に絵の前の大集団が動かなくてやれやれだったが、うねうねと動きそうな糸杉を月の同心円が求心力を持って鎮める絵画で、やはりアイデア溢れていると思った。
 この絵をアニメ「ブルーピリオド」がコラボしている。多分こんな風に、見る人がそこの道を楽しく歩いてほしいと ゴッホは願ったのではないか。
 なお、コラボ作品の解釈もそれなりに面白い。ただ失礼と思う人もいるだろう。
 
 

<夜のプロヴァンスの田舎道>【1990)



<ブルーピリオドの作者によるコラボ作品>
ラフな格好の若者が、2人で夜道を楽しそうに歩いている。


なおここで掲載のゴッホの作品は、展覧会のHPによる。



コメント (2)
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