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ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ハンプトン・ホーズ/ハンプズ・ピアノ

2025-04-17 18:12:18 | ジャズ(ピアノ)

本日は私の大好きなピアニストであるハンプトン・ホーズを取り上げたいと思います。ホーズは西海岸で活躍したピアニストで、50年代にコンテンポラリー・レコードに残したピアノトリオ作品が日本でもCD発売されたため、一般的なジャズファンにもそれなりに認知された存在だと思います。ただ、それらの作品はわりとお気軽なスタンダード集と言った感じで、正直テクニックはあるけど深みがない、と言った印象を持たれがちです(私もそうでした)。ただ、ホーズについては知れば知るほどその魅力がわかってきます。抜群のテクニックに裏打ちされたドライブ感溢れる演奏はもちろんのこと、バラードではロマンチックできらびやかなフレーズを次々と繰り出し、ブルースでは黒人ならではのディープでソウルフルな演奏を聴かせてくれます。ハロルド・ランドと組んだ「フォー・リアル!」はじめ60年代のコンテンポラリー作品群はもっと評価されて良いと思いますが、CDではとっくに廃盤となっていてなかなか再発売されないのが残念なところです。

今日ご紹介する「ハンプズ・ピアノ」はそんなホーズが1967年11月にドイツのSABAというレコード会社に吹き込んだ作品です。SABAはハンス・ゲオルク・ブルンナー=シュヴェーアと言う人が設立したレーベルで翌年に設立されたMPSレコードの前身と言った方がわかりやすいかもしれません。この頃のホーズはアメリカを離れて1年近くに渡って世界各地をツアーで回っており、ドイツでは本作、翌年にはイギリスのブラック・ライオンに「スパニッシュ・ステップス」、その他フランスのレコード会社にも録音を残しているようです。ピアノトリオで、ベースにはエバーハルト・ヴェーバー、ドラムにはクラウス・ヴァイスと地元ドイツのジャズマンが参加しています。

全8曲、ホーズのオリジナルとスタンダードが半々ずつと言う構成です。オープニングは”Hamp's Blues”。タイトルとは裏腹に全くブルースではなく、実に美しいメロディを持った名曲です。ただこの曲、上記の「スパニッシュ・ステップス」では"Black Forest"のタイトルで演奏されていました。まあ、同じ曲でもタイトルが違うぐらいはたまにあるのですが、事をややこしくしているのが本作には別に"Black Forest Blues"と言う曲があること。こちらは上記の"Black Forest"とは全く違ってタイトル通りブルースです。さらにもう1つややこしい点がありまして、本作にも「スパニッシュ・ステップス」にも”Sonora”と言う曲があるのですが、中身は全く別で「スパニッシュ~」の方は哀愁漂うメロディの曲で、本作のバージョンは"All The Things You Are"を当時流行りのボサノバ風にしたような曲です。どの曲も演奏自体は問題ないのですが、タイトルの付け方をもう少し考えてくれよ!と言いたいところです。オリジナルではあと1曲”Rhythm”と言う曲がありますが、こちらは文字通り疾走感溢れるリズミカルな曲です。

スタンダードの方はドライブ感たっぷりに演奏する"Autumn Leaves"、ベースとのデュオでベースソロもたっぷりフィーチャーされる"What Is This Thing Called Love?"と有名曲が続きます。"I'm All Smiles"はあまり馴染みのない曲ですが「子鹿物語(The Yearling)」と言う映画の収録曲で、バーブラ・ストライザンドも歌った曲だとか。ホーズはこの3年前に収録したコンテンポラリー盤「アイム・オール・スマイルズ」でもこの曲を取り上げていたのでお気に入りだったのでしょう。ラストトラックの"My Foolish Heart"はビル・エヴァンス「ワルツ・フォー・デビー」であまりにも有名なバラード曲。ホーズは「スパニッシュ・ステップス」でも同じく「ワルツ・フォー・デビー」の"My Romance"を取り上げていますし、意外とビル・エヴァンスを意識していたのかもしれませんね。

 

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ドン・ランディ/枯葉

2025-03-29 12:20:27 | ジャズ(ピアノ)

本日は変わったところでドン・ランディと言うピアニストの作品をご紹介します。決してメジャーではないですが60年代から70年代にかけてそこそこ活躍した白人ピアニストです。彼はジャンル分けが難しく、拠点は西海岸に置いていたもののいわゆるウェストコーストジャスとは少し違いますし、かと言って同時代のビル・エヴァンス等の叙情派とも少し違う。そもそもジャズ一筋と言うわけでもなく、セッション・ピアニストとしてビーチ・ボーイズやライチャス・ブラザース等のレコーディングにも参加していたようです。

本作はワールド・パシフィック盤「フィーリン・ライク・ザ・ブルース」と並んで彼のピアノトリオの代表作で1962年にヴァーヴ・レコードに吹き込まれたものです。原題はWhere Do We Go From Here?ですが邦題は「枯葉」です。メンバーにはリロイ・ヴィネガー(ベース)、メル・ルイス(ドラム)とそれぞれの楽器で西海岸を代表する名手が名を連ねています。

全8曲、自作曲が3曲、スタンダード等のカバーが5曲と言う構成です。オープニングは自作の"T.J.'s Blues"。コテコテのファンキー・チューンでランディが白人らしからぬ黒々としたピアノを聴かせてくれます。ファンキー系で攻めるのか?と思わせますが2曲目はガラリと雰囲気が変わり、愛らしい旋律が耳に残る”Waltzing Matilda”と言う曲。この曲はオーストラリアで昔から親しまれている歌で、国歌に準じた扱いを受けているとか。youtubeで検索すると壮麗な合唱バージョンが聴けますが、この曲を洒落たピアノトリオにアレンジしたランディのセンスが光ります。3曲目はコール・ポーターの”I Love Paris”、4曲目は"That's All"でどちらも有名なスタンダード曲。両曲とも原曲より速めのテンポで演奏されており、前者はドライブ感溢れる演奏、後者はスインギーなトリオ演奏に仕上がっており、特に後者ではリロイ・ヴィネガーの1分半にも及ぶベースソロも聴けます。

続いて後半(B面)。"Take 6"はランディのオリジナルでこちらも1曲目を超えるコテコテのファンキージャズ。ランディはホレス・シルヴァーが好きだったそうなので、その影響をうけたのでしょうが曲自体はどちらかと言うとボビー・ティモンズの"This Here"に似ています。6曲目"Interlude"もランディの自作曲ですが、こちらは一転してビル・エヴァンスも真っ青の叙情的なバラード。歌詞をつけて歌いたくなるような魅力的なメロディを持った名曲で、ピアノソロも素晴らしいです。本作でも一番の名曲・名演です。7曲目"Autumn Leaves"は邦題にもなっている「枯葉」です。他にいい曲がたくさんあるのになぜこの曲が?と思いますが、単純に日本人はこの曲が好きなのでしょう。私個人的にはこの曲は暗くてあんまり好きではないのですが。演奏自体は序盤メランコリックで中盤で盛り上がる展開で、この曲でもリロイ・ヴィネガーのウォーキングベースソロが聴けます。ラストの"Gypsy In My Soul"もスタンダード曲でドライブ感抜群の演奏です。以上、ファンキージャズから美しいバラードまでさまざまな演奏スタイルが楽しめる充実のピアノトリオ作品です。

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マッコイ・タイナー/バラードとブルースの夜

2025-02-25 19:33:31 | ジャズ(ピアノ)

本日はマッコイ・タイナーです。マッコイと言えば切っても切り離せないのがジョン・コルトレーンとの関係。1960年10月21日の「コルトレーン・ジャズ」で初共演を果たして以降、コルトレーン・カルテットの不動のピアニストとしてドラムのエルヴィン・ジョーンズとともにアトランティック、ついでインパルス・レコードにジャズ史に残る数々の名盤を残します。その一方でマッコイはソロ活動も並行して行い、インパルスに数々のリーダー作を吹き込みます。今日取り上げる「バラードとブルースの夜」は1963年3月4日に吹き込まれたトリオ作品で、「リーチング・フォース」と並んでこの頃の代表作の1つです。

内容はタイトル通りスタンダードのバラードとブルース(と言うよりバップナンバー?)を集めたもので非常に聴きやすい作品です。当時のコルトレーン・カルテットはモードジャズの最先端を行く革新的なジャズを切り開いていましたが、本作にはあまりそのような雰囲気はありません。カルテットで聴かれるような飛翔するピアノソロやスピリチュアルなバラードプレイはここでは控え目で、全編リラックスしたムードが漂っています。この後、フリージャズに傾倒して行くコルトレーンとマッコイは段々合わなくなり、2年後の1965年には袂を分かつことになりますが、本作でのマッコイのプレイを聞けばそれも分かるような気がします。メンバーはベースがスティーヴ・デイヴィス。マッコイとは「マイ・フェイヴァリット・シングス」等アトランティック時代のコルトレーン作品で共演していました。ドラムはレックス・ハンフリーズです。

全8曲。歌モノスタンダードが4曲、デューク・エリントンとセロニアス・モンクのカバーが3曲、自作曲が1曲と言う構成です。スタンダードは”We'll Be Together Again""For Heaven's Sake""Star Eyes"と言った定番の歌モノに、前年にヘンリー・マンシーニが作曲した映画主題歌”Days Of Wine And Roses"です。どれも超正統派のピアノトリオで、マッコイのロマンチックな玉転がしタッチのピアノが存分に堪能できます。あえて言うなら"Star Eyes"でやや飛翔感が感じられますが、それ以外は普通と言えば普通過ぎるぐらいの演奏です。

個人的おススメはエリントン・ナンバーの”Satin Doll"。マッコイとエリントンは演奏スタイルは全然似ていないような気がしますが、マッコイは翌1964年に「マッコイ・タイナー・プレイズ・デューク・エリントン」と言う全曲エリントン・ナンバーのアルバムを発表するぐらいエリントンを敬愛していたようです。特にこの"Satin Doll”はそこでも再演していますのでよほど好きだったんでしょうね。他にセロニアス・モンクを2曲(”’Round Midnight"”Blue Monk")取り上げているのも意外ですね。モンクの独特の打楽器的なピアノ演奏とマッコイの流れるようなタッチのピアノもあまり共通点はないような気もしますが、モンクもバド・パウエルと共にマッコイに大きな影響を与えたピアニストだそうです。いずれの曲もオリジナルとは全く異なるアプローチでマッコイが料理します。1曲だけオリジナル曲の”Groove Waltz"は名前のとおりグルーヴィなワルツですが、こちらは可もなく不可もなくといったところか?以上、個人的にはやはりコルトレーンと演奏している時のアグレッシブなマッコイの方が好きですが、彼の正統派ピアニストとしての側面が見れる作品として悪くはないんじゃないでしょうか。

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レッド・ガーランド/ソーラー

2024-12-15 18:12:04 | ジャズ(ピアノ)

本日はレッド・ガーランドです。先日ご紹介した「レッズ・グッド・グルーヴ」でも述べたように、60年代に入ってからのガーランドはモードジャズやフリージャズの潮流には全く乗れず、徐々に活動を縮小していきます。この頃のガーランドはリヴァーサイド傍系のジャズランドに目立たない作品を何枚か残していますが、今日取り上げる「ソーラー」もそのうちの1枚で1962年1月30日の録音。上述の「レッズ・グッド・グルーヴ」の2カ月前の作品ですね。

メンバーはサム・ジョーンズ(ベース)、フランク・ガント(ドラム)から成るトリオにギターのレス・スパンが加わっています。このレス・スパンは1932年生まれと比較的若い世代ですが、共演歴を見てみるとデューク・エリントンやジョニー・ホッジス、ディジー・ガレスピーはじめ比較的上の世代のジャズマンが多く、スタイル的にもややオールドスタイルな感じです。ガーランドクラスならケニー・バレル等もっと大物のギタリストを呼ぶこともできたでしょうが、あえてスパンを起用したのは狙いがあるのでしょう。なお、スパンはギターだけでなくフルートも吹く変わり種で実際本作でも2曲でフルートを演奏しています。

全8曲。ガーランドのオリジナルが2曲で、後はスタンダードです。1曲目はウィル・ハドソンと言うあまり知らない人が書いた”Sophisticated Swing”というスイング時代の曲。いきなりブロックコードで弾き始めるあたりがガーランドならでは、と言う感じですが演奏自体はリラックスした雰囲気で、基本的に作品全体の基調となっています。スパンのギターソロもあまり自己主張し過ぎない感じでしょうか?続く”Solar”は本作のタイトルトラックでかつてのボスだったマイルスの曲ですが、こちらも同じような曲調ですね。"Where Are You?”はバラードでレス・スパンがギターではなくフルートを吹いています。6曲目の”The Very Thought Of You”も同じくバラードとフルートと言う組み合わせですが、個人的にはやや眠たくなる感じです。

4曲目”Marie’s Delight"はガーランドが妻に捧げたオリジナル、となっていますがどこかで聴いたことがある曲。パーカーの”Dexterity”に少し似てますかね。この曲と続くロジャース&ハートの”This Can’t Be Love"、もう1曲のオリジナル”Blues For News”はアップテンポの曲でガーランドのノリノリのピアノが堪能できます。スパンもギターでバックにソロにと盛り立てますが、やはりそこまで前面に出る感じはないですね。テクニック的には十分上手いと思うのですが、印象に残るフレーズがないというか。でも、ガーランドとしてはそこがスパンを起用した意図で、あくまで主役の自分を邪魔しない人を起用したのでしょう。ラストの”I Just Can’t See For Lookin’”はナット・キング・コールのカバーらしいですが、再びリラックスしたムードの曲で締めます。ガーランドの諸作品の中ではとりわけ名盤という訳ではないですが、聴いて損はない1枚と思います。

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ビル・エヴァンス/ハウ・マイ・ハート・シングス

2024-12-11 21:05:12 | ジャズ(ピアノ)

ビル・エヴァンスはリヴァーサイド・レコードに合計10枚の作品を残しましたが、その中でも名盤の誉れが高いのがスコット・ラファロ(ベース)、ポール・モティアン(ドラム)と組んだ「ポートレイト・イン・ジャズ」「エクスプロレーションズ」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」「ワルツ・フォー・デビー」の4作品で、ジャズファンからは"リヴァーサイド4部作"と称され昔から愛されています。中でも「ワルツ・フォー・デビー」はジャズ史上に燦然と輝く傑作ですが、そのライヴが行われたのが1961年6月25日。そのわずか11日後にスコット・ラファロは交通事故で死んでしまいます。享年25。この悲劇にエヴァンスはかなりショックを受けたようで、その後しばらくは演奏活動をストップしてしまいます。

翌1962年5月にようやく傷の癒えたエヴァンスが初めて吹き込んだピアノトリオ作品が今日ご紹介する「ハウ・マイ・ハート・シングス」です。ラファロの後任として迎えられたのはチャック・イスラエルズ。この時点で既にコルトレーンやエリック・ドルフィーとも共演歴のあった実力派です。なお、ドラムはポール・モティアンが引き続き務めています。セッションは翌6月まで4回に分けて合計16曲が収録され、本作ともう1枚「ムーンビームス」が発売されています。どちらかと言うと「ムーンビームス」はスタンダード中心、本作はオリジナル曲多めです。

アルバムはアール・ジンダース作の美しいタイトルトラック”How My Heart Sings"で幕を開けます。このジンダースと言う人はエヴァンス御用達の作曲家と言って良く、他にも「エクスプロレーションズ」の"Elsa"、「フロム・レフト・トゥ・ライト」の"Soiree"、「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」の"Quiet Light"等を作曲しています。どれも非常に魅力的な楽曲ばかりだと思うのですが他ではあまり名前を目にすることはないですね。不思議ですが、まあエヴァンスが演奏すればどんな曲でも美しく聴こえるので、その効果もあるのかも?

それ以外はエヴァンスのオリジナルが3曲。”Walking Up"はアップテンポで出だしがコルトレーンの"Giant Steps"に似ています。"34 Skidoo"はタイトルが意味不明ですが、昔アメリカで流行った魔法陣ゲームの名前らしいです。ややとっつきにくい曲ですが、エヴァンス自身は気に入っていたのかその後ライブでたびたび取り上げています。"Show-Type Tune"はアルバムのラストを飾る軽やかでスインギーな曲です。

スタンダードは歌モノの””I Should Care"”Summertime"、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"と言った定番曲が収録されていますが、どの曲も彼ならではの"崩し"が入っており、他とは違うエヴァンス風の演奏に仕上がっています。特に"Summertime"は途中で一体何の曲を演奏しているのかわからなくなるくらい大胆にアレンジされていますね。一方、コール・ポーターの”Ev'rything I Love”は原曲の美しいメロディを活かしたロマンチックな演奏で個人的にはおススメです。ぶっちゃけエヴァンスのリヴァーサイドの傑作群の中では一番地味な作品で取り上げられることも少ないですが、それでも十分クオリティは高いと思います。

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