バーニー・ケッセルについてはリーダー作を取り上げるのは本ブログでは初めてのことと思います。ユダヤ系の白人ギタリストで主に西海岸を拠点に活動したため、ウェストコーストジャズの括りに入れられることもありますが、サウンド的にはスイング~中間派からビバップ、ブルースまで幅広いジャンルをオールマイティにこなす万能型のギタリストです。歌伴にも定評があり、「アラバマに星落ちて」をはじめ晩年のビリー・ホリデイの作品群にあらかた名を連ねています。
今日ご紹介する「トゥ・スウィング・オア・ノット・トゥ・スウィング」は1955年にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれたケッセルのリーダー3作目。タイトルは明らかにシェイクスピア「ハムレット」の有名なセリフ"To be or not to be, that is the question(生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ)"をパロったものでしょう。タイトルが示唆するように本作ではスイング風のややオールドスタイルなジャズが演奏されています。
録音は1955年3月28日と同7月26日のセッションに分かれており、3月のセッションがケッセル、ハリー・エディソン(トランペット)、ビル・パーキンス(ピアノ)、ジミー・ロウルズ(ピアノ)、アル・ヘンドリクソン(リズムギター)、レッド・ミッチェル(ベース)、シェリー・マン(ドラム)。6月のセッションがテナーがパーキンスからジョージー・オールドに、ドラムがマンからアーヴ・コットラーに交代しています。”スイーツ"の異名で知られ30~40年代のカウント・ベイシー楽団で名を馳せたハリー・エディソン、アーティ・ショー楽団やベニー・グッドマン楽団らビッグバンドを渡り歩いたジョージー・オールドと、人選もスイングジャズ仕様です。
全11曲。ケッセルのオリジナルが4曲、残りは歌モノスタンダードやスイング時代の名曲です。個人的にはオリジナル曲が良いと思います。1曲目”Begin The Blues”からケッセルの名人芸と呼べるギターソロが堪能できます。ジミー・ロウルズのピアノソロも良いですね。3曲目”Happy Feeling”、5曲目"Wail Street"はスイーツ・エディソンやビル・パーキンスらホーン陣もソロも加わり、より厚みを増した演奏です。9曲目”Contemporary Blues”も同じようにケッセル→パーキンス→ロウルズとブルージーなソロを取り、最後にスイーツが高らかにトランペットを鳴り響かせます。
一方、スタンダードの方はケッセルがバラードをしっとり演奏する"Embraceabln You""Don't Blame Me"、オールドスタイルの”Louisiana””12th Street Rag”等もありますが、個人的には少し物足りない印象。その中でおススメは6曲目”Indiana”。ケッセルのスインギーなギターソロの後、ジョージー・オールド→スイーツ→ロウルズと軽快にソロをリレーします。続くベイシー楽団の重要レパートリー"Moten Swing"ではまずジミー・ロウルズがベイシーを真似たピアノを披露し、オールド→スイーツのミュート→ケッセルのギターソロとまさにオールド・ベイシー風の演奏です。
ケッセルはこの後もレイ・ブラウン、シェリー・マンと組んだ"ポール・ウィナーズ"の諸作品で人気を博し、60年代に入ってからも「レッツ・クック!」「スウィンギング・パーティ」「フィーリング・フリー」等の作品をコンテンポラリー・レコードから発表しますが、それらの作品はなぜかあまり人気がなく、CDも長らく廃盤扱いとなっています。私はyoutubeで聴きましたが、ケッセルのギターはどの作品でも冴え渡っていますし、共演者の演奏もなかなか充実していると思うのですが・・・過小評価されているバーニー・ケッセルの魅力をもっと多くの人にわかってほしいものです。