これは、30年ぐらい前に父が母の誕生日にプレゼントしたかばん。父が知り合いの革をやっている人に注文して作ってもらったみたいです。あいにく2人とも今はもう天国の人になってしまったので、これは言ってみれば形見なのです。
で、ある日押し入れにしまっておいたのを出してみると、縁の皮ひもがあっちこっち切れているではないですか!でも、それさえ直せばまだまだ使えそう。何とかして生き返らせたいな・・・ってずっと思っていました。でも、皮ひもは難しそうな編み方で編んであって、どうしたら直せるのかぜんぜんわからなかったのです。
それで、革工房の先生に相談して、直し方を教わりながら作業を進めることに。でも、私の考えは甘かった。切れた部分だけ直せばいいのかと、高をくくっていたんです。とんでもありませんでした。結局、ひもが古くなってちょっと手で引っ張るとぼろぼろと落ちていく状態だったので、全部解いて分解することに。そして、表面も色がはげていたので、染め直し、裏地もはがせるところははがして付け直しました。反りも水をつけて曲げ直して・・・。
「先生、これって、一から作るのと変わらないんですね。もっと簡単にできると思いました。」っていったら、「直すのはね、一から作るのより大変なんだよ」だって。
でも、この道40年の大御所先生と作業していて面白かったのは、当時の制作過程がわかったこと。先生によると、「これはいい仕事ですね。きちんと作られてますよ。こういうのは、直せるんだよね」とか、「裏側は買い置きしておいた豚革を使っているみたいですね」とか、「ほかの部分はとても丁寧なのに、なぜここだけ端の止め方が一重なんだろうなあ」などと言うのです。かばんを触るだけでかばんの生い立ちがわかるなんて、すごい。
というわけで、直すのに約20時間ぐらいかかってしまいました。2箇所ほど穴がつながってしまっていたので、補強の革を外から貼らざるを得なかったですが、全体としては綺麗に仕上げることができました。先生いわく、まだあと30年ぐらい持ちますとのこと。
でも、なんとなくもったいなくて、なかなか使えないなあ。
(2枚目の写真は、1979年頃のもの)