ごくまれ日記

思いついたこと、書きたいことをごくまれに投稿します。

「おんな城主直虎」第21回「ぬしの名は」

2017-06-03 23:54:01 | 映画・ドラマ
直虎「おぬし、何故かようなひどいことをする? なぜ賊などしておる? 知恵も回るし、体も丈夫そうじゃ。まともに働く道などいくらでもあるじゃろうが」
頭「あんたに言われたかないね」
直虎「あぁ?」
頭「領主なんてな、泥棒も泥棒、大泥棒じゃねぇか」
直虎「何を言うておるのじゃ?」
頭「そのまんまでさァ」

直虎「何ゆえ我が泥棒なのじゃ?」
頭「ただの勢いでさァ」
直虎「そのような言い方ではなかった。何ゆえ我が泥棒なのじゃ?」
頭「しつけぇなァ」
直虎「なぜじゃ? 答えよ!」
頭「ガキでもわかる話でさァ。百姓の作ったもの召し上げてんじゃねぇか」
直虎「年貢を取るのは井伊の土地だからじゃ。井伊の土地を貸しておるからじゃ」
頭「なんであそこはあんたの土地なんだ?」
直虎「え?」
頭「なんであそこは井伊のもんになってんだよ?」
直虎「それは… 井伊が鎌倉の公方様よりあの土地を任されておるからじゃ」
頭「だからそれが泥棒の始まりだろ? あんたの先祖にやたらケンカが強えか調子のいい奴がいて、こっからここまで俺らの土地な、って勝手に分捕ったたけじゃねぇか。武家なんて奴らは、泥棒も泥棒、何代も続いた由緒正しい大泥棒じゃねぇか! 俺らは武家やそこに群がってる奴らからしか盗まねえ。つまり泥棒から泥棒し返してるってだけだ。あんたらに比べたら、俺らなんてかわいいもんだ」
直虎「おぬし、どこかいかれておるのではないか?」
頭「俺からすりゃああんたらのほうがいかれてるわ」

直虎「たかせは、武家を泥棒じゃと思ったことはないか? 正直に言うてくれ」
たかせ「おらたちの手で食べ物を作っているのに、おらたちの口にはへえらねえ。奪われておると思うたことのねえもんはおらぬと思います」
母「武家も一緒ですよ。武家がどんどんどんどん戦をするのは、戦を仕掛け、土地を手に入れなければ、功を立てた者に与える土地がなくなってしまうからです。ゆえに戦をして、どんどん奪っていくしかないんですよ」
直虎「この世は奪い合うことでしか立ち行かぬということですか?」

直虎「幼き頃、我はカブを盗んだことがある」
頭「なんでまた?」
直虎「寺に入ったばかりの頃、寺の食事に耐えられず、ひもじくての。追い詰められれば、人は盗む。百姓に生まれようが、武家に生まれようが、人とはそういうものじゃ。ゆえに、我もそなたも、等しく卑しい。一人の人としてな」
頭「一人の人として?」
直虎「だが、それは幸いなことなのか? 人として生まれ、卑しいことをせねばならぬのは、幸いなことと思うか? 世をすね、泥棒を大義とうそぶきつつも、つまるところは暗がりに隠れ住む、それでよいのかと聞いておる」
頭「ふふ、なあ、もっとこう、色っぽい話かと思って期待しておったんですがね」
直虎「逃げるな! 我も逃げずにおぬしの言葉を考えた。ならばおぬしも受け止めるのが人の道ではないのか? 人は卑しい。それは生きる力の裏返しでもあろう。なれど卑しくあらねば生きていけぬというのは、幸いなことでは決してない! ならば、せねばならぬことは、卑しさをむき出しにせずともすむような世にすることではないのか?」
頭「世?」
直虎「そうであろう? 奪い合ってしか生きられぬ世に、一矢報いたいと言うのならば、奪い合わずとも生きられる世を作り出せばよいではないか!」
頭「世を作る?」
直虎「そうじゃ!」
頭「あんたイカレてんじゃねぇのか?」
直虎「やってみねばわからぬではないか!」
頭「できるわけねぇだろう!」
直虎「あぁ、そうか? できることしかやらぬのか? だから腹いせの泥棒か? 何ともまあしみったれた男じゃな! 井伊は、材木を商うつもりじゃ。その木を切る役目を、そなたらで請け負う気はないか?」
頭「木を切る?」
直虎「そうじゃ。おぬしらには、あっという間に木を切る腕がある。それを使うてみぬかと言うておるのじゃ。もちろんすべてくれてやるというわけにはいかぬ。分け前は、我が7分と、おぬしが3部。どうじゃ?」
頭「何故、このような酔狂な申し出をする? わざわざ俺らに頼らずとも?」
直虎「おぬしに言われ、確かに武家は泥棒かもしれぬと思うた。じゃが我はそれを認めるのはごめんじゃ。ならば、泥棒と言われぬ行いをするしかないではないか! つまるところは己のためじゃ!」
頭「よし! よろしく頼みまさァ、直虎様!」
直虎「おお、よろしく頼むぞ、頭! 頭、名は何というのじゃ?」
頭「竜雲丸だ!」
直虎「竜雲? 雲の龍か?」