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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

レイ・ブライアント・プレイズ

2024-09-09 18:31:52 | ジャズ(ピアノ)

本日はレイ・ブライアントです。リーダー作を紹介するのは本ブログでは今回が初めてですが、サイドマンとしてはこれまでもたくさん取り上げてきました。特に「ベニー・ゴルソン&ザ・フィラデルフィアンズ」「ミート・オリヴァー・ネルソン」で見せるブルージーなプレイは、時にリーダーもかすむほどの存在感を見せています。

本作「レイ・ブライアント・プレイズ」はプレスティッジ盤「レイ・ブライアント・トリオ」と並んでハードバップ期におけるブライアントの代表作です。原盤はシグナチャー・レコードと言うマイナー・レーベルに1959年10月から11月にかけて吹き込まれたもので、レコード時代はマニア垂涎の名盤だったらしいですが、CDでは比較的容易に手に入るようになりました。トリオを組むのはベースの1歳上の兄トミー・ブライアント、ドラムのオリヴァー・ジャクソンです。

全12曲。いわゆる歌モノスタンダードは1曲もなく、かと言って自作曲はファンキー調の"Sneaking Around"の1曲のみ。後は全て他のジャズマンの有名曲です。スイング時代からはエリントン楽団の”Take The A Train"、ビバップ期からはチャーリー・パーカー"Now's The Time"等のド定番を取り上げていますが、同時代のジャズマンの曲も多く、MJQの”Delauney's Dilemma"、セロニアス・モンクの"Blue Monk"、エロール・ガーナーの"Misty"、ホレス・シルヴァーの”Doodlin'"、ミルト・ジャクソンの”Bags' Groove"、マイルス・デイヴィスの"Walkin'"、ベニー・ゴルソンの”Whisper Not"とおなじみの有名曲をブライアントが時にスインギーに、時にソウルフルに、時にロマンチックに演奏します。基本的に3~4分の演奏が多く、あまり難しいことを考えずに楽しむ感じですね。

知らない曲も何曲かあり、ディジー・ガレスピー作の急速調バップ"Wheatleigh Hall"は前年にブライアント兄弟もサイドマンで参加したガレスピーの「デュエッツ」で初演された曲らしいです。デューク・エリントンの美しいバラード”A Hundred Dreams From Now"もビッグバンド時代の曲ではなく、エリントンが同時期に発表したトリオ作品からの曲とのこと。他では聴いたことがない曲ですが、しみじみとしたバラードで個人的には本作中最もお気に入りの曲です。それ以外では思わず口ずさみたくなるほどキャッチーな”Doodlin'"も最高ですね。

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トミー・フラナガン/オーヴァーシーズ

2024-08-22 20:00:14 | ジャズ(ピアノ)

トミー・フラナガンは私にとって特別に思い入れのあるピアニストです。と言うのもいわゆるジャズ・ジャイアンツの中で唯一生のライヴを見たことがあるのが彼だからです。忘れもしない1999年12月。旅行でニューヨークを訪れていた当時まだ20代の私はここぞとばかりに一緒に行った友人たちとジャズクラブ巡りをしました。最初に赴いたのは伝説のヴィレッジ・ヴァンガード。憧れの聖地に足を踏み入れて感激したのですが、当日出演していたのは聞いたことないディキシーランド・ジャズのバンドのライブで、演奏内容は正直ピンと来ませんでした。有名なブルーノートにも行きましたが、当日やっていたのは映画「アラジン」の主題歌”Whole New World"で有名なレジーナ・ベルのライブ。これはこれでとても良かったのですがジャズとは少し違う。

そんな時にたまたま見つけたのがトミー・フラナガンのライブ。あまり聞いたことのないミッドタウンのジャズクラブで名前は失念しましたが、これが素晴らしい体験でした。フラナガンは当時69歳。年齢的にはまだ老ける年ではないのですが、正直ステージに上がるまでの動きは重そうでした。2年後の2001年に病気で亡くなってしまうのでこの時すでに体調が悪かったのかもしれません。ただ、ひとたび鍵盤の前に座ると背筋もシャキッとし、そこからは目もくらむようなきらびやかなタッチで鮮やかなソロを繰り出します。当時の私はまだジャズを聴き始めて5年ぐらいでライブで演奏されている曲も正直知らない曲の方が多かったですが、それでも生で見る一流ピアニストの演奏に圧倒されたのを鮮明に覚えています。

思い出話が長くなりましたが、本日ご紹介する「オーヴァーシーズ」はそんなフラナガンの代表作に挙げられる1枚です。ピアニストとして「サキソフォン・コロッサス」「ジャイアント・ステップス」はじめ数多の名盤に参加したフラナガンですが、自身のリーダー作を本格的に発表し始めるのは70年代以降で、50~60年代に発表されたのは本作とプレスティッジ盤「ザ・キャッツ」、ムーズヴィル盤「トミー・フラナガン・トリオ」の3作品しかありません。本ブログでも彼の参加した作品は数えきれないほど紹介してきましたが、リーダー作となると本作が初ですね。

録音年月日は1957年8月15日。当時フラナガンはJ・J・ジョンソン・クインテットの一員としてヨーロッパを訪問中で、そのうちリズムセクションの3人(フラナガン、ウィルバー・リトル、エルヴィン・ジョーンズ)がストックホルムのメトロノーム・スタジオで録音しました。海外で録音されたということでOverseasのタイトルが付いたわけですが、ジャケットを見るとOVERの下に、CCCCCCと大量のCが書かれており、OverCsとちょっとしたシャレになっています。なお、再発盤のCDはフラナガンがタバコを吸うジャケットがメインになっており、このデザインのジャケットは今ではあまりお目にかからないかもしれません。

全9曲、最初の2曲とラストの"Willow Weep For Me"以外は全てフラナガンのオリジナルです。オープニングの"Relaxin' At Camarillo"はチャーリー・パーカーのバップ曲。3分余りの短い演奏なのですがジャズピアノトリオの魅力が詰まったような名演でリスナーの心をガッチリ掴みます。続く"Chelsea Bridge"はビリー・ストレイホーンが書いたエリントン楽団の定番曲で、こちらはしっとりした演奏です。3曲目”Eclypso"はフラナガンの代表曲で、上述の「ザ・キャッツ」でも演奏していました。タイトルから想起されるようにカリプソの陽気なリズムに乗ってフラナガンがきらびやかなフレーズを紡いでいきます。フラナガンは後の80年にもこの曲をフィーチャーした「エクリプソ」というアルバムを発表しており、そちらも名盤の誉れが高いです。4曲目"Beat's Up"は文字通りアップビートのキャッチーなナンバーで、フラナガンはもちろんのこと、ベースとドラムにもスポットライトが当たります。

5曲目”Skål Brothers”はおそらくスウェーデン人の名前で、スコール兄弟(誰?)に捧げたブルースでしょうか?続く”Little Rock"もブルースですが、この辺りは少し似たような曲調が続きます。7曲目”Verdandi"は北欧神話に出てくる女神の名前から取った曲で、2分超と短いながらもエネルギッシュなナンバーです。8曲目"Delarna"はカタカナにするとダーラナでスウェーデンの地名とのこと。スウェーデンの原風景を残している美しい場所らしく、曲の方も実にチャーミングな美しい旋律を持った名曲で、本作のハイライトと言っても過言ではありません。ラストの"Willow Weep For Me"は定番のスタンダード。私はこの曲暗くてあまり好きではないのですが、本作のバージョンは途中でテンポも早くなったり工夫を凝らしていて悪くありません。全編を通じてフラナガンのピアノはもちろんのこと、ウィルバー・リトルのベース、エルヴィン・ジョーンズのドラムも存在感を放っており、まさにトリオの三位一体となった演奏が楽しめます。

上述のライブを見た後、感激した私は現地で発売されていたフラナガンの「シー・チェンジズ」というアルバムを買いました。1996年発表の新しいアルバムだったのですが、収録曲には”Verdandi""Delarna""Eclypso""Beat's Up""Relaxin' At Camarillo"と5曲もの曲が再演されています。40年近く経っても繰り返し演奏するぐらいの愛奏曲ばかりが収録された本作はフラナガンの中でも特別なアルバムだったのでしょうね。

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ラムゼイ・ルイス/ジ・イン・クラウド

2024-08-08 19:06:48 | ジャズ(ピアノ)

ジャズは基本的にヒットチャートとは無縁の世界です。我々のような熱心なジャズファンに根強く支えられてはいますが、売上枚数の面ではポップスの世界とは比較になりません。よくリー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」がジャズ・ロック・ブームを巻き起こす大ヒットを記録した!なんて言われていますが、ビルボードのアルバムチャートは最高25位です。ポップシンガーだとせいぜいスマッシュヒットの扱いですね。その他、ジミー・スミス最大のヒットである「ザ・キャット」が最高12位、ウェス・モンゴメリーがイージーリスニング路線で大成功を収めた「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」が最高13位まで上っていますが、それでもベスト10には届きません。スタン・ゲッツの「ゲッツ/ジルベルト」はアルバムが最高2位、アストラッド・ジルベルトが歌った"The Girl From Ipanema(イパネマの娘)"がシングルで5位を記録していますが、世間一般の認識ではジャズと言うよりボサノバの扱いでしょうね。そんな中、インストゥルメンタル・ジャズで異例の大成功を収めたのが1965年に発表されたラムゼイ・ルイス・トリオの「ジ・イン・クラウド」です。何せアルバム最高位が2位、シングルカットされたタイトル曲”The In Crowd"も最高5位ですからね。これは正真正銘の大ヒットと言って良いでしょう。

ただ、その割にはジャズファンにおける評価はそれほど高いとは言えません。上述したモーガン、スミス、ウェス、ゲッツらの作品はジャズを少しでもかじった人なら必ず知っているほど有名なアルバムですが、ラムゼイ・ルイスや本作「ジ・イン・クラウド」がジャズ名盤特集等に出てくることはあまりないです。ラムゼイ・ルイス自体は1950年代からシカゴをベースに活動するピアニストで、本作にも参加しているベースのエルディー・ヤングとドラムのアイザック・"レッド"・ホルトとトリオを結成。シカゴのレーベルであるアーゴ・レコードに本作の時点で20枚近い作品を残していました。ただ、シカゴのローカルミュージシャンの域は出ず、ジャズのメインストリームからは遠い位置にいる存在でした。それが突然の大ヒットを放ったのだから世の中わからないものです。

演奏はライブ録音で彼らの地元シカゴではなく、ワシントンDCのジャズクラブ「ボヘミアン・カヴァーンズ」で行われたライブを収録したものです。1曲目タイトルトラックの"The In Crowd"は前年にソウルシンガーのドビー・グレイが発表した曲で、オリジナルも最高13位のヒットになったようですが、インストゥルメンタルの本作のバージョンの方はそれを上回る大ヒットになりました。要因はやはりノリノリのファンキーさでしょうね。当時流行りのモータウンサウンドを思わせる曲で聴衆の手拍子に乗せられるようにルイスがソウルフルなピアノソロを繰り広げていきます。ジャズと言うよりファンキーな踊れる曲としてリスナーの心を摑んだのでしょう。

それ以外の曲もバラエティ豊かな構成です。2曲目は一転してスローブルースの”Since I Fell For You"で、静かなバラード風の序盤から後半に向けてソウルフルに盛り上がっていきます。3曲目は有名なカントリー曲の”Tennessee Waltz"ですが、この曲はルイスはお休みでエルディー・ヤングのベースが全面的にフィーチャーされます。ベースをギターのようにかき鳴らすソロが圧巻です。4曲目”You Been Talkin' 'Bout Me Baby”はコテコテのソウルジャズ。5曲目”Love Theme From Spartacus"は「スパルタカス」と言う映画の曲ですが、美しいメロディからビル・エヴァンスやユセフ・ラティーフら多くのジャズメンにカバーされています。6曲目"Felicidade"はアントニオ・カルロス・ジョビンの有名なボサノバ曲を軽快に料理し、ラストはエリントンナンバーの”Come Sunday"で静かに幕を閉じます。以上、R&B、ブルース、カントリー、映画音楽、ボサノバ等色々なジャンルの曲を詰め込んだ1枚で、芸術性という点ではともかくエンターテイメント性という点では抜群の作品と思います。

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フレディ・レッド/サンフランシスコ組曲

2024-08-05 18:53:08 | ジャズ(ピアノ)

本日はピアニストのフレディ・レッドをご紹介したいと思います。作品数自体は決して多くはないですが、天下のブルーノートに2枚のリーダー作「ザ・コネクション」「シェイズ・オヴ・レッド」を残していることで、ジャズファンの間の知名度はそれなりに高いと思われます。特に後者はジャッキー・マクリーンやティナ・ブルックスを起用した哀愁漂う作風で、日本のジャズファンの琴線に触れずにはおれない名盤です。

そんなレッドですがブルーノート在籍前の1957年に1枚だけリヴァーサイドにリーダー作を残しており、それが本日ご紹介する「サンフランシスコ組曲」です。レッドはニューヨーク生まれのニューヨーク育ちですが、1956年から短期間サンフランシスコに住んでいたようで、その時の印象を組曲風に書き下ろしたのが本作と言う訳です。トリオ形式でベースはジョージ・タッカー、ドラムはアル・ドレアレス(ドリアース表記もありますがどちらの発音が正解かは知りません)が務めています。

全7曲、レッドの自作曲が4曲、スタンダードが3曲と言う構成ですが、ハイライトは何と言っても1曲目の”San Francisco Suite"でしょう。5つのパートから成る13分余りの組曲で、それぞれ「サウサリートから見た金門橋」「グランド・ストリート(チャイナタウン)」「バーバリー・コースト」「午前3時から7時までのカズン・ジンボ」「夜明けのシティ」の副題が付いています。私も20年以上前に旅行で4~5日滞在しましたがサンフランシスコは坂の上から海が見える風光明媚な港町で、レッドもそれらの情景を頭に浮かべながら曲を書いたのでしょう。とりわけ最初と最後に出てくる美しいテーマメロディが胸に響きます。

2曲目以降は普通のピアノトリオでオリジナルとスタンダードが半分ずつ。スタンダードの方はアップテンポで料理されたアーサー・シュワルツの”By Myself"、人気ミュージカル「ショウボート」の収録曲”Ol' Man River"、ケニー・ドリューも取り上げたクルト・ワイルの名曲”This Is New"で、個人的には美しいバラードに仕立てられた”This Is New”がおススメです。自作曲もバラエティ豊かでスインギーな"Blue Hour"、サビの部分のメロディが「蒲田行進曲」に似ている”Minor Interlude"、パトロンとして有名なパンノニカ男爵夫人に捧げたドライブ感たっぷりの”Nica Steps Out"等粒揃いの曲ばかりです。ずばりピアノトリオの隠れた名盤と思います。

 

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ドド・マーマローサ/ドドズ・バック!

2024-07-24 18:41:56 | ジャズ(ピアノ)

本日は謎のピアニスト、ドド・マーマローサをご紹介します。本名はマイケル・マーマローサと言い、ピッツバーグ生まれのイタリア系アメリカ人らしいです。ドドとは変わった名前ですが、Wikipedia情報によると子供の頃に頭が大きく胴が短いところが絶滅した大型の鳥”ドードー”に似ているという理由で付けられたあだ名らしいです。いや、それってイジメちゃうん?と思ってしまいますが、そのまま芸名にしたということは意外と本人も気に入ってたのでしょうね・・・となるとカタカナ表記はドードー・マーマローサとすべきなのか?と言う疑問も湧きますが、ドドで進めましょう。

話が脱線しましたが、このドド・マーマローサ、CDで入手可能なリーダー作はおそらく本作のみという幻のピアニストなのですが、1940年代のビバップ期にはかなり活躍したらしいです。そう言われればチャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションのうち9曲に名を連ねています。"Moose The Mooche"や"Ornithology"のバックでピアノを弾いているのがドドですね。ただ、1950年代はほぼ活動しておらず、シーンから姿を消してしまいました。原因の一端はお決まりの麻薬のようですが、それだけではなく私生活でも離婚したりといろいろトラブルを抱えていたようですね。1960年代に入ると再び演奏活動を再開し、1961年5月にシカゴのレコード会社であるアーゴ・レコードに復帰作として吹き込まれたのがこの作品です。なお、リズムセクションはシカゴを拠点にしていたリチャード・エヴァンス(ベース)とマーシャル・トンプソン(ドラム)が務めています。

全10曲。アルバムはまずドドのオリジナル曲”Mellow Mood”で幕を開けます。タイトル通りまさにメロウな雰囲気を持ったミディアムテンポの曲で、まるでスタンダードのような魅力的なメロディです。こう言った事前知識のない作品は1曲目でつまずくと2曲目以降を聴く気が失せるのですが、摑みはがっちりですね。ちなみにドドのオリジナルはもう1曲あり、9曲目”Tracy's Blues"がそうですが、残念ながらこちらはあまり印象に残りません。

その他の8曲は全て歌モノスタンダード。"Cottage For Sale""Everything Happens To Me""On Green Dolphin Street""Why Do I Love You?""I Thought About You"と定番スタンダードがずらりと並びます。ある意味ベタな選曲で、演奏が平凡だとつまらない作品になりがちなところですが、ドドの抜群のテクニックに裏打ちされた見事な演奏のおかげで十分に聴き応えのある内容となっています。中でもおススメは"On Green Dolphin Street"で、ウィントン・ケリーやビル・エヴァンスの名演で知られるスタンダードを全く遜色のないクオリティで弾き切っています。普段あまり耳にしない"Me And My Shadow"や"You Call It Madness"と言った曲も良いです。これだけの実力を持ちながら、結局ドドはメジャーな存在にはなれず、シカゴでしばらく演奏活動を行った後、故郷のピッツバーグで決して幸福とは言えない余生を過ごしたそうです。ジャズの世界で身を立てるのは厳しいというのをあらためて痛感しますが、このアルバム自体は数年前にもCDで再発売されましたし、半世紀以上たった今も聴き継がれているのはジャズマンとしては幸せなことなのかもしれません。

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