
共同脚本家のチャールズ・ブラケットと袂をわかち、ワイルダーが新たなスターを切った第1作目にあたる。いわゆる“やらせ記事”によるマスコミの腐敗を暴き出した本作を、自身「カクテルをのぞんでいた客に出した酢」にたとえているように、トーンはきわめて暗い。ブラケットとの最後の仕事となった『サンセット大通り』同様、コメディを得意とするワイルダーの暗部が覗き見られる1本である。
NYの一流新聞社をクビになり各地を転々とした後たどり着いた、アルバカーキーにある場末の新聞社。“TELL THE TRUTH” をモットーにするそのサン新聞社に雇われてから1年、何もおこらない平和な記者生活にフラストレーションがたまっていたテータムは、落盤事故で生き埋めとなったある男のニュースを偶然耳にして……
スマホで撮ったスクープ映像がTV局に何百万円で売られる現代ならば、ちょいとYOUTUBEをのぞきさえすれば、本作に登場するようなやらせ臭いハプニング映像などすぐに見つかるはず。中国やロシア海軍による領海侵犯映像が予め予告されていたかのようなベストアングルでTV放送局のカメラに映っていても、何ら不思議に思わないくらい“やらせ”にドップリ浸かってしまっている私たち。
一見タレントのアドリブと思えるバラエティー番組の爆笑シーンでさえ、こんな細かいことまで台本に書かれているのかと我が目を疑うほど、そのヤラセぶりは細部まて徹底されているという。テータムが書いた新聞記事をきっかけに、まるで観光客気分で事件現場に駆けつける群衆のみなさんは、なぜかマスコミに騙されることに快感さえ覚えている現代人とクリソツといえないだろうか。
その気になれば直ぐに救出できるのに、ドラマを盛り上げるためにわざと時間のかかる方法を選択させるテータムとグルになった保安官。そもそもインディアン遺跡に盗掘に入る方が悪いのだが、それを自分の手柄にしようと悪知恵を働かせるテータム(カーク・ダグラス)が救いようのないクズ男として悪意たっぷりに描かれているのである。
盗掘男と愛のない結婚生活を送っていたロレーヌ(ジャン・スターリング)にしてみれば、まさに棚からぼた餅。テータムに体でお礼をしようと接近すると、ここでまさかの往復ビンタ。終始眠たげな目をしていたスターリングが、このときばかりは「何すんのよ」状態で涙目をひんむくシーンがとても印象的だ。「そうだ、そのまま悲しい女を演じていろ」自分の出世のためなら手段を選ばない非情な男には、この後案の定天罰が下るのである。
救出まで後ちょっとというところで盗掘男レオは“穴”の中で息絶え、テータム自身もちわげんかの末、ロレーヌに刺され腹部に“穴”が開いてしまう。記事に“穴”を空けられ鶏冠にきたニューヨークの大手新聞社もまた、ネタを独占していたテータムとの契約を打ち切ってしまうのである。まさに“墓穴”を掘った男の物語なのである。
地獄の英雄
監督 ビリー・ワイルダー(1950年)
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