
まず最初にブリッジの正確なポジションを見つけます。テープを貼り付けてその位置を見失わないようにします。この時、ブリッジ全体を1/64”ほど後ろにもってきてました。BFTSやナット側でスケールを短くしてピッチをとる方法等一般的ですが、アーチトップの場合、ブリッジ側でも出来ます。その後にチョークをブリッジ・ベースの大きさに塗って準備完了。
ブリッジをそこへ置いて作業開始。サンドペーパーを使って合わせる作業をすると、ブリッジをアーチの上で動かして削るので、その分、確実に合いません。良い材を使って完璧に製作しても、ここが悪いと全てが無駄になります。
ブリッジの音への影響はみなさんの想像を遥かに越えている、と断言します。一度、リペアで古いL5のブリッジをチョークを使って合わせたら、全く別の楽器になりました。勇気がある方は、一度お手持ちのギタ-のブリッジをチョークを使って調べてみて下さい。真実が「見える」はずです(笑)。

ブリッジを「押し付ける」感じ。
チョークがついている部分、これがトップのアーチに触れている場所、つまり他と比べて出っ張っている場所なので、そこをナイフを使って削り取ります。ナイフはスクレーパーの様に使います。下の写真は作業開始から一回目の「チョーク・フィット」ですのでほとんどついていませんね。

左角に少しだけ白い粉
チョークがついた部分を削り取って再度「チョーク・フィット」。そしてまたまたチョークがついた部分を削る。また戻して、、、と、延々この作業をくり返します。朝九時半から始めてブリッジ全体がチョークで真っ白になったのが、午後三時。とても根気がいる。
やれやれ。やっとブリッジ全体がアーチに密着したな、お疲れさま、、、と、ここで終わりではありません。このままの状態だと弦を張った時に、弦からのテンションがグルー・ジョイント、つまりトップのスプルースの木と木の繋ぎ目にストレスがかかってしまいます。理由は弦を張っている時と外している時(ブリッジを合わせている作業時)でアーチの形が違うから。実際にトップに手でテンションをかけてみると、アーチの形が変わるのが見えると思います。アーチが少し「沈む」感じでしょうか。
正確に作られていないブリッジを持つギタ-は寿命が短いと思います。年月が経つにつれて、ブリッジを高くして同じ弦高を保っていく事になると思います。これはアーチトップ・ギタ-のトップが少しずつ「陥没」しているから。この状態が悪化するとネックにも影響を及ぼします。アーチトップ・ギタ-で14フレットから上が反ってしまい、指板を削ってまっすぐにしたという話は頻繁に聞くと思います。これはトップが陥没した分、ネック・エクステンションを下から押し上げているんですね。
また、ビンテージと呼ばれる楽器に良い音がするモノが多いのは淘汰の結果だと個人的に思います。各部の作りこみや精度が正確な楽器は長生きしますし、良く鳴ります。ああいう楽器は新品だった当時から素晴らしい音がしていたと感じています。
さて。
ここからはブリッジの真ん中から両方の外側へ向けて少しずつ削っていきます。
今度はチョーク・フィットする時に両手で弦のテンションと同じストレスをブリッジにかけます。こうする事で実際に弦が張られている時のアーチの状態を強制的に作り出して、今度はそこへブリッジを合わせる事が可能になります。
こういう鬱陶しいほどの執着心は、スティーヴンが言う所の「ネクスト・レベル」に到達するためには必要不可欠だと思う。昨日も僕が何てことはない普通の作業をしている時に、使用する道具の選択を間違って、久し振りにかなり怒られた。「その道具を使ってその作業するの?それはシロウトのやり方だよ。お前は普通の製作家になるためにここに来たのかい?」って。悔しいんですけどね、まだまだ修行が足りない。
ヴァイオリン製作家のライアンは、先日クビになりました。彼は十年以上プロとして製作してきて、とても高い技術を持っていたのですが、メンタルな部分で「普通の製作家」でキャリアが終わるだろう、とスティーヴンの厳しい判断。僕が横で見ていても、ライアンはスティーヴンの楽器製作に対する狂気の執着心に、いつも押し潰されていました。負けずに跳ね返せない彼に時間を使うのは意味がない、と見切りをつけました。厳しい世界です。
さてさて。
完成したブリッジはこんな感じ。

中央へ向かうほどチョークが薄い。
これで実際に弦を張った時(トップが少し沈んだ状態)に、ブリッジ全体からトップへ均等にテンションが伝わります。試しにブリッジを動かそうとすると、とても大変。トップとブリッジの密着度が高いので、ブリッジを押し付けてみると「フッ、フッ」と空気が漏れる音がしますし、手にもその「吸引力」のようなモノが伝わってきます。
見た目はなんてことはないブリッジですが、その「裏側」にこのような秘密が隠されています。
ブリッジをそこへ置いて作業開始。サンドペーパーを使って合わせる作業をすると、ブリッジをアーチの上で動かして削るので、その分、確実に合いません。良い材を使って完璧に製作しても、ここが悪いと全てが無駄になります。
ブリッジの音への影響はみなさんの想像を遥かに越えている、と断言します。一度、リペアで古いL5のブリッジをチョークを使って合わせたら、全く別の楽器になりました。勇気がある方は、一度お手持ちのギタ-のブリッジをチョークを使って調べてみて下さい。真実が「見える」はずです(笑)。

チョークがついている部分、これがトップのアーチに触れている場所、つまり他と比べて出っ張っている場所なので、そこをナイフを使って削り取ります。ナイフはスクレーパーの様に使います。下の写真は作業開始から一回目の「チョーク・フィット」ですのでほとんどついていませんね。

チョークがついた部分を削り取って再度「チョーク・フィット」。そしてまたまたチョークがついた部分を削る。また戻して、、、と、延々この作業をくり返します。朝九時半から始めてブリッジ全体がチョークで真っ白になったのが、午後三時。とても根気がいる。
やれやれ。やっとブリッジ全体がアーチに密着したな、お疲れさま、、、と、ここで終わりではありません。このままの状態だと弦を張った時に、弦からのテンションがグルー・ジョイント、つまりトップのスプルースの木と木の繋ぎ目にストレスがかかってしまいます。理由は弦を張っている時と外している時(ブリッジを合わせている作業時)でアーチの形が違うから。実際にトップに手でテンションをかけてみると、アーチの形が変わるのが見えると思います。アーチが少し「沈む」感じでしょうか。
正確に作られていないブリッジを持つギタ-は寿命が短いと思います。年月が経つにつれて、ブリッジを高くして同じ弦高を保っていく事になると思います。これはアーチトップ・ギタ-のトップが少しずつ「陥没」しているから。この状態が悪化するとネックにも影響を及ぼします。アーチトップ・ギタ-で14フレットから上が反ってしまい、指板を削ってまっすぐにしたという話は頻繁に聞くと思います。これはトップが陥没した分、ネック・エクステンションを下から押し上げているんですね。
また、ビンテージと呼ばれる楽器に良い音がするモノが多いのは淘汰の結果だと個人的に思います。各部の作りこみや精度が正確な楽器は長生きしますし、良く鳴ります。ああいう楽器は新品だった当時から素晴らしい音がしていたと感じています。
さて。
ここからはブリッジの真ん中から両方の外側へ向けて少しずつ削っていきます。
今度はチョーク・フィットする時に両手で弦のテンションと同じストレスをブリッジにかけます。こうする事で実際に弦が張られている時のアーチの状態を強制的に作り出して、今度はそこへブリッジを合わせる事が可能になります。
こういう鬱陶しいほどの執着心は、スティーヴンが言う所の「ネクスト・レベル」に到達するためには必要不可欠だと思う。昨日も僕が何てことはない普通の作業をしている時に、使用する道具の選択を間違って、久し振りにかなり怒られた。「その道具を使ってその作業するの?それはシロウトのやり方だよ。お前は普通の製作家になるためにここに来たのかい?」って。悔しいんですけどね、まだまだ修行が足りない。
ヴァイオリン製作家のライアンは、先日クビになりました。彼は十年以上プロとして製作してきて、とても高い技術を持っていたのですが、メンタルな部分で「普通の製作家」でキャリアが終わるだろう、とスティーヴンの厳しい判断。僕が横で見ていても、ライアンはスティーヴンの楽器製作に対する狂気の執着心に、いつも押し潰されていました。負けずに跳ね返せない彼に時間を使うのは意味がない、と見切りをつけました。厳しい世界です。
さてさて。
完成したブリッジはこんな感じ。

これで実際に弦を張った時(トップが少し沈んだ状態)に、ブリッジ全体からトップへ均等にテンションが伝わります。試しにブリッジを動かそうとすると、とても大変。トップとブリッジの密着度が高いので、ブリッジを押し付けてみると「フッ、フッ」と空気が漏れる音がしますし、手にもその「吸引力」のようなモノが伝わってきます。
見た目はなんてことはないブリッジですが、その「裏側」にこのような秘密が隠されています。
フィットしているようで、弦を張ると
隙間の有る物が多いですね、
ピエゾの入ったアコギのサドルでも
同じ様にバランスの取れていない物を
よく見ます。
ネクストレベルとても良い響きです。
マルキオーネのフルアコには
ディアンジェリコの素晴らしさの
継承と次への可能性を
以前よりとても強く感じていました。
ブリッジの秘密、丁寧な紹介ありがとうございます。
すごく知りたかった事が、よーく理解できました。
ブリッジとトップは、まるでガラス2枚を合わせたように
密着するのだと思っていましたが、弦圧によるトップの沈み分に
ついては、補正を入れるのかどうか疑問でした。
やはり処置を施すんですね(補正の入れ方は自分の想像とは逆でしたが)。
ブリッジでのピッチ感合わせについては、これはフレットの
位置出しからしてスペシャルな、マルキオーネならでは、という所でしょうか?
(自分が知っているギターでは、BFTSやMTS式なナット側補正も
有効なように思えます、弦のゲージにもよると思いますが)。
ここまで求める探求心、そしてTakaさんが居る場所の厳しさ。
自分が楽器や音楽に向かう時の姿勢を考えると、襟を正す思いがします。
貴重な教え、ありがとうございました。
「チョーク」は粉状のものを使いますか?
僕も同感です。マルキオーネはダンジェリコを踏襲しつつ、アーチトップギターのサウンドはもちろん、デザイン面でもその可能性を押し上げたと感じています。ここから先は僕らの仕事ですよね。頑張りましょうね。これからもよろしくお願い致します。
もうこのギターに弦を張り、毎日仕事前に30分程度弾きこみ始めました。現時点ですでにとてつもない鳴り方をしていますよ。
こんにちは、ゆわかしさん。
どういたしまして。ご自分で挑戦されますか(笑)?
ブレースを合わせる時も同じやり方でチョーク・フィットします。サイトにあるアーチトップ・ビデオでもスティーヴンがブレースを合わせている場面がありますよね。そこで彼もチョーク・フィットについて簡単に説明しています。
ただ、ブリッジの場合はラッカー塗装にチョークの載りが悪いので、「チャイナマーカー」を使って下さい。文房具屋さんか、アート・サプライ・ショップで手に入ると思います。作業終了後は「ナフサ」を使って綺麗に拭き取って下さい。
いきなりの書き込みの上厚かましく恐縮ですが、takajazさんの見解をお聞かせ頂けないでしょうか。
以前よりアーチトップギターのブリッジの高さを調節する金属に不審に思っています。
勿論便利なものですが、弦の振動を伝達する箇所に、あの細い金属は無いのではと思っています。
gibson社が好きなわけではありませんが、L-1にはソリッドのエボニー材で作ってあったように思います。
benedettoの35th anniversaryモデルには、メイプル一枚と思われるブリッジが付いているようです。
なぜ、一般的なアーチトップギターはそのようにしないのでしょうか。
私みたいな素人演奏家には、どうしても一枚の木で作った方がアコースティックには適したサウンドが獲られるのではと思っています。
どのようにお考えになられますか。
お時間あるときにアドバイスいただけたら幸いです。
初めまして。では、僕の意見ですが、、、。
アーチトップギターにおけるブリッジですが、高さが調節出来ない、というのは、楽器として非常に扱い難いです。サウンドの善し悪し以前に、かなりの確率で楽器として”使えない”はずです。
>弦の振動を伝達する箇所
これは、金属のシャフトというよりも、ブリッジの台の底、ここの精度によりけりだと思います。どれだけトップのアーチとの密着度が高いかだと思います。これはもちろん、弦を張った状態、ギターにストレスがかかった状態のトップです。この“弦からのストレスがかかっている状態のトップのアーチ”へぴったり合っていることが、実は、金属のシャフト云々、、、よりも、太いサウンドの秘密だったりします。
>benedettoの35th anniversary
関係者からお話を聞いて確認したのですが、今はそのようには作っていない、と言っていました。これには理由があるのです。
例えば。
サイズ的にも構造的にもアーチトップギターに近いチェロを例にとってみましょう。
チェロの弦高は、厳密に言えば、常に変わります。日によって1ミリ程度の違い、場合に寄ってはもっと違います。
チェロにはギターのようにフレットがありませんし、弓を使って音を出しますよね。ですので、弦高が1ミリ違っても問題ないのです。
が。
ギターで弦高が1ミリ違う、ということは大問題です。死活問題です(笑)。季節の変わり目では、少なからずネックが必ず動きます。これに対応しないといけない。ですので、ネックにはトラスロッドが入っています。ヴァイオリンにはないですよね。
ヴァイオリンは、すでにデザインが完璧です。この枠から外れて、突拍子もないヴァイオリンを作ることは、色んな意味で難しいですし、また、古典音楽家は、古典音楽を演奏するためにヴァイオリンを弾くのです。作る側も、“あのサウンド”になるよう、作ることがプロの仕事です。
僕が感じるに、これは、楽器が使われる音楽にも影響されていると思うのです。
現代のアーチトップギターはジャズはもちろん、ポップス、ファンク、ロック、クラシック的なソロギター、、、色んなジャンルで使われますよね。これに対応しないといけない。様々なジャンルに対応するために、弦高を調節することによって、楽器のトーンを変える必要があるのです。
固定されているブリッジですと、まず、環境の変化に対応出来ませんし、各々のプレイヤーのピッキングの強さにも対応出来ません。アバクロンビーさんのように、タッチが柔らかいヒトは、低い弦高に、そして、ホイットフィールドさんのようにアグレッシブにピッキングするヒトには、高めにセッティングする必要があるのです。
が、高さを調節出来ない固定されているブリッジですと、プレイヤーにある特定のジャンルや弾き方を強要することになってしまう。
と、今の僕は思っています。まだまだ僕にも答えがハッキリと観えていません(開き直り)。答えになっていなくてすみません。
お忙しい中、早速の貴重なご意見有難う御座います。
なるへそ~!と言う理由ですね。
プレイしやすさと言う点ではどうしても可動式で無いと辛いですね。
Daquistも晩年、アイスバーみたいなもので可動式ブリッジ作ってましたね。
Daquistは幸い数本弾いた事がありますが、晩年のものは希少なだけに演奏経験がありません。
あれはサウンド的には如何なんでしょう。。。
80年代の7thDaquistは、ブリッジのトップに触れる面が、低音弦側が太くなってました。
やっぱりブリッジの工夫は大切なのですね。
私のギターもこちらのページで紹介されているように、トップへの接着面をカスタマイズしてみます。
ちなみにマルキオーネ氏のギター、まだ演奏出来てません。
日本国内で置いてある店あるかな。。。
Danglicoも数本弾きましたが、それを超えるギター、期待+楽しみにしてます!
どう致しまして。ダキストはやはり、凄かったですね。彼にまつわる逸話はたくさんありまして、とても興味深いですよね。
ブリッジ底面の精度を上げるだけでも、サウンドの安定感がまったく違います。ぜひ、挑戦してみて下さい。
あ、それと。
ホンノわずかでも狂って合わせてしまいますと、後々トップが割れますので。覚悟の上でお試し下さい。
アーチトップギターのブリッジ・フィッティングについて調べていて、ここに辿り着きました。
最近、Martinの古いギターを入手しましたが、トップとブリッジの密着状態が悪いと感じたので
トップにサンドペーパーを貼り付ける方法ですり合わせをして、フィッティングを試みました。
しかし、やや改善したものの、まだ音には納得できませんでした。
そんな時、このブログを発見して、目から鱗が落ちるような想いで読ませていただきました。
そして、直ぐにとりあえず弦を緩めて、次にすべきことを考えているところです。
自分のギターの場合、ブリッジ底面の中央がアーチ状になったタイプなので
トップ中央にブリッジ底面は接触していません。
当初は、全長が接触して密着するタイプに交換することも考えましたが、どちらが良いのでしょうか。
ネクストレベル!!是非、チョークによるフィッティングとその後の調整に挑戦したいと考えています。
目から鱗が落ちて4日目、ネクストレベルは遠いという実感です。
トップには傷もあるので、指先でチョークの粉をつけてフィット、
ナイフで、削ったりスクレーバーのようにしたり・・・そしてまたフィット・・
大きな球面にブリッジ底面を合わせていく感じです。
> 試しにブリッジを動かそうとすると、とても大変。
> トップとブリッジの密着度が高いので、ブリッジを押し付けてみると
> 「フッ、フッ」と空気が漏れる音がしますし、
> 手にもその「吸引力」のようなモノが伝わってきます。
このレベルには到底達していませんが弦を張ってみては光にかざして
隙間を確認するということを繰り返しました。
弦のテンションを見込んだつもりでも僅かな隙間がどこかに残るんです。
しかし、気が付けば、いつしか面と面が密着している感じで、鳴りは格段に良くなりました。
今の状態に比べれば、最初は点と線で接するものをむりやり押し付けていたような感じです。
ネクストレベルには、達していませんが素人ではここまででしょうか・・・