
フランスの名優フィリップ・ノワレとドイツが誇る名女優ロミー・シュナイダーの組み合わせ、そして“追想”というタイトルイメージから、本作を文芸ロマンスものと思われた方も多かったのでは。実はタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』の元ネタにもなっているリベンジ・アクション。当時人気絶頂を迎えていたロミー・シュナイダーが、ナチスドイツ兵士にレイプされた上に、なななんと火炎放射器で黒焦げにされるシーンが話題をよび、(故国ドイツでは非難ごうごうだったらしいが)フランスでは大ヒットを飛ばしたらしい。
愛娘&愛妻の死体を自分が持っている田舎のシャトーで発見する主人公ジュリアン。その職業が戦傷者の命を救う外科医というエスプリの効いた?設定がまずよいではないか。そんな素人のオッサンがナチスの軍人相手に復讐なんて、勝負にならへんのとちゃう?ところがどっこい、戦場となるお城が秘密の通路や入口がいたるところに隠された元自宅であり、なおかつ相手の兵士は敗戦濃厚で戦意喪失状態のナチス。十分戦いになるのである。
問題のレイプ&丸焦げシーンは映画序盤に登場するため、件の名女優の出演シーンはジュリアンの“追想”の中がほとんどなのだ。にもかかわらず『ルードヴィヒ』でその演技を巨匠ヴィスコンティに絶賛されたロミーの存在感は抜群で、結果ナチスドイツの兵士を一人で皆殺しにするノワレを完全に喰ってしまっているのである。本作のような汚れ役をロミーが率先して引き受けた理由は、デビュー当時に演じた“シシー”役のイメージ払拭のためだけではないだろう。
オーストリア・ウィーンの高名な俳優一家に生まれた彼女だが、その生い立ちはけっして幸福なものとは言いがたかった。ナチス高官とも付き合いが深かった実父は放蕩三昧、その死後、継父となった男からは公私にわたり執拗な束縛を受け、男に対して異常な警戒心を抱くようになったという。品格と退廃が同居するロミーの演技には、もしかしたらそんな複雑な家庭環境が影響していたのかも知れない。
夫の首吊り自殺、そして息子の変死事故等による心労が重なり、晩年は薬物依存となり43歳という若さでこの世を去ったロミー・シュナイダー。劇中では、夫ジュリアンに死んでもいいと思われるほど深く愛されたロミーだが、「結局私は誰からも愛してもらえなかった」と生前寂しそうに語っていたという。男の前では一時たりとも隙をみせることができない自分の頑な性格を唯一壊すことができる場所、素の自分に唯一戻れる場所、それがスクリーンの中だったのかもしれない。
追想
監督 ロベール・アンリコ(1975年)
オススメ度[


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