トミーのブログ 1

園芸研究家(園芸家) 富山昌克(トミー)が日々に感じたことや書き留めておきたいこと。

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2015年08月23日 10時11分19秒 | トミー流・バイテク論

~培養細胞の変異と選抜のすすめ~
■育種の実状
  育種は、「生物が持つ遺伝的変異性に着目して品種または系統と呼ばれる一定の特性を備えた生物の集団に、幅広い遺伝変異を誘起させて、そのなかから育種目標にかなった個体または系統を選抜して、新しい特性を持った品種を作出するもの」である。つまり育種とは「植物進化の人為的な制御」でもあるといわれているが、その大部分が自然条件下での生態反応を主体とする表現型による選択(原種優良個体の選抜)に依存し、その後の伝統的な育種法の主流は、生物の生殖原理に基づいた個体間の交配に頼っているのが現状であろう。
 現在の育種手法は交配育種だけに頼っていることが問題といえよう。交配育種には限度があり、つぼみ受粉を駆使しても遠縁では交配できない組み合わせが多々存在している。さらにある系統を追って、どんどん立派な花を作出していっても、どこかでそれ以上美しくならないことがある。育種の行き詰まりである。現実の育種とは植物進化の人為的制御などとはいえない。すべて『できちゃった育種』と呼ばれるものにすぎないのかもしれない。
 地球は温暖化などにより、年々病んでいっている。人類が化石燃料を燃やし続ける限り、自然豊かな地球を復活させられないのかもしれない。ラン科植物も然り、どんどん絶滅していっているのである。できる限り原種のDNAを採集し、in vitroで保存していかなければならない。とは言っても、山採り株の輸入を推奨しているわけではない。葉1枚、果実、種子1粒でも無菌の試験管内に入れることができれば、立派なDNA保存になる。さらに古い交配種であっても栽培し続けることが立派な親木保存になる。やがてそれらが遺伝資源と評価される時代がすぐそこまで来ていることに気づいておられるだろうか?

■遺伝資源としての捉え方
 遺伝資源という言葉は、英語では『Genetic Resources』という。IBP(国際生物事業計画)のテキストブックとして、編集刊行された「Genetic Resources in Plant-their Exploration and Conservation」(1970)で最初に用いられた。1974年にCGIAR(国際農業研究協議グル-プ)が主催する国際科学機関としてIBPGR(国際植物遺伝資源委員会)が設立され、FAO(国連食糧農業機関)との協力体制の下に、遺伝資源の収集・保存・交流に関する活発な活動を行っている。
 遺伝資源という言葉は、植物または作物に関係するものとして使用され始めたが、その後、動物の分野や微生物、生物全般に対して使用されるようになった。行政機関は人類の食糧としての作物を中心に確保せざるを得ないわけで、花卉のひとつであるラン科植物までは手が回らないのが実状である。それ故、ラン業界でも原種・交配種を問わず、現存する品種はすべて貴重な遺伝資源と認識すべきである。我々業界人自身が意識して後世に範を示すべきであろう。
 一方、遺伝子資源という言葉は、英語では『Gene resources』という。遺伝資源との明確な定義の違いはないようであるが、人工的に作出した細胞、組織、これから再生した人工的な生物個体をも対象にしている場合が多い。つまり近未来においてDNAレベルでの遺伝子の保存や利用を目的に表す用語でもある。

■遺伝資源から遺伝子資源へ
 普段、何気なく生産しているフラスコ苗であっても、遺伝資源に違いはない。無菌播種後のマザーフラスコなどは、ある程度生育させるプロトコームを選抜したあとは廃棄するのが常であろう。しかし、この廃棄してしまうマザーフラスコを遺伝資源ととらえ、そのまま保存するか、あるいは残ったプロトコームを、オーキシンとサイトカイニンを同量添加したLS培地のような高濃度培地に移植して、あえてカルスを誘導して突然変異体を作出していけば、新たな遺伝子資源として捉え直すこともできるであろう。
  ここでひとつの問題となるのが、ラン業界の現システムである。現在は、交配による種子を無菌的に播種するか、メリクロン苗を生産するために新芽、花茎から生長点を摘出してPLBなどを経由してメリクロン苗を生産しているので、普段からカルスを誘導しない傾向がある。カルス経由した苗をカリクロンという名で15年ほど前にラン科植物以外の作物で流通したことがあるが、どうなってしまったんだろう?ラン業界ではカルス経由の苗は基本的に販売されないことが多いのだが、敢えてカルス誘導を起こして、前向きに育種していこうというのが、今回の趣旨である。不要になったマザーフラスコから未来の変異体を誘導した遺伝子資源へ変えていこうという試みなのだ。

続く。

             

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