《相州七里濱》
富嶽三十六景の初期は藍摺りだったらしい。 本図では若干の緑色がのっている。 左端は江ノ島。 構図上、誇張があるのは仕方がないが、少しバランスが崩れている感じがします(中央の樹木の大きさ)。
《深川 万年橋下》
万年橋は、江戸深川を流れる小名木川が隅田川に合流する地点にかかる橋。 北斎は三十六景を書き終えた頃(80歳台半ば)、この付近に住んでいた。 力強い構図がいい。
《山下 白雨》
白雨は明るい空から降る雨、にわか雨。 稲妻を下にして泰然たる富士の構図、デザインが素晴らしい。
《甲州 三嶌越》
三島越は甲府から篭坂峠を越えて御殿場から三島へ抜ける道。 篭坂峠の風景とされる。 巨木の幹周りを測ろうとする旅人と富士。
ラーメン丼に描かれるような雲の表現が面白い。 右の荷物を背負っている女の子?はまたも裸足だ。
《東海道 程ヶ谷》
街道を行き交う人々の生活感が素晴らしい。 松並木がリズムを作っている。
《駿州 江尻》
静岡市近くの江尻宿。 強風で飛ばされる懐紙や菅笠が印象的に描かれていますが、何か風の力感がないと思ったら、葦原の葦や草の反り方が風向きと逆。 私が先日、琵琶湖岸で強風の写真を撮ったときの光景を思うと、どうも合点がいかない。 ところで、ここでの左側の懐紙が飛んでいる女性は、裸足でなく足袋のようなものを履いている。ほっとしました。
《下目黒》
江戸時代、目黒は田園。 段々畑や鍬を担いだ農夫、赤子をおんぶした農婦も左手で子供の手を引き、右手では鍬を持っている。 右の侍二人はともに鷹狩り。 ここでも暮らしを描いた北斎の技量が光る。
《青山円座松》
青山の竜岩寺の庭にあった笠松が当時の江戸でも名所であった。 この絵では松と富士を眺めて酒盛りをする人、手ぬぐいで手をつないで坂を上る親子?松の下で掃除をする人(足だけ)、右端に松の剪定をする人など細かい描きこみ。 富士の急峻な描きと笠松の円の対比など苦心の構図。