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表現者の業~美空ひばりとスタン・ゲッツ~

2004-09-26 22:59:42 | ジャズの話題
今日テレビで「我が心の美空ひばり」とかっていう番組を見てた。
息子(養子)の加藤和也の視点から、生前に関わった色々な人のインタビューを交えて亡くなるまでを追っていくという内容だった。
やっぱり美空ひばりは偉大な歌手だったと思う。

晩年のステージの映像をかなりの数流していたんだけど、やっぱり苦しそうなのね。
どんな病気だったのかは良く知らないんだけど、痛みで立っているのもやっとだったらしいね。
苦痛でブレスが続かずに、フレーズが途切れ途切れになってたりしてた。なんせ2小節も息が続かないんだよ。
最後の歌声として残っているテープなんかを聴いても、ブレスに必死でフレーズの出だし出だしが遅れがちになってモタってしまって、テンポに乗り切れていなかったり。
それでも歌として破綻したりする事がなくて、全体として見ればきちんと聴けるものになっているという・・・・・凄いなと思った。

この番組をみているあいだ、ずっとStan Getz(スタン・ゲッツ、ts)の大好きなアルバム「People Time」の事が頭に浮かんでは消えてを繰り返してた。
このアルバムはGetzの遺作で、美空ひばりと同じように末期がんで立っているのもやっとの状態で収録されたライブ盤なのね。
ステージの合間合間に痛みで気絶することすらあったらしい。
このアルバムは誰もが認める90年代の名盤に数えられるでしょう。
音があったかくてね・・・・・テナーの響きとKenny Barron(ケニー・バロン、p)のピアノの響きが溶け合って、暖かくて暖かくて・・・・・まるで木漏れ日みたいな演奏。
Getzの遺作だとか末期がんだったとかを差し引いても感動するよ。

以前にも書いたけど、演奏者の事情とか状況と、なされた演奏そのものは切り離して考えるべきだって・・・・・。
でね、それは確かにそうなんだけど、この感慨はそれとはまた別のところでね・・・・・美空ひばりもStan Getzもさ、何で痛くて苦しくて仕方がないのにステージに上がり続けたんだろう・・・・・って。
ああまでしてステージに立ち続けたいというモチベーションは一体どこから沸いてくるんだろうか?。
ベッドで横になってた方がずっと楽なのにね。

Getzに関しては、亡くなる5年前の88年に、もう肝臓癌の末期だって告知されていたらしいね。
周囲はその当時に行なわれていたツアーが、Getzを見ることができる最後のステージになるだろうとかって騒いでいたらしいけど、Getz当人はいたって冷静に、面白そうにその様子を眺めていたようで、「そんなに簡単にくたばってたまるか」という感じだったらしい。
それから亡くなるまでにこの「People Time」を含めると9タイトルのアルバムを残す・・・・・ツアーも頻繁に行なっていて、もうその意欲たるや凄いのね。
ギンギンに脂ぎって燃え燃えの活動をしてしまうのさ。
癌だからっていって落胆してキャリアを終えてしまう事は決してなくて、最後まで前向きなんだ。もちろんそれは自身の治療費を捻出するためという事情はあったんだろうけど、それにしたってね・・・・・。
普通自分がかなりの確率で助からない病気に掛かっていて、日々その苦痛を感じながら生活しなければならないとなったら、何某かに前向きに取り組んでやり尽くす事ができるかっていうと・・・・・できないよね。
まぁ僕は絶対にできないでしょう。俗物ですから(笑)。
この「People Time」の演奏自体にも、粗を探すような聴き方をすれば難点はいくつもあるんだけれども、死への恐怖とか絶望感、苦痛による哀感なんかは一切感じないのね。
ひたすら暖かくて、優しくて優しくて・・・・・こんなあったかい演奏があるんだなぁって。

芸術家にしろ、スポーツマンにしろなんにしろ、表現者の業ってあるんだろうね。
記者が戦地に死を賭してでも取材に行ってしまうように、表現者には何をおいても表現する事に邁進させるだけの、説明のつかない業のようなものがあるんでしょう。
死ぬ事って自分が消えてなくなる事でしょ?。物理的にも社会的にも存在しなくなる事。影響は残ったとしても、自身の思惑や感情、存在はすべてなくなるよね。
それを目の前にしても表現し続けられるって、人間って凄いなぁって・・・・・人間の業って、ある意味死を超えるんだ。

こんな事書くのはいかにも感情的でウエットで僕の好みではないんだけれどもね。
酒のせいかな・・・・・なんだかセンチメンタルだ。
安眠盤として「People Time」を聴いて寝ます。

ではでは。

2 コメント

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暖かさ (ヨックタイ)
2004-09-26 23:34:08
直接には関係ありませんが、楽器ってとても不思議だなぁと思うことがあります。同じ楽器で同じ曲を同じように弾いても、違うんですよね。技術的な問題ではなく、何かが。そしてその何かは演奏者の性格を伝える。性格だけではなく、気分まで。
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そうですね (TARO)
2004-09-27 19:20:38
同じ楽器を演奏しても演奏者によって音が違う。

これは不思議ですよね。

随分前ですが、クラシックピアノの国際コンクールの放送を見ていて、中国だったかな・・・・旧ソ連だったか・・・・社会主義国の人で、なんでこの人はこんなに鋭い音が出せるんだろうって思った事があります。

そりゃぁ貧乏人から這い上がって、勝って帰ったら将来まで生活が保障されるような土壌から来てるんだから、音も鋭くなるよなぁって・・・・。



では今日はその楽器について少々書いてみます。
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