辞書引く日々

辞書が好きなのだ。辞書を引くのだ。

『ラテン語の世界』(中公新書)

2008年03月13日 | 
『ラテン語の世界』(小林標著、中公新書)を読む。今まで読んだこの手の本の中でいちばん面白かつた。

最初のはうは、言語としてのラテン語について書かれてゐる。ソシュールとかチョムスキーとかは居なかつたが如きで、古き良き言語学の蘊蓄が語られてゐて好もしい(私の頭の中が、およそ世間から百年は遅れてゐるゆゑかもしれぬ)。そして、この本には全編ラテン語への愛情があふれてゐるのだ。

「言語学においては、諸言語の価値の高低を論ずるのはルール違反である。しかし、言語の魅力の高低を論じるのは許されるはずだ。筆者はときどき思うのだが、ラテン語をよく学んだ人は、等しく近代語を『堕落した言語』と見てしまうのではなかろうか。」(p.106)

ちやんと屈折するといふところが魅力の一つだといふわけで、例として he will have seen を viderit の一語で表現できるといふ例が挙げられてゐる。(屈折恐るべし! 「ローマ人がコンピュータ言語を作ったらどうなつたであらうか」などと考へてしまふ。)

また、この本の文体には老先生のざつくばらんな雑談のごとき愉快さがあり、たとえば、ラテン語に冠詞がないことについて、「(前略)冠詞とは要するに言語の変化の過程でできた新しい要素であって、半可通な日本人がときどき考えるような、日本語と西洋語との違いを示すものなどではない。」(p.68)などと小気味良くタンカをきつて呉れたりもする。

ともかく、気軽に読める愉快な読み物なり。

ラテン語の世界―ローマが残した無限の遺産 (中公新書)
小林 標
中央公論新社

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コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (つちや)
2008-03-18 21:53:32
おもしろそうだったんでアマゾンで買いました。今日届いたよ。
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Unknown (カビパン男)
2008-03-19 21:33:11
こんにちは。
私はこの本を読んで、途中でうっちゃっとおいたラテン語の勉強をまた続けようという気になりました。
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