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どう調べたら、そうなるの?内閣支持率のフシギな仕組み
いつの間にか回復中
週刊現代
先日までモリカケで「危険水域」と言われていた安倍内閣の支持率が、突然過半数を超えた。納得できないといえばそれまでだが、詳しく見ていくと、結果とはやや裏腹な「民意」が浮かび上がってきた。
■ 「支持率52%」の衝撃
ある土曜日の午後7時、夕食後。リビングのテーブルに置いてあるスマホが震える。非通知。夜のとばりが降り、見知らぬ人から電話がかかると気持ちは穏やかでない。
恐る恐る電話を取ると、機械的だが明朗とした女性の声が聞こえてくる。
「安倍内閣支持に関する世論調査のご協力をお願いいたします」
突然のお願いに少し動揺しながらも、オペレーターの質問に答えていく。「安倍政権を支持しますか」「支持政党はどこですか」「森友問題の決着には納得できますか」……。
わずか5分程度で終わる世論調査。だが、6月22~24日の日経新聞の調査で明らかになったのは、まったく予期せぬ数字だった。
52%――。一時期、相次ぐ不祥事に政権運営を危ぶまれた安倍内閣の支持率は、6月に10ポイントアップし、過半数を超えた。
支持率の回復を報じたのが日経新聞だけなら、ちょっとした上振れと見逃すこともできたかもしれない。
だが、朝日新聞は前月比2ポイント増の38%、毎日新聞は5ポイント増の36%と、程度は違っても、6月同時期の各紙の調査で軒並み「支持率回復」の結果が出た。
ふつうに考えてみれば、安倍政権への期待が高まる出来事が起こっているはずだが、我々にそのような実感はない。
いまだに膠着状態の森友・加計問題にとどまらず、'18年の安倍政権は通常国会に入ってから不祥事のオンパレードだった。
松本文明内閣副大臣が米軍機事故について「それで何人死んだんだ」と飛ばしたヤジから、「働き方改革」関連法案をめぐる厚労省の不適切データ、そして福田淳一財務次官のセクハラ辞任まで、異例のペースとしかいうほかない。
実際、政府の手腕に対する疑問は今回の日経新聞の世論調査にも如実に表れている。
たとえば、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)法案について、賛成は33%(反対53%)。拉致問題について「期待できる」と回答したのは32%(できない60%)。
加計学園理事長と首相の面会否定について「納得できる」としたのは20%(できない70%)、森友問題の決着について、「決着した」と回答したのはわずか18%(していない75%)にとどまっている。
「過半数超え」まで安倍政権の支持率が回復したのは、'18年2月以来となる。支持率30%の「危険水域」にまで落ち込んだ上半期がまるでなかったかのような復調ぶりだ。
「安倍総理は支持率をだれよりも気にするタイプで、あるメディア調査の支持率が30%を割ったときに、菅義偉官房長官が番記者に『おかしいじゃないか』と不満を漏らして、政界で話題になったほど。今回の結果にも、安倍総理は『よかった』と胸をなでおろしています」(官房筋関係者)
■ 何を評価したのか
実際、安倍総理にとっては願ってもないタイミングでの支持率回復だ。当人悲願の「3選」や、ひいては来年の参院選にも見通しが立つためだ。
「7月の閉会まで、働き方改革など重要法案の採決が残っているけど、そこまではスムーズにいくとの見方が党内で強い。
9月の総裁選に関しても、支持率が過半数を超えたことで無派閥の議員や党内の反安倍分子まで手のひら返して安倍総理の支援に回りだしている」(自民党衆議院議員)
喫緊の課題に、なにひとつとして解決策を出していないにもかかわらず、安倍政権は息を吹き返している。ここで、我々の実感とは少し離れた結果を出した世論調査の内実について考えてみよう。
低迷していた支持率が突如回復したのは、2つの大きな理由がある。
ひとつ目は、外交だ。6月の世論調査で特徴的なのは、米朝首脳会談について「評価する」と回答した人が55%と、ほかの設問に比べて高かったことだ。日経では支持する理由でいちばん多かったのが「国際感覚がある」という回答だった。
「3月の調査で内閣を支持する理由としていちばん多かったのは『安定感がある』でした。今回の調査で『国際感覚がある』となったのは、米朝会談によって北朝鮮による核のリスクが軽減されたという楽観視によるものだと考えられます。
これを安倍外交の成果だと感じた人が支持に回った、ということでしょう」(明治大学政治経済学部教授の井田正道氏)
■ モリカケに飽きた人々
支持率の調査が行われた6月22~24日は、G7から米朝会談と、混沌とした世界情勢に一瞬の融和ムードが生まれた直後。実施の時期も数字に少なからず影響を与えているだろう。
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が語る。
「安倍総理は、世論調査で支持率が落ちると外交で巻き返す、というのが一貫した戦略になっています。
今年4月末の中東、5月のロシアに続いてG7、さらに7月中旬には欧州訪問と、モリカケ問題から脱却するために外交攻勢を仕掛けています。そして外交での成果は、安倍一強による長期政権のおかげだと暗に訴える狙いがある」
支持率が増えた2つ目の理由は、特に支持政党を持たない無党派層の政治離れが強くなったことにあるという。
「モリカケ問題をめぐる国会審議では、与党は野党と熟議をしない、一方野党は与党に話を聞いてもらえない状態が続いています。野党は審議拒否するしかなく、最後は結局強行採決で決められる。
政府に好意的になったわけではなく、野党に対する支持が減ったとみるほうが正しいでしょう。
安倍政権の支持率を支えているのは『期待値』です。たしかにモリカケでは支持率が下がった。
でも野党に代わりとなる選択肢がないため、政府にとって少しでもいい動きが出れば、期待値が高まり、支持率の上昇につながります」(選挙ジャーナリストの高橋茂氏)
野党への失望感は数字に如実に表れている。野党第一党である立憲民主党の支持率は9%、第二党の国民民主党はまさかの「0%」という結果に終わった。
野党が吹っ掛ける水掛け論には飽きた。一方でなんとなく、海外でアベは頑張っているように見える。そうした非常にあいまいな空気が「世論」として、「過半数超え」という客観的な数字に化けるのだ。
冒頭で触れたような世論調査は、「RDD方式」とよばれる方式で行っている。これはコンピューターがランダムに発生させた電話番号にダイアルし、オペレーターによる聞き取りまたは機械音声によってアンケートを取るものだ。
質問内容は各メディアによって異なるが、たとえば「安倍政権を支持する場合は1を、しないという場合は2を押してください」と、全部で5分程度で終わる質問が6~7問、矢継ぎ早に続く。
「日経新聞の調査では、支持か不支持か『わからない』と答えた人が6%にとどまりましたが、これは調査手法によって大きく数字が変わってきます。
日経の場合、一度『わからない』と回答しても、『あなたのお気持ちに近いほうはどちらですか』と重ね聞きしてくる。そのため、支持と不支持どちらも高めに出る傾向にあるのです」(全国紙世論調査部担当者)
'16年以降の調査では、固定電話だけでなく携帯電話も世論調査の対象として各社取り入れた。
「なぜメディアがRDD方式をやるのかというとコストが安いからです。昔は有権者名簿を見て、面接訪問調査に行きましたが、全国でサンプル数を3000取るとしたら3500万円くらいのコストがかかり、面接調査員も全国で200ヵ所に派遣する必要がある。
一方、電話調査であれば20分の1程度のコストで済み、中央で一括管理もできます」(慶応義塾大学法学部教授の小林良彰氏)
携帯電話も含めたダイアル式での世論調査は、以前の形式とくらべて若い層のサンプルが増える。この結果、支持率にも多少の影響が出てくる。
長野県立大学教授の田村秀氏は次のように言う。
「支持率を測るRDD調査の場合、プラスマイナス5%程度のばらつきが起こる可能性はあります。これはどのメディアが調査を実施するかに関係なく起こりうるものです」
■ 「ポスト安倍」の不在
若者の自民党支持が多いという結果も、今回の日経新聞の調査から明らかになった。前出・小林氏はこう語る。
「日本経済の基軸は依然として日米関係にあります。10代から30代では、旧民主党の鳩山由紀夫政権における日米関係の悪化、マニフェストの反故が記憶に新しい。
また、人手不足による好調な新卒就職率の恩恵を受けている世代として、自民党への一定の支持がある。
同時に、いまはトランプ大統領を震源地として、世界秩序が不安定になってきています。こういう混乱期には、長く政権を担っている人のほうがリスクは少ないとみてしまう。
このタイミングでだれが現政権に代わってやるか、野党はおろか自民党からもビジョンが浮かばないため、リスクを取りたくないと考える人が多いのです」
10代から30代、新聞を読まない人たちはみんな自民党を支持している――。6月24日、麻生太郎財務相が講演で語った言葉が浮かぶ。
これを真に受けるならば、「新聞を読まない世代」の回答も紙面の数字に反映されるわけで、感覚と結果が異なっても多少合点がいく。
安倍内閣の支持率が回復したのは、ポスト安倍の有力候補がいないということに尽きる。今回の調査でも小泉進次郎氏がポスト安倍の最有力候補として挙がったが、国民のほとんどが次回の総裁選で彼が立候補するとは思っていない。
安倍政権が長期運営を続けるうえで、政権維持のデッドラインにも変化がみられるようになった。
「ある程度の不祥事が起こっても、政権に致命的なダメージがなければ、不祥事が風化したころに支持率が自然と回復する。これが長期政権の特徴です。
これまで政権維持の危険水域は3割といわれてきましたが、2割前半まで落ち込むことがなければ沈むことはないでしょう」(前出・井田氏)
なんとなく決定打のないままさまよう民意が、数字化されると政権運営にプラスに働く。安倍総理の「したり顔」が目に浮かぶようだ。
「週刊現代」2018年7月14日号より
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