Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

JR福知山線列車脱線事故

2005-04-30 04:36:58 | 国内
毎日新聞
<尼崎脱線事故>45度傾き電柱に衝突、非常ブレーキが作動
2005年4月30日3時17分更新

JR福知山線の脱線事故で、激突したマンションの手前約60メートルにある左側電柱の高さ約2.5メートル付近に列車が衝突した跡が残っていたことが分かった。29日、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会が発表した。脱線した列車は右カーブで右車輪が浮き、45度前後左側に傾いて電柱に衝突、車両はさらに傾き、横倒し状態でマンションに突っ込んだとみられる。車両の分析で非常ブレーキが作動していたことも判明した。

事故調によると、電柱の位置は、事故後停車した列車7両目中央部の左脇にあり、電車に電力を供給する架線を支えている。鉄筋コンクリート製で、高さ約2・5メートル付近のコンクリートが砕け散り、鉄筋だけが残っていた。根元もひびが入り、鉄筋がむき出しになっていた。

電柱は、枕木の左端から約2メートル、左レールからは約2・4メートル離れていた。列車の高さは3・7メートルで、左車輪がレール上にあった場合、45度前後傾いて走行していたことになる。

この電柱の手前約30メートルにある電柱に傷はなく、マンションまでの間に別の電柱はなかった。

これまで7両目周辺では、破損した電柱の手前に左側枕木やレール締結具に車輪が脱線した時に出来た傷が見つかっている。ところが、6~7両目下の枕木やレール上に明確な脱線痕は見つかっていないことから、制限速度を約30キロ上回る100キロ前後でカーブに進入した列車は電柱付近で既に右車輪が大きく浮き上がっていたと見られる。

また、バラスト(敷石)上に明らかな脱線痕は見つかっていないが、救助活動などで消えた可能性があるという。

電柱そばにはパンタグラフが落ちていた。

事故調は29日、マンションから引き出された先頭車両の調査も開始した。先頭部の下部に装着され、障害物などをはねとばす「排障板」(スカート)の左側部分がなくなっており、横倒しになった際に損傷した可能性もあるという。

また事故調は運転席から運転状態を記録したモニター制御装置を回収。ブレーキやATS(自動列車停止装置)の作動状況などのデータが残っていた。これまで見つかっている5、7両目のモニター制御装置の記録と合わせて解析を進め、脱線原因の解明を急ぐ。

非常ブレーキについては、▽どの時点で作動したのか▽乗務員が作動させたのか、自動的に作動したのか▽非常ブレーキと脱線との関連――などを詳しく調べる。

30日以降、5~6両目車両下のレールの状態や先頭部の車輪や車体の損傷状態、付着物などを分析する。

会見した事故調の佐藤泰生・鉄道部会長は「右側の車輪に力がかからない状態になり、車体が浮いて、事故に至ったということが分かってきた。脱線の痕跡はまだ出てくる可能性があり、それらを踏まえ原因究明していく」と述べた。【武田良敬、田中謙吉】


毎日新聞
<尼崎脱線事故>検証 非常時の車掌の役割と先頭車両の調査
2005年4月29日3時3分更新

JR福知山線の脱線事故で、車掌(42)が事故直前、運転士(23)に「急ごう」という趣旨の連絡を取っていた。運転士とともに安全運行を支えるはずの車掌の役割を検証するとともに、事故原因究明に欠かせない先頭車両の調査のポイントを探った。

◇減速指示の有無が焦点

制限速度を超えて“暴走”する運転士。その区間に、速度超過に対応する自動列車停止装置(ATS―P型)はない。今回の事故のようなケースで、乗客が頼りにできるのは車掌だけだ。車掌は、何ができるのか。

JR旅客6社は、旧国鉄の「運転取扱心得」をベースに独自で乗務員の行動規範を定めている。JR西日本は、列車が遅れた場合、車掌を含む乗務員に「許された速度の範囲内で回復に努める」よう求めている。回復できなければ、車掌も運転士と同様、処分の対象となりうるといい、「急ごう」との趣旨の連絡をした背景に、こうした事情も見える。

JR東日本は「運転取扱実施基準規程」で、車掌に対して常時、モニターで速度を確認し、制限速度を超えて走行した場合は車内電話で運転士に確認することを義務付けている。事故発生が予想される場合は、車掌も非常ブレーキの操作が認められる。今回のケースについて、JR関係者は「まず運転士に連絡して速度を落とすよう進言する。非常ブレーキは、運転士に伝えてから操作することになる」と指摘する。今後、車掌が速度超過に気付いていたのかどうかも、事故原因究明の一つのポイントとなる。

一方、駅をオーバーランした場合、車掌は何を求められるのか。JR西日本の運行マニュアルは「非常ブレーキのスイッチを押す」などと定めている。高見隆二郎運転士自身、車掌だった02年5月、運転士が誤って停車駅を通過した際、停止する非常弁を開かなかったため訓告を受けた。非常ブレーキ操作は権限であるとともに責任も伴う。

今回の事故直前に起きた伊丹駅でのオーバーランで、車掌は非常ブレーキを作動させなかった。オーバーランの距離を過少申告したことも含め、JR西日本は、車掌から事情を聴いたうえで厳正に処分するという。

運転士のオーバーランによる遅れでも、場合によっては処分されかねない車掌の立場。同社のある中堅社員は「遅れの回復は、自分の腕の範囲内でやれということになる」と実情を明かす。一方、別のベテラン社員は「安全の追求と定時運行の確保は、ある意味で対立する概念。両者の両立のためには、余裕のあるダイヤを組むべきだ」と指摘する。【本多健、斎藤正利】

◇先頭車両の車輪に注目 解明へ、専門家も見方

脱線原因の解明で、専門家が注目するのは、調査が本格化する先頭車両だ。

事故調査の経験を持つ国土交通省幹部は「特に車輪の状態を調べることが不可欠」と話す。脱線は、1両目の車輪がレールから外れて発生したと考えられるからだ。脱線した車輪には微細な傷が残るため、現場の脱線痕と照合出来れば、脱線の起点の特定につながるという。

しかし、1両目は激しくマンションに衝突しているうえ、乗客の救出作業のため車体が切り刻まれている。同幹部は「必要なデータがどこまで残っているかがポイントになる」とみる。

事故車両には、ブレーキやATS(自動列車停止装置)の作動状況を記録した「モニター制御装置」が1、4、5、7両目に搭載されていた。同省航空・鉄道事故調査委員会は1両目以外のモニターを解析中だが「調査の鉄則は出来るだけ多くの証拠を集めること。1両目のモニターや運転席の損傷が検証可能な程度であれば」と期待する。JR関係者も「最大のポイントは運転室のモニター制御装置の解析」としている。

元JR貨物職員で北海学園大学の上浦正樹教授(鉄道工学)は「車輪のすり減り具合を調べることで、ブレーキが掛かった状態で車輪がレール上を滑走した距離が分かる可能性がある」とし、「車輪の状態と、車輪が着地した地点を特定出来れば、脱線車両がどのような軌跡をたどったか分かるかもしれない」と話す。

一方、独立行政法人交通安全環境研究所の松本陽・交通システム領域長は「特に先頭車両の車輪に、乗り上がり痕や、(非常ブレーキで)ロックしたかどうかを示す滑走痕があるかどうかが重要なポイント」と指摘する。

松本さんは、脱線の要因として台車と車体の間の空気バネと電車の重心に着目。「遠心力が大きくなると外側のバネがたわみ、重心が外側に移動する。さらに、空車時と比べ、乗車率が高いほど重心が高くなり、転覆しやすくなる」という。鉄道の場合、急制動は前後方向の力のため脱線の要因にはなりにくいが「車輪がロックしていたとすると、滑走している左右の車輪に加わるブレーキ力に差が生じ、要因になる可能性もある」と話している。

車両側と対照して調査が進められる軌道側の痕跡。事故調のこれまでの調べで、レールには脱線の痕跡を示す大きな損傷はなかった。枕木には、脱線した車輪のフランジが通過したとみられる線状の傷や、レール締結具のボルトの先端が削り取られた跡などがあった。傷跡はいずれも進行方向左側のレールの外側にあり、カーブの外側に向かって脱線した状況を示している。【川辺康広、大平誠、斎藤正利】

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