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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ソニー・サイド・アップ

2025-01-17 19:16:38 | ジャズ(ビバップ)

ジャズ界にはソニーと名の付く人がたくさんいます。ソニー・ロリンズ、ソニー・スティット、ソニー・クラーク、ソニー・クリスあたりがパッと思い浮かぶところで、他にもソニー・レッド、ベイシー楽団のトランぺッターのソニー・コーン、ドラマーのソニー・ペインがいます。マニアックなところでは前衛系アルト奏者のソニー・シモンズ、ソウル系オルガン奏者のソニー・フィリップス、フィル・ウッズと共演したベース奏者のソニー・ダラス、70年代のマイルスのバンドにいたテナーのソニー・フォーチュンなんてのもいますね。ちなみにソニーと言うのは"坊や"を意味するニックネームで本名は全員別にあります(ロリンズはセオドア、スティットはエドワード、クラークはコンラッドetc)。

今日ご紹介する作品はその中でも"2大ソニー"と言っても良いロリンズとスティットをフィーチャーした「ソニー・サイド・アップ」です。タイトルは目玉焼きを意味するsunny side upのもじりです。サックス界を代表する巨人2人の競演と言うだけで十分豪華なのですが、リーダーは彼らではなくむしろジャケット左側にデーンと位置するディジー・ガレスピーでしょう。本作が録音された1957年12月時点で40歳。まだ長老と呼ぶような年齢ではないですが、若者が多いバップ世代の中では重鎮的存在でした。(ちなみにスティットは33歳、ロリンズは27歳)。リズムセクションは25歳のレイ・ブライアント(ピアノ)、その兄で27歳のトミー・ブライアント(ベース)、28歳のチャーリー・パーシップ(ドラム)です。

全4曲。アルバムはまずスタンダードの"On The Sunny Side Of The Street"で始まります。ソロ先発はソニー・スティット。スティットはこのアルバムではアルトではなくテナーサックスを吹いていますが、同じテナーのロリンズとはスタイルが違うので混同することはないですね。ロリンズに比べてスティットの方が明らかに音数が多く、フレージングが細かいです。スティットの後はガレスピーのミュート→ロリンズと快調にソロをリレーしますが、残り1分のところで突然ガレスピーが歌い出し、思わずズッコケそうになります。彼が時にヴォーカルを披露することは知ってはいましたが、ここで飛び出すとは・・・正直美声とも言えないし、音程も怪しい。独特のユーモラスな味わい、と言うのが最大限ひねり出した誉め言葉でしょうか?

続く"Eternal Triangle"はスティット作とありますが、どこかで聞いたことがあるようなバップナンバー。目玉は何と言ってもテナー2人の競演で、まずはロリンズ→スティットの順でソロを取り、その後は2人の熱いチェイスが9分過ぎまで続きます。その後でようやくガレスピーが登場し、ブライアントの短いソロ→ガレスピーとチャーリー・パーシップのドラムのソロ交換と続きます。なかなかド派手な演奏です。3曲目"After Hours"はブルースのスタンダード曲で、冒頭の3分間はここまで目立たなかったレイ・ブライアントの独壇場です。その後はガレスピーのミュート→ロリンズ→スティットとブルージーなソロを受け渡していきます。ラストは歌モノの"I Know That You Know"で、まずはロリンズが力強いテナーソロを聴かせた後、ガレスピー→スティットとソロを取りますが、何よりメロディを崩さずに速射砲のような勢いでアドリブを連発するスティットのソロが圧巻ですね。日本のジャズファンの間ではソニー・ロリンズは半ば神格化されていて、この作品もどちらかと言うとロリンズ目当てで聴く人が多いかもしれませんが、個人的にはスティットも互角かそれ以上の出来と思います。御大ガレスピーも歌はともかく?、プレイの方はさすがの貫録です。

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ジーン・アモンズ/ジャミン・ウィズ・ジーン

2025-01-15 20:10:37 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズを代表するレーベルであるプレスティッジですが、その最大のスターと言えば誰でしょうか?同レーベルにはマイルス、ロリンズ、コルトレーンらのビッグネームが名盤を残していますが、彼らは専属ではなく他のレーベルの印象も強いですね。プレスティッジ限定と言うことで言えば、やはりピアノのレッド・ガーランドとテナーのジーン・アモンズではないでしょうか?特にアモンズは同レーベルに40枚を超すリーダー作を残しており、ミュージシャン仲間から"ザ・ボス"の愛称で親しまれたまさにプレスティッジの”顔”です。

ただし、その割に日本のジャズファンの認知度は低めなのが残念なところです。国内盤のCDもごく一部しかリリースされていませんし、評論家達のジャズ名盤特集に名前が上がることも少ないです。どうやらアモンズのようにブリブリ吹くスタイルは芸術性が低い、として昔から忌避される傾向があるようです。プレスティッジには他にもエディ・ロックジョー・デイヴィスやウィリス・ジャクソンと言ったR&B色の強いテナー吹きがいますが、同様に日本のジャズ界ではほぼ完全無視状態です。私も正直上記のロックジョーやウィリス・ジャクソンあたりはド派手なブロウが野暮ったく感じるところはありますが、アモンズに関してはそこまでヘビーでもないですし、わりと正統派の範疇に入ると思うんですけどね。特にバラードの上手さは絶品です。残念ながらCDは一部を除いてほぼ入手できないのですが、ネットでお気に入りの曲をダウンロードして愛聴しています。

本作「ジャミン・ウィズ・ジーン」は1956年7月13日に録音された作品です。アモンズはこの頃若手のハードバッパー達を集めたジャムセッション形式の作品を大量に残しており、本作もそのうちの1枚です。他にも「ハッピー・ブルース」「ジャミン・イン・ハイファイ」「ファンキー」「ブルー・ジーン」「ザ・ビッグ・サウンド」と言った作品を残していますが、どれも大体同じような感じで、収録曲は3~4曲、長さは1曲10分前後で参加ミュージシャン達が順番にソロを回す、と言う感じです。内容は後になればなるほどマンネリ気味になってきて、クオリティ的に正直どうかな?と思うものもありますが、本作は一連のジャムセッションの中でも出来の良い方だと思います。

メンバーはドナルド・バード&アート・ファーマー(トランペット)、ジャッキー・マクリーン(アルト)、マル・ウォルドロン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)と言った顔ぶれ。全員が後にジャズ・ジャイアントと呼ばれる大物ばかりですが、この時点では30歳のマル・ウォルドロンが最年長で後は全員20代。そんなイキのいい若手達をボスのアモンズ(と言っても彼もまだ31歳でしたが)がまとめるという構成です。

収録曲は3曲のみですが、どれも10分超の長尺なので全部で40分超のボリュームです。オープニングはアモンズ作の"Jammin' With Gene"。いかにもアモンズらしいどっしりとしたブルースで、冒頭からアモンズ御大が4分間にわたって貫録たっぷりのソロを取り、その後トランペットが登場しますが先発はドナルド・バード、次がアート・ファーマーの順でしょう。その後マクリーン→マル・ウォルドロンとソロを取ってテーマに戻っておしまい。14分超の大曲ですが、その分各人のソロがたっぷり聴けてなかなか良いです。2曲目は唯一のスタンダード"We'll Be Together Again"。冒頭からアモンズがマルのピアノをバックに2分半にわたってテーマメロディを吹きますが、個人的には若干くどいかな。その後はテンポアップしてアモンズ→ファーマー→マクリーン→バード→マルとソロを取り、最後はアモンズが再びテーマを吹いて締めます。

3曲目の"Not Really The Blues"はアレンジャーのジョニー・マンデルがウディ・ハーマン楽団のために書いた曲。実はアモンズは40年代後半にハーマンに才能を見出され、スタン・ゲッツの後任として同楽団に所属していました。白人主体のハーマン楽団とアモンズの組み合わせは意外ですが、おそらくその時代からの愛奏曲なのでしょう。ホーンアンサンブルによるテーマ演奏の後、最初に飛び出すのはドナルド・バード。当時売り出し中だった彼がブリリアントなトランペットを響かせます。マクリーン→ファーマーも負けじとエネルギッシュなソロを取り、満を持してアモンズが登場。ボスらしい豪快なブロウを披露した後、マルのピアノソロ→トランペットのチェイス→アルトとテナーのチェイス→4管のチェイスと終盤に向けて怒涛の盛り上がりを見せます。ひたすら煽り続けるアート・テイラーのドラミングもグッジョブ!ですね。16分もある大曲ですが盛り沢山の内容で最後まで飽きさせません。以上、ハードバップスタイルのジャムセッションが好きな人にはたまらない1枚です。

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ドナルド・バード/バード・イン・パリ

2025-01-14 18:06:56 | ジャズ(ハードバップ)

1955年にデトロイトからニューヨークにやって来たドナルド・バードはトランペットのニュースターとして瞬く間にジャズシーンの寵児となります。特に1956年から1957年にかけての活躍が凄まじく、この2年間だけでバードが参加したレコードの数はなんと50枚超!数が多すぎるのでさすがに作品名までは挙げられませんが、ジョージ・ウォーリントン、ジャッキー・マクリーン、ハンク・モブレー、アート・ブレイキー、ジーン・アモンズ、ホレス・シルヴァー、ポール・チェンバース、ダグ・ワトキンス、ソニー・ロリンズ、ルー・ドナルドソン、ケニー・ドリュー、ソニー・クラーク、レッド・ガーランド、ジョニー・グリフィン、ジョン・コルトレーンらの作品に参加しており、バードが共演したジャズマンを列挙するだけで当時のハードバップシーンを網羅できると言っても過言ではありません。

ただ、その反面リーダー作は少なく、ジジ・グライスとのジャズ・ラブ名義やフィル・ウッズとの共同リーダー作はあるにはありますが、単独名義となると先日ご紹介した「バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル」等数作品のみです。しかも吹き込み先はトランジションというマイナーレーベルで、ブルーノートやプレスティッジには1枚もありません。散々サイドマンとしてこき使っておきながらリーダー作を録音させないとは何事か!と思いますが、もしかしてバード自身があまりにも多忙だったためにじっくり本腰を入れて自分の作品に臨む時間がなかった、というのが案外ありえる理由かもしれません。

いずれにせよ1958年にバードはブルーノートと専属契約を結び、同年12月録音の「オフ・トゥ・ザ・レイシズ」を皮切りに立て続けに傑作群を発表しますが、その少し前に演奏旅行でフランスを訪れており、その際の記録を収めたのが本日ご紹介する「バード・イン・パリ」です。1958年10月22日のパリ・オランピア劇場でのライブを2枚組で発売したもので、正確には2枚目は「パリジャン・ソローフェア」と別タイトルなのですが、実質同じ作品として扱って良いでしょう。このアルバム、発売したのがブランズウィックと言うR&B系のレコード会社で、ジャズにはあまり力を入れていなかったせいか後にCD発売の際はいろんなジャケットデザインで発売されていますが、私が手にしたのは運良くオリジナル版と同じでフィガロ紙を読むバードとカフェでポムフリット(フライドポテト)をつまむバードのデザインです。

メンバーはボビー・ジャスパー(テナー&フルート)、ウォルター・デイヴィス・ジュニア(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)から成るクインテット。ジャスパー以外は全員アメリカ人です。ジャスパーはベルギー出身で50年代前半はパリを拠点に活動した後、渡米してJ・J・ジョンソンのバンドに加入し、リヴァーサイドにもリーダー作を残す等活躍を認められた後でのパリ帰還とあって彼にとっていわば凱旋ツアーでもあります。

 

1枚目が5曲、2枚目が8曲の計13曲収録ですが、基本的には有名なバップスタンダードが中心です。特に他のトランペッターが演奏した曲が多いですね。まずは元はスウェーデン民謡でマイルス・デイヴィスで一躍有名となった"Dear Old Stockholm"、クリフォード・ブラウンの演奏で名高い"The Blues Walk"と"Parisian Thoroughfare"、そして大先輩ディジー・ガレスピーの”Salt Peanuts"です。セロニアス・モンクが作曲してガレスピーが初演した”52nd Street Theme"もそうですね。フランスのジャズファン達はレコードで当然オリジナルの演奏を耳にしていたでしょうから、彼らを喜ばせるための選曲でしょう。特に"Parisian Thoroughfare"は元々バド・パウエルがパリの雑踏をイメージして書いた曲なのでパリっ子達は大喜びだったでしょうね。

バードはそれら偉大な先輩トランぺッター達の曲を堂々と料理していきます。特に”The Blues Walk"はブラウンの超絶技巧を象徴するような高速バップナンバーですが、バードも本家並みとまではいかずとも切れ味鋭いソロで見事に吹き切ります。当時のバードはブラウン亡き後の後継者の最右翼と目されていましたが、その真価を証明するかのような熱演だと思います。相方を務めるボビー・ジャスパーもかなり健闘していますね。彼はフルート奏者のイメージも強いですが、本作ではほとんどの曲で力強いテナーを披露しており、特にソニー・ロリンズの”Paul's Pal"ではロリンズとはまた異なるアプローチで悠揚迫らざる骨太なテナーソロを聴かせてくれます。唯一の例外がジャスパー自作の”Flute Blues"で、この曲ではバード抜きでジャスパーが文字通りブルースフィーリングたっぷりのフルートソロを聴かせます。

その他のメンバーにもスポットライトが当たっており、まずはウォルター・デイヴィス・ジュニア。この人は同時代に活躍したウォルター・ビショップ・ジュニアと名前がよく似ているのでたまに区別がつかなくなることもありますが、良いピアニストですよね。本作でもソロにバッキングと大車輪の活躍で、レイ・ブラウンの”Ray's Idea"ではホーン抜きのトリオ演奏で縦横無尽のピアノソロを繰り広げます。また、作曲者としても”Formidable"を提供していますが、これがまた痛快無比のハードバップチューンで、個人的には本作の中でもベストトラックと言って良い出来です。

ダグ・ワトキンスとアート・テイラーは基本裏方に徹していますがワトキンスは”Dear Old Stockholm"で5分間(!)にも及ぶベースソロを披露しますし、テイラーもバード自作の"At This Time"やジョン・ルイス”Two Bass Hit"で力強いドラムソロを聴かせてくれます。ちなみに”At This Time"はペッパー・アダムスの「10・トゥ・4・アット・ザ・ファイヴ・スポット」の”The Long Two/Four"、バードの「オフ・トゥ・ザ・レイシズ」の”Off To The Races"と異名同曲で、マーチ風のファンキーチューンです。録音状態は少し悪いところもありますが、全編を通じてバード・クインテットのノリノリの演奏とパリの聴衆達のビビッドな反応が収められた傑作ライブ作品です。

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アル・グレイ/スナップ・ユア・フィンガーズ

2025-01-10 19:03:59 | ジャズ(ハードバップ)

本日はトロンボーン奏者のアル・グレイをご紹介します。名前だけ聞くと紅茶のアール・グレイみたいで優雅な名前ですが、実際はちょっとコワモテの黒人のおじさんです。もともとはビッグバンド畑で活躍していた人でディジー・ガレスピー楽団、次いでカウント・ベイシー楽団に所属し、プランジャー・ミュート奏法の名人として知られていたそうです。プランジャー・ミュートとはお椀みたいなものをベル(朝顔)の部分にかぶせて♪ポワワワ~ンとちょっと間の抜けた音を出す奏法ですね。ジャケットでグレイが左手に持ってるのがそうです。ちなみにプランジャー(plunger)と言えば響きがいいですが、要はトイレが詰まった時に使うスッポンのことらしいです。実際にトロンボーンを吹く人もスッポンを代用したりするとか。

さて、グレイはビッグバンドで活躍するかたわら、並行してスモールコンボでの演奏も活発に行っています。まず、ディジー・ガレスピー楽団在籍時に先日ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」に参加。明確なリーダー不在のセッションですが、ビリー・ミッチェルやリー・モーガンと共に主導的役割を果たしています。その後、1960年にシカゴを拠点とするアーゴ・レコードと契約し、合計7枚のリーダー作を同レーベルから発表します。本作「スナップ・ユア・フィンガーズ」はそのうち4番目の作品で1962年1月から2月にかけて収録されたものです。

セッションは2つに分かれており、メンバーも多少異なるのですが、共通するのはテナーのビリー・ミッチェル。実はグレイとミッチェルは切っても切れない関係で、上述のガレスピー楽団やベイシー楽団で同僚だっただけでなく、一連のアーゴ作品でも本作までの4作品で全て共演しています。よっぽど仲良しだったんですね。その他に両方のセッションに参加しているのはボビー・ハッチャーソン(ヴァイブ)、ハーマン・ライト(ベース)、エディ・ウィリアムズ(ドラム)の3人。ジャズファン的には"ボビハチ"の愛称で知られるハッチャーソン(以降ボビハチ)の参加が意外ですよね。後にブルーノート新主流派路線で活躍する彼のスタイルとグレイは全然合わないような気がしますが、もともと生地のカリフォルニアでプレイしていたボビハチを西海岸にツアー中だったアル・グレイが起用し、本作に参加させたようです。この後、ボビハチはニューヨークに移住しますので、いわば本作が飛躍のきっかけとも言えます。

その他のメンバーは1月のセッションがデイヴ・バーンズ(トランペット)とフロイド・モリス(ピアノ)、2月のセッションがドナルド・バード(トランペット)とハービー・ハンコック(ピアノ)です。こんなところにハンコックの名前が出てきてまたビックリですが、彼もまたデビューしたてでドナルド・バードのバンドに所属していた頃でバードと一緒に参加したのでしょう。

それでは演奏の方を聴いてみましょう。まずは1月31日のスタジオセッション。オープニングはビリー・ボーウェンと言うよく知らない人(サックス奏者らしい)が書いた"Nothing But The Truth"と言う曲。いきなりタンバリンが入ったノリノリのダンスナンバーで、ちょっと意表を突かれます。まあタイトルのsnap fingersは要は”指パッチン”のことですからね。グレイが例のプランジャーを使った陽気なソロを取ります。2曲目"Three-Fourth Blues"はジーン・キーのオリジナル。この人も誰?ですが、ピアニストでグレイの前回の作品に参加していたらしい。この曲もアップテンポのファンキーチューンでフロイド・モリス→バーンズ→ボビハチ→グレイの順でソロを取ります。このフロイド・モリスと言う人も謎なのですが、シカゴをベースにしていたR&B系の人っぽいです。

このままソウル~R&B路線が続いて行くのかと思いますが、3曲目は女流トロンボーン奏者メルバ・リストンの書いた"Just Waiting"で雰囲気が変わります。実に美しいバラードでこの曲はビリー・ミッチェルの独壇場です。なお、この曲はミルト・ジャクソンもリヴァーサイド盤「フォー・サムワン・アイ・ノウ」で演奏していました。リーダーのグレイはソロを取りませんが、まあ親友に花を持たせたのでしょう。4曲目”R.B.Q."は再びジーン・キー作のファンキーチューン。この曲がとっても良くて個人的には本作のベストトラックと思います。3管の力強いアンサンブルをバックに各楽器がソロを取る構成で、一番手はボビハチ。後のブルーノートでのクールで知的なイメージとは違い、ファンキーなマレット捌きです。その後はミッチェル→バーンズ→グレイとソウルフルなソロをたっぷり聴かせてくれます。5曲目”Green Dolphin Street"はお馴染みのスタンダードですが、この曲はボビハチが一転してクールで躍動感あふれるヴァイブを全編で披露します。リーダーのグレイはまたしてもソロなしです。

後半はガラリと雰囲気が変わり、2月19日に行われたニューヨークの名門バードランドのライブです。”Minor On Top"はグレイ&ミッチェルとはベイシー楽団の同僚であるサド・ジョーンズのバップチューン。ビリー・ミッチェルとボビハチが素晴らしいソロを披露します。グレイはまたまたソロなしですが、それでいいのかな?ラスト2曲はピアニスト兼作編曲家で有名なランディ・ウェストンの曲。まずは”African Lady"。組曲風の曲では最初はバラードでグレイがムーディーなソロを吹いた後、途中で転調してアップテンポになりミッチェルのソロ→最後は再びスローに戻ってグレイのソロで終わります。ラストトラックはウェストンの代表曲の”Hi-Fly"。キャノンボール・アダレイらで有名な曲ですね。ソロ1番手はビリー・ミッチェルでその後はようやく登場したドナルド・バード→ボビハチの順でソロを取ります。この曲は9分以上ある長尺の演奏ですが、グレイのソロはなしで結局8曲中半分の4曲でソロを取らないと言う異色の作品です。グレイが「俺は別にいいから」的な控えめな性格だったのか、それとも2つのセッションを無理矢理グレイのリーダー作に仕立てあげたのかは謎です。

以上、これをグレイのリーダー作とすべきなのかと言う問題はさておき、演奏自体はそこそこ楽しめるアルバムです。特にボビハチやビリー・ミッチェルは結構目立っていて準リーダーと言って良いぐらいです。一方、ドナルド・バードやハービー・ハンコックはビッグネームの割にほとんど存在感がないので(ハンコックは伴奏のみ)、彼らを目当てにこのアルバムを買うのはやめた方が賢明でしょう。

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デイヴ・パイク/イッツ・タイム・フォー・デイヴ・パイク

2025-01-09 20:57:57 | ジャズ(ハードバップ)

本日は白人ヴァイブ奏者のデイヴ・パイクをご紹介します。この人は60年代後半にデイヴ・パイク・セットと言うグループを結成し、ギターやインド楽器のシタールを取り入れた独特のサウンドを追求するのですが、それらの作品がレアグルーブの古典として後年クラブシーンで注目されたそうです。私も今回のブログを書くにあたり、どんなもんかと試しに聴いてみましたが、いや~正直ガチャガチャ騒がしいだけで何がいいのかさっぱりわかりませんでした。この人に限らず60年代後半あたりから迷走するジャズマンは多いですよね。まあ本人達はいたって真面目に新しい音楽性を追求していたのでしょうし、支持する人もいるのでしょうが・・・

ただ、そんなパイクもデビュー当初は普通のジャズを演奏していました。特に有名なのが大手のエピック・レコードから発売された「パイクズ・ピーク」であのビル・エヴァンスと共演していることもあり昔から一定の人気があります。ただ、今日ご紹介するのはその少し前にリヴァーサイドに吹き込まれたパイクにとってのデビュー盤です。録音年月日は1961年1月30日と2月9日。パイクこの時22歳の若さでした。メンバーはバリー・ハリス(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラム)。さすがリヴァーサイドと言った面々が脇を固めています。

全8曲。バップスタンダード、歌モノスタンダード、オリジナル曲がバランス良く配分された作りになっています。オープニングはチャーリー・パーカーの”Cheryl"ですが、普通にバピッシュな演奏ですね。年代的にもう少しモード寄りかと思っていたのですが、いたって正統派のビバップです。ただ、このパイクは結構声を出すんですよね。ソロのところで興にのってムニャムニャ言いながら演奏します。ピアニストとかではバド・パウエルとかキース・ジャレットとか声出す系は多いのですが、ヴァイブでは珍しい(そうでもないか?)これでピアニストも同じように唸る人だとさすがにうるさいのですが、バリー・ハリスは声は出さずにそれでいて抜群のテクニックとグルーブ感で演奏を締めてくれます。本作には他にもタッド・ダメロン”Hot House"、マイルス・デイヴィス”Solar"も収録されていますが、どちらも原曲そのままのバップ風の演奏です。歌モノは”On Green Dolphin Street”と”Little Girl Blue”の2曲。特に前者が良いですね。バイクの清涼感溢れるヴァイブのイントロからハリスのスインギーなピアノソロ→再びパイクのソロと展開します。実に爽やかな演奏です。後者はリズムセクションを除いたヴァイブの無伴奏ソロですが、アドリブの途中で何の曲かわからなくなります。

オリジナル曲の方はまずパイクの自作曲”It's Time"が良いですね。リリカルなメロディを持った美しい曲で、バラードの表現力もなかなかのものです。22歳とは思えない大人のバラード演奏ですね。”Forward"は一転して急速調のバップナンバーです。ラストトラックはパイクではなくトランペッターのドン・チェリーが書いた”Tendin' To Business"と言う曲。チェリーと言えば前衛ジャズの旗手でこの頃オーネット・コールマンと活発に活動していましたが、この曲自体は拍子抜けするくらいオーソドックスなブルースです。ちなみに肝心ののチェリーやコールマンにはこの曲を演奏した形跡がなく、謎の曲です。以上、後年のデイヴ・パイク・セットと比べると普通と言えば普通過ぎるくらいのジャズ作品で、ヴァイブが好きな人にはおススメです。

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