鶴岡法斎のブログ

それでも生きてます

エヴァ、いくつか

2006-10-08 09:14:12 | 雑記
リアルタイムのテレビ放送で自分はさほどエヴァにのめり込めなかった。
暗い作品が嫌いというわけではないのだが、その「暗さ」が自分が普段見ている暗さとは異質のものに感じられた。
何かこう禍々しくも思えた。
それでもアスカが登場してしばらくは結構楽しめるようになって(いまでもこのあたりのエピソードは好き)「ああ、この調子で行けばいいな」と思ったらまた暗くなってあの最終回。
ちなみに最終回、自分は知人から「いまの見た?」という電話があるまで総集編だと思い込んでいた。最期の「おめでとう」の意味がよくわかんなかったのだが。それで次回予告もないから一人で混乱していた。
すると番組終了直後から自分より内容をちゃんと理解している人たちから何度も電話。そうしたらその人たちはもっと混乱していた。理解すれば理解するほど混乱するってどういうことだ。
当時の自分はネット環境がなかったが、人づてに聞くところによるとパソコン通信(懐かしい言葉だね)の会議室では喧々諤々の議論だったとか。

そしてある出版社からエヴァのムックを作る仕事が回ってきた。
自分は経済的にも助かる仕事だったので引き受けた。そこでいろいろなものを見た。エヴァンゲリオンがあのデザインに落ち着くまでのいくつかのラフとか。
そこに小さい字で「もっと○○○っぽく」という指示が書いてあった。○○○のところにはノートルダムの何とかの言葉が入ります。
で、人からいわれてこの字が庵野さんの字だと知る。そしてムック掲載時にはその当然差別用語になってしまっているノートルダム某と同じ意味の三文字は隠す方向で掲載された、と思う。記憶違いだったらすいません。
まあ差別用語使っていたからどうとかとは思わない。まあそういう言葉を知っていたら指示としてはわかりやすいしね。そもそもこんなデザイン画、あそこまでヒットしなけりゃ表に出なかったんだろうなあ。
その他にも自分が熱烈なファンだったら盗んだりコピーとって保管したりするようなレベルのものも見ていたが、自分はそんなに熱心なファンではないし、そもそも仕事中に盗む、なんてのはモラルがないにもほどがあるし、そんなことできるほどヒマではなかった。
ただ、デザイン画を何枚も見て、庵野さんの小さい字で書かれた指示を見ているうちに「あ、この人って怪獣とか好きなんだな」ということが伝わってきて、一方的な親近感を持った。そのことはよく覚えている。

そして編集サイドから自分に妙な仕事が回ってきた。
編集部が「庵野監督にメッセージを」とか雑誌でいったらしくあのテレビ版の最終回を見たファンから段ボール単位でお便りが来ているという。当時はネットはそれほど普及していなかった。リアルタイムで見ている中学生とかなら尚更か。
それを「開封して読んで、面白いものをムックに載せるから打ち出してくれ」という。これが俺の仕事。
仕事なので引き受けた。
そっか…、みんな庵野さんに出したつもりなのに…、俺なんかに読まれたしまうのか。少し悲しくなったし、罪悪感もあった。しかし仕事なのでやった。
編集側から「開封のとき、気をつけてくださいね」といわれた。その理由はすぐわかった。カミソリである。
まさか、と思ったら数百通(いや千を超えていたのかなあ。記憶曖昧)のなかに一通だけカミソリがあった。古風すぎて少し感心した。感心するな。
賛否両論だった。圧倒的に否が多かったけどね。
「あんな終わり方じゃシンジ君もレイちゃんもかわいそうです」という中学生女子の手紙(本人が描いたであろう登場人物のイラスト付き)を読んでいると切なくなった。
「みんなエヴァが大好きなんだなあ。この人たちの悲しい気持ちが少しでも癒えるような本を作れたら」と(当時の自分は思っていたような気がする)。
しかしそれどころではなかった。賛否という対立の谷間に咲いた一輪の花。「狂」というカテゴリの人たちが何人かいたからだ。
いまでも覚えている。
「あの作品は自分が考えたもので盗作です」
「エヴァは地球の今後の未来を予言しているアニメなので政府はその警告に従うべき」
「あのアニメは地球ゴマの理論によって作られているが、その理論を完成させたのは自分だ」などなど。
困った。本気で困った。こんなの載せられる訳ないだろ。しかしその人たちの狂っているけど必死な文章は妙に味わいが深く(所詮自分が庵野さんじゃないからそう感じたのかも。直接来たらかなり嫌だと思う)、何度も読んでしまった。一人、16色ボールペンか何かを使ったのか、一文字ずつ違う色で長文の手紙を書いてきた人もいた。あれは読みにくかった。字も読みにくけりゃ内容も。
結局、その手紙は仕事が終わってから編集部に返した。
庵野さんがそれを読んだのかは知らない。
ただ当時の自分はこの時にエヴァそのものではなく「エヴァに情熱を注ぐ人たち」に興味を持った。それは現実として俺の人生に関わってくる。

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