燈子の部屋

さまざまなことをシリアスかつコミカルかつエッセイ風に(?)綴る独り言的日記サイトです

『オーシャン・オブ・ファイヤー』

2004-09-28 00:00:00 | 映画
学生の頃、映画好きの友人のお陰でよく映画を観に行ったものだ。
1時間や2時間は平気で待つことができたし、その間のおしゃべりもまた楽しかった。
ところが結婚してからは、ほとんど映画館に足を向けなくなった。
友人と会うことが少なくなったのが大いに影響しているが、
何よりも「待つ」ことに対する耐性がなくなってしまったことが最大の原因だと思う。
何を隠そう、夫は待つのが大嫌い。
その影響を大いに受けたものと思われる。
結婚して変わったことはいくつかあるが、そのほとんどは私に起きたことで、
夫が私の影響を受けて変わったことなど何一つないのではないか、という気がする。
(夕飯の時にでも聞いてみよう。)
そういうわけで、いつも通り、レンタルによる映画鑑賞である。

 
映画『オーシャン・オブ・ファイヤー』(2004年米)

あの『ロード・オブ・ザ・リング』でアラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセンが主演。
時は19世紀末期。アラビア砂漠で行なわれた決死のホース・レースに挑んだカウボーイの
フランク・ホプキンスと愛馬ヒダルゴの友情を描く。
『アラビアのロレンス』のオマー・シャリフ共演。
『ジュラシック・パーク』のジョー・ジョンストン監督。

さっそくだが感想は、「よかった~!」

事前に予告とかを見ていなかったので、
変な先入観や期待感を持たなかったのがよかったのかもしれない。
宣伝ではアクション・アドベンチャーなどと紹介されているようだが、
それはちょっと違うかな、という気がする。
私の感覚では、アクションでもアドベンチャーでもない。
孤高のカウボーイとやたら賢いマスタングの地獄のようなレースの話だ。
地味と言えば地味である。
でも、良いのである。

原題は「Hidalgo」。馬が主人公なのだ。
邦題は、シリアのダマスカスへ至るアラビア半島縦断3000マイル(約4800キロ)走の
レース名から取ったようだが、それがわかるのは映画が始まって相当経ってから。
タイトルだけを聞くと、消防士が主人公の映画なのかと勘違いしそうだし、
舞台が砂漠とわかった後では、殊更にアドベンチャー感を煽られる。
インディ・ジョーンズやハムナプトラなどのような映画を期待すると落胆するだろう。
原題を変える必要はなかったと思う。邦題の命名には一考を要する。
マスタングは16世紀の初めにかのフェルディナンド・コルテスがスペインから
メキシコに持ち込んだ馬で、そのときの系統が半野生化した馬だそうだ。
性質は非常に荒く、手のつけられない暴れ馬だが、
飼い馴らすことができれば、優れた騎兵馬になるのだという。

さて、フランク・ホプキンスは数々のクロスカントリーで優勝した実在の人物だ。
その生涯から着想を得たらしい映画なのだが、伝記などを読んでいないので詳細は不明。
でも、ドキュメンタリー映画を作ろうとしたわけではないのだから、
娯楽映画らしい誇張やハリウッド的設定などに目くじらを立てることもないだろう。
レース最後でアラブ人たちから“カウボーイ・コール”が起こるのもご愛嬌。
この映画では、フランクは南軍兵士とスー族の女性の間に生まれたとされている。
彼はマスタングのヒダルゴに乗って速達郵便を配る仕事をしていたが、
あるとき、ウーンデッド・ニーに駐留する騎兵隊に届けた郵便がきっかけで、
その騎兵隊がスー族を大虐殺する現場を目の当たりにし、トラウマを抱える。
その後、バッファロー・ビルでのワイルド・ウエスト・ショーに参加したりするが、
酒浸り、呑んだくれの日々を送っていた。
そこへ早馬ヒダルゴの噂を聞きつけたアラブの族長の側近が、
アラビア半島でのレース参加をフランクに持ちかけるのだ。
マスタングはサラブレッド(純血種)に勝てない、ということを証明するために。
本来は、王の血族と高貴な血筋を持つアラビア馬しか参加できないレースである。
そこへ例外としてフランクとヒダルゴを参加させようというのだ。
ヒダルゴに自らの出自を投影していると見えるフランクは、
10万ドルという賞金の魅力も手伝ってか、レース参加に同意する。

実際にこんな過酷なレースが開かれていたのかどうかはわからない。
優勝するとサラブレッドの独占種付権を得られるということだったが、
馬に詳しくない私にはあまりピンと来ない。
そこで、現実に公示されている種付料をちょこっと調べてみると、
1回あたり数十万から数百万円もしている。
となると、名馬ともなれば数千万はいくだろうから、
名馬ならたった1頭でも数十億の金が動いていると思われる。
ここでようやく、独占種付権というのはすごい特典であり、
この映画に出てくるイギリス出身のレディを始めとして、
他者を妨害してでも優勝したくなる気持ちがわかったのだ。

でも、本当はそんな話はどうでもよくて(!)、
この映画はフランク・ホプキンスとヒダルゴの伝説に終始すべきだったと思う。
レース妨害するレディも、アラブ人女性の人権について信念を持っている族長の娘も、
ここでは全くご無用って感じなのだ。
中途半端に描くくらいなら最初から描かないほうがいい。
ネイティブ排斥運動についてもそうだ。
さっき、目くじらを立てることもない、と書いたけれど、
娯楽映画なのかメッセージ映画なのか、はっきりしない描き方が残念だった。
お茶を濁した程度に描くのでは逆効果だなあと思う。
もっとも、ヴィゴ本人は来日記者会見で、

「あまりあからさまなメッセージが前面に出ていると、
 人は引いてしまうのではないか。
 映画というのはまず観客に楽しんでもらわなくては―」

というようなことを言ったそうである。
まあ、それは確かにそうだ。
興味があるなら、そこから先は自分で調べればいいわけで。

大自然の世界では純血種など実に不自然であるにも関わらず、
ペット市場では相変わらず純血種がもてはやされている。
ことはペットだけにとどまらない。
特定の人種や文化が優れていると考える思想は紀元前から存在し、いまだに廃れない。
純血をよしとする考え方がいかに危ないものかを語ったヴィゴは、
自身がデンマーク人の父とアメリカ人の母を持つハーフだ。
旅行好きな両親に連れられて、アメリカ、ベネズエラ、アルゼンチン、デンマークで
育ったヴィゴは、バランス感覚に優れ、ナイーブで奥ゆかしい人のように見える。
いくつかの記者会見やインタビューを読んでみたのだが、
彼の人となりが見えてきて、俄かにファンになりそうだ。(すでになってる?)

というわけで、ヴィゴ・モーテンセンか馬のどちらかでも好きな人は、お見逃しなく♪

 
※彼は撮影後、ヒダルゴ(本名は“T.J.”という)を買い取ったそうである。
 実際にはマスタングではないのだが、マスタングの特徴がよく現れた馬なのだそうだ。
 こどもの頃に乗り慣れているためか、乗馬シーンはスタントなしというからすごい。
 ちなみに『ロード・オブ・ザ・リング』で乗った二頭の馬も買い取ったとか。
 こういうエピソードに弱い私であった。

『オーシャン・オブ・ファイヤー』追記


(次を読む ※一部ネタバレあり)


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