ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

いつか読書する日(2回目)

2024年05月29日 | なつかシネマ篇

前回鑑賞した時も思ったのだが、田中裕子演じる大場美奈子の生き甲斐が“読書”ではなくなぜ“牛乳配達”なのかが直ぐにピンと来なかったのである。もともと文才のある美奈子である。本の虫となって、本作に登場するおばさん(渡辺美佐子)のような小説家という設定が自然な流れだと思うのだが、脚本を担当した青木研次は、朝は牛乳配達、昼はスーパーのレジ係という過酷な肉体労働で主人公の美奈子をいたぶるのである。

よくこんな坂が多いロケ地を見つけたなと思うぐらいの激坂を、撮影当時53才だった田中裕子にダッシュで駆け上がらせるサド演出。まさに全力坂?(劇場版)だ。ヘトヘトに疲れきれば、ひとりぼっちで寂しくなってもコテンと眠りにつける、それが50才独女の孤独克服法なのだ。美奈子の部屋には、そんな孤独をまぎらわせる蔵書がずらりと並べられていて、これから読む本なのか、はまたまた今までの孤独を癒すため既読した本だったのかは、はっきりとはわからない。

今回“2度目”のレビューでは、高校時代に別れて以来、美奈子がずっと思いを寄せ続けている槐太(岸部一徳)の奥様容子(仁科明子)に呼び出され面会するシーンに是非とも注目したい。不治の病にかかっている容子に「私が死んだら夫と暮らして欲しい」と頼まれるのだが、「ずるいです」と煮えきらない返事をして帰宅してしまう美奈子。その直後、ベッド枕に身を沈めながら容子が「牛乳配達....」と呟くのである。な~んか意味深ですよねぇ。

2010年に『死刑台のエレベーター』のリメイク版を公開した緒方監督のタッチも、ヒューマンドラマというよりはサスペンス向きだ。美奈子をして“牛乳配達が生きがい”と言わしめた時、ある有名なノワール小説のタイトルがふと頭に浮かんできたのである。ジェームス・M・ケイン作『郵便配達は二度ベルをならす』。アメリカの郵便配達は必ず2度ベルを鳴らすのがしきたりになっていて、誰がどこに住んで何をしているのか(美奈子同様)配達員は予めそれを熟知している。当然居留守は使えず、二度目のベルは小説の中で決定的な意味合を持っているという。

その『郵便配達....』と同様に、本作においても重要な事件が2度起きていることに皆さんはお気づきだろうか。不倫関係にあった槐太の父親と美奈子の母親の交通事故死、そして、槐太の溺死である。おじさんの認知症と容子の病気、カレー小僧と万引き小僧なんかも、もしかしたら、もしかするのである。ノワール小説とヒューマンドラマという似ても似つかない2作品だけに、ちょっと《遠いなぁ》という感想を持たれるのかもしれない。

美奈子の“2度目の来訪”により、強制ストップをかけていた“愛”を確かめ合った2人だが、槐太の溺死により美奈子はまたもや“2度目の”孤独な元の生活に逆戻りしてしまう。空き家となった槐太の家に、それでも牛乳を届け続ける美奈子。それは多分、大切な人に自分の気持ちを知らせるための無言のラブレターだったのではないか。誰にも読まれることも無く、美奈子のアパートに並べられた沢山の本のように。

いつか読書する日(2回目)
監督 緒方明(2005年)
オススメ度[]


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