てんちゃんのビックリ箱

~ 想いを沈め、それを掘り起こし、それを磨き、あらためて気づき驚く ブログってビックリ箱です ~ 

大エルミタージュ展 in Nagoya

2017-08-17 23:54:03 | 美術館・博物館 等



<概要>
・正式名称
大エルミタージュ美術館展
オールドマスター西洋絵画の巨匠たち
・場所;愛知県美術館 
・会期2017年7月1日~9月1日
・観覧日:8月11日
・惹句「本物は裏切らない」
 エルミタージュ美術館展の決定版
 ロマノフ王朝、黄金期のコレクションが集結

東京で3月~6月、名古屋で7月~9月、そして神戸で10月から来年1月と3カ所 約1年弱 日本国内で開催される。そしてスタートの東京が森アーツセンターギャラリーだから、あまりたいしたことがないのではと期待していなかった。しかし、惹句の「本物は裏切らない」、そして金曜日は会場全エリアで写真撮影可能ということだったので、出かけることとした。

そして結論としては、「行ってよかった、さすが大エルミタージュ美術館」である。
16~18世紀の西洋絵画に絞り、有名な画家(オールドマスター)に絞って展示しており、作品の品質としては非常に良い。それにも関わらずエルミタージュ美術館としては、それぞれの作家の代表作品(エルミタージュ美術館のホームページやWikiに掲載されているレベルのもの)は、こちらに送られてきていない。
だから、これらが日本に1年弱来ていてもへっちゃらなのだろう。「大」の向こうに「偉大」が見える。だけどもうペテルブルグへ行けるチャンスはないよね。

展示会場は、イタリアのルネッサンスを皮切りに、伝播したその頃の新しい絵画が、各地の特性の中でどのように花開いていったかを展示するようになっている。その区分は以下の通り
・プロローグ (コレクタを始めたエカテリナ2世が飾ってあるだけ)
1.イタリア ルネッサンスからバロックへ
2.オランダ 市民絵画の黄金時代
3.フランドル バロック的豊穣の時代
4.スペイン 神と聖人の世紀
5.フランス 古典主義的バロックからロココへ
6.ドイツ・イギリス 美術大国の狭間で

 上記のような区分はあるが、別にその前後をあれこれ考えずに、眼の前の絵のすばらしさだけを見ていればいい展示会。(最近は展示品の集まりが悪く、変に解説を勉強しなければならないものが多いが、この展示会は安心。)
それぞれの時代での私が気に入った1点を挙げていく。

1.イタリア
 このブロックは、ルネッサンスによく見られる豊満な女性や聖書の話、繁栄している町の情景などがあった。ティッツアーノ、ストロッツィ、レーニ、パニーニ・・ 高名で周辺国に影響を与えた画家の絵が並んでいる。
部屋の真ん中でぐるりと見渡して、やはり最も魅力的だったのがこのティツアーノ作のこの女性。「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」。

(大エルミタージュ展公式HPより)


大きくくりっと見開かれた眼を主役の顔が生き生きとしていて魅力的。現代の飛び出してきても知的に現状を把握しきってしまうだろう。
そしてきゅっとしまった口元、しゃべり始めると言葉がナイフのように飛び出すだろう。そして、あっさりと「情けないわね。」って言ってくれるかもしれない。


2.オランダ
 オランダは経済的に栄えた頃で、絵画の中に一般民衆が多く登場している。そしてここのブロックでは、レンブラントやハルスの肖像画がメインであり、それもなかなか良い。しかし私たち(配偶者含む)は、ヘラルト・テル・ボルフ(2世)作の、「カトリーナ・レーニンクの肖像」を選んだ。

(私の撮影写真より)

 黒い背景に黒い服、金の刺繍のスカート、そして白い襟に首飾り。一瞬亡霊のようと思った。そういった状況の中で、知的で気品のある顔と表情豊かな手が、白く映えている。時代を感じさせない。
 黒い背景の広さと対象の小ささのバランスに、心惹かれる。単なる肖像画ではなく、何らかの想いが詰まっているのだろう。


3.フランドル (ベルギー近辺)
 バロック様式の巨匠ルーベンス、バンダイク、ヨルダーンスなどの肖像画が中心であるが、ここではブリューゲル一家の絵にする。
ピーテル・ブリューゲル(2世)の「スケートをする人達と鳥罠のある冬景色」

(大エルミタージュ展公式HPより)


この絵は、先日のバベル展でコピーを見ている・・・と思ったら、これは、一家謹製のコピーであった。すなわちバベルを書いたのは1世で、彼がこの絵の元の絵も描いた。それはブリュッセルにある。
この絵は天才的な模写能力を持つ2世がそっくりに描いたもの。ブリューゲルは民衆を大事に描いたが、この絵でも楽しくスケート遊びなどに興じる民衆を描いている。小さく枯れているが、いろんな格好で本当に楽しそうに見える。こういった絵画が成立していること自体が、資産が専制体制から民衆へ移っていることがわかる。 


4.スペイン
 ピレネー山脈の向こうは、やや赤っぽい土と小柄でがっちりした身体つきの人々と、北欧系とは大きく異なっていることを以前行ったときに知っている。美術においてもやはりその影響を受けて、ムリーリョ、リベーラ、スルバランなどが独自の絵画を描いている。
 この美術展では「神と聖人」と言葉を使っているが、墓場の形態から、この地域では死が身近で、逆に「神、聖人」への憧れが強いのと、ゴヤにつながる異世界への恐怖が強いものと思っている。
 ここでは、スルバランの「聖母マリアの少女時代」を選んだ。

(大エルミタージュ展公式HPより)


 スペイン系の顔立ちをしている可愛い少女。あどけない顔をしながらも 強い視線で空を、もしかすると神を見つめている。このあどけなさは、人の夜を知らない純なものだが、眼はすべてを受け入れようとしている。
 キリスト教への信仰のもっとも美しい姿となっていて、その頃の敬虔なカトリック教徒はこの絵にひれ伏しただろう。


5、フランス
 ここは、他国に比べてルイ王朝の圧倒的に煌びやかな絵画が並んでいる。他の国では描かれない男女の機微も表現され、軽薄なレベルまで許容されるという文化度の高さを主張している。日本人の大好きなベルサイユの物語の姿である。
 その中で この展覧会で看板に近い作品の フラゴナール&ジェラール競作の、軽薄の代表である「盗まれた接吻」を選びました。軽薄っていうのをエスプリって言う人もいるかもしれないが・・・・

(大エルミタージュ展公式HPより)


 婦人たちが賑やかにしゃべっている続きの部屋。たぶん社交デビューしたばかりで姉や叔母に連れてこられたであろう少女を過ぎたばかりの女性が、そこへ抜け出して少年と密会しています。彼は年下でしょうね。
 女性のまとう衣服の皺、ショールの流れ、腰のひねり方がとても魅力的です。さあ彼女はこれからどうするのでしょうか・・・ 少年が入って来た部屋へと一歩を踏み出し、そして・・・・、それともキスしただけで、もとの部屋に戻っていくでしょうか・・ 彼女は隣室の女性たちを気にしているけれども、実はこれは彼女たちのお膳立てで、さあどうなるかと結果をワクワクと待っています・・・・
 きっと、その頃の貴婦人や紳士たちはこの絵を見ながら、私の若い頃はとか言って楽しんだでしょうね。 (ここだけ文体が変わったのは、自分としても面白い。)


ドイツとイギリス
 ドイツはクラーナハを知っていたので狭間といわれてびっくりしたが、偉大過ぎるクラーナハ以外がいないということ。イギリスはターナーまで目ぼしい絵画がないと思っていたので、いい肖像画家がいるのに驚いた。でも確かにこの頃を扱ったイギリスの歴史映画の背景には、ちゃんと肖像画がかけられた部屋が登場する。

 ドイツはルターの宗教改革の影響を受け、スペインと違い清貧なプロテスタント側の影響を受けた。その状況下の代表的な作家がクラーナハ(クラナッハと私は学んだ)で、非常に純化した精神性を描いている。今回展示された「りんごの木の下の聖母子」でも、虚飾なく聖書にちなんだ聖母子の姿を描いている。

(大エルミタージュ展公式HPより)


 イコンの描き方の影響も見られるが、それよりも実際の人間に近い。聖母は気高く美しく描かれている。それに対しキリストはとても子供の顔とはいいがたい。訳知り顔の大人の顔である。いくらパンとりんごという宗教的なものを所持していたとしても、この絵を見た民衆はどう思ったであろうか。むしろそれを神と見なすのではなく、自分自身がそこにありマリアに癒されていると思ったのではないだろうか。
 
 イギリスでは、ゲインズバラの「青い服を着た婦人の肖像」。 

(大エルミタージュ展公式HPより)


 さすが清教徒革命を行った国。美しい人にこれだけ派手な髪型をさせても、フランスのような軽薄さはない。でも口元や紅の頬、そしてどこを見ているのか分からない泳ぐ視線、それは業となのかもしれない。また誘うように服を押さえる手元・・・・ 泳ぐ視線をかいくぐってすっと近づき、眼があうと同時に抱きしめたくなるほど魅力的である。

 今回の展覧会はオールドマスターズというように、高名な画家をまず選択しその代表的な作品を持ってきている。高名だけれども日本では見られない作家のものがそれなりにあり、またわかりやすい作品が多いのでお勧めです。

<追加>

 海外の美術館はほとんど写真OKなので、そこでは私も写真を大量に撮ってくる。今回も展覧会に入るまでは、やっと当たり前になったかと思っていた。(西洋美術館はすでに寄託品以外は写真撮影可能となっている。)
 しかし今回のような混んだ特別展で、写真撮影を許可するのはいけないと思った。写真撮影のモラルができていないので、絵の前を長時間占拠したり、思い切り絵の近くまでカメラを差し出したり、大きなシャッター音を出したり、フラッシュはなかったが測距離用のライトが点灯していたり・・・ そして本当に問題なのはスマホ等の画面の絵しか見ていないのではということである。やっぱり絵はちゃんと眼で直接見なければならない。

参考までに、私自身は部屋を一回り見た後、部屋の中央でぐるっと見渡して、特にと思ったものだけ撮りに行きます。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする