
こと経済学の分野においては、未来予想を的中させた学者の意見が幅を効かせるらしい。ちょっと前までは、グローバリズムの輝かしい未来を語る経済学者が全体の半分ぐらいを占めていたように記憶しているが、2023年のNHK正月特番に登場した学者や大学教授たちの中でそれを(自棄糞気味に)かたっていたのはわずか一人だけ。残りは全て未来悲観論者に鞍替えしていたのには本当に驚いた。
ドイツとフランスという過去に遺恨を残している国同士の結束に尽力したグローバリストフランス人ジャック・アタリでさえもはや諦めムードだ。これからはアフリカの時代だなんて息巻いていたあの勢いはどこにいったのだろう。プーチンのウクライナ侵攻により未曾有のインフレに見舞われているヨーロッパには、いまや不信感が渦巻き分断がものすごい勢いで進んでいるというのだ。このままいけば近い将来EUの解体もありうると私はふんでいる。
頼みのアメリカもウクライナへの武器供与で国内債務はさらに膨れ上がり、議会の左傾化により紛争地帯への軍隊派遣もままならない状況だ。シュンペーターの古典理論を持ち出してFAANGの新たなイノベーションに期待する向きもあるようだが、かつてのイノベーターが覇権を握るとM&Aにより逆にイノベーションの芽を摘み取ってしまうという議論も現在盛んに行われているらしい。いずれにしてもバイデン政権が巨大化しすぎたIT企業解体を目論んでいるのは間違いなく、その大統領当選に間接的に貢献したIT企業にしてみれば複雑な心境だろう。
ならばGDP世界第2位の中国はいかに。一にも二にもコロナ禍の対応を誤ったがゆえに国内で習近平離れが一気に加速、党内人事で中央集権化が進んだのも共産党支配体制の弱体化を食い止めるための苦肉の策だったのであろう。世界人口で中国を上回ったインドにしても成長率は伸び悩んでおり(隣国バングラデシュにも遅れをとっている状態)、人口の多さがかえってコロナ禍沈静化の足かせになって経済成長の停滞を招いているのだとか。台湾やウイグルの独立問題への対応をもし誤れば習近平一極体制にとって致命傷ともなりうるだろう。
さて、我が国日本に対して海外の専門家はどんな見方をしているのだろうか。かつてサッチャリズムを経験しブレグジットをはたした後未曾有のインフレに見舞われている英国と比較すれば、まだましな方らしい。それはなぜか。インフレに見舞われている他の諸外国が供給をコントロールすることによってインフレを押さえ込もうとしているのに対し、日本は需要をコントロールすることによって奇跡的にインフレがさほど進んでいない状況だという。
第一次石油ショックの時と同じく、(岸田首相の掛け声むなしく)企業が支払う給与がほとんど上がっていない(むしろ下がっている)現状が功を奏しているというのだ。言い換えれば、日本人のがまん強い性格がたまたまいい方向に転んでインフレを抑制しているということらしい。しかし中長期的にみれば、国民の超高齢化及び少子化にはまったく歯止めがかかっていない状況なわけで、日本政府は経済中国いな経済小国への道筋を今のうちにきちんと示すべきだ、との厳しい意見まで飛び出している。
どこをどう見まわしても現状経済的に弱含みの国家ばかり。弱りきったグローバル資本主義経済が滅びる直前のあえぎ声を苦しそうに発している状況だという。メタバースや月開発などの実体経済に結びつかない夢を国民に見せて、各国首脳が現を抜かしている場合ではない。プーチンが西側国家に突きつけてみせた構造変化=『金融経済→実物経済』への逆流現象を見逃した国家は、もはや生き残る術さえ永久に失われてしまうのだろう。中国や韓国、東南アジアからの移民受け入れにいまだに消極的といわれる日本とて例外ではないのである。
欲望の資本主義2023
逆転のトライアングル
NHK BS(2023年1月放送)
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