さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

フデリンドウ

2012-04-04 14:47:45 | 花草木


近くの山に行くとフデリンドウが花盛りだった。まだ木々の葉は芽生えたばかり、落葉樹林の林床には明るい光がいっぱいに差し込んでいる。足元の小さな花たちはいち早く束の間の春を謳歌しているのだった。



青紫に赤茶の細かな筋。一つだけで見ると決して華やかではない。むしろ控えめでさびしげな感じすらする。リンドウは普通、秋の花だ。しかしそれが今こんなに輝いているから、かえって春の喜びの強調になっているように思う。



花は暗くなると閉じ、日が当るとまた開く。そうしてだいじにだいじに長い間咲き続ける。花の中を見ると、最初は雄しべだけが目立つ。そのうち雌しべが伸びてきてその先が二つに分かれ反り返る。そのころ雄しべの方はその陰に隠れてしまう。つまり雄性先熟の花というわけだ。



日に透かしてみる。葉が厚めのため濃淡がはっきり出る。花びらには薄く赤みが差してぼんぼりか何かのようだ。こうしてみると地味ではあってもまた別の華やかさを感じてしまう。



フデリンドウの名はこの蕾の形が筆先に似ているからだそうだ。しかしリンドウの仲間はみんな同じこんな形の蕾だ。また筆の穂先はねじれていなかったはずだ。墨を切る時ねじったりしても、力を抜くとすぐ戻ったと思う。それでもまあちょっと見の印象としては筆先でおかしくはないか。



上から見ると花しか見えない。小さな体が隠れてしまうほどの花の大きさだ。こういうのは何年もかけてしっかり球根を太らせる多年草にはよくある。しかしこれは越年草で秋に芽生えて冬の間に養分を作るだけだ。いったいどうやってこんな不釣合いな花を咲かせられるか不思議だ。

花は晴天の下でないと開かない。蕾はくすんだ色だし地面近くにあるのでまず気が付かない。ある晴れた日に一面星をばら撒いたようになっているのを見て、昨日までは何もなかったのにとびっくりしたりする。

春に咲くリンドウには3種類ある。そのうちハルリンドウが一番大きい。ここの花は環境がよいのか径が3cmほどもあって一目見た時はそちらかと思った。しかし葉が違った。ハルリンドウの方はこんなに幅広くなくまた厚めでなく、いわば普通の葉に近い感じだ。もう一つの種類はコケリンドウだ。ずっと小さな花で、色も薄く上から見ると輪郭がもっと円に近い。屋久島の離水サンゴ礁の海岸に小さなランのオキナワチドリと共にたくさん咲いていた。

ここは我が家からすぐの小さな山地だが、上から下までいたるところにフデリンドウがある。このような丈の低い草は他の雑草が茂りすぎたら負けてしまう。またここ南国では放っておけば年中暗い照葉樹の密林になって、多くの草は消えてしまう。この地では人の手が程よく入って、いわば自然をかく乱することでこうした花たちを守っているのだった。