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辞書引く日々

辞書が好きなのだ。辞書を引くのだ。

大声の者

2006年03月17日 | 言葉
本を読んでいたら、a deep stentorian showt なるくだりあり。学校より聞こえる大声を描写するなり。(Gissing, By the Ionian Sea)

(formal) (of a voice) loud and powerful --- OALD 7th

まあ、普通の説明なり。面白くないから、1913 年の Webster というのを引いてみる。これは EPWing 版が配布されていて、無料で利用できる。

A herald, in the Iliad, who had a very loud voice; hence, any person having a powerful voice.

などと書いてある。Stentor といのはイリアスに出てくる布告人であり、大声であるというのである。転じて大声の者を指すと。

本当にイリアスにそんなキャラが出てくるのか調べてみる。手元にあるのは、土井晩翠訳の冨山房版 (1940, 1995 新版)なり。

新版 p.245 に、「ステントールの雄剛の姿を借りて宣し曰ふ」とある。
注ありて、ステントールは、ここだけしか出てこないという。
なんだ、どうでもいいキャラらしい。

もっとも、イリアスに大声であるとは書いてないから、もっと別の資料がありそうだ。上記の本はアリストテレスが使っていると注で指摘しているが、めんどうだから調べぬ。

ちなみに、Google で検索してみると、Stentor というのはラッパムシのことらしくて、こちらの由来はとんとわからぬ。ラッパ=うるさい=ステントール、なのか?

字音仮名遣い

2006年03月10日 | 言葉
漢語を仮名で書く字音仮名遣いというのは、なかなかやっかいだ。(私は歴史的仮名遣いの復活論者ではないが、明治時代の辞書を引いたりするのには必要だ)

驚いたことに、字音仮名遣いは、未だにメンテナンスがされていて、少しずつバージョンアップされているらしい。

手近にあるものを見てみる。広辞苑第4版では、中国は「ちゅうごく」のままということで、とくに字音仮名遣いを加えていないが、新潮現代国語辞典では「ちうごく」になっている。

新しい研究成果のせいで、鎌倉より前にどう発音していたか、ということがだんだんわかってきて、改訂されているのだという。

なんだか Windows 時代になっても、しばらくは MS-DOS の新しいバージョンが作られていたのに似ていて、愉快なことである。

もっとも、言海など明治時代に作られた辞書を引くという目的ならば、新しいバージョンの字訓仮名遣いではなくて、古いバージョンのそれを使わないといけない。

東とは何ぞや

2005年11月23日 | 言葉
べつに哲学的なことを言っているではない。東京から東に狙いを定めて直進すると、南アメリカに着いてしまうというのが、なんとも妙な話だと思うのだ。

常に方位磁針を確認しながら方向を修正して進めば、緯線に沿って北アメリカに着くが、最初に一度だけ方向を確認したのでは、だんだん南にずれていってしまうとうい話だ(方位磁針が正確に自転軸上の北極を指さないということは、この際考えい)。地球が球面だからそうなるというのだが、ここでそもそも東の定義とは何なのかということが気になってくる。

辞書を引くと、どの辞書にも日が昇ってくる方向というようなことが書いてある。季節によって日がのぼってくる位置が違うが、もしこれに「春分、秋分におい
て」という条件をつけるなら、東というのは緯線に沿った方向になるはずである。これならば、出発のときにだけ東を調べて、まっすぐ進んでも、東京から北ア
メリカに着くはずだ。そして、方位磁針はこの意味での「東」を指すものではないということになる。

(と投稿してから、かけがわ氏のツッコミで著しい間違いに気づいた。コメントを読まざるべからざるなり=読むべし)Thanks かけがわ氏。

些細

2005年11月08日 | 言葉
Trifles make perfection, and perfection is no trifle.
-- Michelangelo

(些細なることども完璧を作り、完璧は些細なることにあらず。
-- ミケランジェロ)

と fortune (ランダムに格言を出力するソフト)が言っていた。

ミケランジェロが言うとなんかいい感じなのだが、絶対にミケランジェロ以外の奴に言われたくないな。

疾風怒濤は四字熟語ではない?

2005年10月15日 | 言葉
「疾風怒濤の青春時代を送った」などという表現をしばしば目にする。

しかし、国語辞典(たとえば岩波国語辞典第二版や広辞林第六版)を引いてみると、疾風迅雷という四字熟語は載っているが、疾風怒濤という言葉は載っていない。(もちろん、疾風と怒濤という言葉は別々に載ってはいる。)なにかわけがありそうだ。

広辞苑(第五版)や新潮現代国語辞典(第ニ版)を引いてみたら、その理由がわかった。

疾風怒濤というのは、18世紀後半の文学運動をあらわすドイツ語 Sturm und Drang の訳語なのだという。つまり、漢文の中に疾風怒濤という四字熟語を探すことはできぬのであって、ここにこの言葉の権威が疾風迅雷よりも劣る理由があるらしい。

さすがに三省堂「大辞林 第二版」(オンライン版)をみると、Sturm und Drang の訳語というほかに、「疾風と怒濤」という語釈がのっていて、なんともやる気のない説明ではあるが、ともかく疾風怒濤が四字熟語としての権威を獲得しつつある徴しであるように思われる。

よわいす【歯す】仲間として交際する、任用する

2005年10月13日 | 言葉
よく知っている漢字に、まったく知らない意味があるとなんだかうれしい気持ちになる。

歯は動詞として「よわいス」と読む。仲間として交際するという意味が国語辞典に載っているが、漢和辞典を引くと、さらに任用するという意味がある。

任用された人たちが歯みたいに並ぶのかなあ、などと無用な想像をしてみる。

例文「之ヲ朝廷ノ上ニ齒セズ」

るいそう(羸痩)

2005年10月03日 | 言葉
近所のジムに通い始めた。金を使って運動するなんぞ破格な贅沢のようで躊躇していたが、あんまりにも運動不足だから、無駄づかいもやむを得まいと思ったのである。

体脂肪というものをはかってもらって、身長や体重とあわせた評価が出たが、「るいそう型」とある。なんじゃそりゃと思って、さっそく辞書を引く。(なにか海草とかプランクトンのようなものを想像したが、全然違った。当り前である。)

「るいそう」とは「羸痩」と記して、「弱りやせること。やせ衰えること。」(新潮現代国語辞典第二版)だそうだ。そうか、俺はやせ衰えているのか。

羸なんて字は見たことがないから、漢和辞典も引いてみる。「ひよわなさま。虚弱なさま。/疲れきったさま。衰えたさま」(全訳漢辞海)という意味で、「よわい、ヨワシ」と訓ずるらしい。

なにやら情けない熟語を一つ覚えた次第である。

ひしおみそとししびしお

2005年09月27日 | 言葉
「ひしお」というものがある。

調理用の味噌ではなくて、これで飯を食うというような味噌である。大辞林第二版(オンライン版)によると、「(1)なめ味噌の一。大豆と小麦で作った麹(こうじ)に食塩水・醤油を加え、塩漬けの瓜・なすなどをまぜ込んだもの」だそうで、「醤」と表記するとある。(「なめ味噌」という言葉があるのを初めて知った。ナメネコみたいでなんだかかわいい)

一方、孔子の弟子子路は権力闘争に巻き込まれて殺され「ししびしお」になったという。この「ししびしお」の「ひしお」は、同辞典によれば、「(2)塩漬けの肉や塩辛。肉びしお。」で、「醢」と表記するとあるのがこれだ。

どうも同じ「ひしお」でもだいぶ趣が違う。

「言海」で、この手の言葉を引くと、妙にくわしく載っていて可笑(おか)しい。いわく「食物。精(しら)ゲタル(=精白したるの意なり)小麥ノ飯ニ大豆、糯米(もちごめ)ヲ炒リテ粉トセルヲ雑ヘテ麹トシ、鹽水(しおみず)ヲ煮テ加ヘ、掻キマセテ貯フルコト数十日ニシテ成ル。多ク瓜菰(うり、こも)ナドヲ漬ク。ナメモノ●醤(●部分判読できず)。肉ナルヲ肉―、又しほからトイフ。醢。」(括弧内引用者による)。

「肉なるを肉ひしほ」というというところが大事で、ようするに麦をなんとかしたものがひしお味噌で、肉をなんとかしたものが肉ひしお、というわけだから、明快な構造である。「ししびしお」というのが肉ひしおのことであるということも、よくわかる

下の写真は、たまたま我が家にあった、ひしお味噌の入れ物の一部。旧カナで書くなら、「ひしを」でなくて「ひしほ」であろう。もっとも、一般名詞は商標登録ができないので、商品名として商標登録できるようにわざと「ひしを」にしたのかもしれない。




ゆーもあ【ユーモア】他人の不幸を笑うこと〈カビパン小事典〉

2005年09月13日 | 言葉
英国にしばらく滞在してわかったことは、かの地では他人の不幸を笑うことがユーモアの一大分野と理解されているということなり。

実例1・クマのパディントン手品をせむと言い、パーティー参加者に腕時計を借りむとす。嫌われ者の隣人時計を貸す。パディントンこれにハンカチをかぶせ、ハンマーでたたき壊す。しかるのちにパディントン手品の案内書を読むに、あらかじめ新しい時計を用意するべしとあるを知る。隣人多いに怒りて帰らんとす。パディントンが下宿せる家の主人いつまでも大声で笑い続ける。

実例2・余の住みたるフラットの大家、フラットの点検に来。向かいのフラットのドア前にある足ふきマットに靴の泥をこすりつけて、満悦。余のフラットにももちろん大家所有の足ふきマット備わるなり。