本当の賢治を渉猟(鈴木 守著作集等)

宮澤賢治は聖人・君子化されすぎている。そこで私は地元の利を活かして、本当の賢治を取り戻そうと渉猟してきた。

上田哲の再検証

2015-10-17 08:00:00 | 捏造された〈高瀬露悪女伝説〉
「賢治伝記」の虚構―捏造された<高瀬露悪女伝説>―
        (『宮澤賢治と高瀬露』所収の「聖女の如き高瀬露」のダイジェスト版)
鈴木 守
上田哲の再検証
 このようなあり得べからざる実態に対して、疑義ありと嚆矢を放ったのが上田哲であり、彼は新たな証言や客観的資料を基にしてこの〈悪女伝説〉を再検証してみたところそれは冤罪的伝説であったということが実証できたので、そのことを論文「「宮沢賢治伝」の再検証㈡―<悪女>にされた高瀬露―」にして平成8年に公にした(ただし未完に終わっている)。
 そこでは、上田は例えば、
 露の<悪女>ぶりについては、戦前から多くの人々に興味的に受けとめられ確かな事実の如く流布し語り継がれてきた。…(筆者略)…この話はかなり歪められて伝わっており、不思議なことに、多くの人は、これらの話を何らの検証もせず、高瀬側の言い分は聞かず一方的な情報のみを受け容れ、いわば欠席裁判的に彼女を悪女と断罪しているのである。
と述べている。そして続けて、
 高瀬露と賢治とのかかわりについて再検証の拙論を書くに当たってまず森荘已池『宮沢賢治と三人の女性』(一九四九年(昭和24)一月二五日 人文書房刊)を資料として使うことにする。…(筆者略)…境だけでなく一九四九年以降の高瀬露と賢治について述べた文篇はほとんどこの森の本を下敷にしており
              <共に『七尾論叢11号』(七尾短期大学、平8)より>
と述べている。これらのことからは、上田が〈露悪女伝説〉の因(もと)になったと言うところのその「一方的な情報」とは、実質的には『宮澤賢治と三人の女性』(狭義には、同書に所収されている「昭和六年七月七日の日記」における露に関する記述)を指していると言えよう。実際私もいろいろ調べてみたところ、確かにそのとおりだった。
 そして、これまた上田の「一九四九年以降…この森の本を下敷にしており」という指摘どおりで、昨今でも、前掲した『賢治文学「呪い」の構造』や『宮澤賢治と幻の恋人』等においても「下敷」にされている(私が調べた限りでは、いずれも著者自身が検証した上で著したものとはやはり思えないのだが)。しかもかつての儀府成一の場合などはもっと問題で、自身の著作「やさしい悪魔」において、この「一方的な情報」を元にして、「下敷」どころか読むに堪えない「虚構」までも弄してその拡大再生産をしている。

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